第352話 余暇と招集
「ロクトス、ナナトス、調子はどう?」
「アルトラ様! 悪くないッスよ」
「悪くないって……良くもないってこと?」
もう二回目の血の採取から二日経ってるのに?
まさか短期間に二回も続けて大量に血を採られたから回復するのが遅くなってる?
「まあ……あの後もう一回血を採られたんで、まだ多少ダルいんスよ」
「もう一回って、二回目の?」
「……いや、三回目だよ……」
「三回目!? あの後また採られたの!?」
「まあ俺っちたちの血で、毒で死ぬ者が少なくなるって言われると、なかなか断り辛いッスよね……」
たった五日の間に三回!?
「身体は大丈夫なの!?」
「まあ大丈夫ッスよ。もう大分気持ち悪いのも良くなってきてるッスし」
「それは……お疲れ様でした……とは言え、あなたたちのお蔭で死者が大幅に少なくなったと思う。ありがとう」
「ところで、何か女王蜂逃がしちゃったって、看護師さんの間でも騒ぎになってたッスけど大丈夫ッスか?」
「ああ、そのことなら大丈夫、もう解決したから」
もっとも……現在別の騒動の真っただ中だけど……まあこれもあの死骸が女王であると判明すれば終わるものでしょう。
「解決したって……どうやって解決したんスか?」
「女王倒してきたから、もう魔界の安全が脅かされることはないと思う」
「な~んだ、逃げたって言っても大したことじゃなかったんスね」
「いや、もし見つからなかったら亜人史は終わりを迎えてたってくらい大ごとだったよ」
「「 えっ!? 」」
「それ、物凄い大ごとじゃないッスか!! どうやって見つけたんスか!? この森って相当広いんスよね!? ここまで五日くらいかけて歩いてきたくらいッスし」
「私の直感かな。私が予想したところで女王が休んでたからそれを討伐した」
「直感!? 確かに前々から勘が良いとは思ってったッスけど……こんな広い森でもそれが働くんスか?」
「私から都合の良い話が出てきても『そういうものだ』と解釈して」
「それ久しぶりに聞いたッスね」
だってアルトレリア以外でそれ言うと絶対怪しまれるし、詰められるだろうし、理解してもらえないもの……
「……まあ、俺たちはアルトラ様を信頼してるから、秘密が有ろうと無かろうと詳しくは聞かないよ……」
「聞かない方が良いってケースもあるッスしね」
「ありがとうロクトス、ナナトス」
◇
持って来た死骸の鑑定結果が出るまで少しの間エルフヴィレッジに滞在することになった。
トリニアさん曰く、その間の食事や一切の費用は樹の国で負担してくれるらしい。
とある建物では怪我人の治療に医療従事者が、戦場の遺体回収へと遺体回収班が大慌てで走り回っている。
空間魔術師のジョアンニャさんとイルリースさんも、運搬係として駆り出されているらしい。
私も何か手伝うことはないかと聞いたところ、「あなたは我が軍所属ではないのでこれ以上の迷惑はかけられない。ゆっくり休息してくれ」と丁重に断られた。
同じくルイスさんも客人扱いということで、招集はされなかった。
一方のトリニアさんは、樹の国所属なので治療の方へ駆り出されている。
暇をしていたらエルフヴィレッジ内の見せられる範囲を見せてくれることになった。
耕作や畜産業など、農業関係が発達しているらしい。
ただ……期待していた魔道具や紋章術学関連については教えてもらえなかった。
◇
その日の業務明け、ティナリスの部屋に招かれた。
「ティナリス、脚の傷は大丈夫? 爆発喰らったって聞いたけど」
「大丈夫ですよ。ルフ形態だったので、ダメージ受けたところは相対的に軽微で済みました。毒もフリアマギア殿の配ってくれた解毒カプセルがあったので問題ありません。とは言え、人型形態で喰らってたら危なかったかもしれませんね」
その後、二十七年前に私が死んでから現在までのことを聞かされた。
「キノコ岩の上? へぇ~」
風の国は谷底から伸びた、通称:キノコ岩と言われるキノコに似た形の高い岩の上に建立された国らしい。
そのため上昇気流が吹きすさび、風が強い国となっているとか。その特徴に合わせて、有翼人種が多く住むそうだ。
岩と岩は吊り橋で繋がれていて、翼を持たない人々はそこを通って行き来をするらしい。なお、吊り橋とは言ってもきちんと頑強に作られているから、強風で大きく揺れることはないそうだ。
「ロープウェー? へぇ~」
風の国は高低差が激しいらしく、私が生きていた時代には無かったロープウェーが設置され、有翼人種以外の足として重用されているとか。
「大きい谷がある国なのに電車もあるの? へぇ~」
最近は風の国の外周にある断崖を登るように走る登山電車が開発されたとかで、途中何度も折り返しながら崖の上に到達するらしい。地球で言うところの箱根の登山鉄道やペルーの山岳地帯を走る列車ようなイメージかな?
