第488話 真魔王決戦!
戦闘開始直後、レヴィの周囲に複数の水滴が出現。
一呼吸ののち、その水滴は槍のように鋭く尖り、次々と女帝蟻を強襲!
最初は弾き飛ばそうと身構えていたが、急速に接近してきた水の槍を見て慌てて身体をひねって躱したように見えた。
水だからと多少甘く考えていたようだが、その水とは思えない鋭さに回避を選んだようだった。
女帝が沢山の水の槍に突かれ回避に徹する中、私はその一本の水の槍が刺さった場所を見てまたも驚愕してしまった。
刺さった場所に真円に近い穴が開いており、とても水が当たったとは思えないものだったからだ。これは水が“刺さった”と形容した方が良いくらいの鋭さで地面に穴を開けたようだった。
「こ、これって……本当に水の能力なの? 実は氷なんじゃ……?」
水の槍をかいくぐり、今度は女帝の放つ風の刃で、レヴィの視界の外側からその巨大な胴体に縦横複数の凄まじい長さの裂傷を刻み付ける!
「痛たぁっ!」
長さにして五メートル以上裂けているように見えた。
が、瞬時に回復して元通り。
更に再び巨大な狼の幻影が出現し、レヴィの身体を食いちぎるがそれも瞬時に回復する。
「痛たたた……回復するって言っても、傷付けば痛いんだからね!」
レヴィが身体を反転させて尻尾で薙ぎ払うが、女帝はそれをジャンプして避けた。
「何ダきさまノ身体ハ! 肉ヲ食イちぎってルンだぞ! 何デすぐに再生すルのだ!?」
「蛇は再生の象徴だから、この姿の私って回復能力が物凄いのよね~。真なる魔王二人相手にたった一人で勝てるとは思わないでね」
女帝蟻が着地した直後、レヴィの額付近から水のレーザーが縦一直線に放たれ、女帝の右腕二本と変身によって背中に生えた羽の一部が切断された!
「ぐっ……!!」
そのまま胴体をも切断しようと追尾するものの、素早く移動して逃れる女帝。水のレーザーが直撃した岩や地面は断裂になるほど深く大きい傷跡が残っていた。
「す、凄い水圧カッター……」
私がブルーソーンから受けたものとは比べ物にならない…… (第325話参照)
さっきの水の槍も水圧のカッターも、もう全ての魔法の次元が違う……
地球の技術には、金属すら切断できるウォータージェットという有名な技術がある。
実はこれ、水だけで金属を切断しているのではなく、水と一緒にダイヤモンドの欠片などの研磨剤が混ぜられた水圧カッターで名称はウォータージェットと分けられており、正式には『アブレシブジェット』と言うそうだ。
水の水圧だけではどうしても金属などの硬質材を切るのは不可能。
が、レヴィはその水圧のみでの切断を可能としている。魔王の持つ強い魔力によってただの水ですら硬化した刃となっていると予想される。
しかし、女帝の方も切断された右腕が瞬時に再生。
双方共に凄い早さの再生能力だ……確かにこれは決定的なダメージを与えない限り、戦いが終わりそうもない。
「ん?」
カイベルに抱えてもらってるためか、周囲を見渡す余裕が出て来たのか視界が広くなったように感じる。
見回してみるとそこかしこにさっきの狼の頭のような幻影が出現し、地面や木々などを食い荒らしているのが目に映った。
「な、何アレ? 何でレヴィたちへの攻撃でもないのに別のところを食ってるの……?」
あれが【魔王回帰】した『暴食』の魔王の固有能力か?
無意識の発動なのか?
「どうやらアレらが地面や周囲の木々を食い荒らして魔素として吸収し、自身に還元することで再生力の促進や魔力の補充をしているようですね」
「魔王回帰して再生力が爆上がりしてるのに、そこに更にブーストがかかってるってこと!?」
「はい」
「それってほぼ不死身も同然なんじゃ……?」
「だからこそお二方は女帝に再生が追い付かないような決定打を与えるタイミングを探っているのでしょう」
カイベルとそうこう話していると、突然レヴィの喉が膨らんだ。
そして、凄まじい火力の炎を吐き出す。
「水の魔王が炎!?」
女帝が居た辺りの平原が炎に包まれ、それを避けるために大きく跳躍する女帝。
見計らっていたかのように、尻尾で殴り飛ばす。
女帝は風切り音を放ちながら最も近くの山の方へ飛んで行き、少し時間が経ってから山に激突した“らしき”砂煙を上げた。
「あわわわわ……」
その尻尾の持つ筋力にまたも驚愕。
この場から山まで一体何キロあるか分からないが、あんなところまで殴り飛ばすなんて……
でも、あんなに遠くまで殴り飛ばしたら、逃げられちゃうんじゃ? わざわざ魔王二人が待ってるところへ戻って来ない気がするが……大丈夫だろうか?
