第363話 発電施設の予定変更
「あれ?」
樹の国での疑似太陽創成を終え、考えることも少なくなったから川を見に来たら、川の形が変わってるわ……
そういえば樹の国へ発つ数日前に、雷の国の電気技師ローレンスさんとの間でこんなやり取りがあったっけ。樹の国で色々あり過ぎて忘れてた。
◆
樹の国へ発つ数日前、アルトレリア役所にて――
『ローレンスさん、どういうことですか!? 川に発電機設置する計画だったんじゃ……?』
『その予定で進めていましたが、この中立地帯が開放されたとのことで、各国から注目を集めているじゃないですか』
『まだそれほど注目されてるとは思いませんけど……?』
『数千年、数万年、ずっと誰も入れなかった土地が開放されるのです、そこが開放されたとなれば、今後人口増加が予想されます。現在の町程度の人数であれば発電機設置程度の設備で良いと思っていましたが、よくよく考えてみると都市として成長していくのに小規模の発電機程度では賄えないであろうと判断したため、ダム建設を提案致しました』
『そんな大ごとなんですかね? 禁忌の土地ですから、私の考えでは長い間人が訪れないかもとまで考えているんですけど……』
『いえいえ! そんなことはありません! 前回七大国会談から三ヶ月、中立地帯が開放されることは我が国でも度々話題になっていましたから。新聞やラジオやテレビ、雑誌でも話題のネタにされてましたよ』
『そ、そうなんですか……?』
アルトレリアにいるとそんな実感は無い。
なにせ、まだ外国との繋がりが無いに等しいから情報が全く入ってきていない。
『今後を見越せば、発電機を複数台設置するより、ダムで発電するのが良いと考えます』
『しかし、ダムを建設となると、いかほどの金額になるんですか?』
『幸い、潤いの木の少し下流に利用できそうな台地があります。そこをダムとして作り変えます。盛り土も特別必要ではなく、事前にアルトラ殿が川を整備されていたので、それほどの金額にはならないと思います。試算しておきました』
見積書を見ると――
『え~とゼロがいち、じゅう、ひゃく、せん、まん、じゅうまん、ひゃくまん………………』
数えていくうちに、そのゼロの多さに顔から血の気が引いていくのを実感した……
『………………にっ、二十億エレノル!!!!?』(※)
(※二十億エレノル:空間魔法災害で第116話から少し価値が下がって1ウォル=1.11エレノル。1ウォルを日本円と同じくらいの価値としているため、現在のレートでは日本円でおよそ|十八億百八十万《1,801,800,000》円)
いやいやいやいやいやいやいやいや!! アルトラルサンズが国として認められたとは言え、こんな払えんよ!!
身体全体がガクガク震え、唇は更に震える、恐らく私の顔は今真っ青になっていることだろう……
戦いで死に瀕した時でも、こんなに震えたことはない!
『カカカカカカカカカイベル! これって適正なの!?』
『はい、適正どころかかなり格安、激安の金額です。凄く良心的なお値段設計です』
『ににに二十億が!? に、日本でダム作るとどれくらいなの!?』
『そうですね……規模にもよりますが、小規模のものでも百億円から二百億円と言われています。国土交通省が造るものですと数千億円に達するものも……』
『すうせんおくっっっ!!? この金額の何百倍!!?』
あ、甘く見ていた……発電施設を甘く見ていた……せいぜい数千万とか、高値になったとしても一億数千万とか、その程度だと思っていた……
このままだとただ単に試算させただけで帰らせてしまうことになる……折角時間を取ってもらって来てくれたのに……
「ははは発電機設置ならいくらくらくらくらいになるんですかかか?」
唇の震えが収まらない。
「そちらも試算してあります」
設置台数は一キロ間隔で一台設置で一台三千万……
「じゅっ、十五億っっ!!!? ここここっちもかなりの高額じゃないですか!」
「その金額でもこの町にある家屋の数の倍程度の電力しか賄えません。それに発電機の台数を増やすとなると、川の汚染が心配です。今後町の人数が五倍、十倍になると想定するとダムの方が良いのではないかと思います」
今の人数ですら発電機にすると十億超えてしまうのか……
じゃ、じゃあ工事してもらうのに以前使ったあの手は使えるかしら……?
『しし、資材全てを私が用意するとしたらどうなるでしょうか……?』
『………………言ってる意味が分かりませんが……用意するとはどういうことですか?』
『二十憶エレノル分もの資材を、私が個人で用意する』という部分が理解してもらえてないらしい。そりゃ当然か。普通なら個人で用意できる規模のものではないわけだし。
『言葉そのままの意味です。建設に必要な資材を全て私が用意します!』
『資材を!? 全てをですか!? どこから調達するのですか!?』
『な、何とかしますので……』
『か、仮に、仮に考えましょう! 仮にそれが出来るとするなら……人件費程度で済みますので、そうですね……川の基礎はできてますから工期一年と見積もって私たち四人だけでも五千万くらいでしょうか。作業員全員を考えると三億から四億くらいですかね。工事期間が縮まればもっと少なくて済みますが』
そ、それなら何とかなるかも!
何だかんだでうちの建設作業員は優秀だ! 特に掘削に関してはフレアハルトの功績により凄まじい早さで掘り進めることができる。 (第90話参照)
工期一年も、地球で言えばどう考えても早すぎるが、それは川を作った時同様、魔法技術で短縮できるのだろう。
機械技術に関してもドワーフさんたちのお蔭で、我が町でも職人が育ってきている。
私の現在の外貨の手持ちは約四千万エレノル。あと一千万ウォル相当の金銀財宝。
(この話は樹の国出発前なので二億ツリンを貰う前の話です)
アルトレリアの作業員にはイェン通貨で支払うから国の予算から出せるし。もう少しお金を刷ろう!
工期を一年以内に短縮できれば払えない額じゃない! いける! いける気がする!
『じゃあ、資材の調達は私がしますので、それでよろしくお願いします!』
『ええと……冗談ですよね?』
かなり疑ってかかられている。そりゃそうだ。こんな不透明な計画、普通に考えたら建設開始に踏み切れるわけがない。
が、一緒に聞いていたフィンツさんが助け舟を出してくれた。
『川作る時もその方法だったから、アルトラなら大丈夫だと思うぞ? 親方……ヘパイトスもその方法で納得して川作りを開始したし』
『ほ、本当に可能なのですか!? およそ二十億分の資材を!?』
『いけます!』
『わ、わかりました。他でもない兄弟子であるフィンツがそう言うなら信用致します』
ああ……ここからまた資材生産の日々が始まるのね……
でも、魔力多めに転生されてて良かった。魔力は金なり。
◇
などというやり取りだった。
今はこれに加えて、つい昨日樹の国で二億ツリン相当の謝礼金を貰った! 人件費はきっと大丈夫だ!
川の形が変わっていたのは、ダムを掘る前に川を止める必要があるから、潤いの木の枝を全部払って水量を減らし、上流で無理矢理曲げて川の方向を変えたらしい。私が樹の国に出張してる間にフレアハルトたちが頑張てくれたとか。
しかも今回は前回の川工事の時とは違って、みんなにレッドドラゴンであることがバレているため、ドラゴン形態で作業ができ、川の形もかなりの速度で変えることができたそうだ。
電気やダムに関する私の机上の空論ならぬ、想像の空論、どれくらい合ってるでしょうか?
『これは明らかにおかしい!』ってところがあったら指摘していただけるとありがたいです(^^)
次回は6月12日の20時から21時頃の投稿を予定しています。
第364話【新しい建設作業員】
次回は来週の月曜日投稿予定です。




