第340話 最終的な作戦会議
その夜、隊長ではないものの特別枠として、私とルイスさんも最後の作戦会議に呼ばれた。
八部隊、十六団体の隊長と副隊長、樹の国の指揮官マルク氏、代表トリニアさん、風の国代表兼駆除第二部隊隊長のティナリス、作戦開始の要点を担うアラクネ族の戦士長アラーネア、獣人族の代表レオシリル、当事者であるエルフヴィレッジの族長シルヴァンさんが勢ぞろいする。
部隊の隊長を務めるのは、
第一部隊:樹の国 竜種ユグドドラゴン族のウォライト
第二部隊:風の国 怪鳥種ルフ族のティナリス
第三部隊:樹の国 魔人種バルバトス族のクラウディオ
第四部隊:風の国 怪鳥種ガルダ族セシーリア
第五部隊:樹の国 竜人種ドラゴニュート族のアランドラ
第六部隊: 〃 亜人種エルフ族のフリアマギア
第七部隊: 〃 土の精霊種ソリッドノーム族のベオバルツ
第八部隊:風の国 鳥人種ヘルヘヴン族のルーコス
総指揮官:樹の国 木の精霊種トレント族のマルク
まあ、今後関わる可能性は低いだろうから、この場だけで無理に覚えておかなくても良いだろう。
副隊長については割愛。
この中ではティナリスと、私が所属するアランドラ隊長くらいを覚えておけば良いかな。他はまた会った時に思い出せば良い。
この八部隊の中で、他五部隊の隊長より明らかに実力があるであろう隊長が三人いる。
第一部隊から第三部隊の隊長の三人。
第二部隊のティナリスについては風の国の最高戦力なので言わずもがなだが、第一、第三の隊長はトリニアさんの話によると、ユグドラシル近辺を守護するユグドドラゴンという種族のウォライト、それと国に仕える魔人種バルバトス族のクラウディオ。特にクラウディオは多数の敵相手に効果的な能力を持つということで、集団で飛んでくる蜂には最適。
この樹の国の守護志士の中では、これに加えて大佐である木の精霊マルク、この四人が突出して力があるらしい。
大佐なんだから、それより上の少将やら中将やら大将やらの方が力が上なんじゃないかと思うかもしれないが、少将以上になると指揮が主になって、現場を離れるから実質大佐辺りの階級が戦力的にピークなんだとか。
議長である守護志士の大佐マルクが会議の開始を口にする。
「作戦決行前の最後の会議を始めます。その前に――」
第五部隊を見て、
「――トリニア殿は国の代表なので良いとして、そちらのお二人は? 男性の方は確か水の国のルイス殿ですよね? 女王レヴィアタン陛下に帯同しているのをお見かけした覚えがあります」
「これはどうも……」
「ルイス殿には後方支援として作戦に参加いただきます」
「それで……一番気になるのは第五部隊に所属しているそちらの見知らぬお嬢さんなんだが、アランドラ、なぜ作戦会議に彼女が出席しているんだ?」
「この方ほど、駆除作戦に適任の方はいません。この方は――」
詳細は以前の話と被るので割愛するが、アランドラ部隊長が私の紹介をしてくれた。
◇
「鋼のような身体?」
「ブルードラゴンを単独で倒した?」
「本当ですか?」
「その細腕で?」
毎回そうだが、私の体質のことを含めて信じ込ませるのに難儀する。
「では納得せざるを得ない根拠をお見せいたします。アルトラ殿、例のヤツよろしいですか?」
「え? 例のヤツ? ……ああ、はい」
そして、通算三度目となる私の身体への斬撃パフォーマンス。
◇
少々場がざわついたが、一応全員が納得して会議が再開。
驚愕する者も多かったが、全員隊長・副隊長というだけあり、無闇やたらに騒ぐ者はいなかった。
「この体質については、ここだけの秘密にということでお願いします」
分身体については、第五部隊だけが知ってれば良いことだから伏せておこう。また驚かれるのも面倒だ。
「不思議な身体ですね。後で調べさせてもらえませんか?」
都市エルフらしきフリアマギア部隊長に声をかけられたが、
「あ、ああ……ご、ご遠慮願います……」
とだけ答えて、その場は終わった。
「さて、多少脱線してしまいましたが本題に移ります。ここよりマルク殿に変わって、わたくしが作戦の説明を致します」
議長のマルクに代わり、エルフのフリアマギアが作戦の概要を説明してくれる。
作戦の概要については、第五部隊で行った作戦会議とほぼ同じ。 (詳しくは第339話参照)
「ちょっと良いでしょうか? 部隊別作戦会議で、作戦開始ポイントまで向かうのに時間がかかり過ぎるという議題が出ました。そこで、現在この町には空間魔術師が三人いるので、彼らに輸送してもらってはどうかという話になったのですが、いかがでしょうか?」
第五部隊の会議で出た議題の話をするアランドラ部隊長。
