第337話 第五部隊の作戦会議でのいざこざ その1
部隊に組み込まれたということで、第五部隊の作戦会議に出席。
「これより第五部隊会議を始める!――」
開始の宣言をしたのは第五部隊の隊長『アランドラ』。
『ドラゴニュート』という竜人族の一種だそうだ。筋力は獣人を超えてさらに強く、強い魔力も持っているため強力な魔法も使え、おまけに火まで吐ける。多くの獣人の上位互換とも呼べる存在。その上で身体の各所が竜鱗に覆われているため防御力も高い。まあ……樹の国で炎は厳禁なので火を吐いたことはないようだけど。
人型にもなれるらしく普段は亜人に似た姿で生活している。もう知性のある竜族は全部人型になれると考えて良いかもしれない。
しかし、荒くれものをまとめる隊長という役柄の割には、隊員以外には物腰が柔らかく、丁寧な話し方をする。
「――と、その前に、トリニア殿、あなたが会議に参加するのはまだ分かるとして、そちらの子供はどういった関係でここに座っているのですか?」
子供って私のことか?
子供とまで (年齢を)下に見られたのは初めてかもしれん……
「この方は新興国アルトラルサンズの国主様で、樹の国の大事なお客様です」
「国主!? その若さで!? その方がなぜ会議に出席しているのですか?」
「この方はお強いので戦力としてお手伝いいただけないかとお願いしました」
「はぁ……」
アランドラ隊長に上から下まで見られた……
「それは本当ですか?」
「この方がいるといないのでは、死傷者の数が変わってくると思います」
それはちょっと持ち上げすぎじゃない?
「そこまで重要な方なのですか!? し、失礼ながら、その根拠をお示しいただきたい! 私にはどう見ても子供のようにしか見えません」
「アルトラ様! アレです! アレをやって、ここにアルトラ様が無くてはならないということを示しましょう!」
アレ? どれ……?
「ど、どれのこと?」
「腕に剣を叩きつけたアレです!」
あ、ああ、樹の国出発前に私の頑丈さを披露したアレか。 (第305話参照)
私としては、それほど誇示しなくても良いのだけど……『こんな見た目でもここに居て邪魔にならない』ってことくらいは示しておいた方が良いか。
「実は私、こう見えて身体が鋼のように硬いのでデスキラービーの針も通らないと思うんです」
と、この場に居る全員に向けて発言したところ、少しの沈黙後――
「何言ってんだ、あの子?」
「身体が鋼のように硬い? 何かの比喩表現か?」
「デスキラービーの針が効かないんだってよ」
「そりゃ頼もしいな、ワハハハハ!」
第五部隊員たちはこれを茶化すような発言。
まあ……こんな話到底信じるはずもなく……
「分かりました。では皆さんに証拠をお見せします。隊長さん、剣を貸してもらえますか? 出来れば使い古しているものが良いです」
「構いませんが……一体何に使うつもりですか?」
「じゃあ――」
トリニアさんに近寄って剣を差し出す。
「――トリニアさん、剣で斬る役やってもらえますか?」
「え!? わたくしですか!?」
「ええ、この中で私の体質知ってるのはあなただけなので」
「か、構いませんが……わたくしがやって皆が納得するでしょうか?」
確かに……細腕のトリニアさんがやったところで、もしかしたら納得してもらえないかもしれない。
が、突然この場に居る兵士に『あなた、私の身体を剣で斬ってください!』なんて言ったところで、了承するわけがない。
納得してもらえても、もらえなくても、トリニアさんのワンクッションを入れる必要がある。これで納得してもらえれば、そのまま話を進められるし。
「何を相談しているのか分かりませんが、その剣を使って何をするのか、早く披露してください」
隊長さんに急かされる。
「トリニアさん、身体のどこでも良いのでその剣で斬りつけてください」
「け、剣を持つのは初めてなので上手くできないかもしれませんが」
「まあ振り上げて叩きつけるだけですので」
相談が終わって、隊員たちが居る方向へ向き直る。
「お待たせいたしました。では皆さん、彼女の持っている剣で、私の身体のどこかを斬ってもらいます」
『剣で身体を斬る』と言ったため、場が少しだけザワザワし出す。
「は? 何言ってるんだあの子」
「剣で斬るだって?」
「トリニア殿がやるのか?」
私はトリニアさんに背を向けて腕を水平に広げて直立不動を保つ。
「いつでもどうぞ」
「ではいきますよ? エーーイ!!」
と叫びながら背後から肩と首の間に剣を打ち下ろす。
ガギンという金属音。
「剣って思ったより重いですね。手が砕けてしまいました」
場がシンと静まり返り、トリニアさんの言葉だけが透き通るように聞こえた。
突然の『人体に対して剣を振り下ろす』というパフォーマンスにドン引きされたのかもしれない。
しかし、少しの沈黙があった後に、兵士たちが煽り立てる。
「おお~、すげぇ~、剣を振り下ろされて無傷だなんて」
「さっき示し合わせてるように見えたし、トリックじゃないのか?」
「それに金属音みたいな変な音したぞ? 生物の身体斬ってもあんな音しないだろ」
「流石にこんなトリックを見せられて部隊に組み込むのも……デスキラービー相手だぞ? 自殺を手助けするようなもんだ」
「そうだそうだ~、俺たちはトリックじゃ騙さないぞ!」
まあ、こういう反応が来ることは想定してたよ……
「た、隊長さんはいかがでしょうか?」
場の雰囲気が否定的なのを受けて、トリニアさんが隊長さんにそう訊ねるも難しい顔。
「トリニア殿、申し訳ないのですがお二人の間だけで了承済みの話でしたので、示し合わせてトリックを使ったのか使っていないのか我々には判断のしようがありません。ですのでトリックではないと判明しない以上は隊に組み込むわけにはいきません。お遊びで隊に組み込んで、命を落とされでもすれば、こちらとしても堪りませんから」
「そんな……」
まあ駆除隊に加えられないならそれでも良い。元々私とはそれほど関係無い地域の話だ。
が……私が加わることによって死者の数が少なくなるなら加わった方が良いのは明白。少なくとも『頑丈である』という一点だけ見てもデスキラービーに対抗できる能力があるのだ。
事前の想定通り、彼ら全員を納得させるため、今度は樹の国の兵士に同じことをしてもらおう。
「分かりました。ご納得いただけないようなので、隊員のどなたかに同じことをやってもらおうと思います。え~と、じゃあ、体格の良いあなた」
普通は人体を剣でぶった切ることなんかありませんから、トリックを疑うのが普通の反応かもしれません。
今回も長くなったので二回に分けます。
次回は4月14日の20時から21時頃の投稿を予定しています。
第338話【第五部隊の作戦会議でのいざこざ その2】
次回は明日投稿予定です。




