表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
建国のアルトラ ~魔界の天使 (?)の国造り奮闘譚~  作者: ヒロノF
第15章 火の国ルシファーランド強制招待編
397/583

第388話 海路を往く 二日目(水吸収バリアの魔法は海の上では危険)

 二日目はまだ二人ともグロッキー状態。

 しかも、間が悪いことに大分天気が悪い。

 強い雨が降り出し、波も高く揺れが激しくなった。

 甲板で船員が忙しなく動く。


 そして船室では――


「うおぉぉ……揺れる! 気持ち悪い……」

「……あうぅ……気持ち悪いよぉ……」

「アリサは?」

「わ、わたくしはまだ大丈夫です。それよりも……このままだとお二人がどんどん痩せてしまいます」

「まあ三日の航海だし、吐き過ぎで死ぬことはないと思うけど……」


 それにこの二人に脱水症状の可能性は皆無。元々炎の中に住んでいるような種族だから水を補給しなくても問題は無いはずだ。


「どうすれば……?」

「放っておくしかないでしょ。現状どうにもする手段が無いし」

「アルトラ…………アレを……アレをやってくれ……水を吸収するバリア……アレで船を囲めば揺れなくなるのではないか……?」


 水バリアか……

 船に当たる波を消してしまえば、揺れも少なくなるだろうと考えているんだろう。


 ここまで衰弱してるの見せられては願いを叶えないわけにはいかないな。

 水バリアを使った時に起こる事象を頭の中でシミュレーションしてみよう。


 ……

 …………

 ………………


「……ごめん、無理だね」


「「何でですかっ(なぜだ)!?」」


 気分悪い組の発声タイミングが重なる。


「今頭の中でシミュレーションしてみたけど、それ使ったら多分この船の中の生物は水棲亜人以外は全員死んじゃう可能性が高い。私含めてね」


「「「どういうことですか(どういうことだ)!?」」」


 今度の大声にはアリサも混じった。


「うん、説明するとちょっとややこしいかもしれないけど、まず『水吸収のバリア』ってのはこのバリアに触れた水をどんどん消していく魔法なの。そこは良い?」

「「はい」」

「うむ、何度か見ておるから、それは理解している」 (第51話、第53話などで経験しています)


「じゃあ話を進めるね。例えば水吸収のバリアを船の周囲に球体状に張るとする。すると船の周囲の水をどんどん消していくことになるから……その結果どうなると思う?」

「分からん……気持ち悪くて思考がまとまらんから簡潔に説明してくれ……」

「この船は水の浮力によって浮いているから、船の周囲の水をどんどん消していくとなると……」

「あっ! 海底に向かって落下して行くんですね!」


 流石アリサ! 理解が早くて助かる! まあ他二人は気持ち悪くて思考どころじゃないんだろうけど。


「そう! 水を消していくということは、水の浮力を全く得られなくなるから水をどんどん消し去りながら、重力に従って凄い早さで海底まで落下して、最後には海の底に激突、船はバラバラ。このケースだともしかしたら全員死んじゃうかもしれない」


「落下するのか!?」

「海の中を!?」

「空から地面に船を叩きつけるようなもんだね。別のケースとして仮に途中でそれに気付いてすぐにバリアを解除したとしても、もう遅い! 船は海の深いところまで沈んでいるから、水バリアを解除した瞬間に船が水圧で潰されてバラバラ。水中で呼吸できない私たちは一巻の終わり。もし、もっと深いところで解除したら私たちの体内に残った空気が強い圧力で圧縮されて焼死するらしいよ」


「「「焼死!!?」」」


「海の中なのに!?」

「詳しい計算方法なんかは理系じゃない私には分からないけど、何千メートルもの海底はその圧力が凄くてね、私たちが普段吸ってる空気って圧縮すると物凄い高温になるらしいから海底の凄まじい圧力で圧縮された空気で焼かれて焼死するんじゃないかな? まあ、私やあなたたちは高温にはかなり強いから普通に水死体になるかもしれないけど。いずれにしても死は免れないと思う」


