第489話 真魔王決戦・決着!
アスモの予想通り、少しして女帝蟻に動きがあった。
女帝蟻が沈んだ場所に狼の頭の幻影が現れ、そこを中心にして円状にどんどん地面が食べられ、その円周がどんどん広がっていく。
そして地面にポッカリ筒状の穴を開けたと思ったら、そこからの舞台のせり上がる床のように登場した。
「自然環境ガ貴様の味方なラ、残ラズ食べてシマエば良イのだ! 貴様ラ全員食いツクシてくレる!」
アスモの味方をする土や砂、地面らが滅茶苦茶に食い荒らされる!
砂や石、木の枝や葉っぱに至るまで、自然がアスモの味方をして女帝蟻を攻撃しようと集まるが、それらも全部狼の頭の幻影が平らげる。
空を飛び、地面を喰らいながらアスモに近付く女帝。
身体を変形させ、腕が十本くらいに増えた。
「今度は何の能力!?」
端から見ているだけの私だが、女帝の形態が変わる度に驚かさ、不安が増す。
女帝は、二つずつの腕にそれぞれの属性の魔力を纏い、それを組み合わせて風+火、風+水、風+氷、風+土の四つの複合魔法を作った。
風と火で暴風炎になり、風と水で小台風が発生し、風と氷で風の刃と鋭い氷を併せた竜巻となり、風と土で重量のある岩石吹き荒れる嵐を作り出す。
それらを全てをアスモにぶつけた。
「……うっ……」
四つの風はでたらめに組み合わさって、四つそれぞれから吸い込みが発生したため、超スピードを持つアスモでも脱出できず、中で激しく傷つけられる。
そして四つの風で消耗したアスモに再び狼の幻影が牙を剥く!
「……くっ……!」
再び左手を食いちぎられてしまった!
「「 アスモっ!! 」」
その様子を見て私とレヴィが同時に叫んだ。
「……大丈夫……問題無い……」
アスモも他二人同様、大気中の魔素を集めて左手を再生させ、手から雷を女帝に向かって放つ。
が、その雷も狼の幻影が食べてしまった。
「何アレ! 雷まで食べられちゃったよ!?」
「どうやらあの狼の幻影は魔法をも食べてしまえるようですね」
それを見て、少しの間空中に佇むアスモ。
「じっとして何やってるの?」
「もう少しで来ます」
「来る? 何が?」
するとどこからともなく、一本の槍がアスモに向かって猛スピードで飛んで来た。それを空中でキャッチ。
音速を超える速度で飛んで来たらしく、キャッチした瞬間にソニックブームが発生。木が、大地が、激しく揺れる!
「何アレ!? どこから飛んで来たの!?」
「あれはアスモデウス様専用の槍のようですね。雷の国の王城から超磁力で呼び寄せたようです。あの槍にだけ特殊な磁力を持つ魔法がかかっていて、どこに居ても呼び寄せられるようです。もっとも……槍がかかっていた王城の部屋は槍が飛んでくる時に大きめの穴が開いてしまったようですけど……」
部屋壊してきちゃったのか……音速を遥かに超えてたし、あのスピードで飛んでくればそりゃ壊れるか。
遠距離攻撃が効かないと見て、接近戦を挑もうってことなのね。
瞬時に女帝との距離を詰め、雷を纏った槍で斬りかかるアスモと、それを迎え撃つ風の刃を両手に纏った女帝。
両者の剣戟が激しくぶつかり合う。
両者とも凄い速度での斬り合い。アスモの方がスピードが速いため、女帝にどんどん傷が付けられるが、浅い傷も深い傷も、狼の幻影が大地を食べることによる再生力の向上で大したダメージにならない。
一方、アスモの方は女帝の攻撃を全て避けながら攻撃しているが、その攻撃に少し遅れてくる狼の幻影の噛みつき攻撃にまでは対処し切れず、再生されながらも徐々にダメージを重ねているように見える。
「斬っても再生されるんじゃ、どうしたってアスモの分が悪いんじゃない!?」
「いえ、それはどうでしょうか? 魔王回帰はメリットばかりの能力ではありません。その身体にかかる負担はかなりのものと思われます。それに、固有の能力は普段使わない能力ですので、それを使い続けるとなると……早めに限界が訪れるはずです。そろそろ私の出番かもしれません」
そう言って、私を地面に下ろす。
「もう終焉が近いってこと?」
「はい、私の見立てでは」
両者とも凄い早さで動いているため、それが血しぶきとなって霧状に漂い始めた。
地上に居る私から見ると、血の雨が降っているように見える。
しかし、この血の雨が転機だった!
