第272話 エレアースモ国立博物館探訪 その5(巨人と小人)
「アルトラアルトラ! カッコイイカブトムシが飾ってあるゾ!」
「へぇ~、ゼウスオオカブトだって。この国に生息する昆虫みたいよ」
「じゃ、じゃあ、帰る前に捕まえに行こウ!」
「ちょっと待って説明を読んでみるから…………ああ~、残念だけどダメだね、この説明によると輸出規制されてるみたい。このカブトムシ、帯電するから無闇に他の国に出すと危険なんだってさ。溜めに溜めた電気で昔死人も出てるらしい」
きっと雷を蓄える辺りから『ゼウス』って名付けられたのかな? ゼウスって雷 (天気)を司る神様だし。
死ぬほどの電気を帯電するのは稀だが、帯電した電気を喰らうとかなり痛いとか。
「一応帯電を無効化する方法も載ってるよ? ツノを折れば帯電しなくなるんだってさ。ツノを折ってあれば輸出できるみたいよ。捕まえに行く?」
「アルトラは分かってないナ……ツノ折ったらカブトムシの魅力の八割以上が無くなるじゃないカ! 残念だけど今回は諦めル……」
「あ、そう……」
まあ、普通そういう結論よね……オスのカブトムシにツノが無いなんてあり得ないし。すぐに引き下がってくれて良かった。
それにしてもこの国は電気蓄える生物が多い。これもその地域で生存するための特殊進化なんだろうけど……
このフロアを見て回ったところ、どうやら魔界でも流石に虫から人型に進化するケースはまだ存在しないらしい。
「じょうじ……」とかいう鳴き声をあげる人型になったゴキブリを見なくて助かったわ……
◇
この生物展の最後のフロアを飾るのはやはり人型の生物。
「でっかーー!」
目の前には巨人の剥製。膝を付いているポーズだけど五メートルくらいの高さがある。直立したら十メートルを超えるんじゃないだろうか?
しかし私、この博物館来て「でかー!」しか言ってない気がするわ……
亜人フロアの最初は大型亜人、通称『巨人』のエリア。
「この巨人、目が一つしかない」
サイクロプスってやつか。他にも巨人が二体、ギガース、ヘカトンケイルが片膝を付いたポーズで外側に向けて全員背中合わせに並べられている。
特に目を見張るのが、ヘカトンケイル。百本腕があると揶揄されるだけあり、腕の数が多い。
数えてみたところ片腕十本、両方合わせて二十本。百本はちょっと誇張し過ぎでは?
「この多腕種族の骨ってどうなってるのかしらね?」
「確かに……そんなこと考えたこともありませんでしたが……」
背中側に腕が多いことを考えると、肩甲骨や肋骨が変化して腕になってるのかな? もしくは肩甲骨が複数あるのか?
仮にそうだとしても、どこがどう繋がってるのか非常に興味がある。
「これの骨格標本を飾ってくれたら良いのに……」
正直言って、普通の亜人の骨格標本より、こういった骨の構造が複雑だと予想できる骨格標本の方を見たい。
普通の大きさの亜人の骨格標本なんて人間と大して変わらないんだよ! 違いは頭にツノ生えてるくらいじゃないか!
◇
巨人たちから少し進むと、中型亜人、通称『亜人』のエリア。
魔界にいる亜人種のほとんどが、この中型に属する。
パッと見た限りは、ゴブリン、オーガ、オーク、獣人、半魚人、人魚、ヘルヘヴン、エルフ、ドワーフなど見知ったものから、ファンタジーでもあまり見ないカエル人、ヘビ人、ワニ人などの剥製が並んでいる。
「うわぁ……カエルとかヘビとかいるのか……顔がカエルで身体が人って……あまりお目にかかりたくない……」
カエル人とかヘビ人って言ったら……漫画やゲームにもたまに出てくるけど……カエルの剣士とか。
「もし彼らに出会ったらどんな対応しよう……ヌメヌメしてるのかな? 似た性質のサハギンにはもう会ってるからそれほど変わらないのかしら?」
まあ、出会った時にそれなりの対応をすることにしよう。
ちなみに、カエル人は『フログラ』、ヘビ人は『ヴァルーシア』、ワニ人は『クロッコル』という呼び名があるそうだ。
ヴァルーシアは昨日私の透明化を突破して写真撮影したヤツだ! (第263話、第264話参照)
ぐぬぬ……コイツさえあの場にいなければ余計な思考に時間割かなくても良いのに……
珍しいとは言え、もうこの魔界に来て様々な亜人に出会っているため、中型には特別魅力を感じない。
早々に進むことにした。
◇
中型亜人エリアを通り過ぎると、今度は巨人の逆で小人の剥製が並べられている。ここからは小型亜人、通称『小人』のエリアみたいだ。
小柄で、小さい物の中にも入れておけるためか、人形が展示されるショーケースのようなガラスの箱の中に大事そうに飾られていた。
「なになに? 『小人種はその見た目からは想像できないが、総じて敏捷性と耐久力、更には腕力にも優れている。見た目は亜人の一蹴りで殺してしまいそうなほどか弱く見えるが、力自慢の亜人が大型ハンマーを本気で振り下ろしても大したダメージを与えられないほど身体が頑強にできている。これは中型亜人から縮小方向へ進化する過程で、耐久性や筋肉が凝縮していった結果ではないかと考えられているが、現時点で結論は出ていない』――」
こ……こんなお人形さんのように大事そうにショーケースに飾られてるこの子らがそんなに硬いの……?
