第274話 エレアースモ国立博物館探訪 その7(精霊展と言う名の精霊保護区)
解説の部屋が終わり、その先の暖簾のようなものをくぐったところ、そこも生物展同様、広いフロアだった。
目の前には人型の石像やいろんな生物の骨が複数点、亜人らしき者の骨もあり、中には大きめの恐竜かドラゴンの骨まである。
西洋人形や日本人形染みた人形、兵士や騎士のフィギュアのようなもの、地球では原始人に当たる原始の亜人を模したフィギュア、木造の人形のようなものがそこかしこに置いてある。
ある程度大きい木がなぜか館内に生えている。
壁や階段のある場所には絵画が複数点あり、その全てが人物画。
ホウキやチリトリ、雑巾があちこちに放置され放し。そしてなぜか床に水が結構な量こぼれている。雑巾あるんだから拭いとけよ!
とある場所の床を見ると、床に人の影のようなものが張り付いてる。まるで焼死体の跡のよう……何あれ不気味……
電球や電灯があるのに、なぜか松明が設置されている。
あと、時折強い風が通り過ぎるのに、付近のものは揺らいですらいない。
何だこのカオス空間は!
「エミリーさん、どこが精霊展なの? いろいろゴチャゴチャあって訳が分からないんだけど、ここ倉庫じゃないよね?」
「その意味はすぐに分かると思いますよ」
と返され、目線を正面に戻したところ、さっき見た石像に違和感が……
「…………あれ?」
この石像こんな近くにあったっけ? さっきもっと遠くにあったような……
「アルトラ、この石像今動かなかったカ?」
「まさかぁ~!」
動いたなんて言うから、しばらく凝視してみる。
…………確かに微かに動いてる……ように見える――
と思ったら、スタスタ歩きだした!?
「動いてる! ホントに動いてるよリディア! エミリーさん、どゆこと!?」
これがホントの動く石像か!
「この場所は、下位精霊が宿った物体を保護しているエリアなんです。保護という名目で展示も行っているんですけどね」
「保護?」
「下位精霊は意思を持たないか、もしくは非常に薄弱なので、そのまま放っておくと悪質な魔力に充てられて悪霊に変質して亜人や別の生物に危害を加える恐れがあるのです」
あ~、これはさっきの説明に書いてあったな。
「そのため下位精霊が宿ったものをここへ集めて、寿命が終わるのを待っているということです」
「なるほど~だから精霊展」
入り口の暖簾のようなものをよく見ると、それは暖簾ではなく護符だった。物体に宿った下位精霊たちがここから出られないようになる護符らしい。
外で悪霊になって悪さされても困るから、ここに閉じ込めたってことかしら?
「寿命は精霊の寿命?」
「いえ、宿った物体の寿命です。これはこの国の高位精霊の方に聞いたことですが、下位精霊は高位精霊とは違って物体に出たり入ったりできないので、一度宿ってしまった場合、宿ったものの寿命が終わらないと精霊界へ帰れないのだとか」
「ああ、その寿命が終わるまでこの場所にいるってわけね。寿命っていつ終わるの?」
「宿ったものが朽ちた時ですね。どれくらい破損したら朽ちたことになるのか分かりませんが」
「………………え!? ってことはあの動く石像に入った精霊は……」
「お察しの通り、数十年、数百年、あるいは数千、数万年、永劫とも言える年月をあの姿で過ごすのでしょうね」
ずっとあそこに展示されるわけか。
「うわぁ……何か可哀想……」
「しかし、その辺にある石ころに入ったりする者もいるので、人型に入って動けるだけまだマシという考え方もできますけど……可哀想と思うなら壊しますか? アルトラ様なら可能だと思いますが」
「いや、それはちょっと……展示品を壊す勇気は無いかな。と言うか犯罪になりそうだし……」
ものは考えようか。石ころに入った者に比べれば、動けるだけマシかな。
「ところで、石像に入ったのに『人型だから動ける』の理屈が分からないんだけど、何で石像なのに動き回れるの?」
「精霊にとって、その物体の形状と行動原理が結びつくことがあるらしく、『亜人が動いている⇒だから人型の物体も動く』というところに考え方に結びつくそうです。下位精霊の中では『人型=動くもの』との認識があるので動くようになるそうですよ」
めちゃくちゃな理論だな!
「その理屈だと、亜人はしゃべるから、人の形をした石像はしゃべるってことだと思うけど……しゃべったりもするの?」
「しゃべる物もいますよ。人型に近い容姿の物ほど亜人に近い動きをします。あそこら辺に置いてある人形はよくおしゃべりしたり動き回ってるのを目撃されます」
と言って、西洋人形、日本人形染みた人形たちを指さす。
おお……何だか呪いの人形みたいなエピソードだわ……
ここって……精霊展と言うより、私から見たらお化け屋敷みたい……
「まあ人型に入った精霊が全部動くかと言ったら、そんなのはかなり稀ですけどね。ここはそんな稀に動きだした精霊を保護してる場所というところですかね」
「さっきの説明にも書いてあったけど、悪霊になったら具体的にどうなるの?」
「悪霊になると亜人や他の生物を襲うことがあります。更にそのまま宿った物体が壊れると、自然と結びついて自然災害化し、猛威を振るうようになります。火なら主に山火事を引き起こしたり、風なら大嵐を引き起こしたりとか。もっとも雷の国は水分が多い国なので火の悪霊は力を発揮し切れないので自然に消える可能性もありますけど。逆にこの国で風、水、雷あたりの精霊が自然災害化するとかなり厄介ですよ」
なるほど。ということはこういった保護区は他の国にもあるってことなのかな?
この国はたまたま博物館に展示されてるってだけで。
これは中立地帯でも動く人型を見つけたら保護しないといけないかも。
宿ってしまった物体によっては、数万年拘束される可能性があるという……石系に宿った精霊は大変ですね。
今回少々長くなったので二分割しました。次は明日投稿します。
次回は9月27日の20時から21時頃の投稿を予定しています。
第275話【エレアースモ国立博物館探訪 その8】