レヴィが空中に漂う血液の中の水分を操り、四方八方から水の槍で女帝を串刺しにした。
超近距離からの攻撃だったために、先ほどのように回避することは叶わず、細い水の槍が無数に女帝の身体を突き抜ける。
「グゥ……キ……サマ……」
レヴィの方を向く女帝。
血の水分を槍にして串刺ししたことより完全に空中に磔になった。
それを見てアスモが女帝から離れ……そしてレヴィから合図が出される。
「カイベル、今よ!」
その合図で、カイベルが魔王三人を閉じ込める隔離空間を展開。それは巨大な透明のガラスのような見た目の空間魔法。
それも展開したのは一つではなく、破壊されないよう何重にも重ね、隔離空間の耐久硬度を高める。
そして発動される魔王二人による極大魔法――
「「 合体魔法・【水と雷の輪舞曲】!! 」」
真の魔王二人が同時に放つ水と雷の複合魔法!
激流渦巻く水球で対象を包み込んで脱出不可能にし、水によって強化された雷で焼き尽くす強力な攻撃。恐らくその属性相性の相乗効果により互いの能力を数倍に跳ね上げると思われる。
「グアアアアァァァァッッッ!!!」
放たれた雷は『レッドスプライト』に似た赤い雷。地球では成層圏よりも上空の中間圏で起こる長さ数十キロにも及ぶ超巨大な雷の名称。
放った全ての電気エネルギーが水全体を伝達し、水球の中でのみ増幅し、乱反射し、巨大な水球全体が直視していることができないほど連続的に閃光を発する!
それと共に落雷時の轟音が数十回、数百回と鳴り響き続け、隔離空間に隔離しているのに耳にまで恐怖感を抱かせる。
「ガアアアァァアアァッッッ!!」
敵が目の前にいるにも関わらず、激しい明滅が終わるのを目を伏せて待つ状態が数十秒続く。
合体魔法の効果が持続している間、カイベルが隔離空間を維持しようとするも、一枚、二枚と隔離空間の魔力が壊されるのを感じた……
最後に水が弾けて隔離空間全てが壊されてしまった!
◇
次に目が覚めた時には、またもどこか分からないところまで飛ばされていた。
「う……ど、どうなった!?」
慌てて起き上がったものの、どうやらまたも少しの間意識が飛んでたらしい。
周囲を見回し状況確認をすると、一部分暴風で吹き飛んだかのような巨大な穴が目に入った。
近付いてみると、魔法が発動された場所が大きく陥没し、巨大なクレーターになったようだった。何キロのクレーターになったか分からないが、眼前いっぱいに巨大な穴が開いている。
クレーターの中心には魔法の終了と共に弾けたと思われる水だけが残り、少々大きめの水たまりになっていた。あれだけ巨大で密度の高い水球だったにも関わらず、そのほとんどが蒸発してしまったらしい。
「女帝は……?」
クレーターとは別のところで黒焦げになって横たわったジャイアントアントらしき死骸が転がっていた。魔法の最終段階で水が弾けた時に一緒に飛ばされたらしい。
女帝蟻のアリ形態時の姿を見たことがないが、この辺りに他のアリは存在しないし、この黒焦げの死骸が女帝蟻で間違い無いだろう。
アリは痛覚が存在しないと聞いたことがあるが、なまじ亜人と同等の身体を手に入れてしまったために、痛覚まで再現されてしまったのかもしれない。
「無事?」
と声をかけてくれたのはレヴィだった。
振り向くと、二人が近付いてくる。
「いやぁ~、予想以上の威力だったよ! カイベルが隔離空間作ってくれなかったらベルゼたちも死んでたかもね」
「……隔離空間が無ければ、もっともっと巨大なクレーターになっていたかも……」
ひえぇ……
何て恐ろしい攻撃。私がアレ喰らったらきっと跡形もないわ。女帝蟻は原型が残ってるだけに、流石魔王と言うところか。
二人が味方で本当に良かった……
「ちょっと強すぎちゃったね。大分加減したんだけど」
「……魔王になると強すぎて、合体魔法使う機会は無いからね……それに今回は魔王回帰しているから更に……でも……中々面白い実験だった……」
あれだけ強力な魔法を放ち、魔王相当の敵を倒してすら、ケロッとしている二人。