「それは難しいだろうな。デスキラービーが巣を作ってるのは、今まで我々には明かされてなかったエルフの隠し渓谷で、この場にいる者の中では族長のシルヴァン殿以外誰も入ったことがない。つまり誰もその地形を知らないのだ。当然空間転移座標は取得はできていないから輸送することができない」
それもそうだ。エルフ以外には隠されていた場所なのだから、誰もその地形を知る者はいない。
空間転移魔法の特徴に、『その場所に実際に行ったことがないと転移することができない』という制限がある。これは自分の残滓を辿るというこの魔法の特徴からそうなっている。 (詳しい仕組みは第306話参照)
「今までの話では、岩や岩壁は登り降りして進むということになってましたが、なるほど、空間魔術師ですか……空間転移座標を得られれば、今までの作戦より大幅な時間短縮が可能になるのですが……」
「「「 う~ん 」」」
……
…………
………………
しばらくの沈黙。
「そうだ! イルリース殿にお願いしてはどうですか? 彼女ならセイレーン族で空を飛べるから空からの空間転移座標の取得が可能では?」
「わ、わたくしですか!?」
イルリースと呼ばれた女性は、どうやら風の国の空間魔術師らしい。羽が生えているため今ここにいる空間魔術師の中で (私を除いて)唯一、空中からエルフの隠し渓谷の空間転移座標を取得できる可能性を持った人物。
突然意図しない指名をされて恐怖がこみ上げたのか、一瞬で血の気が無くなり、冷や汗が滲み出、全身がブルブル震え始めた。
「イルリース殿に空間転移座標を取得してもらえば、集団を輸送できて作戦がスムースに進みますね!」
「お、お待ちください! いくら空を飛べるとは言っても、蜂の巣の上空を飛ばなければならないのは危険過ぎます! イルリースは非戦闘員です! 彼女はデスキラービーの針に耐えられるような体力を持ちません! 一撃でも喰らえばその時点で終わりです!」
風の国代表のティナリスが彼女を庇うように異議を唱える。
確かに細身の彼女では、毒針を喰らったらひとたまりもないかもしれない。見るからに非戦闘員の彼女は前線で戦うより後方支援向きだろう。
それに、滅多に生まれない貴重な空間魔術師をこんな命懸けの任務に就かせるのは馬鹿げている。
仕方ない、ここは私が行こうか。
と、手を上げかけたその時、私より先にトリニアさんの手が上がった。
「あの~……アルトラ様も空間魔術師ですけど……」
「「「 えっ!? 」」」
「本当ですか!?」
「え、ええまあ……」
「しかも、この方は空も飛べます」
「「「 えぇっ!? 」」」
「本当ですか!?」
会議に出席していた者たちの視線が、一斉に私に集まる。
「……うっ……」
会議場にいる全員に一斉に見られたことで、少し腰が引けてしまった。
確かに私なら
・空間魔法が使える
・空が飛べる
・おまけにデスキラービーの針すら通らないであろう鋼鉄のごとき身体
必要な部分、危機管理部分、全てをクリアしている。
しかも、作戦会議開始直後の斬撃パフォーマンスで、その高い防御力を印象付けてしまっている。
空間転移座標を得るにも打ってつけ。
仮に上空で偵察蜂に攻撃されても、ノーダメージで帰って来られる可能性が高い。
「それなら空間転移座標の取得はアルトラ殿にやってもらうのが良いのでは?」
「確かにアランドラ殿が言う通り、この駆除作戦で彼女以上に適した者はいないかもしれないな!」
今日の昼間の第五部隊の会議で、『こんな見た目でもここに居て邪魔にならない』程度のことを示したつもりだったのが、この転生した身体があまりに特殊な造りをし過ぎていて、私の役割があれよあれよと作戦の中心に寄って行く……
そして議長のマルクに“正式に”持ち掛けられる。
「ではアルトラ殿、空間転移座標の取得、お願いできますか?」
まあ、最初は自分一人で駆除に行こうとしていたのだから、この程度のお役目なら断るべくもないか。
「分かりました」
私が了承した瞬間、風の国のイルリースさんが安堵のため息を漏らした。
「元々この国の兵士でもないあなたに押し付けるようで心苦しいが、よろしくお願いします」
突然会議に出席した謎の人物を信用するのもどうかと思うが、まあこちらも手の内 (私の耐久性とか)をある程度明かしているので、それなりに信用に足ると判断されたんだろう。
それに、未だかつて前例が無いコロニー九個もの異常事態だから、使える者は使いたいのかもしれない。
私が了承すると、今度は別の話に移行した。
「質問でーす! 蜂蜜とか幼虫とか死骸はどうするんですか?」
「戦利品のことですか? 各々の部隊が担当する巣からならご自由に持って行ってください。分割方法もその部隊にお任せします」
蜂蜜は分かるとして、幼虫や死骸も戦利品?
