第30話 潤いの木Ver2草案
翌日――
さて、随分と立て込んでしまったが、やっと潤いの木の問題に取り掛かれる。
潤いの木をどこに移植させるか。候補としては火口が最有力だけど……今後の可能性についてオルシンジテンに意見を聞いておきたい。
「オルシンジテン、ダム機能も兼ねて、火口に潤いの木を移植したいと思うんだけどどう思う?」
「効果的だと考えます」
「今後の噴火の可能性とかは?」
「冷えた火山六つの内、二つほどは近く噴火する可能性があります。しかし残りはこの先百年以上は可能性が皆無と考えて良いと思います。簡単な図にしてみましょう」
④
③ ⑤
② ⑥ ⑦
①
門
「火山は大体このように並んでいます。分かり易く火山に番号を振りました。『門』は現在我々が住んでいる地獄の門前広場です。地獄の門を囲んだ①と②と③と⑦は今後恐らく百年以上は噴火しないと思われます。④は今回の豪雨で残った唯一の活火山で、⑤⑥は④と地下で繋がっているため、マグマ溜まりがあって噴火の可能性があります。移植するなら①が最適かと思われます。潤いの木を置くことにより常に水が溢れる状態になるため、更に噴火の可能性は低くなるでしょう」
じゃあ、①の火口に潤いの木を移植するか。
ただ……あれをそのまま移植するとまた溢れ出す可能性が高い。あの木の湧水量に限界があるのかどうかさえわからない。
何とか湧水量を調節する方法は無いものか……
「木の湧水量を調整する方法とかって考えられないかな?」
「例えば葉や枝の数で湧水量が調節されるというのはどうでしょうか? カイ様……今はアルトラ様でしたね。アルトラ様ならそういう感じに作り変えることが可能なのではないでしょうか?」
枝打ちで調節か……それは良いかもしれない。でも、これを火口に置くということは、多分木自体が沈むことになるから、それを枝打ちするとなると……潜水服、あるいは潜水出来る魔術師が必要になる。
落葉樹だと落ちた葉っぱが邪魔になるかもしれない。火口に溜まった水が落葉で腐敗してしまう可能性がある。
ということは参考にするのは常緑樹ね。これも私の調整で葉っぱが全く落ちないように作れば良い。
「潤いの木って、水に沈めて腐ることはないの?」
「そういう風にイメージして作成すれば問題無いのではないでしょうか?」
まあそうか、実際水の中で成長する木もあるし、この辺は私のさじ加減でどうとでもなるんだ。
「もしくは土魔法で火口の中央部を少し盛り上がらせて逆ドーナツ状の地形にして、中央の土台に植樹するという方法もありますが」
この方法なら木もちゃんと見えるし見栄えもしそうね。潜水師は必要無いし、真ん中まで橋をかければ管理もし易い。
枝打ちも水に潜る必要が無いから楽に出来る。
実が成る木にしておけば、収穫して味も楽しめる。
しかしもう一つ問題がある。枝打ちした後に今度は湧水量を増やしたい場合だ。木の成長は年単位かかるから枝が伸びるにも時間がかかる。スイッチ1つで枝がニュッと伸びてくれればありがたいが、『木』として作り出す以上そうはいかない。
それに『スイッチ』だと機械と変わらないから、やはり私の苦手分野になってしまう。
「枝打ちした後に今度は湧水量を増やしたいって場合はどうすれば良い?」
「樹魔法が使える樹魔術師を育て、打った枝の場所を限定して成長促進させる、などはいかがでしょうか?」
なるほど、それなら私も同じようなことをやったから出来ないことはないかな。
「ただし、樹、時間、空間、それに付け加えて魔界での光魔法を使える魔術師は、それ以外の八属性の魔法を使える者より珍しいので、見つけるのは大変かもしれません」
「トロル集落の人口は多分千人くらいなんだけど、この中に何人いる可能性がある?」
「可能性ではなく、確定された数字なら出せますが」
「え!? 人数分かってるの!?」
「はい。現在は十一人います」
可能性で聞こうと思ってたのに、まさか確定された人数が答えとして返ってくるとは……
「それって、今後増える可能性もあるの?」
「はい。新しく生まれた方は樹魔法の素質を持っていることがあります。またある時、突然発現する方も稀にいます。樹魔法であれば植物に関連することに従事していると後天的に発現し易いようです」
へぇ~、持って生まれるだけじゃないんだ。
「ちなみに空間魔法と時間魔法はどれくらいの割合?」
「使えるだけなら空間魔法は百万人に一人、時間魔法は一千万人に一人、ある程度使えている者は空間魔法は五百万人に一人、時間魔法は一億人に一人、使いこなせている者は両属性ともにほぼ皆無に等しいと言えます。魔王の中にもいません」
樹魔法と時間・空間魔法だと、珍しさの人数の桁が違う……
私は『ある程度使える』か『皆無に等しい』の中に入ってるのかな?
「私はどこに当たるの?」
「アルトラ様は、時間・空間共に『ある程度使える』に位置します。ちなみに『使えるだけ』のレベルですと、空間魔法なら大気に少し振動を与えたり、わずかに物の重さを変える程度、時間魔法ならわずかに自身の移動速度を変えたり、老化速度をわずかに遅くする程度なので、自分がその素養を持ってることにすら気付いてない者も多いでしょう」
「な、なるほど、『使えるだけ』ってレベルではホントに微々たる変化くらいにしかならないのね」
「はい。空間に穴を開けるというレベルは、かなりの素養を持つものでないと不可能なレベルです」
オルシンジテンのステータス照覧 (第7話参照)では両方属性ともにLv10なのに、それでも『ある程度使える』に属するのか……Lv10の中にも低いLv10と高いLv10の区別があるのかしら?
「じゃあピンポイントで『この人は時間魔法使いこなせてる』って人を教えてもらうことってできる?」
今後必要に迫られるかもしれないし、見つけておいて損は無い。
「………………」
「もしくは将来的に物凄い時間魔術師になる人は?」
「………………」
「だんまりか……」
ということはオルシンジテンには誰が時間魔法を使えるのかわかってるってことなのね。まあ時間魔法は明らかに大きすぎる力だし無闇に明かすのはまずいってことなのかな?
この問題は今起こってる問題とは関係無いから追及は後回しで良いか。
よし! 一応方針は決まった!
火口からトロル集落へ川を引いた上で、潤いの木に新しい機能を付与し火口へ移植する。
次に村の人の中から樹魔法の魔術師を探し出す。樹魔術師が育つまでは私が枝打ちと成長促進を担う。
潤いの木Ver2はまとめるとこんな感じ。
・今トロル集落にあるものを最も噴火の可能性が低い火口①に移植。
火口は中央部を盛り上がらせて逆ドーナツ状の地形を作り中央部に植樹
・付ける実はVer1と同じ梨の味に似た物!
・現在は出しっぱなしの湧水量を、
Ver2では枝の数で調整できるようにする
・樹魔法の魔術師を育て、彼らに管理させる。
何日かで交代、もしくは時間交代制が望ましい
・火口を利用したダムにする
よし、そうと決まれば早速川を作ろう。
方針が決まったのでトロル集落へ飛……もう飛ばなくても良いのか。ゼロ距離ドアでトロル集落へ。