「アスモ……最後の方は血しぶき上がってたけど、怪我は大丈夫なの?」
「……問題無い……魔王回帰を解けば傷も無かったことになる……」
二人とも【魔王回帰】を解く。
魔王回帰形態がガラスのように砕け散り、元の姿の二人が立っていた。
「この魔王回帰の身体ってどうなるの?」
地面には魔王回帰の破片と言うか肉片と言うか……
「……魔力で作られた身体だから、少ししたら魔素に分解されて霧散する……」
アスモのその言葉通り、すぐにその場から消えて無くなった。
「……それよりも、ベルゼの怪我は大丈夫……?」
「ああ……こんなに深く切られて……左腕はもっと酷いし……」
パックリ割れた右腕と両太もも、そして無くなった左腕を見て嘆く。
「ま、まあ、大丈夫だよ。少しすれば回復すると思うから」
左腕の【癒しの水球】は今の合体魔法の衝撃で消えてしまったが、【自己再生魔法】の効果は残っている。現在は徐々に回復して止血もされて、何とか立てるところまで回復できた。
「さて、じゃあ女帝蟻の死体を持って風の国へ報告に行きましょうか」
これで終わったと気を抜いていたところ、二人の後ろに蠢く影が見えた!
死骸だと思っていた女帝蟻が起き上がっている!
まだ死んでない!?
「危ない!!」
風魔法の使用動作が見られる! 如何にこの二人でも気を抜いている時に後ろから攻撃されれば致命傷を負う可能性もある!
と、頭で考えている間に身体も動いていた。
まだ女帝蟻の生存に気付いていなかった二人の間に割って入り、肘から無くなった左手とまだ回復し切れていない右手を懸命に動かして二人を突き飛ばした。
「「 えっ!? ベルゼ!! 」」
息を吹き返した女帝蟻はそのまま一番弱い私に狙いを付けて一直線。
「オのレ……貴様ダケでも道連レダ! 死ネ、アルトラ!!」
奇襲だったとは言え、瀕死のダメージを受けているからか動きはかなり遅い。さっき見えない速度で動いていた相手とは思えないくらいスピードが落ちている。
私も傷だらけだったものの、必死に後ろに倒れ込むと女帝蟻の風の刃による攻撃は空を切った。
仰向けに倒れたため現在私のすぐ上を女帝蟻が飛んでいる最中。
そのまま胸部を蹴って上空へ蹴り飛ばした。
「いい加減に眠りなさい!」
痛みも忘れてすぐさま起き上がり、さっきまで動かなかった右腕を必死に持ち上げて火魔法を使う。
「【太陽より赤い赫灼】」
中空に太陽にも似た炎の球体を作り出し、更に空間魔法で隔離空間に閉じ込める。
「ギャアァァアァァアァァッッッ!!」
その断末魔の叫びと共に中空の太陽の中で焼死。黒焦げになった死骸はその直下へ落下した。
「あ、危なかったわ……まさか息を吹き返していたなんて……」
「……魔力を消耗し切っていたから感知が遅れたのかも……」
二人は女帝蟻の方を振り返って再度警戒モードになるも……
「流石に……これはもう生きてないか……」
「……合体魔法を喰らって、その後にこの黒焦げの状態じゃあね……」
二人が女帝の身体を確認したところ、死んでいると判断。
再び安堵するも、激しめに動いたことで――
「痛たたた……」
――少し回復していた左右の腕の傷、両太ももの傷が再度広がってしまった。
魔王相当の敵を倒した安堵感とここまで受けたダメージの大きさから、その場に膝を突きそのまま正座状態に。
「もうしばらくは動けないわ……」
【自己再生魔法】はまだ維持できている。徐々にでも回復するのを待つか。
しかし、安堵したのも束の間、待ってもいられない事態が発生する。
魔王対決になってからカイベルが解説役で、驚き役 (笑)のような役割のアルトラでしたが、一応最後は主人公の手で倒しましたね。
【お詫び】
前回の後書きの予告時に7月19日と書いていましたが、誤りで本当は7月18日 (今日)の投稿です。
19日の投稿はありません。
間違えてしまって申し訳ありませんm(__)m
次回は7月22日の20時から21時頃の投稿を予定しています。
第490話【『暴食』の大罪】
次話は来週の月曜日投稿予定です。




