第33話 四男捜索班編成
三人とも一応納得して【空間転移門】を通過。
トロル集落の入り口に着いた。
「………………!?」
「えっ!? ここは……村の入り口ッスか!?」
「驚いた……本当に一歩で村に来れるとは……」
三人とも信じられないという表情でキョロキョロと辺りを見回す。
集落の外にいる見張り番が三人に気付いた。
「おい! あれって随分前に水汲みに行った切り行方不明になってたゴトスたちじゃないか?」
「ホントだ! おーい!」
見張り番が近寄ってくる。
「アルトラ様もご一緒でしたか」
「うん、今後の計画のために川へ様子を見に行ったらこの三人がいたから連れてきた」
「お前たち今までどこへ行ってたんだ? 随分長い間いなくなっていたが……」
「それが……」
「あまり覚えてないんスよね……」
「………………」
「長い間いなくなってたという感覚もありません、我々の感覚では昨日川へ行って帰って来ただけというか……」
三人に聞いたところで何もわからないと思ったのか、私に聞いてきた。
「アルトラ様、どこで彼らを見つけたんですか?」
「川の流域で石化してたからそれを解いて連れてきたのよ」
「石化!? 生物が石になるということですか!? どういうことですか!? 何があったらそんなことに!?」
やっぱりカトブレパスのことは知らなかったみたいね。遭遇してしまったこの三人の運が悪いのか、これ以降に水汲みに行っても遭遇せずに済んでいた他のトロルたちの運が良いのか。
「対象を見ただけで石化させる魔物がいたから退治しておいたよ」
「なんと! そんな危険な魔物がいるのですか!? それは村中に周知しておかないと!」
「私が見た限りには周りに二匹目はいなかったから、多分どこかから来たはぐれモンスターじゃないかと思う」
「それはお疲れ様でした。村の脅威を事前に取り去っていただきありがとうございます!」
見張り番がゴトスたちに向き直って聞く。
「ところで……三人しかいないようだが……? ヨントスは一緒じゃないのか?」
「ヨン兄、やっぱり村に帰ってないんスか?」
「もし私たちが石化してたと言うなら、ヨン兄さんも逃げてる最中に石にされたのかもしれませんね」
ゴトスは私と同じ考えか。
ヨントス自身、村の場所はわかっているはずだから、長い間ここに戻ってこないとなるとそれ以外考えにくい。
「川の流域は広いし、見つけるのは難しいかもな。それにもし石化したまま川に沈んでたりでもしたらもう絶望的になる」
「ヨン兄さん……」
「……ヨンあにぃ……」
「ヨン兄……」
三人は悲嘆に暮れている。
しかし、私は石化して水に沈んでいても生きてるって漫画を見てきているから絶望的とは思わない。
むしろこの三人が呼吸も止まってるはずの石の状態から生還しているのだから、頭や内臓などの重要部分が破損していなければ生きている可能性はかなり高い。
しかし、彼らそんな可能性など知る由もないから、すでにお通夜ムードだ。
仕方ない、また私が一肌脱ぐか。
「じゃあ私が探しに行ってくるよ」
「では捜索隊を編成いたしましょう」
「いや、大丈夫。空飛べる私が行った方が早く見つけられるかもしれないしね」
「しかしお一人で探しに行くのですか? 川は長いですからお一人ではどれほどの時間がかかるか……」
う~ん……確かに。川の流域を私一人で探そうとするのは無謀か。
それに全部一人でやってしまってはダメか、彼らのことを信用していないことになる。
「わかった、捜索隊の編成をお願いできる? 何が居るか分からないし、出来れば探索とある程度の戦闘に慣れたヒトをお願い。あと水の中の捜索になる可能性があるから泳げるのも条件で」
「わかりました」
◇
捜索隊に志願してくれたのは、まず捜索対象ヨントスの長兄イチトス、そして、私にとっては初顔合わせのルーク、メイフィー、クリスティンという若者三人。
意外なことに、四人中二人が女の子だ。
