第321話 vsマンイーター その2
トリニアさんが木々たちの声を聞いてくれたお蔭ですぐに二体目のマンイーターが見つかった。
身体に花の咲いた個体。恐らく雌と思われる。花で雄とか雌とか不思議でしかないが、雌雄あるというので、多分雌なんだろう。
が、すでに腹 (茎)の中に二人の影。飲み込まれてしまっているらしい。
「ロクトス! ナナトス!」
幸いにも中の様子がシルエットとして見えていて、もがいている様子から生きてはいるらしいことは分かった。
でも、早く救い出さないとドロドロに溶けてしまう!
かと言って、さっきのように炎で焼尽なんてしたら、中の二人が焼け死んでしまうし……
「と、とりあえず水を流し込んで中の強酸を希釈させましょう!」
強酸の樹液を薄めるため、ルイスさんがマンイーターの頭上から水魔法を放つも、何かに弾かれて中には入らない。
「どういうこと!?」
「まさか……」
近くの木の上にジャンプして上から覗くと、口の部分に蓋がされている。
さっき牙だと思っていたギザギザした部分は、獲物を捕らえて逃さないための蓋の役割をするものだったらしい。
しかも今水かけたことによって、こちらに気付かれた。
せっかく捕らえた獲物を渡さまいとして触腕をぶん回してきた!
「うわっ!」
「わっ!」
近くに居たトリニアさんとルイスさんが飛び退く。
マズイマズイマズイ! 早くしないと溶かされちゃう!
そうだ!
「二人ともナイフ使って中から出られない!?」
木の上から二人に自力で脱出できないか、それとなく聞いてみるものの……液体の中にいるためこちらの声は聞こえないのか、動きに変化が無い。
と言うか……上から見てると薄っすらとシルエットが見えるが、どちらかが既にナイフを突き立てようとしている動きをしているように見える。脱出を試みてるようだがあの中が硬いのか、それとも別の要素があるのか中から切り裂いて出てくる様子は無い。
この二人の行動の変化の無さに、自分の頭からサーッと血の気が引くのが分かった。
マズイマズイマズイ!! 早くしないと溶ける前に溺れる!
急いで物質魔法で刀と鞘を作る。職人の打ったものと比べれば遥かに見劣りするが、ある程度切れれば良い! 確か私の刀の使用レベルも10だから達人級の動きができるはず! (第7話のステータス欄参照)
木の上から飛び降り着地。すぐさま二度目のジャンプをし、ロクトスとナナトスのシルエットがあるところより、かなり上の部分を真一文字に切り裂いた。
留め金の役割をしていた口の部分が無くなったため、マンイーター自身の体内にある液体の重さに耐えきれず、大量にこぼれ出す。
それに呼応するように身体が崩壊。ロクトスとナナトスが中から転がり出て来た。
「ブハァ……!!」
「ガハッ!! ゲホッ!!」
「ロクトスさん! ナナトスさん! 大丈夫ですか!?」
「つ、捕まった時に咄嗟に息止めたから何とか溺れずに済んだッス……」
「……同じく……」
「でもそのままにしておくと徐々に肉が溶けだしてしまうので、すぐ水で洗ってください」
「そ、そうなんスか!? あの液体怖えぇッスね!!」
「全身浸かれる水があれば良いのですが……特に鼻の中とか耳の中とか、ちゃんと洗い流しておかないと……」
「……何か身体がヌルヌルする……」
「多分皮膚の表面が溶けてヌルヌルになってるんじゃない?」
「うぅ……そういえば身体中ヒリヒリして痛いッス……」
「……服も大部分溶かされた……」
「おわぁ!! 腕の産毛が無くなってるッス! まさか髪の毛も!?」
「い、今のところは大丈夫よ。でも早く洗わないと抜け落ちるかもね」
「ひぃ~~!!」
トロル族は、毒には強い耐性があるけど、酸にはあまり耐性無しか。
やっぱりケルベロスの口内細菌を中和したのは正解だった。 (第28話参照)
とりあえず、早く身体を洗わないと溶けてしまう。
土魔法で囲いを作り、その中を水で満たして即席で洗い場を作った。
「あなたたちナイフ持ってたよね? それで切り裂いて出て来られなかったの?」
「……何度も試した……けど、中がヌルヌルしてて全然刃が刺さらなかった……ナイフ程度じゃ中から切り裂いて出るのは難しいと思った方が良い……刃渡りがもっとあれば違う結果だったかも……」
「まあ無事で良かったわ。でもそのままだと溶けてしまうから、さっさと身体を洗い流して。今洗い場作ったから」
「ありがてぇッス!」
「……アルトラ様、ありがと……」
『亜人を好んで食べる』って辺り、あの液体の中には血とか肉とか混じってる可能性があるし、感染症とか大丈夫なのかとか気になるけど……まあ病気知らずの彼らなら多分大丈夫か。
それに消化液で滅菌されて無菌の可能性だってあるし。
この時ロクトスたちのケアで誰も気付いていなかったが――
「キャッ!」
――トリニアさんが何かに引きずられて地面に引き倒された。
「え? マンイーター!? 口が無くなってもまだ生きてるんだ……」
留め金の役目をしていた口が無くなってしまったため、身体の形が保てずダルンダルンになっている。
しかし触腕は機能しているため、それに捕まれて引き倒されたようだ。
そういえばさっき駆除するのに細切れにするって言ってた! それくらい生命力強いんだっけ。
「【結界内爆炎】!」
二度目の限定範囲火魔法で焼殺する。
「ゆ、油断してたッスね……」
「まあ、留め金の無くなったあの状態じゃ、口にはもう入れられないから放っておいても餓死してたかもしれないけどね」
「と、突然足引っ張られたのでビックリしました……マンイーターの討伐、ありがとうございました」
二人が身体を洗い終わるまで小休憩。
今後出番があるかどうか分からないが、作った刀は【亜空間収納ポケット】に放り込んだ。
◇
「身体はサッパリしたッス……でも服がビリビリになちゃったッスけど……」
「町に買いに戻るのも面倒だし、私が修復するよ」
「アルトラ様、そんなことも出来るんですか!?」
トリニアさんに驚かれた。
「まあ、一度見ていてイメージはし易いので、似たような服を再現することは可能だと思います。細かいところに差異はあるかもしれませんが」
創成魔法の便利なところね。
ということで、服の破れた部分を掴んで……ハイ修復した!
「いや~、アルトラ様便利ッスね」
「……ホント、便利……」
多分素直に褒めてるんだろうけど、『便利』って言われると使われてる気がする……まあ便利なんだろう。それは自分でも認めてるし。
悪気は感じないし、一応敬意は感じるからプラマイゼロかな。
「ん? ポケットの穴が半分くらい塞がってるッス。修復をお願いするッス」
「そんなのナイフで切れば良いじゃん」
「そんなことしたら後でほつれるじゃないッスか!」
村が発展して、贅沢になったなコイツら……生活水準が上がると贅沢になる。これは人型生物の性なのかな。
「……ここの紋様、前と違ってるけど……」
「そこは別に良いんじゃない? 機能と関わりが無いし。気に入らなかったら、後で自分で修復して」
流石に細かい紋様までは覚えていない。そこまで記憶力良くはない。
「では、元通りになったということで、次のキャンプ地を目指しましょう」
今回、初めて刀が出てきましたが、次のエピソードで大活躍します。
次回は2月27日の20時から21時頃の投稿を予定しています。
第322話【vs森賊】
次回は来週の月曜日投稿予定です。




