第370話 アースのお願い
「マリリア? 今日はどうしたの?」
珍しく我が家にまで足を運んでくれた。何の報告かしら?
「私も言伝で聞いただけなんですけど、第二壁の作業員さんから、ルガイアトータスさんが用事があるとのことで、アルトラ様を呼んでほしいと。その作業員曰く、『アルトラって亜人この町に住んでるかい? ちょっと呼んできてもらないかな?』とか言われたそうですよ」
“アルトラって亜人いるか?”って……先日目の前で話して、名前もちゃんと伝えたのに……何も認識されてなかったのか…… (第298話から第299話参照)
「わ、わかったわ。行ってみる」
◇
ゲートで第二壁の南門付近に転移。
アースはこの辺りを散歩しているのは知ってるんだけど、いつも同じ場所にいるわけじゃないだろうし、探さないといけないんだよね、きっと……
空から見れば、とは言えあの巨体ならすぐ見つかるか。
空から見てアースを見つけたので声をかける。
「アース、私を呼んだって聞いたけど、なにかしら?」
「あんたがアルトラかい? ちょっとお願いを聞いてほしいんだがねぇ」
『あんたがアルトラかい?』って……
何か……初対面みたいな会話だな……ホントに私のこと認識してないんだな……
「人型から変身を解いた時に第二壁の一部を壊してしまってねぇ……たまにここに来る“海の匂いのする亜人ではない子供”にその話をしたら『アルトラなら何とかしてくれるゾ!』って言ってたから、町の中心に行くって言う若者にアルトラって亜人を呼んでほしいと頼んだんだ」
『海の匂いのする亜人ではない子供』……多分リディアのことね。そんなややこしい言い方するなら名前覚えた方が早いのに……
それにしても。こんな離れたところまで遊びに来てるのかリディア……町から三十キロくらいあるのに大丈夫かな……? こんな広範囲で行方不明になられたらどうしたら良いか分からないぞ?
あ、いや行方不明くらいならカイベルに聞けばすぐ見つかるか。子供って言ってもトロル族の子よりは何倍も力があるからそこまで心配する必要も無いか。
「それで『人型形態の時に付けてみロ』と渡されて、付けてみたんだがねぇ……そこに置いておいたから見てくれるかい?」
何かの壊れた残骸を見せられた。
「何コレ? 何の残骸?」
「“海の匂いのする亜人ではない子供”が腕に付けてたやつでねぇ」
あ、この残骸って私が作った『リディアがクラーケン形態になった時に、人型形態と同じくらいのサイズまで縮める』魔道具だ。リディアしか使う必要が無いから通称『リディア専用腕輪』って呼んでるやつ。 (第99話参照)
これを他人に譲ったってことは、リディア、変身制御できるようになったのかな?
いや、それよりも何でこんな粉々に粉砕するような壊れ方をしてるんだろう?
「それで何で壊れてるの?」
「壊してしまったのはすまないねぇ……腕に付けてる状態でトータス形態になったら身体が縮むと言われて試してみた結果だねぇ。確かに一瞬だけ小さくはなれたんだが、腕周りの膨張に耐えきれなくなって破裂するように壊れてしまってねぇ……すぐに元の大きささ」
リディア専用に調整したものだったから、アースの変身解除後の膨張には耐えられなかったってことか。
この魔道具の身体の縮小率は確かマイナス七十七パーセントくらいだったはず。
これを彼の身体に当てはめてみると、彼の体長が二十一.四五メートルらしいから (カイベル調べ)、七十七パーセントマイナスすると……四.九メートルくらいまで縮小されるのか。
元と比べれば大分小さくなるとは言え、この腕輪はリディアの細腕に合うように作ったから、この大きさじゃ壊れるはずだ。リディアは人型形態と縮小したクラーケン形態で腕 (触腕)の太さがあまり変わらないのに対して、アースの人型形態とトータス形態では腕の形状が大きく異なっているから。
「何とかワシの体型に合うものは作れないかね?」
この巨体で生活するのは大分不便だろうことは想像しなくても理解できる。
特に彼らは亜人と遜色ない思考回路で生きてるから、どこか壊したりすれば申し訳ないと思ったりもするのだろう。
野生で気ままに生きてる者なら良いが、彼の場合はこの壁の周りに住み着くように生活しているから、住民とのコミュニケーションを取りやすくする上でも、身体をもっと小さくしたいらしい。
「わかったわ! じゃあちょっと腕の幅とか大きさとか見させてもらうね」
う~ん……創成魔法で腕輪自体を体型に合うように伸縮できるように作れば可能かも。
「じゃあちょっと作ってくるから待ってて」
その場でも作れるが、一応作ってる“風”を装うため、一度我が家にゲートで帰る。
◇
試しに創成魔法で魔道具を作ってみる。
“縮小する機能部分”は『リディア専用腕輪』の時のノウハウがあるから、何となく感覚は掴めている。この部分はリディアの時同様【縮小魔法】を使う。問題はアースの特性により魔法が反射されないかどうかだが……カイベル曰く、甲羅に常時反射の魔法がかかってるって話だし、腕に取り付ければ多分問題無いだろう。
アースの体格を考え、縮小率はマイナス八十五パーセントまで引き上げ、人型形態になった時とトータス形態になった時の腕の形で二ヶ所の形状記憶ポイントを付与。これにより人型形態とトータス形態の腕の形の違いをカバーする。
アースの身体の大きさは二十一メートルなので、この腕輪を装備した時の彼は三.二メートルほどまで身体が縮小される。生活するには常識的な範囲の大きさだろう。
一応外敵に襲われることも想定して、少し大きめの縮小率にしてある。何と言っても彼は希少種のルガイアトータス。アルトレリアは比較的平和だが密猟者に狙われる可能性が無いとは言い切れないし。
以上のことを盛り込み腕輪型の魔道具を作ってみた。
しかし、作った腕輪の大きさが想定以上だった。
「こ……これはでかいな……二、三メートルくらいある?」
自分で作っておいてなんだけど、こんなでっかい腕輪見たことない! 巨人が付けるような腕輪だ!
