第371話 各国の大使館建設始動 その1(手紙を届けに)
この二週間ほど前、私が樹の国から帰って来た辺りから大使館建設に向けての動きが活発になった。
◆
遡ること二週間前――
大使館建設の位置について希望の建設場所を聞くために、事前にマップを添え、必要があれば予定地の視察に来て欲しい旨も記載。手紙にしたため、各五大国に送る準備を整えた。
…………までは良かったのだが、アルトレリアはまだ手紙を配達する方法が確立されていないから、この先が困った。
結局のところ、自分で【ゲート】を使って直接配りに行くのが早いということで、水の国、雷の国、樹の国の三ヶ国は自分で配達。
しかし、困ったのはまだ行ったこともない風の国と土の国。
この二ヵ国は一度も行ったことがないため、【ゲート】の魔法で行くことができない。
そのため不本意ながら、風の国への手紙は樹の国にお願いした。
風の国は樹の国のお隣ということで、樹の国に手紙を配りに行ったついでに、風の国にも知らせてもらえるようトリニアさんにお願いしておいた。
そしてこの問題の本丸は『土の国』。
現在雷の国のアスモのところへ手紙を届けに来たのだが……三国の中で土の国と比較的交流のある雷の国とも離れた場所にあるため、わざわざお願いするのも億劫で、土の国にどうやって伝えようか気を揉んでいた。
が、アスモの一言で活路が開ける。
「……うん、わかった……じゃあ希望の候補地を決めるために視察団を送るね。ところでベルゼ……土の国とコネが無くて困ってたりしない……?」
土の国への手紙を見ながら大分難しい顔をしていたのかもしれない。状況を察したのかアスモから救いの手が!
「そ、そうなのよ! どうやってこの手紙を届けようかと思って!」
「……うちの空間魔術師に土の国に行ったことある者がいるから、彼女に頼めば連れてってもらえると思う……こちらから話を通しておくから……行ってみて……名前はナタリア、この城の受付係に訊けば教えてくれると思う……」
◆
そういうわけで空間魔術師と対面。
「アルトラ様、アスモデウス陛下から要件は聞いております。わたくしエレアースモ空間魔術師のナタリアと申します」
「ナタリアさん、お手数をおかけしますが、よろしくお願いします」
「ではすぐに土の国へ参りましょう」
すぐに土の国の第二首都ルガイアへと転移。
第二首都が土の国の玄関口になっているらしい。
ここがルガイアトータスのアースの生まれ故郷か。
「帰りはどう致しますか? ここでお待ちしましょうか?」
「いえ、お待たせするのも申し訳ないですし、帰りは自分で帰れますので先にお帰りください。あ、少ないですがここまで送っていただきありがとうございました。アスモ……アスモデウス陛下によろしくお伝えください」
ここまで連れて来てくれた謝礼として少額包んで渡した。
さて、本題の手紙を渡すことを考えないとね。
国に入るということで、入国手続き。
身体検査を経て土の国に入国。
あ、そうだ、別に王城に行かなくてもここで頼んでおけば良いんだ!
入国手続きを担当してくれた方に声をかける。
「あの……」
「はい?」
「わたくし、新興国アルトラルサンズという国から来ましたアルトラと申します。この手紙をヴェルフェゴール陛下に渡していただきたいのですが……」
「あなた、今のこの国の状況をご存じない?」
「は? ええ、まあ……初めて訪れた国ですので……何かあったんですか?」
「いえ、この国にとって日常のことなのですが、今現在陛下は休眠期でお会いすることができません。次にお目覚めになるのは五月の中旬頃になる予定です」
あ! そうか! 土の国の現在の王様って三ヶ月寝て、一週間だけ起きてるって言ってたっけ。 (第116話参照)
五月中旬……約二週間くらい先か。
「で、では魔王代理のマルファス閣下に渡していただけますか? 『アルトラからの手紙』と言ってもらえれば受けとってもらえると思います」
「アルトラルサンズ……ですか? 少々お待ちください」
ローレンスさんは雷の国で中立地帯のことが話題になっていると言っていたが、場所が変わるとそうでもないらしい。
「確認が取れました。最近中立地帯に出来た新興国アルトラルサンズからの使者ということですね?」
国主とは言わない方が良いだろう。国主が直接手紙を届けるなんておかしいし。
「はい、国家間の交流に関わることですので、確実に渡してください」
「承知しました」
「ところで、せっかく来たので観光しても良いですか?」
「はい、どうぞ。ただ、規制線がある場所より先には踏み込まないようにしてください。不都合があっても補償できかねますので」
「規制線?」
「王が休眠中の間は第一首都アーテラス近辺に規制線が敷かれています」
「な、なぜ王様が眠ると規制されるのですか?」
寝ている間に王様が狙われないようにとか?
「王様の七つの大罪『怠惰』の能力により、発動者であるヴェルフェゴール陛下を中心に半径百キロほどの範囲にいる者全てが眠りに入ってしまいます――」
そういえばレヴィが以前そんなこと言ってたな。 (第116話参照)
「――更に、この能力は後から効果範囲に踏み込んだ者にも作用します。後から休眠範囲に侵入した者も眠りに落ちてしまうため、眠ってしまった場合、次に出国できるのはヴェルフェゴール陛下がお目覚めになる五月中旬頃になってしまいます」
おぉ……なるほど、発動時にその場に居た者だけでなく、王様が休眠している限り、ずっと効果を発揮し続ける能力ってわけか。これもレヴィが言ってた気がするわ。 (第116話参照)
「また、睡眠ガスとかそういう類のものでもないため、防護服のようなものでも防ぐことはできません。つまり一度範囲に侵入してしまった者を外に出す術が無いのです。約二週間ほど、王が目覚めるまでこの場に拘束されてしまうことになるのでご注意ください」
「は、はい」
な、なんて厄介な大罪……
「ただ、その範囲内で眠った者は、目覚めた後最長で一週間ほどはすこぶる調子が良くなるので、好んでその範囲に住む者もいますけどね。ちなみに調子が良くなる時間は眠っていた期間に比例します。三ヶ月丸々効果範囲に居た者は一週間ほど、一ヶ月なら二日ほどという感じです」
「へぇ~。そうなんですね。ところで規制線というのはすぐに分かるものなんですか?」
「光を発する魔道具で規制線を敷かれているため、光の壁のようなものが見えます。近付けばすぐにそれと分かるはずです」
すぐそれと分かるものって言うからには、誤って侵入することもないんだろう。後で規制線を見に行ってみよう。この国のことも少し知れるかもしれないし。
今回は入国だけでした。
規制線の向こう側については、次のエピソードにて。
余談ですが、場面転換の時には『◇』、過去の回想へ飛ぶ時には『◆』を使っています。
『◆』が出て来た時は、過去回想だと思ってください。過去から戻って来る時には『◇』を使っています。
次回は6月27日の20時から21時頃の投稿を予定しています。
第372話【各国の大使館建設始動 その2(土の国第一首都の様相)】
次回は明日投稿予定です。