「よろしくお願いね。みんな魔法は使えるようになってる?」
聞くところによると、頭良くなる前から魔法を使ってた者が少ないものの存在していたらしく、今回知性を引き上げたことでその要領を掴んだ者が多かったらしい。
「「「はい!」」」
「一応どういった役割なのか聞いておこうかな。まずイチトスは……まあ肉弾戦タイプよね、その筋肉」
「はい! 弟の捜索をしていただきありがとうございます!」
「使える魔法系統は?」
「はい! あまり得意ではないですが火魔法を少々」
見た目通り暑苦しいな。
「次の人自己紹介お願い」
「初めてお話させていただきます、ルークと申します。鍛えているのである程度の攻撃には耐えられると思います! もし魔物に遭遇した時には近接戦闘を請け負うのでサポートをお願いします。僕も魔法はあまり得意ではないですが土魔法を少し使えます」
剣と盾を装備している。真新しさから判断するに、きっとここ数日で作ったものだろう。でも両方とも木で出来ているからあまりアテには出来ないかな。この集落にはまだ金属製のものが無い。今後防衛のことも考えると金属製の武具は必要かな。
ルークはイチトスに比べたら若い。身体はまだ出来上がってなくて少し頼りないが……そもそもこの集落にはあまり年を取ったトロルがいない。
多分、私が火山を冷やす前が過酷な状況だったから、年寄りや子供が少ないんだと思う。イチトスは多分二十代後半くらいの年。全体含めても多分五十代くらいのトロルが最年長、しかも数は極端に少ない。
年齢分布を図にすると多分ダイヤみたいな形になると思う。
さて、次は可愛らしい見た目の女の子二人。
どう見ても彼女らより幼く見える私が「可愛らしい」というのもおかしいかもしれないけど……まあ、私こう見えて二十七歳だしね!
「メイフィー、弓は部族内で一番上手です! 魔物の探知ができます。風魔法と樹魔法を少しだけ使えます」
いきなり探してた樹魔術師キタ!
弓については、ルークの剣同様知性を上げた後から狩りに使われるようになったらしい。つまりまだ弓を使いだして十日ほどしか経っていない。その中では現状彼女が一番上手いらしい。
と言うか、天性の才能でもあったのか、止まってる獲物ならほぼ当てられるような腕前。
「お初にお目にかかります、クリスティンです。最近修行を始めたばかりですが回復魔法と攻撃魔法が少しだけできます。水魔法と闇魔法、それと光魔法を少しだけ使えます」
こっちは光魔法か。どちらも魔界では珍しい系統なのに。
メイフィーは弓矢とミニスカートスタイル、クリスティンは杖とメイフィーより少し長いスカートか。
古来より杖は魔力の増幅に一役買ってる、と色んなファンタジーには書かれている。彼女は肉体を動かすより、魔法を使うタイプの方が適正があるようだ。
人間で見立てると、ルーク含め三人とも多分十代後半かな。十七から十九歳ってところだろう。
全員、この間までアホみたいな顔してたとは思えないくらい端整な顔立ちになった。
得意な魔法属性については、知性が上がってから身に着いたそうだ。と言うか知性が低い時には自身に魔法の素養があることに気付いていなかった者がほとんど。
この間まで知性も低かったし、みんなまだまだ能力的な期待はしない方が良いかな。捜索を主にお願いしよう。
まあ、魔法使えるようになったばかりの私が言うのもなんだけど、私は既に前々世が魔王だと判明しているから、ちょっと嫌味な言い方になってしまうが、彼らとは一線を画していると自負している。
それにこの強靭な肉体があるからダメージを負う可能性も少ないしね。
できることなら怪我無く捜索も成功させたいのである。
「では、いざ出発!」
空間魔法で川の流域へのゲートを開く。
ゲートをくぐる前に、ゴトスたちに声をかける。
「あなたたちは疲れているだろうから村に入って休んでいて」
「見つかるまで、いやせめてアルトラさんたちが帰って来るまではここにいます」
「そう、わかった。じゃあ行ってくるね」
