第432話 いつの間にか各種族の寿命の話に……
本項の用語おさらい。
▼受肉体
高位の精霊種が宿った入れ物のようなもののこと。人間や亜人で言うところの『肉体』に当たる。
例えば、土の精霊は土で肉体を作り出し、水の精霊は水で肉体を作り出す。木の精霊は植物で、火の精霊は火で肉体を作り出すと言うように、肉体の代わりに受肉体を作り出して肉体のように扱う。
受肉体は薄い魔力の膜のようなもので包まれており、人間に例えるなら肉体を包む『皮』のような役割をしている。
例を挙げると、水の精霊の受肉体は水だが、この魔力の膜があるため物に触っても濡れることがない。同じような例をもう一つ挙げると、受肉した火の精霊が物に触れた場合も、魔力の膜の効果で燃えることがないなど。
また氷の精霊も魔力の膜の効果で、普通の気温の場所 (猛暑日程度の気温)くらいなら十分溶けずに活動できる。それ以上になると魔力消費の増大によって身体の維持をしなければならなくなる。
▼精霊体
精霊の魂を包む一つ外側にある霊物質。人間や亜人で言うところの『霊体』に当たるもの。
人間 → 霊体
精霊 → 精霊体
と考えると分かり易い。詳しい説明は第421話を参照。
▼ハーフドワーフ
ドワーフと他種族との間に生まれた子供。
なお、これはドワーフ視点の呼称で、仮にエルフと他種族とのハーフをエルフ視点で見た場合は呼び方が『ハーフエルフ』に変わる。
そしてここから年齢の話に。
「フィンツさんたちは俺っちたちの何倍生きてんスか……」
「僕たちどころか、トロルの最長老 (五十七歳)の二倍くらい生きてますよね……?」
「ちゃんと聞いたことはないけど、百歳超えてることは確かだね。そう言えば以前にアルトラ様が名簿配ってくれたじゃない? あれ見れば分かるんじゃないかな?」 (※)
「もう最長老の称号はフィンツさんたちに譲ったら良いんじゃないですかね?」
(※名簿について:名簿関連のエピソードは第251話を参照。ただしフィンツの年齢は出て来ません)
その話に反応してしまった。
「いや、もっと年上がいるよ」
「百歳より!?」
「目の前に居るじゃない」
フレアハルトたちを見る。
「あ、そういえば!」
「フレハルさんたち二百歳超えでしたね」
「俺っちたちとつるんでるから、同じくらいの感覚で接してたッスよ」
「フッ……年長者である我らを敬え」
「「「アハハハハ!!」」」
年齢の割に子供っぽいって言われてるのは分かってるんだろうか?
アリサは落ち着いてるから良いとして、フレアハルトはもうちょっと大人になった方が良いような……
アリサが苦笑いしているぞ?
見た目は二十代前半くらいだから違和感は無いけど……
「まあもっと年上がいるんだけどね」
「誰ですか?」
「樹の国大使のトレシアさんとトロモアさん。彼女ら三百歳以上らしいから、多分この町で一番年上だよ」
「「「ええっ!?」」」
「そう言えば! トリニアさんがそれくらいだって言ってったッスね……どう見ても俺っちたちと大して変わらない年に見えるッスけど」 (第308話参照)
自身も精霊のためか、今まで黙って聞いていたハーバートさんが口を開いた。
「精霊種は長い間見た目が変わらない者が多いからな、特に鉱物系とか植物系の『木』を受肉体とする高位精霊は長生きだ。千年単位で生きる者もそれなりに存在する。探せば一万歳なんて大長老も居るかもしれんぞ?」
「「「一万!!?」」」
「ホントッスか!?」
「さあな。居る“かもしれん”というだけで、俺は会ったことはない。まあ鉱物系の精霊は寿命が長すぎて自分の年齢を正確に数えてるヤツなんて多分いないだろうがな」
「それだけ長命だと世界中に溢れませんか?」
鉱物系の精霊なんて、身体が大きく破損するか、核を壊されない限り死なないから、彼らが大量に受肉すれば魔界はあっという間に鉱物系の精霊ばかりになりそうだ。
「ああ、だから鉱物系の下位精霊は沢山いるが、高位精霊は生まれる数や上位へと昇華できる数自体が少ないんだよ。高位に昇華した精霊もずっと高位精霊として存在していられるわけではなく、時が経つにつれて力も弱くなって最終的には精霊体を構成する魔力が霧散してまた新しい精霊として生まれ変わる。世の中上手く回っているってわけだ」
精霊は超自然的な存在だって話だし、大自然自体が上手く調和を取っているのかもしれないな。
「逆に火とか雷とか氷の精霊は寿命が短い傾向にある。二十年とか三十年が平均的で、長く見積もっても五十年は生きられないだろうな」
多分、壊れにくい物質に宿る精霊ほど受肉体が長持ちするのだと思われる。
