第39話 四男発見したけど……左腕が無かった……
少し経って徐々に集まって来る。
「おお~~い、アルトラ様~~! ヨン兄は発見できたんスか?」
真っ先に集まったのはナナトスとクリスティン。
「まあね、ここの水の中に埋まってるよ」
水中を覗くと、胸の辺りまで埋まっているヨントスの石像が見える。
「どうやって引き上げるんですか?」
「さっきみんなに渡したロープあるよね? あれを使おうと思う。みんな集合するまで待ってて」
◇
また少し経って全員が集合した。
全員に救助用のロープを差し出させる。
「これを繋げて……で、ヨントスにぐるぐる巻きに巻き付けてくる。ちょっと待ってて」
水中でヨントスの両脇にぐるぐるに巻き付ける。
ん? あれ? よく見ると左腕が無い!
………………マジか……
ここに流されてくるまでにどこかにぶつかって折れたのかも……まさか埋まってる脚の方にも異常があったりとかするかも? と、とりあえず水から引き上げるだけ引き上げよう。考えるのはその後だ。
ザパーン!
「ぷはっ! ま、巻き付けた。みんなでロープを引いて!」
全員で引っ張り、ヨントスを引き上げた。
人間大の大きさの石像だから物凄く重いのかと思ったが、意外なことに予想より遥かに軽い。四十五キロ程度ってところかしら?
生物って石化しても普通の石のように密度が高くないからそれほど重くはないのね。
引き上げてみれば胸より下はしばらく埋まってたために、汚れがこびり付いている。
まあ、これは石化を解けば全部ボロボロと崩れ落ちるから問題無いでしょう。
幸いなことに下半身は異常無さそうだ。
「アルトラ様……これって……」
女子組がとあるところに注目する。
「ん? ああ……」
うわぁ……全裸だ……引き上げたばかりだったため、泥で大事なところはまだ隠れてるけど。
服無くなっちゃったのね。しばらく埋まってたみたいだし、朽ちたか流されちゃったのかな。
サービスで創成魔法で腰布を付けてやろう。
よし、隠すものも隠したし、『さて石化を解くか』と思ったところ――
「左腕が無い!」
「ヨン兄左腕無くなっちゃったじゃないッスか!」
兄弟であるイチトスとナナトスが騒ぎ始めて気付かされた。
「………………そうだ、引き上げることに注力していて左腕のことを忘れてた……」
「ア、アルトラ様! 治るんスよね!?」
「わ、分からない……な、何とか考えてみる……」
どうしよう? このまま石化解除したら腕が無いままになっちゃう。いや、トロルだし再生能力バカ高いし、数日もあれば回復できるか。
でも再生力高いって言っても、生えてくるものなのかしら?
「と、とりあえず腕を探してくるよ」
探しても見つからなかった場合は、もう諦めてもらうしかないが……
再び【エコーロケーション】で水中を探す。
その結果、ここより更に下流で左腕らしき物体を発見。
泥に埋まってなくて良かった……
「見つかったんスか!?」
「それらしいものはね」
一応見つけられたけど……指の先が二本行方不明だ。流石に指の第一関節だけ探すのは石ころと変わらないため不可能に近い。水流で削られでもしてたらくっ付くかどうかもわからないし、そこは自分で再生してもらおう。
ということで、左手の無事な部分だけ回収してくっ付けた。
石化して身体の一部をくっ付けた後に復活させるなんて、漫画くらいでしか見たことないけど、こんなことでちゃんとくっ付いてくれるのかしら?
石化解除したらボロっと取れて大出血なんてことになったら……まっいっか、トロルだし再生するでしょ。
(私の所為で)右上半身無くなったリーヴァントが、今は完全回復した状態でピンピンしてるんだから。
それに、いざとなれば回復魔法もあるから大丈夫!
「それにしても無くなってたのが頭じゃなくて良かったわ……頭無くなってたら流石に生きて無さそうだし。さて、ようやく石化解除か。石化解除」
ヨントスの石化が解ける。
「う~ん……オラなにしてただ? あ、人間の子どもはっけ~ん! いただきま~す!」
なんでトロルは私に対して全員同じ反応なんだ!
そんなに美味しそうに見えるのか?
また軽く叩きのめ (以下略)
「ごめんなさい……」
また正座させる。ああ! もう! めんどくさいなぁ! 早いとこ知性上昇させよう!
