第35話 vs二匹目のカトブレパス
クリスティンが転送玉を投げつけたほぼ同時刻のアルトラ――
赤い狼煙……誰か対処が難しい魔物に遭遇しちゃったか。
ここからなら一分あれば着けるはず! カトブレパスは退治したはずだし一分あれば大丈夫でしょう。
「あれ? 身体が光ってる……」
これは……転送玉を使った時の魔力反応。転送玉を使うほどの強敵がいたってことか。
瞬間移動した。
呼んだのはルークとクリスティンのパーティーか。
ルークが石化してる! まさかカトブレパスはもう一匹いたの!?
ピシシッ!
転送された直後に背中に石化の魔力が当たった。
危な……あと一瞬遅れてたらクリスティンまで石化させられてた。
「アルトラ様!」
「クリスティンは無事みたいね!」
「ルークさんが私を庇って……」
「うん、それでアイツがいたから呼んだのね」
さっき倒したのより少し小さめね。さっきのがオスで、こっちはメスかな?
まさか番いで居たとは……空から探索したから私から見えないところにいたのか……
「大丈夫、任せて、すぐに終わるから」
次の魔眼が発動する前に後ろに回って首を切り落と……そうとしたが気付かれて避けられてしまった。
さっきのより小さい分、小回りが利くってことか。首の引きずり具合もまだマシに見える。
今私が攻撃を外したことで標的はクリスティンから私に変わった。
魔眼が発動する。が私には効かない。
カトブレパスは驚くこともなく、早々に突進攻撃に移行する。
この切り替えの早さは……もしかしたら一匹目を退治したところを見られていたのかもしれない。最初の魔眼は本当に効かないかどうかの試し撃ちってとこかな。
一匹目の突進より早いし、身体が小さいから僅かながら小回りが利く。私が避けるのも想定済みなのか、切り返すのも早い。
いつの間にか岩山を背にするように追い込まれていた。逃げ道を塞いでから突進しようという算段なのだろう。
ケルベロスより小さいとはいえ、突進攻撃ならカトブレパスの方が強いかもしれない。
が、多分問題無い、私の身体は超頑丈だから!
「よし来い! 受け止めてあげるわ!」
と言いながら筋力強化の魔法をかけておく。
カトブレパスが私に向けて突進してくる!
全身で受け止めるもしばらく押されて岩壁にめり込んだ。
「アルトラ様!」
クリスティンの叫び声が聞こえた。押し潰されるとでも思ったのかもしれない。
しかし、いつまで押しても潰れない私の身体に、カトブレパスの方も押し疲れたのか力が弱くなってきた。
突進力が緩和したタイミングで両腕に力を込めてカトブレパスを投げ飛ばした。
と同時にジャンプして追いかけ、地面に落ちたタイミングで首を切り落とした。
ふぅ……今回のやつは結構俊敏だった。
「ア、アルトラ様……ご無事でしたか……良かった……」
緊張の糸が切れたのか、クリスティンはそのまま気を失い倒れ込んでしまった。
「おっと」
倒れ込むクリスティンを急いで支える。
そっか、カトブレパスは二匹居たからヨントスは逃げきれなかったのね。きっと一匹目から逃げて二匹目に遭遇しちゃったんだ。
三匹目がいるとも限らないし、イチトス&メイフィー組は大丈夫かな?
三時間探しても見つからないし、一旦ここに集めるか。
これは本当に川底にいる可能性が出てきた……
幸いにも綺麗な川だから川の中にいるならすぐ見つかるかもしれないけど……
改めて疑似太陽を作っておいて良かったと思う。
真っ暗闇だと、川の中に沈んでいられたらいくら探しても見つからないだろう。
「とりあえずイチトスとメイフィーも呼ぼう」
青色の狼煙を上げる。
イチトスとメイフィーの二人が到着する前にルークの石化を解除しておこう。
クリスティンは起きるまでそのまま寝かせておいてあげるか。
あと、二匹目のカトブレパスも亜空間収納ポケットに仕舞う。牛肉二頭分ゲットだぜ!
◇
しばらくして全員が集まった。
ルークの石化は解除し、クリスティンも目が覚めた。
「捜索開始から大体三時間が経過したけど、何か手がかりになるようなものはあった?」
「何も出てきませんなぁ……」
「服の切れ端でも見つかればと思ったんですが、少し前の私たちはほぼ裸同然の格好であちこち歩き回ってましたし……」
ちょっと恥ずかしそうに話すクリスティン。
うむ! 恥じらいの感情が出てきたのは良いことだ!