だから鉱物や木などの長くそこに存在しうる物質を受肉体とする精霊は長命で、火とか電気とか一瞬で消えてしまうエネルギー体を受肉体とする精霊は短命なのだろう。
しかし同時に疑問が湧いてしまった。
「あれ? でもドリアード族のヒトたちって植物転移法を使った時に草や花から出現したりしますよね。あれはどういうことなんですか? 植物転移した時点で木の精霊から花の精霊に変わったりするんですか?」
木と花では寿命が全然違う。こういう疑問が湧くのはごく自然なことだろう。
「さあ? 俺は土の精霊だから木の精霊の生態は詳しくは分からん。本人たちに聞いてみてくれ。が、精霊は生まれた瞬間から受肉体にできるモノが決まっている。俺は鉱物系の精霊だが土しか受肉体には出来ず、同じ鉱物でも石とか宝石には宿ることができない。だから樹の国大使のようなドリアード族は木を受肉体とする精霊で、例え草や花へ植物転移法で移動したとしても形成される受肉体は『木の精霊』のもので間違い無いはずだ」
精霊同士でもよく分からん生態ってことか。まあ、私たち人間も他人がどんな生態なのか分からないのと一緒か。
ハーバートさんの話を聞く限りでは、彼女ら木の精霊は花から出現しても“木”の精霊であることは変わらないってわけか。花から出現した場合は花の魔力か遺伝子か何かを間借りして身体を形成しているという感じかな?
「ちなみに俺たちの異同種に当たる硬いノーム族だと少し石が混じるようになるから土と石で受肉体を形成できる。逆に液状ノーム族だと水の精霊に近い性質を得ているため、土と水で受肉体を形成できる。そのように二つの性質を持つ精霊も中には存在する」
「へぇ~、精霊の体系って複雑ですね。ハーバートさんもソリッドとかリキッドとか、そういう風に進化できるってことですか?」
「いや、精霊は持って生まれたもの以外にはならないから、生まれた時から性質は変わらない。俺は生まれ変わるまではずっと土の精霊だ」
精霊が生まれ変わるまでってのは一体どれほどの時間を要するのだろう……?
「…………ハーバートさんは土の精霊なんスよね? 今いくつなんスか?」
「さあ? 百くらいまでは数えたがそれ以降は分からんな。多分二百くらいじゃないかな。言っただろ? 鉱物系の精霊は年齢を正確に数えていないって」
「じゃあアルトラ様は触ったら年齢が分かるって言うんで、触ってもらったらどうッスか?」
「え゛っ!?」
いきなり私に飛んできた球に思わず変な声が出る。
あ! 『触れて年齢が分かる』って、身分証明作ろうとした時の設定か!! (第250話参照)
そう言えばそんなこと言った覚えがある! すっかり忘れてた! あんなの口から出まかせでカイベルに教えてもらってただけなのに……
ど、どうしよう……今からカイベルに通信魔法で教えてもらうか!? 彼女なら通信さえできれば察して教えてくれるかもしれない!
「いや、今の年齢を教えてもらったからと言って、そこからまた数えることもないだろうから別に良い。多分すぐに忘れる」
「そッスか」
ホッ……ハーバートさんは特に自身の年齢に興味は無いようだ。
ひ、一安心……
「じゃあ寿命で考えると、ここにいるメンバーってどんな順番になるんですかね? みんなで言い合ってみましょうよ!」
年齢を聞く流れから寿命の話に移行。
この場にいる種族は、トロル族 (グリーン&レッド)、人魚族、ドワーフ族、レッドドラゴン族、ルサールカ族、ノーム族、ガーゴイル族、ヘルヘヴン族。そして私。
全員で平均寿命を言い合って、順位付けが始まった。
「書き出してみました」
┌──────────────────────────┐
↑ 亡者 希望すればいつまででも?
長 レッドドラゴン族 八〇〇年から一〇〇〇年
命 ヘルヘヴン族 〃
ノーム族 七〇〇年から九〇〇年
ガーゴイル族 六〇〇年から七〇〇年
ドワーフ族 二五〇年から三〇〇年
人魚族 一二〇年から一五〇年
短 ルサールカ族 一〇〇年から一二〇年
命 レッドトロル族 六〇年から六五年
↓ グリーントロル族 五〇年から五五年
└──────────────────────────┘
「へぇ~、こうして見ると、みんな俺っちたちより遥かに長生きッスね」
「まあ事故とか病気無く生きられればこれくらいってのを言ったまでで、実際は個人差があって数十年で若くして死ぬヒトもいますし二百年以上生きるヒトもいます」
と、言うのは人魚族のリナさん。
「私の故郷には人魚の肉を食べると不老不死になるって伝説があったけど、不老不死ってわけじゃないのね」
「な、何ですかそのグロテスクな伝説は!?」
あ! そりゃそうか! 本人の前で何言ってんだ私は!?