「――『また手先が器用でとある逸話では、靴屋の主人が寝ている間に靴を作ってくれ、それによって商売が繁盛したという話がある』――」
あ~、これ聞いたことあるわ。グリム童話の『小人の靴屋』だったかな? 魔界でもこういうお話があるのね。
「――『更に幸運を運ぶともされ、彼らに気に入られた者は巨万の富を築くという伝説がある。ただし気に入られてももし機嫌を損ねてしまった場合は……』」
解説はそこで終わっている。
気になる! 気になるけど、きっと没落するとか不幸になるとかそういう類の話なんだろう。
日本にもそれに類似した話はある。幸運を呼ぶ座敷童に気に入られても、彼ら彼女らの機嫌を損ね、出て行かれてしまったら途端に没落してしまうという。
「エミリーさん、この国に小人っているの?」
「いますよ。よく目を凝らせばそこら中で目にします。身体が小さく、目線を下げないと見えないので意識的に見ようとしなければ視界に入りませんね。彼らは彼らの生活圏を持っているのでお互いが干渉することはあまりありません」
「亜人の生活圏に同居してるとなると、踏まれたりしないの?」
「あまり気にしないみたいですよ。踏まれても痛くないからだとか」
自分たちより大きい生物が多いから『そういうもの』と認識しているのかもしれない。
「ああ、でもたまに乾いてない泥だとか、あのその……それ以外のものが付いた靴で踏まれることがあるので、その時は憤慨してるみたいですけど」
それ以外のもの?
…………ああ! アレか。口ごもった理由を何となく察した。
そんな靴で踏まれるのは嫌だなぁ……
「小人ってどこに住んでるの?」
「大抵は他人の家の縁の下とかに間借りして住んでるみたいです。縁の下に住まわれると害虫を退治してくれて良いって話も聞きます。中には個人宅に自分たちの家を持ち込んで、同居してる良好な関係性を築いている小人もいるらしいですよ」
縁の下とか家を持ち込んでって……『お籠りぐらしのアルユッティ』とか『リサちゃん人形』みたいなミニチュアの家でも持ち込んでるのかな?
いや、小人の文化があるってことは、きちんとした小人用の道具も売ってるのかもしれない。もしかしたら小人用の市場とかあるのかもしれない。
人型のコーナーは大型、中型、小型と見て来たけど、この博物館の入り口にあった『亜人史』は前菜で、主菜はこっちの展示物だったわけね。
生物展は人型の哺乳類で終了。さっきの大広間に帰って来た。
「面白かったね~」
亜人史、魔人史、生物展と見て来たけど、特段珍しいと思えるようなものは無かった。まあこの世界に存在するというだけで、珍しい生物ばかりなのは認めるけど。
やっぱり死体展とか魔道具展とかの方? そういえばフッと思ったけど、『剥製』も分類的には死体よね……? “死体展”ってわざわざ分けてるってことは、それ以上に死体ってことか。やっぱりゾンビとかの類が展示してあるのかしら?
「エミリーさん、どれが珍しい形態だったの?」
「ではその珍しいものを見に、精霊展に行きましょうか」
余談ですが、グリム童話の『小人の靴屋』には、靴屋以外にエピソード2と3があるそうです。
今回調べて初めて知りましたが、エピソード1は幸せになったのに対し、他二つは暗い内容なので、調べる時はご注意ください。
次回は9月22日 (木)の予定ですが、数日前からかなり体調が悪く、現在次話の推敲中ですが、体調次第では投稿出来ない可能性があります。その場合は申し訳ないですが来週月曜日の26日までお休みいただきたいと思います。
また仮にエタってしまった場合は急死、もしくは投稿できない状況になったと考えてもらえるとありがたいです。現在のところはエタることを考えていません。もし投稿できない状況になった場合は後々誰かが気付いた時に投稿してもらえるように、USBに一応それ用の文章 (遺作?遺文章?遺エピソード?)を作って保存してあり、未完結宣言をしてもらうようにしてあります。
あ、ちょっと深刻そうに書きましたが、ガンとかそういう死に至りそうな状態ってわけでは (多分)ありません。
ではまた次回。
次回は9月22日の20時から21時頃の投稿を予定しています。
第273話【エレアースモ国立博物館探訪 その6】
次話は木曜日の投稿予定ですが、上述のごとく不都合がある場合は来週の月曜日になります。ご了承いただけると幸いです。