「ここからは川の中を探索してみようと思う。でも、今日はもう暗くなってきたし一旦集落に戻って、明日仕切り直そっか」
「そうですな、これ以上暗くなると危険度も上がりますし」
「でもあなたたち、空が真っ暗な時からこんなに遠いところに来てたのよね?」
「松明に火を灯して移動してましたね。当時は当然のように思ってましたが、今考えるととてつもなく危険でしたね。まあ、私たちは夜目がある程度利くので、全く見えないことはないですが。頭悪かったので、恐怖心も少なかったんですかね?」
頭悪かったら恐怖心も少ない……そうなのかな?
それは多分種族的な気質な気がする。まあ頭が良くなれば思慮深さは出てくるだろうけど。
まあ……危機管理意識は頭良い人の方が強い気はする。
「じゃあ、今日のところは捜索終了とします」
ゲートを開きトロル集落へ繋げる。
集落前にはまだゴトス、ロクトス、ナナトスが待っていた。ニートスとサントスもいる。
「イチ兄貴、ヨントスは?」
サントスの問いにイチトスは無言で首を横に振る。
私が代わりに答える。
「川の流域にはいなかった。明日川底の捜索をしてみようと思う」
「そうですか……川の中から見つかれば良いのですが……」
石化していれば川の中にいても、多分死んでるということはないと思うけど……
問題なのは、川底の泥の中に埋まってたり、バラバラだったりすることだ……埋まってるのはまだ良いとして、バラバラだった場合はもう助けるのは絶望的になる。
くっ付けたらきちんと再生してくれるならバラバラでも問題無いのだが……壊れた断面が劣化していたりするとくっ付きもしないかもしれない。
「とりあえず今日のところは村に入りましょうか」
ゴトス、ロクトス、ナナトスに入村を促す。
様変わりしてから初めて村に入る三人。
「………………!?」
「おお! どういうことですかこれは!?」
「昨日と全然違う村みたいッスね!」
彼らにとっては石化前日は昨日のことだから、一夜で全く違う村になった感じに見えるだろう。
軽い浦島太郎状態だ。
「これどういうことッスか!? 今まで生きてきて村がこんなに綺麗になったことなかったッスよ!」
まだ建築中の家がそこかしこにあるのに、これが綺麗な状態なのかどうかは疑問だ。建築状態にしてしまったのは私に原因があるのだけれど…… (集落水没事件:第22話参照)
「今後どんどん発展させていくから期待してて!」
「うおぉーー凄いッス、アルトラ姐さん! 凄いッス!」
「さて、今日は牛が二匹も取れたし、牛肉パーティーと洒落込もう!」
私や他のみんながテンションを上げてる中、黙っている者が二人いた。
「アルトラ様!!」
「うわ、びっくりした! ゴトスどうしたの?」
「ヨン兄さんが見つからないのにパーティーをするなんてどうかしてます! イチ兄さん、ニー兄さん、サン兄さんとナナトスも!」
「…………どうせならヨンあにぃにも食べさせたい……」
「………………俺たちはお前たちがいなくなってから随分経ってたから少し感覚が麻痺していた、すまん」
「ゴト兄、ロク兄ごめんッス」
ゴトスたちにとってはヨントスと別れたのはついさっきのことだものね。
確かに気配りが足りてなかった……これは私が悪い。
「そうだったね……ごめん……牛肉パーティーは明日ヨントスを見つけてからにしようか、明日必ず見つけ出してあげるから」
「お願いします……」
「……お願いします……」
今日のところはパーティーは延期だ。
「リーヴァント、明日は川底の捜索になるだろうから、泳げる人をピックアップしておいてもらえるかな? ある程度危険を伴うからそれなりの能力のある人をお願い」
「はい! わかりました!」
人選を任せて、私は我が家へと帰宅した。
私は最初彼らのことを『人 (の亡者)を食べる』ってところから野蛮な種族だと思っていた。普通のモンスターと変わらないやつらかと。
でも、こうして過ごしてみて大分考えが変わった。この種族は家族や同族の絆が厚いのかなと。
あれ? ちょっと待って、カトブレパスが番いでいたってことは、もしかしたら子供もいるかも……
明日も転送玉の出番があるかもしれない。
一抹の不安を残しつつ、風呂入って床に就く。