「重さも大分重いわ……」
金属製の腕輪をイメージしていたため、かなりの重さがある。ここまで重いと引きずって持って行かなければならないし、取り付けるのは更に大変そうだ。
「もうちょっと軽さをイメージして、重量減らそう……持って行くだけで汗かきそうだ……」
と思って軽くしてみたが、そのままだと壊れやすそうなので、今度はここにクッション性を付与する。
「大きさ良し! 重さも良し! 耐久性も上がった! 腕輪自体の縮小実験も済んだ! よし! じゃあ早速これを持って行こう!」
◇
完成した魔道具、名付けて『アース専用腕輪』を持って、再びアースの下を訪れる。
「さっき私が『ちょっと待ってて』って言ったから同じ場所から微動だにしてないわ。かなり真面目な性格なのかも」
とは言え、甲羅に入って寝ているようだから、まずは起こさないといけない。
「アース! アース! 起きて!」
「おぉ……え~と……名前何だったか……ああ、そうだ! アルトラ! 魔道具は出来たのかい?」
「うん、作って来たよ! 甲羅から腕出してもらえる?」
魔道具を左腕に巻いてスイッチを入れる。
「おぉ……!?」
するとアースがどんどん小さくなっていく。
「あれ? アルトラ、随分大きくなったねぇ」
「私が大きくなったんじゃなくて、あなたが小さくなったのよ」
「おぉ、そういえば身体が随分軽い。元の大きさに戻るにはどうすれば良いんだい?」
「魔道具のスイッチを切れば元に戻るわ」
「この腕に着けた魔道具のスイッチかい? ………………う~ん」
右手で何かしようとしていたが、諦めたらしい。
「どうかした?」
「これはスイッチに届かないねぇ……自分では切れそうもない」
「え!? ホントに!?」
亀の姿では右手で左手のスイッチに届かないらしい。
かと言って、トータス形態から人型に変身する→スイッチを切る→トータス形態戻るとワンクッション入れると、万が一襲われた時に初動が遅れる。
「手軽にスイッチをオンオフするとか、そういうことはできないかい?」
希望した通りに調整してみる。
「これで出来てると良いんだけど……口に出してオフって言ってみて」
「オフ」
すると今度はアースがどんどん大きくなり、元の大きさに戻った。
「おぉ!? こりゃ良いねぇ。小さくなるにはどうすれば良いんだい?」
「オンって言えば良いはずよ」
「オン」
その言葉で再び小さくなった。
「おぉ! 良かった良かった! これで壁を壊すこともなくなるよ、ありがとうアルトラ」
「どういたしまして。あ、それとこれを私が作ったってことは他言無用でお願い」
「分かったよありがとう」
その後、小さい姿で第二壁の周囲を散歩する様が度々目撃され、小さくなって人型にならずに第二壁を通れるようになったためか、第二壁の内側を散歩している姿も目撃されるようになった。
機動力が上がって壁作りに興味を持ったらしく、壁作りを手伝うようになったとも。
今は第二壁周辺で時間を潰して満足しているが、いずれは他の高位種族同様、町に出てくるようになるかもしれない。
一つ問題は機動力が上がって、第二壁周辺に常に居るわけじゃなくなったため、どこに居るのか予想が付けられなくなったこと。また小さくなったために、目立たなくなって上空から発見することもできなくなった。
まあ用事がある時は、また向こうからお願いに来るでしょう。
投稿するのにエピソードが不足していると考え、今回予告していた投稿エピソードを変更しました。
身体が二十メートルもあったら、生活が大変でしょうね。
地球ならクジラが地上で生活しているようなもんですよね。甲羅だからもっともっと体重は重いでしょうけど。
次回は6月26日の20時から21時頃の投稿を予定しています。
第371話【各国の大使館建設始動】
次回は来週の月曜日投稿予定です。