ゲートを通って川の流域に戻って来た。
カトブレパスの動きは遅いし、追われて逃げたとしても近くに石化してないとおかしい。
三人が居た辺りを重点的に探そう。そんなに遠くにはいってないはずだ。
「じゃあ捜索を始めます。ヨントスらしき石像を見つけたら、これを使って知らせて」
四人に緑色の煙の出る狼煙を渡した。
こんなこともあろうかと捜索隊を編成してもらってる間に作っておいた。
「どうやって使うのですか?」
「さっき魔力系統を聞いたけど、みんな何らかの魔力は使えるんでしょ?」
「はい」
「魔力を流すだけで緑色の煙が出るから、使ったらその場を動かないで、私がそこへ向かうから。あと、この三つも渡しておく」
赤色の煙の出る狼煙と白い玉の形をした『閃光玉』、黒い玉の形をした『転送玉』を渡した。
「それは三つとも自分の身に危険が迫ってる時に使って。白い方は危ないと思う前に使うと、数秒光り輝いて相手の目を眩ませられるから逃げる時間を稼げると思う。使う瞬間は目をつぶってすぐさま後ろを向いて逃げてね。赤い方は白い方を使った後に場所を知らせるためのもの。危険信号の赤い煙が出るからすぐに私が助けに行く。黒いのはもう今まさに命の危険に瀕してるって時に使って。一瞬でその場所まで私が助けに行くための転送魔道具だから」
全員何だかポカンとして聞いている。多分黒い転送玉のことを考えてるんだろう。
「申し訳ありません、黒い玉の使い方がよくわからないのですが……」
イチトスが質問してくる。
こんなこともあろうかと、説明用に二つ作っておいた。
「じゃあ、もう一つ予備を作ってあるから実際に使ってみるね。イチトス、私が投げてって言ったらこれに魔力を流してから前に向かって投げつけて。魔力の流し方は分かる?」
「はい」
「私はちょっと離れたところへ移動するから」
「はぁ……」
わけがわからないという困惑した表情をしている。
私は少し離れたところに移動。
「じゃあ投げてみて」
イチトスが魔力を込めて転送玉を投げた。
その約一秒後に私は元居た場所から、転送玉を投げられた場所へ瞬間移動。
「「「「おお!?」」」」
全員から驚きの声が上がる。
「こういった具合に、魔力を込めて投げてもらえれば瞬時に助けに行けるから」
「凄いアイテムですね!」
「なお、あまりポンポン呼び出されても良い気分はしないから、余った転送玉は今日が終わった時点で無効化されるように作ってあります」
「ええーー! それは残念ですぅ……」
メイフィーがことさら残念がる。
いつ使おうと思ってたの? これここ以外に使う場面ある?
「最後に、集合の合図には青色の煙を使おうと思う。青い煙が見えた時には一度青色の狼煙の地点に集まるようお願い」
「「「「わかりました」」」」
これで準備は整ったかな。
「じゃあ、パーティー分けをします。耐久力のありそうなイチトスとルークは分けたいから、イチトスとメイフィー、ルークとクリスティンでパーティーを組んで二人一組で捜索をお願い。じゃあみんな何とかヨントスを見つけましょう!」
「「「「はい!」」」」
イチトスとメイフィー、ルークとクリスティン、そして私一人の三パーティーに分かれて探索を開始した。
以前リーヴァントが狼より強いって言ってたブタもこの流域にいたけど、二人一組ならまあ大丈夫でしょう。
◇
「見つからない……」
体感時間で三時間ほど探したがヨントスは見つけられない。
少しの間その場に佇んでいると、少し離れたところで赤い狼煙が上がった!
「赤……ってことは緊急の狼煙か!」
認識した瞬間に狼煙が上がった方向へ駆け出す。
『牛』という生物を見たことがあるかどうかわからなかったため、私からは『頭を引きずって、一つ目で、ツノがある生物』は危険だから、すぐ呼ぶようにと言っておいた。
そして、彼らは、私が想定していなかった二匹目のカトブレパスを見つけてしまったために赤い狼煙を打ち上げたのだろう。