「【永久的遺伝的知性上昇 (大)】」
これで知性が上がって(以下略)
「おぉ!? 何だこれは! 今までにないほど (以下略)」
全員この反応だ。
「何であんたたちは、私をすぐ食べようとするの!」
「は、はぁ……そんなに何度も言われてるんですか?」
「むしろあなたたちの種族と初対面した時はそれしか言われてないよ!」
「まあ、食べ物が少ないので自分の種族以外を見たら食べたくなるというやつでしょうか、生きることに必死なので……」
飢餓状態だから仕方ないと言えなくはないということか……同族喰いしてないだけまだマシか。
「あっ、『食べちゃいたいくらい可愛い』ってことなんじゃないでしょうか?」
今、『良いこと思い付いた!』みたいな顔してたな。
「ヨイショしたつもり?」
「いえ……すみません……」
「まあ、ヨイショに乗って怒りを収めるとしましょう」
「ああ、よく見たらみんな居るじゃないですか! なぜここに集まってるのですか?」
私を食べることにしか興味が無く、周囲が見えてなかったらしいな……
やっと周りにみんなが居ることに気付いた。
「ヨン兄、無事で良かったッスよ……」
「イチ兄ちゃん、ナナトス、他のみんなも! イチ兄ちゃん何ですかその身体は!? 筋骨隆々じゃないですか!? みんな何か小奇麗になってますね? それに変わった服まで着て!」
「小は余計よ!」
「見つかって良かったです!」
「ヨントスを発見できたのも、全部アルトラ様のお蔭ですぞ!」
ヨントスがこちらを見て呟く。
「アルトラ様って見た目と違って凄いお方なんですね……それで、私はここで何をしていたのでしょうか?」
「あなたは石化して川底に埋まってたのよ、覚えてない?」
「…………あ! そういえば弟たち三人が一つ目の魔物に石にされて……必死に逃げたんですが私も石にされてたということですかね?」
初めて自分が石にされたかもしれないと認識しているヒトに会った。
「そのようね」
「だとしたらこの危険生物発見を村に報告に行かないと!」
「その危険生物はもう倒したから大丈夫」
「あなたが? あなたは一体何者ですか?」
これもいつものパターン。
「まあその辺の込み入った話はイチトスにでも聞いてもらえる? もう何度も説明してるから」
「は、はぁ……分かりました」
足掛け二日のヨントス捜索は、本人発見ということで無事終了となった。
空間魔法ゲートで、集落に帰還。
私はカトブレパス一頭を料理担当に渡して一旦みんなと別れた。
◇
みんなを集落に送った後に一人川の流域に戻って来た。
カトブレパスの子供を処分するためだ。
今回の捜索では見つからなかったけど、それはいなかったのではなく、見つけられなかっただけかもしれない。
子供ならいきなり訪れた亜人の集団を恐がって隠れていたとしても不思議は無い。
エコーロケーションを身に着けたから、それを使って探し、もし見つかった場合は処分しようとやってきた。
見つからなければ見つからないに越したことはない。私とて無闇に生き物を殺すのは忍びない。
しかし、人の生命活動を止めるような能力を持っている生物を野放しにすることはできない。
地球でだって、スズメバチが巣を作り出したら駆除にかかる。それと同じだ。
【エコーロケーション】を発動。
………………
…………
……
いる……一つ疑わしき形の生物が。
さっき私たちが捜索していた近くだ。見つけられなかったのは、やはり隠れていたからかもしれない。
その場所へゲートで移動。
やっぱり居た、疑わしかった形はカトブレパスの子供だ。
何の罪も無いけど、後々の災いになるかもしれないから食材になってください。後でスタッフたちで美味しくいただきますから!
◇
仔カトブレパスを一匹退治後、再度【エコーロケーション】で確認するが、それらしき生物はもういないみたいだ。
牛の妊娠期間は二百八十日くらいらしいから、仮に人間界の牛と同じ期間と考えるなら、カトブレパスの子供が自立して自分で餌を探せるくらい成長してたことを考えると、彼ら (ヨントスたち)は一年から二年くらいの間、石になっていたってことになる。
さて、これで恐らく今後の脅威も無くなったでしょう。
帰ろう。今日は豪勢な牛肉パーティーだ!