「トリニアさん、幼虫をどうするんですか?」
「栄養価が高いので、多くは食用にされます。幼虫でも二十センチや三十センチくらいで、それなりの大きさがあるので、食べるとプリッとしてて美味しいですよ。刺身やボイルも良いですが、フライにすると更に美味しくなります! 次期女王候補として育てられてる幼虫は特に美味しいので市場に流れると高値が付きます!」
「へ、へぇ~……」
え、海老みたいな食感なのかな……?
「それ以外では研究機関で成虫に育てて、実験サンプルにされたり、駆除方法を模索したり、遺伝子の組み換えで毒性を薄くしたり、針を発射できなくする研究をしていると聞いたことがあります。流石に危険ですので、個人的に育てる者はいないとは思いますが」
「女王が死んだら働き蜂は死ぬって聞きましたけど、幼虫は生き残るんですか?」 (生態については第333話参照)
「いえ、成虫ともども死にますよ。ただ、その死ぬ原理も最近解明されてきていて、女王からの魔力の相互供給が途絶えるからということが分かってきています。ですので無理矢理生存させるなら、定期的に魔力を供給してやれば生存させること自体は可能というわけですね」
この虫も魔力食いなのか?
外部からの栄養だけではダメってことはフレアハルトたちのように『魔力だけ食ってれば生きていける』、『食べ物だけ食ってれば生きていける』みたいな片側だけ供給しててもダメってことなのか。
「なるほど……じゃあ死骸の用途は?」
「色々な用途に使われますね。獣避けとして砕いて畑周りに撒いたりとか。危険生物なので獣たちもそれを分かっているのか、死骸を砕いて撒くと近寄って来なくなります」
害を与えるだけの存在かと思いきや、役にも立ってるのね。
「コレクションする好事家もいますね。危険生物なので蒐集欲が刺激されるのかもしれません。特に女王は綺麗な状態なら高値で取引され、卵持ちとなると、とある界隈では億を下らないとか。中には状態次第では十億エレノルを超えるような額で落札するような物好きも居るそうですよ。『デスキラービー発生しろ!』なんていう不謹慎な輩もいるぐらいで……」
「虫に十憶!?」
すっげえぇぇ!!
それは『発生しろ!』って言いたくもな……らないわ、流石に……
私、虫が特別好きってわけではないし、発生したら死人も出るのに不謹慎過ぎる……
「他は精力剤の原料になったり、物好きはそのまま食べたりしますよ。もっとも……食用とするには外殻が硬すぎてほとんどの亜人は避けますが、『しかしそれが良い』という物好きな亜人も中には存在します」
『暴食』の大罪の私が言えたことじゃないけど、悪食だなぁ……
「ん? エレノル? 樹の国の通貨はツリンですよね? オークションは樹の国で行われるわけではないんですか?」
「巨額オークションは雷の国で行われることが多いんです。大きい繁華街があるのでそれに連れて発展していったというか」
「へぇ~、そうなんですね」
トリニアさんとしゃべってる間に会議が締めに入っていた。
「それでは作戦会議を締めたいと思いますが、渓谷への立ち入りには許可いただけますね、シルヴァン殿?」
「本当は他種族を入れたくはないのだが……巣を作られた場所が場所だけにやむを得んだろう……」
「よし! では作戦決行は本日の二十一時。そこから時間をかけてトラップを仕込み、作戦の開始はデスキラービーが起きる前の四時、各コロニーへのゴーレム突入を作戦の開始の合図とする! アルトラ殿にはすぐにでも空間転移座標の取得をお願いします」
「あ、はい」
「ではこれにて作戦会議は終了とする!」
部隊長の名前考えるのが大変で普段より投稿が遅くなってしまいました。
名前出さないで行こうかとも思いましたが、一応形式的に出さないとおかしいかなと思って設定しました。
アルトラが言うように『無理に覚えておかなくても良い』と思います。次に彼らに触れる時はまた一から説明するので。
キャラの名前考えるのが一番難しいですね……
それにしても十億の虫の標本……勿体ねぇ~~!!(笑)
虫好きな人はまた別の考えになるのでしょうけど。
次回は4月24日の20時から21時頃の投稿を予定しています。
第341話【空間転移座標の取得と強制転移魔法の伝授】
次回は来週の月曜日投稿予定です。




