第413話 火の国魔王ルシファーへの謁見
翌朝――
ルシファーの使者が私たちの宿泊しているホテルを訪れた、とホテルの従業員に起こされた。
「すみません、少し準備するのでお待ちくださいと伝えてください」
その後にフレアハルトらを叩き起こして出発準備。
昨日、私の思惑がバレてしまったから、私を王城まで案内してくれるのは別のヒトに変わるかと思ったが、予想に反してステラーシアさんが待っていた。
「おはようございます! アルトラ様!」
「おはようございます、ステラーシアさん……」
小声で話す。
「……私の思惑を知って、なおお世話係を継続したんですか……?」
「……ルシファー様より任ぜられているので、そう簡単に別の誰かと交代するのは難しと考えます……交代したら交代したで勘繰られそうですから……」
それもそうか。
私が移住を断ったことによる被害を拡大させないためには、ステラーシアさんには私の思惑を『知らないフリ』で通してもらわないといけないんだ。
それに、どうやら誰かに私の思惑を話してることも無さそうだ。
「……ただ……わたくしはアルトラ様の意思を尊重して他言しないだけで、それ以上のことは何もできません……私は謁見の間へは入らないので不都合があっても何もできません。そこはご留意くださいませ……」
それはイコール『命の危機であっても無視します』と言ってることと同義。
「……はい、黙っててもらえるだけで十分です……」
「では、王城へとご案内致します」
ステラーシアさんの力で空間転移ゲートが開かれ、王城の入り口まで移動。
◇
「アルトラ様をお連れしました」
「ようこそおいでくださいました、ここよりわたくしたち城の衛兵がご案内致します」
天井高く、太い柱が何本も立った廊下を歩かされ、謁見の間へと到着。
左右から謁見の間への扉が開かれる。
謁見の間に入ると最奥で脚を組んだまま上半身と顎を反らし、まるで見下すかのような傲慢不遜な態度で玉座に座るルシファーが目に入った。
部屋に入り、謁見する距離まで歩を進める。
「よく来てくれたなアルトラ」
挨拶をしようとルシファーの顔を見た瞬間、恐怖感を感じ身体が強張った。
そして意識せず跪く体勢に。
え……? 何で私こんなことを……?
まだ跪こうと頭で考えてもいなかったのに!
確かに王様への挨拶で、跪いて挨拶することはある。
しかし、今の私の状況はそれとは違う。
跪いたままの体勢で、ポーズを変えることができないのだ!
そこで頭を働かせるとアスモの自動発動スキル『魅了』のことに思い至った。
しまった! ルシファーも何かしらの自動発動スキル持ちか!
まずい! もし意のままにできるような能力なら、私は今後彼のやることに逆らうことはできなくなる! アルトレリアにも帰れない!
動かない身体で首と目だけ必死に動かして周りを見るとフレアハルトたち三人も同様に跪いている!
彼らも同じようにこの能力にやられているようだった。
焦って必死に思考を巡らすが、首を垂れたまま動くことができない。
しかしその時、私の中で魔法のスイッチのようなものが入り、頭の中の何かが明確に変わった。
―――― 完全なる魅了発動 ――――
その直後から突然アスモに会いたくて仕方なくなった。それと同時に身体の強張りが取れ、身体の自由が利くように。
「ここに来たということは、このルシファーの命に従い、我が火の国のために尽力してくれるということで相違ないな?」
この能力について絶対の自信があったのか、当然のことのように私を火の国に移住させるつもりの話し方。
しかし、私はルシファーの意に反して否定の言葉を吐く。
「いいえ、正式に移住をお断りしに来ました」
その言葉を吐き終わった直後に、跪いて首を垂れた体勢から顔を起こす。
「何だと!? フ……フハハハハ……このルシファー相手に中々面白い冗談だ……」
「冗談ではありません。わたくしには今後もアルトレリアのために尽力するという重大な使命があるため、火の国への移住は丁重にお断りさせていただきたく存じます」
「このルシファーの命に従えないと言うのか?」
「はい、そもそもわたくしはあなたの国民ではありませんし、その命には従うことはできません。元々お断りする予定で遠路はるばるここまで旅をして来ましたが、本日王様に会って確信しました」
「なにを……」
「私の考えとは相容れないと。私を連れに来た使者の方々の懇願を断り切れずにここまで来ましたが、民のことを第一に考えられない王様の下では働くことはできません。と言うか私は一刻も早く想い人に逢いたいので、早々に失礼させていただきたく思います」
拒否されるのを想定していなかったのか、ポカンとするルシファー。
それほど彼の自動発動スキルの強制力が強いのだろう。
まあそんなことはどうでも良いから、早いとこアスモに会いに行きたい。頭がぽわぽわする。
「フレアハルト、アリサ、レイア、移住の断りも済んだから帰るよ。立って」
跪いたままの彼らにそう言うものの――
「……すまぬ……恐怖で動けん……」
「……私も……」
「……わたくしもです……」
「えぇ……?」
三人ともガタガタ震えて硬直したように動かない。
何なんだこの能力、心に作用する能力か? 恐怖で動けないって……
じゃあ、強制的に空間転移させるしかないか。
その時、呆気に取られていたルシファーが我に返る。
「はっ! お前たち何をしているアルトラを逃がすな! 四肢を切って動けぬようにしろ!」
「ハ……ハッ!!」
その命令を受け、周囲に居た衛兵たちが一斉に私たちを取り囲む。
未だフレアハルトたち三人は跪いたまま動こうとしない。
「フレハル! 早く動いて!」
「……すまぬ……ダメだ……目と口以外動かせん……」
このままだと動けないフレアハルトたちが狙われる!
