第31話 vs石化の魔眼カトブレパス
我が家を出て、ドアを開け、トロル集落に一歩で到着。
我ながら良いアイテム作った。
「あ、アルトラ様こんにちは」
「アルトラ様こんにちは」
「こんにちは」
たまたま (?)ドアの近くに居た住人から先に挨拶された。
いや、この様子だと私が来るのを待っていた感じも……一体何時間ここに居たんだ?
まだ出来たばかりで、物珍しいから私が出てくるのを見たいのかもしれない。
「リーヴァントはどこにいるかな?」
「多分避難所辺りにいると思います」
いつも避難所辺りにいるな、今度からは人に聞かなくても避難所に行けば良いかな。
リーダーが避難所に入り浸ってるなら、もういっそ避難所を役所に仕立ててしまおう。この村では一番大きい建物として作ったから、何も無いこの村の現状、役所機能を備えるには適してると思う。
「リーヴァント!」
「おお、アルトラ様ごきげんよう! 今日はいかが致しましたか?」
「川を作ろうと思う」
「はぁ……川ですか。それはまた大きいことを始めようとしてますね。それでどうやって作れば良いのでしょうか?」
「わからない」
「は? ええ~と、どういうことですか?」
「私、川の作り方わからない。だからとりあえず川の基礎的な道だけでも作ろうと思う。火山から集落まで川の基礎になる道を作って、火口に潤いの木を植えて、水を流そうと思ってる。そうすればもし川が氾濫したとしても、この村まで距離があるからある程度は抑えられると思う」
「それで、我々は何をしたら良いのでしょうか?」
「とりあえず今は何もしなくて良いや。後々手伝ってもらうことになると思う。今日は川の基礎を作ることの了承を得ようと思って」
「それは構いません、むしろこちらからお願いしたいところです」
「じゃあ、一応了承を得たってことで、行ってくる」
「え? どこに何をしに? ああ……行ってしまった……唐突過ぎて何をしようとしてるのか全くわからなかった……」
火山から川を流すにしても、人間界で言うところの海に当たるところまで流すか、もしくは別の川と合流させて海へ流れていくような仕組みにする必要がある。
もし中途半端な場所で行き止まりになるような川の作り方をしたら、潤いの木がどんどん水を流し続けるから、行き止まりになった場所がどんどん湿地帯化し、果ては湖になってしまうかもしれない。
確かトロル集落からかなりの時間歩いたところに川があるって言ってたはず。
私の考えで、水汲んで戻って来るってことを考えて、三時間から四時間くらいの距離にあるんじゃないかと見立てた。
新しく作る川の合流地点にする予定だから、とりあえずはそこを見に行こう。
◇
というわけでトロル集落で聞いた川の流域にやってきた。結構大きな川だ。私の羽で大体二十分ほど。歩きなら多分三時間から四時間の間くらい。見立て通りの距離にあった。
確かに草木が生い茂ってる。あれが光が無くても育つ草木か。人間界のものと比べると葉っぱが黒ずんでるから分かり易い。多分その近くにある鮮やかな緑のやつが、最近になって疑似太陽で光が照り始めてから生えてきた草木だと思う。
水があるためか動物が何匹もいる。二本角のあるウサギのような小動物から、六本脚がある馬みたいなやつの小団体、巨大な豚みたいなやつの親子もいる。多分アレがこの間トロル集落で食事に招かれた時に聞いた特徴的な鼻の魔物だ。
あとは、一つ目で頭を引きずるような牛、重そうな頭ね……地面抉りながら移動してるわ。
鳥も大きいのも小さいのも含めて何羽も飛んでいる。他にも色々いる。
ここは地獄の門のある山の麓に比べれば、沢山の種類の生物がいるみたいだ。
「ん? 一つ目で頭を引きずる牛? ゲッ! あれってもしかしてカトブレパスってやつなんじゃないの……?」
カトブレパス……生前に読んだ幻想生物が載ってる本によると、目が一つしかないのが特徴の牛で、頭が重すぎて上がらないらしいけど、その瞳で見られると石化してしまうという。
特徴が『牛、頭が重い、一つ目』ってところだけ見て私がそう思っただけで、アレが本当にカトブレパスかどうかは憶測でしかないけど。
ちょこっと様子見に来ただけなのに、思わぬところに超危険なやつが居た!
ここってトロルたちの水汲み場になってるって聞いたけど!?
