第37話 水着選び
ゲートを通り川の流域に到着。
みんなを集合させる。
「さて、今日は川底の捜索するわけだけど、みんな水中の捜索に適した服装は持って来た?」
「「「え?」」」
「え?」
あれ? 持ってきてないのかな?
「まさか持ってきてないの?」
「言われませんでしたので……」
「というより僕はそれほど服を持ってません……」
と真面目に答えるイチトス、ルーク。
「裸で水に入れば良いじゃないッスか!」
というナナトスのおバカな返答に
「「「バカ!!」」」
と口を揃えて罵倒する女子の面々。
「私はこのままの服装で水に入るのかと……」
「ええーー? そのままだとあとで寒くならない? じゃーん、私は持って来たよ! 今着てるのより少し肌が出てる服!」
「昨日そんなの準備しろなんて聞かされなかったけど……」
「みんな用意悪いなぁ……水の中の捜索なんだからそれなりの服だって考えなきゃ」
しまった……昨日伝え忘れた……人間界にいる時の思考でいた……水中を捜索するんだから水に入るなりの格好が当然だと。
それにまだ即席で水着用意できるほど物や素材が豊富じゃないんだ。
捜索隊に志願してくれた九人の中で対応できてたのは、泳ぎが得意なエルフィーレとメリルだけだった。
しかし、対応できてた二人ですら持って来たのは普段着と同じ素材の物凄く水を吸うやつ。ガルムの毛皮の毛を一定の長さに刈り揃えたもので出来てるものだから濡れたら多分かなり重い。縮んだりとかも心配だ。せめて毛を完全に刈ってあれば別かもしれないけど。
「残念だけど、その服だと重すぎて水中では使えないかな……」
「じゃあ、こんなのも用意したんですけど」
メリルが出してきたのは葉っぱを編んで作られた水着だった。
「………………際どいね……」
「ダメですか?」
「ダメではないんだけどね……」
まあ、本人が良いならありっちゃありなんだけど……所詮は葉っぱだから耐久度が心配だ。捜索してる最中にバラバラに分解する可能性は決して低くない。
うーん……ここは私が用意するべきか。
「じゃあ私が水着を用意するから」
とは言えどういうのが良いんだ?
競技用? スク水? それとも普通にお店で売ってるオシャレなやつ?
水着は何回かデザインしたことはあるけど、会社と家の往復しかしてなかった私には詳しいことはわからん。
とりあえずいくつか作ってみて、その中から好きなものを選んでもらおう。
◇
「ふぅ……この中から選んでもらえるかな?」
とりあえず創成魔法を使っていくつか用意した。
私が知り得る限りの知識を総動員して用意した水着の数々。
レディース水着から。
まず上半身の水着。
肩から釣るタイプ、首に巻き付けて後ろで縛るタイプ、首の前にクロスするタイプ、肩から釣るフリルのタイプ、お腹辺りまで隠れるタイプ。
捜索のことを考えると、肩や首から釣っていた方が良いと思ってズレそうなチューブトップは除外した。
で、下半身の水着。
ビキニタイプ、ホットパンツタイプ、あとこれは要るかわからんけどTバックタイプ。
あと全身水着。
スク水、競泳用水着、ワンピースタイプ、レオタードタイプ、ウェットスーツ、あと顔だけ出るウェットスーツの頭部分が付いているタイプ。
名称? そんなの海に遊びにも行けなかった社畜の私に聞くな、知らん。
次にメンズ水着。ブリーフタイプ、トランクスタイプ、ボクサーパンツタイプ、サーフパンツタイプ、ブーメランパンツ、ふんどし、ウェットスーツ。
こんなもんか。男物は種類が少ないな。
「わぁ……これが水着というものなんですね~」
「私今まで服自体あまり着たことなかったから新鮮です!」
「男物って上は無いんスか?」
「男で上は要らないでしょ?」
「それって差別じゃないッスか?」
魔界でまで人間界のようなこと言わないで……
「男が上要らないんなら女子も上無しにしないと!」
魂胆はそっちか!!
女子全員がナナトスを冷ややかな目で見ている……
「じょ、冗談ッスよ! あはは……」
「男物の中に直接穿けないものがあるのですが……あの白い布は何ですか?」
「一応用意してみただけだから選ばなくて良いよ。挑戦するんなら止めないけど、素人が着用しようとすると、きっとポロリするよ」
イチトスは多分ふんどしのこと聞いてきたんだろうけど、私も付け方知らんし……
知識を総動員した中に入ってただけだし。
「ポロリとは何なのでしょう?」
「………………」
「ポロリって何なんスか?」
「………………」
「ねえ、ポロリって?」
「………………」
イチトス、ナナトス兄弟がしつこい。
私も失言してしまった……ポロリを知ってること前提で話してしまうとは……
し、仕方ない!