いくら硬いウロコがあっても、無防備の状態で攻撃を喰らえばどうなるか分からない。
フレアハルトたちと衛兵たちの間に立ち、応戦。槍や剣で攻撃されるもガガガキンという金属音。
「な、何だこの感触は!?」
「金属音!?」
「硬すぎて刃が通らない!!」
「何だこの女!? どういう生物なんだ!?」
みな口々に困惑を口にする。
そこに隊長格らしき人物がその困惑を払拭するかのように大声で命令する。
「う、狼狽えるな! と、とにかく動けなくしろ! 物理的に動けなくできないのなら魔法で縛り上げろ!」
その命令を受けた衛兵たちは闇魔法の影で縛ったり、氷魔法で手足を凍らせたり、土魔法で全身固めたりと、拘束系の魔法で私を動けなくしようとするものの全て無効化して弾いた。
「く、くそ! 手足を集中的に攻撃しろ! 何度も攻撃すれば傷くらいはつけられるかもしれん! 生きてさえいれば切断しても良いとの王のご命令だ!」
この王様ヒトを何だと思ってるんだ!
キッとルシファーを睨みつけると、自身は何もせずにただこちらを傍観している。
どうやら衛兵だけでどうにもならなくなるまで動かないつもりらしい。
視線を衛兵たちに戻し、群がってきた衛兵たちを風魔法で吹き飛ばした。
その直後、衛兵の惨状に業を煮やしたルシファーが玉座から動く。
右手に剣を構え――
「俺の誘いを断るのなら、ここで死ね!」
――横一文字に振り抜かれた炎の斬撃!
私たちを取り囲んでいた衛兵もろとも切り裂き、燃やしながらこちらに向かって飛んでくる!
「なんて酷いことを!! 自分の国民じゃないの!?」
更に私が衛兵を相手にしようとフレアハルトたちの後ろへ移動していたため、ルシファーと私の間に居る跪いた状態のフレアハルトら三人を斬撃が襲う!
斬撃が届く前に急いで三人を【強制転移】で転移させた。
当たるはずだったフレアハルトら三人が消えたため、斬撃はそのまま私へ目掛けて向かってくる!
この斬撃は恐らく私にもダメージを与えるもの。
フレアハルトの炎ですらLv11なのだから、それより格上のルシファーの炎で無傷でいられるはずがない。
そのまま喰らえば、今目の前で斬り殺され燃やされた衛兵と同じ末路を辿る。
そう思考を巡らせた私はギリギリの判断で身体を動かした。
「くっ……!」
当たる寸でのところで上半身を後ろに反らして斬撃を避ける!
避けてもなお高熱が私の身体に降りかかる!
「熱っつ……!」
やっぱりこれ喰らったら火傷じゃ済まなかった。
一瞬で大量の汗が出る。多分危機感を感じて出た冷や汗も混じってるだろう。
戦ったところで負けるのは目に見えてるから早々に逃げよう。
可能であれば斬られた衛兵の回復をしてから逃げたいところだが、私より遥かに格上相手にそんな余裕は無い。それに……斬られると同時に燃やされているから恐らくはもう……
私が避けたために放たれた斬撃は私の後ろに居た衛兵を切り裂いて、更に謁見の間の入り口の扉を破壊してようやく止まった。
「あの三人をどこへ転移させた?」
「答える義務はありません。移住を断っただけで殺そうとするような、相手の気持ちも考えられない王様の下で生活する気は毛頭ありませんので、これにてわたくしも失礼致します。それではもう会うこともないでしょうが、どうぞご壮健に。さようなら」
右手を胸の前にし、執事がするようなポーズで深々と頭を下げ、その言葉を最後にゲートで転移した。
ルシファーとは決定的に対立してしまいましたね。
次回は11月9日の20時から21時頃の投稿を予定しています。
第413話【分析されたルシファーの自動発動スキルについて】
次話は木曜日投稿予定です。