そう思っていたらレヴィが更に追撃する。
どこから出したのか背中の方から大量のミサイルを放った!
「ミサイル!? どういうこと!? 一体何の能力!?」
ミサイルは女帝蟻が激突した辺りに着弾し、山の上三分の一程度を吹き飛ばした。
じょ、女帝蟻がいない今のうちに聞いてみたら説明してくれるかしら?
「レ、レヴィ、今の何の能力? 明らかに機械みたいなものが飛んでったけど……」
「あ~あれは……あまり他人に言うものではないけど、まあベルゼなら良いか。あれはこの姿の時だけ使える【夢見る子供たち】って能力。私の自動発動型の能力【駄々っ子】の対となっている能力で、この目で見て少しでも嫉妬して『欲しい!』って思わせたものを再現する能力みたいだね。例えばこういうのとか」
(※駄々っ子:初期から読んでくれてる方にお知らせです。能力名が一部変わっています。詳細は第55話と本項の後書きをご覧ください)
目の前に突然ドーナツやケーキの乗ったテーブルが出現した。
「これも嫉妬して『欲しい』って考えた時の記憶で再現されてるみたい。エレアースモで食べたものなんだけど、すぐにお菓子職人に再現させたよ。食べて良いよ、傷を癒すのにエネルギー補給は必要でしょ?」
「コレ食べられるの!? 幻影じゃないの!?」
「この姿になってる間だけ実体化する。味もその当時の記憶と同じだから美味しいはずよ」
創成魔法に似た能力だ。
“夢想したものが再現できる”から『夢見る子供たち』なのか。
「じゃあミサイルを見たことがあるってこと?」
今まで各国に行ったが、この世界にそこまで軍事力が高そうな国は無かった……
もしかして土の国や氷の国は機械的な軍事力が高いのか?
火の国にも武器類が集まってたから、もしかしたら火の国にはあるかもしれない。
「確かに魔界には魔法があるから兵器はあまり発展してないしね。亡者の人から聞いて、絵に描いて再現してもらったから知識としては知ってるんだ。性能やフォルムがカッコ良かったものだから『欲しい』って思ったのかもね」
絵で見ただけで再現できるのか!?
「それって、絶対ダメージ受けない防御装置とかも絵に描いたら再現できるんじゃない?」
「残念だけどそんな便利な能力じゃないよ。記録されるトリガーが私の抱く“嫉妬”だから、『欲しい』と思う前に嫉妬しないといけない。だから現実味の無いものは無理なのよね。ミサイルの場合は『こんな物が地球にはあるのか!』ってところと、『着弾したら爆発する』っていう明確な現象が想像できるから絵で見ただけでも嫉妬の感情が芽生えたのかもしれない。だからさっき飛んで行ったミサイルを分解しても多分機構は全然違ってると思う」
やっぱり創成魔法と似てるな……
「あ、帰って来たよ」
女帝蟻がスパークしながら超スピードで帰って来た。帰って来たと言うよりは……何だか山側からぶっ飛ばされてきたようにも見えるが……
そして地表に受け身も取らずに“着弾”。
あとからアスモが追いかけてきた。
「……身を隠そうとしたから向こうから蹴り飛ばしてきた……」
「フォローありがと」
超スピードを誇るアスモが居たから、遠くまで殴り飛ばしても大丈夫と思ったわけか。
しかし、その傷も少しの時間でどんどん再生していく。
「オノれ……図に乗るナよ、亜人どモがああぁァあぁァ!!!」
凄い威圧……その声の大きさに慌てて片耳を塞ぐ。
「う、うるさっ……」
先ほどまでの古風なしゃべり方はどこへやら。今はアリの顔をしているからか言葉は片言になり、言葉遣いは乱暴になってきている。
女帝は自身の両手に魔力を何重にも集め、強力な振動波を放った。
激しく地面が波打つ。
「う……」
何だこれ……ただの振動じゃないのか? 痛い……身体が内側から軋むように痛い感覚だ……
私が痛いってことは、風魔法の一種か。
他の二人も身体を縮めてうずくまっている。
「喰ラえ……」
女帝は更に風を集め、今度はその風に炎を混ぜて、巨大な火炎旋風を巻き起こした!
「うわぁぁーー!!」
凄い熱さだ……Lv11である風属性に火属性が混ぜられたから、火によるダメージも私に効果があるみたいだ!
しかもこの炎、切れ味も鋭い! 斬られたところが火傷した状態になる!