「……ア、アレが外に出てしまうことよ……」
直接言葉にするには憚れる単語……
この言葉と私の態度で理解したらしく、イチトスは黙ったが、ナナトスが更に追い打ちをかけてくる。
「アレって何なんスかねぇ~? ねぇアレって?」
コイツ! 分かってるくせにしつこく聞いてきてるな!?
所謂『ニチャァ』顔で聞いてきやがる!
堪りかねてナナトスの頭にチョップした。
「痛いじゃないッスか!」
「理解したんならさっさと選びなさい!」
このことで理解した。イチトスとルークは真面目な性格。ナナトスは末っ子だからなのか、生来の性格だからなのか、おちゃらけた性格らしい。
そしてしばらくは水着選びの時間。
◇
女子とナナトスがキャイキャイやっている間に、付いていけない人が二人。イチトスとルークだ。
「ぼ、僕はサーフパンツで良いかな」
無難なやつね。
「では私はブーメランパンツで!」
その筋肉からしてあなたはそれを選ぶと思ってたよ。ふんどしに興味ありそうにしてたけど、着け方もわからないし流石に諦めたか。
土魔法で更衣室も作っておくか。
「簡易更衣室を用意したから、水着決まったらあそこで着替えて。」
至れり尽くせりだな、私!
◇
全員着替えが終わった。
胸のあるクリスティンはお腹まで隠れるタイプ、エルフィーレは首から巻き付けて縛るタイプ。
私と胸の戦闘力がそれほど変わらないメイフィーとメリルは肩から釣るタイプ、ミリアンは肩から釣るフリルタイプ。
少し背の高いリザはスタンダードなビキニだ。
「よし、全員選べたね!」
「まだですよ?」
「え?」
参加者の方を見回す。全員水着着てるように見えるけど……
「誰か水着着てない人いる?」
全員が顔を見合わせた後、私の方へ向かって指をさす。
私の後ろ?
振り向くも誰もいない。
「誰もいないじゃない……」
「そうじゃなくてアルトラ様がまだ着替えてませんよ」
メイフィーから意外な指摘が来た。自分が水着に着替えることなんて全く頭になかった。
「私!? 私はこのままで良いよ、どうせ水に入ったって濡れない服だし」
私の着ている服は闇魔法で作られている魔力の塊だから水の中に入ったところで濡れることはない。
汚れることすらないから夜寝る時以外は着替える必要が無いのだ。
ちなみに寝る時は着ぐるみのようなパジャマを着ている。
「ダメです! せっかくのこんな機会ですから!」
「いや、遊びに来てるんじゃないんだから……」
「一人だけ着ないは無しですよ! それに統一感無くて、私たちが気になりますから!」
全員が無言で頷く。
「えぇ……マジで?」
この間までそんなの気にするような種族だったかなぁ……
「マジです!」
結局着替えるハメに……
強引に更衣室に連れていかれた。
「でも私が着られる水着は無いよ、サイズ的に」
私が作った水着の中にこのちっちゃくて貧相な身体に合う水着は無い。
私に合いそうなものはメイフィーとメリルが着ていて、残っていない!
着ない理由は十分! これは言い逃れできる!
「じゃあこれにしておきますか?」
手に持って来たのはふんどし。
ああ……確かにそれは体型を選ばないけど……でも、そもそもそれは上が無いじゃないの!
冗談で言ってるんだろうけど……私も冗談で用意したものがまさかこんなボケ方に使われるとは思わなかった。
「それは男物だよ! それに胸を隠すものが無いよ!」
「じゃあこんな方法どうでしょう、ふんどしを胸に巻いて、下はアレにするとか」
指さした先にあったのは……Tバック。
「いや、あれは流石に恥ずかしい……」
めっちゃお尻出そうだし……
それに……上にはふんどしって……サラシみたいに巻き付けろってことか? 確かに布地は長いから可能かもしれないけど……
「えーー、自分で用意したものなのにぃー!」
ごもっとも……誰か使うかと思って、半分ネタ気分で作った。結局のところ誰も手を出さなかったけど……
遊び気分だったのは私だったか……
「じゃあ、あと着られそうなのはアレですかね」
残っていたスク水を指さした。
確かにあれの小さいのなら、今の私の体型に合うかもしれないけど……
「ホントに着替える必要あるかなぁ……」
何とかはぐらかそうとするが――
「じゃあスク水にしましょう! 決定!」
結局この中でサイズが合うのはスク水くらいしかないということで、強引にそれに着替えさせられた……
まさか二十七歳にもなってスク水着せられるとは思わんかった……用意しなきゃ良かったよ……
遊び心を出して色々作ったのが裏目に出た。
幸いだったのは上にふんどし、下にTバックを着なくて済んだことか……