「あれがもしカトブレパスだとしたら、よくこんな危ないところに水やら木やら取りに来て無事だったね。もしくは元々はこの場所にいなかったけど、最近流れ着いてきたのかな? それともあれは私の思い違いでカトブレパスじゃないのか?」
と思ったのも束の間、少しだけ離れたところに精巧な人型の石像が三体ある。よく見たらトロル族にしか見えない。多分石化させられてるんだ。他にも別の生物の石像がそこかしこに……
最近流れ着いたと見立てたが、恐らくこの見立ては間違ってるな。
あの石像の数を見る限り、最近ここに流れ着いてきたわけではないっぽい。
私、この石化しているトロルたちの顔知らないし、石化したトロルが着ている服がボロボロになっている。多分しばらく居座ってると思われる。
やっぱりあの牛はカトブレパスとみて間違いないみたいだ。
見た目が水牛に似てるって話だし、恐らくウシ科で草食。
この辺りは川の流域で草木も生い茂っているから生活し易いんだ。食料はそこかしこにあるし。
あの三人生きてるかな? 解石の魔法ってのも存在するんだろうか? もし存在してなかったとしても頭良くする魔法も創成魔法なら作れたし、石化解除の魔法も作れるかもしれない。
その前に元凶を退治しておかないとまた被害者が出る。
カトブレパスってこんな野生で棲息してるもんなのね。地球の神話では確かナイル川の源流に棲むって伝説があった気がするからやっぱり水のある場所にいるのかな。
ゲームにも登場したけど、一発で敵を石化してくれるから便利な召喚獣だったっけ。
周囲にはアイツ以外はいないみたいだ。肉は食べなさそうだけど、この辺りの弱肉強食の頂点はアイツってことかな。
「じゃあ、久しぶりの【スキルドレイン】」
光がカトブレパスを包み、力を吸収して戻ってくる。
スキル【カトブレパスの瞳】を会得した。
危ないスキルだから使う場面はそれほど多くはないかもしれないけど、何かに使えるかもしれないから一応会得しておく。
「ゥモ?」
今の光でこちらに気付いたようだ。
「ゥモオオォォォ!!」
咆哮と共にカトブレパスが顔を上げ、瞳が赤く光る。これが石化効果のある魔眼か!
でも、オルシンジテンで見たステータスによれば、私の身体は石化耐性Lv10だから効かないよ。
と思ったら、石化してる!?
「何で!? 石化耐性Lv10じゃないの!? マズい! このままだと全身石化しちゃう!」
無意識に石になった部分を手で払い落とす動作をしたところ、表面の石になった部分だけボロボロ崩れ落ちた。
「あれ? 石になったの表面だけか。良かった~! 私の石化耐性Lv10が間違ってるのかと思った!」
どうやら【カトブレパスの瞳】の石化魔力が私の防御障壁に当たって薄い石の層が出来てただけだったらしい。
「モ?」
自分の魔眼が効かなかったから不思議そうにしている。
あ、でも頭が重くてずっとこっちを見てられるわけじゃないみたいだ。すぐに地面に引きずる体勢に戻ってしまった。
もう一度頭を上げて魔眼を放つ。
そして私はまた石になった部分を手で払い落す。
「モモ!?」
焦ったのか、魔眼を乱発してきた。
見た目には複数個所石化してるように見えるが、ちょっと身体をブルブル揺らしただけで、全部元通り。
「ウモオオオオォォォ!!」
石化の魔眼を諦めて、突進攻撃をしてきた。
頭が重いから動くのもあまり速くはないし、顔を上げられないために狙いが定まらない。
カトブレパスの動線から少し軸をズレてやっただけで、明後日の方向へ突進して行ってしまった。
体格はある程度大きいけど、ケルベロスに比べたら二回りほど小さい。石化の魔眼による一撃必殺が無いと、大して強くはない魔物みたいね。
それでも大きめの牛だから正面からは太刀打ちできないだろうけど。
「そうだ! コイツ牛だしトロル集落で飼おうかしら」
そうしたら繁殖させれば牛肉が食べられるようになるかも?
「いや……見ただけで石化は、流石に能力としては危な過ぎる。コイツの飼育担当の石像がどんどん増えそうだ」
目を潰して石化能力を奪えば……何てことを一瞬考えたが、目を潰されて家畜にされるのは流石に残酷過ぎる。可哀想だ。
牧畜は別の牛を探すか……
………………でも……最近牛の肉食べてないから、ずっと食べたかったのよね……
ちょうど良いし今日は牛肉にするか。
風魔法を使い、手に風を集めて鋭く切れる風の刃に仕立てた。
試しに川辺に生い茂っている草に向けて手を振り抜いてみたところ、鋭い刀で斬ったような切れ味で草が広範囲に刈り取られた。
「おぉ……自分で作った魔法だけどこの風ヤバイな……殺傷力が凄い。ヒトに対しては使わないようにしよう。とは言えこれで牛肉にありつける」
カトブレパスはその頭の重さから小回りが利かないため、素早く横に動いて撹乱させる。必死で左右を見ようとするものの、頭が重過ぎて追いつかない。
首と一つしかない目が激しく左右に振られ、混乱が頂点に達した時、すかさず間合いを詰め首筋を一閃――
――首を切り落とした。
「よし、これで脅威も去ったでしょう。ついでだから血抜きもしておこう」
血抜きが終わった後にカトブレパスの死体を【亜空間収納ポケット】へ収納した。トロル集落へ持って行ってみんなに振舞おう。
カトブレパス退治が終わった後に上空へ飛んで周囲を見回す。
ざっと見たところでは、カトブレパスはコイツ一頭だけみたいだ。はぐれカトブレパスってやつかな? 何ヶ月この辺に居たか分からないけど。
「しかし……こんな大型の生物まで食のために狩れるようになるなんて……私もたくましくなったもんだ……会社員時代では考えられないわ。さて、帰ろう」