「ご、ごめん、引かないで……私の故郷には『亜人』に当たる生物がいないもんだから、そういう説があっただけで、多分ホントに食べた人はいないから」
考えてみれば、魔界で亜人が亜人の肉を食べるってことは、イコール地球なら人間が人間の肉食べるのと同じだしなぁ……そりゃあ不気味がられるか。
「え、でも俺っちたちだって……ムグッ」
慌ててナナトスの口を塞いだ。
多分彼の続きの言葉は『亡者食べてたッスよ』だろう。
「あなたが今考えてること、今後絶対言わない方が良い! 気味悪がられるかも」
「何ですか?」
私が突然ナナトスの話を遮ったため、エルフィーレが不思議そうに聞いてきた。
「ちょっとこの場のトロル族全員集合」
他の種族が聞こえないところでナナトスに言ったことと同じことをみんなにも話す。
「――ってわけだから。この後トロル族みんなに通達しておいて」
「「「りょ、了解です」」」
アルトレリアに他種族が増えた今、「亡者を食べてましたよ」なんて言ったら、他の国出身者から見れば『私は食人鬼ですよ』と告白しているようなものだから、今後は絶対に言わない方が良い。
「どうしたんですか?」
「いや、ちょっと他種族が聞いたら引かれる話題だから口止めしただけ」
「じゃあ話を戻しますけど、仮に人魚が不老不死だって言うなら、魔界は人魚だらけになってしまいます」
そりゃそうか。
ただでさえ、魔界の生物って長命が多いしな。この世界の繁殖事情ってどうなってるのかしら?
人間と同じような感覚でポンポン産んでたら、あっという間に人口爆発する気がする。
レッドドラゴンは発情期が十年単位で訪れるってのは聞いたことがあるけど、長命種はみんなそんな感じなのかな?
「ところで、アルトラ様はどこに当たるんですか?」
「さあ? 人間だった頃の寿命なら七十五年から八十五年くらいだね。今の身体って純粋に人間の身体ってわけじゃないみたいだから分からないんだよね。それに私亡者だから、死なない限りはずっと居られるみたいだから」
「亡者って相当特殊ですよね」
実際には最大でどれくらい転生を拒否できるんだろう? 多分永遠ってことは無いと思うけど……
「あ、それだとあたしも分からないね。ハーフドワーフって特殊な立ち位置だし。人間基準の寿命なのか、ドワーフ基準の寿命なのか、はたまた中間くらいなのか」
「ハーフドワーフって人間との間の子だけがそう言われるんですか?」
「いや、別種族にもハーフっているから、それぞれ別の言い方があるみたいだよ。例えばエルフとのハーフはドワエルフとか、ゴブリンとのハーフならドワブリンとか。あたしたちはドワヒュームって言うらしいんだけど、あまり好きな言い方じゃないからハーフドワーフで通してる」
「そうなんですか」
どこの世界でも呼び名問題って難しいのね……
「人間とのハーフってどれくらいいるんですか?」
「ほぼ皆無だよ。あたしとニーホン、あと甥っ子のヒノモトくんがクォーターってだけ。多分世界中探しても私たち三人だけじゃないかな。そもそも“生きてる状態の人間”がこの魔界に転移してくること自体凄く稀なことだから」
「なるほど」
そっか、魔界に来る人間ってほぼ全て亡者だものね……
「レッドトロルってグリーントロルより少しだけ長生きなんですね」
「僕たちの最長老は六十五歳ですからね」
と、この場で初めて会話を交わしたレッドトロルの少年ニックエディーが答える。
多分、山麓で生活していたグリーントロルとは違い、彼らレッドトロルは火山から離れたところで生活していたから、熱による体力消耗も少なく、少しだけ長命なのだろう。
苛烈な環境から脱したことから、彼ら両トロル族の寿命は今後伸びることが予想される。
この世界では亀ですら三千年生きてるのがいるくらいだから、一万年生きてる精霊もいる……かも?
次回はこれの続きなので明日投稿します。
ちょっと長くなったので、この前のと含めて三分割しなければならなくなりました。
次回は1月9日の20時から21時頃の投稿を予定しています。
第432話【何だかみんな疲れてる?】
次話は明日投稿予定です。