「水で打ち消す! 三人とも私の後ろへ隠れて!」
その言葉で私を抱えたカイベルが後ろに隠れ、アスモがそれに続く。
レヴィがその巨体を盾とし、水流を操って防熱の膜を全面に展開、その後巨大な水流弾によって火炎旋風を打ち消した。
しかし、刃のごとき炎の風により、薄い青色をしたレヴィのウロコは焦げて煤け、身体中に火傷を伴った裂傷が起こっている。
広範囲を火傷してしまったようで、再生に多少時間がかかっているようだ。
「……レヴィ……大丈夫……?」
「う……これはちょっと再生に時間がかかるかも……」
水で消し去る前に受けた火傷により、レヴィから蒸気が立ち上る。どうやら蒸発させる時に一緒に熱湯も被ってしまったようだ。
「ハハハハハ! 焼き蛇とはいかなかったか。もう一発クれてやロウぞ!」
再び両手に風の魔力が集まり始めた。
が――
「うっ! 何ダ!? 足ガ……沈ム!? 何をシた!?」
突然土や砂が巻き上がり、まるで地面自体が女帝を攻撃しているかのような動きをし始めた。
「グッ……砂ガ目に……!! 砂が纏わり付く! 何だコレは!?」
更に地面から砂が盛り上がったかと思えば、地面に引きずり込み、どんどん拘束範囲を広げていく。
自身に起きた異常事態に、集めていた風の魔力は中断されて霧散。
その隙を見計らったように、アスモが女帝に向かって叫ぶ!
「【渦雷】!」
蒸発したレヴィの水分を巻き込み、水が渦状に変貌。その中を激しい雷が通り抜ける!
「グワアァァァァ!!」
女帝はまたも全身から電気をほとばしらせて動きが停止。
気絶して、そのまま流砂に引きずり込まれるかのように地面へと飲み込まれていく。
「な、何で地面に沈んで行くの……?」
「どうやらアスモデウス様の能力のようですね」
カイベルがそれに気付くと、アスモがそれに応答するように説明してくれた。
「……そう……私の【自然を魅了する者】って能力……その名の通り、自然環境が私に味方してくれる……さっき女帝が私たちに火炎旋風で攻撃したことで、女帝を『私』の敵とみなしたみたい……」
自然が味方する!?
真の『色欲』の魔王は自然環境すら魅了してしまうのか……
「……ここに火山とかが無かったのが幸いだった……もし火山があれば大噴火して、溶岩が女帝に向かって降り注いでいたかも……」
怖っ!
「自然環境って言うなら、空気とか酸素が女帝から逃げて行ったりはしないの?」
「……さあ? そこまでは私にも分からない……空気や酸素は気難しいのかも……そもそも自然環境なんて意思を持ってるかどうかさえ分からないから魅了されてるかどうかなんて分からないし……」
これも自動発動型なのか。
自然環境が魔力と合わさって意思を持ったことで生まれた精霊とは違って、魔王回帰状態のアスモの能力が干渉しているのは自然環境そのものだから意思の有無なんか分からないってことか。
それに『味方してくれてる』ってだけで、操ってるってわけではないみたいだから、空気や酸素を操って敵を窒息させようとか、そういうことはできないわけね。
「女帝、地面に沈んで行っちゃったけど……これで終わったのかな?」
「……魔王回帰した魔王があの程度で終わるはずがない……きっちりトドメを刺さないと……」
「地中で窒息とか」
「……しないと思う……元々地中に住む生物だし……」
問答していたところ、火傷してうずくまっていたレヴィがこちらへ近付いて来た。
「ごめんね、もう回復できたから大丈夫!」
「……アイツも相当疲れが来てると思う……傷は完全に回復してても疲れとか心労とか焦りや恐怖心はそうは行かないから……」
一人の魔王ですら一国の軍隊や騎士団に相当する戦力なのに、それを二人相手にするとなるとその緊張感は計り知れない。確かに相手にとってここが限界点なのかもしれない。
あちらは絶対的に勝てないと分かっていても退くことをしない。女王としてのプライドがそうさせているのか。
「……もう少ししたら気絶から覚めて土の中から出てくると思う……次にダメージを与えた時に大技決めよう……」
「OK、じゃあカイベル、手筈通り隔離空間の準備をお願いね」
「承知しました」
2023/03/11に第55話内で
レヴィアタンの大罪スキルの名前を『嫉妬』から『駄々っ子』に、
ベルゼビュートの大罪スキルの名前を『暴食』から『食べ奪う』に、
ヴェルフェゴールの大罪スキルの名前を『怠惰』から『真価の眠り』に変更しています。
次回は7月19日の20時から21時頃の投稿を予定しています。
第489話【真魔王決戦・決着!】
次話は木曜日投稿予定です。