崖の途中に駅がいくつもあり、用事がある者はそこで降りて、近くに掛かるつり橋から風の国へ入るとか
「えっ!? あなた子供いるの!?」
今回話してて一番驚いたこと……
私が地球にいる期間に結婚して子供がいることまで聞いた。娘はまだ雛鳥を脱したくらいの年齢だとか。雛鳥って言ってもルフの雛鳥って、私の朧気な記憶を辿ってみても、でかかった記憶があるんだよな~……
話のほとんどが娘に関することだった……「娘に『おばあ様』と呼ばせて良いですか?」と言われたので丁重に断った。流石にまだそんな年齢じゃない。
そして二日が経過。
◇
会議室への招集がかかった。
「さて、みんなに集まってもらったのは他でもない、アルトラ殿が持ち込んだ死骸の鑑定結果が出た」
みんな固唾を飲んで次の言葉を待つ。
「結論から言うと、女王と思われる個体と特殊個体との親子関係が認められた。つまり、亜人史滅亡の危機は回避されたということだ!」
「「「 おぉ~~~~!!! 」」」
「これで本当に脅威は去ったんですね!」
「今後は死の恐怖に怯えなくて済むってことだな!」
「これで安心して眠りに着くことができますね!」
駆除隊の隊長・副隊長を担うような精強な面々だが、それでも恐怖心はあるらしい。
みんなが喜んでいる中、マルクさんが話を進める。
「女王の討伐についてはアルトラ殿の功績なので、死骸の扱いに関してあなたに決定権がある。持ち帰りますか?」
「いえいえいえいえ!! そんな不気味なもの要りません!!」
「しかし、オークションにかければかなりの高額で売れるかと思いますが……」
高額で売れるって言ってもなぁ……胴体から真っ二つにしちゃったし、そんな大した値段になるとは思えない……完全な状態であれば持って行くのもありだが……あと虫の割には体液が多いからあまり触りたくない。巨大だから多いのかしら?
何より面倒くさい。出品する手間だってあるし、処分はお任せしてしまった方が楽かも。
「押し付けるようで悪いですが、マルクさんの方で処分していただけるとありがたいです。どのように扱っても構いません。売るのでも構いませんし、焼却処分してもらっても構いません。それによって利益が出た場合もとやかく言いません」
「そうですか。ではこちらで処分致します」
一応話はまとまった。
「みんな、これまでご苦労だった! 任務が終わり次第、駆除隊の解体しようと思う。早く国へ帰りたい者も居ると思うが、明日今回の作戦で戦死した者たちの弔いを行う。それまではこの町で待機していてくれ」
アルトラの知らないところで、三回目の血抜きを行われてたロクトスとナナトス……
もちろん同意の上ですよ!(笑)
次回は5月12日の20時から21時頃の投稿を予定しています。
第353話【約定魔法の誓約と戦死者の弔い】
次回は明日投稿予定です。