 もっとも、この冥球の大きさは地球よりかなり小さいようだからそこまで水圧が強い海底があるかどうかは分からないけど。


「だから水圧に潰されることなく適応できている水棲亜人だけは生き残れるかもしれないと、そういうわけ」


 この説明を聞いて、元々顔色の悪かったフレアハルトが更に青くなった。安易にこんな危険な提案をしたことにゾッとしたようだ。

 もし私がこの提案を簡単に受け入れて、水バリアを実行するようなおバカなら、この説明をしている頃には既に海の藻屑だ。


「じゃ、じゃあ水無効ならどうなのだ?」

「それも同じだよ、水に反発するんじゃなくて無効化するだけだから、同じように海底に落下していくと思う」

「では水に反発する魔法は作れぬのか!?」

「出来るとは思うけど……でもそれを船にかけたら、多分今以上揺れると思うよ? この船の重量よりも海の水が押し寄せる力の方が強いから、もしかしたら船が舞い上げられてしまって海の上をピョンピョン跳ねるような動きをするかもしれない。これの行き着く先は、良くて船の大きな損壊か、悪ければバラバラだろうね」

「………………想像しただけで気持ち悪くなってきた……じゃ、じゃあ海底に落下して行かないように半球状に上だけ水吸収のバリアを張るのはどうだ?」

「…………フレハル、あなたどの部分が船の揺れに影響してるか分かってるよね? 船の上部に張って雨だけ防いても揺れてるのは波の方なんだから全く意味は無いよ」


 何だか……揺れを抑えた必死さが伝わってくるわ……

 波が揺れに関係するんだから、上から降ってくる雨を水バリアで消したところで意味が無いのに言いたくなる辺りが。


「…………ぐっ……」

「まあ、船に乗ってる以上仕方ないことだから諦めて寝てて」


   ◇


 さっきフレアハルトに話した水バリアについて検証するため甲板に出て来た。

 樹魔法で木のボールを作り、その中に空気を含める。

 これを海に投げ落とすと――

 当然ながら中に空気が入っているから海面に浮かぶ。


 次にこれに水吸収のバリアを張って海へ投げ落としてみた。


「………………浮かんでこないな……やっぱり私の考えは正しかった」


 そのまま水バリアを有効にしておくと海水を消し続けてしまうため、指をパチンと鳴らして水バリアを解除した。

 すると、木のボールは海面に顔を出した。


「あ、浮かんできた。やっぱり水吸収のバリアを張ると海底に向かって落ち続けるわけね……迂闊に船にバリア張らなくて正解だったわ……」


 一応、水反射バリアの方も試してみたところ水を弾く木のボールに変化し、海に落とした瞬間波の間を滑り回り、天候の悪い荒波が激突した衝撃でポンポンと上空へ打ち上げられるのが見られた。

 こちらも私の考え通り、もし船に使っていたら、船が上空へ舞い上げられていたであろうことが証明された。


 もしこれらを考えなしに使っていたら、死人が大勢出るところだった……



   ◇



 午後の時間帯になると海も落ち着いて来た。

 午前の悪天候が嘘のように静かな海になった。


「ふわぁぁ……落ち着いてきたな。不思議と気持ち悪さも無くなってきた」

「揺れが激しかったから、多少の揺れでは気持ち悪くならなくなったんですかね~」


 フレアハルトとレイアが船室から甲板に出てきて涼んでいる。

 ぐったりしてたのが起きられるようになって一安心ね。


「しかしまだ何かダルいから、今日はもう休む」

「私もそうします」


 と思ったら、すぐに寝るらしい。


「二人ともご飯は?」

「まだいらないで~す」

「まだ食べる気にならん」

「あそう……じゃあアリサご飯行きましょうか」

「はい」


 二人は今日のところは船室に戻ってそのまま寝てしまった。

 水吸収バリアについて、全て私の想像ですが、説得力は持たせられたでしょうか?

 もし知らずに水バリアを使っていたら……気付いた時にはもう恐怖でしかないですね。ただ、水バリアを解く前、アルトラなら生存の可能性があります。

 水バリアを解除する前に、強制転移の魔法で船ごと海上に転移させれば助かります。もっとも、海底に到達する数十秒の間にこれに気付かなければなりませんが……

 それにしても海底の圧力では焼死するというのを、最近初めて知りました。水の中なのに焼死とは衝撃的ですね。


 次回は8月1日の20時から21時頃の投稿を予定しています。

  第388話【海路を往く 三日目】

 次話は明日投稿予定です。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
script?guid=on
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