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建国のアルトラ ~魔界の天使 (?)の国造り奮闘譚~  作者: ヒロノF
第11章 雷の国エレアースモ探訪編

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第271話 エレアースモ国立博物館探訪 その4(魔界三大凶虫)

 視界にでっかいアリが飛び込んで来た。


「作り物!?」


 と思って説明を読むとどうやら魔界に実在するものらしい。

 体高二メートル、体長三メートルある『ジャイアントアント』という虫だそうだ。幸いなことに毒は持たない。が、その強靭な顎で岩をも砕く。

 その名の通りアリ科に属し、通常のアリ同様、大勢の個体でコミュニティーを作り、亜人をも捕食対象にするとか。

 世界中様々なところに分布し、その危険さから見つけ次第駆除の対象になっている。

 その巨体ゆえに動きは緩慢であるものの、一匹見つけたらその周辺に十匹はいると考えられているため素人では対処できず、見つけた国の騎士団や軍隊、また周辺の国や属国も巻き込んで総出で駆除に当たるとか。

 女王アリが生存している限り、兵士アリが際限なく生産されるため、迅速な駆除を要する。


「ひえぇ……こんなでっかい虫が存在する魔界って恐ろしい……」


 ヒアリ程度の小さい虫ですら恐ろしいのに、地球でこんなでっかいのが大量に出たら人類、すぐ絶滅するわ!


「小さい虫は見つけ難くて絶滅が困難……かと言って見つけられるほど大きくても数が多いから絶滅は困難ってことなのかな……」

「このアリは数年から数十年ごとに見つかるそうですよ。私はまだ幸いにも派兵されたことはないですね」

「へぇ~、まだ若いから運良く派兵されてないってことかな?」

「いつかは呼ばれてしまうかもしれませんね……幸いにも魔法を使うことがないので、訓練を受けている騎士団員なら遠くから一方的に駆除できますけど……装甲が硬いので一般の亜人が使う弱い魔法程度では中までダメージが通りません。そのような理由から、このアリが見つかる時は近くの人里で何人も亜人が消えるので、比較的すぐに巣が見つかるそうです」

「マジ? 恐っ!」


 エミリーさんが聞きたくないことを話してくれた。亜人が消えるってことは……つまり連れ去られて……? ここから先は想像しないようにしよう……

 恐ろしいアリだ……アルトレリア近くで見つからないことを祈るわ。


 ここには三体の巨大昆虫が並べられている。その一つが今見た『ジャイアントアント』。あと二つは『デスキラービー』と『アバドン』。これら三体は魔界で世界三大凶虫と恐れられて特に危険視される昆虫で、どれも見つけ次第国を挙げて駆除が基本。


 『デスキラービー』は体高一メートルにもなる巨大なスズメバチ。『(デス)』と『殺す(キラー)』と死を連想させる言葉を二つも付けられた超危険なハチらしい。数十メートル級の巣をいくつも作ってコロニーを形成する虫で、一般の亜人なら一刺しされるだけで短い時間で死に至る。二、三発も喰らえば奇跡でもなければ生きていられないらしい。しかもお尻の針を弾丸のように撃ち出すとか。金属なら防げるものの薄い鉄板程度の鎧なら貫通する可能性があり、生身で喰らえば穴が開く。コイツを巣ごと駆除するには漆黒の重装鎧にフェロモンを塗った引き寄せ役(デコイ)が大勢必要。


 もう一体の『アバドン』は体高二メートル弱の巨大なイナゴ。……私はイナゴと解釈したがイナゴの見た目ではない。身体が人型に近い形に変貌していて、顔だけ虫で他の部分は虫と人間が混ざったような姿をしていて多少グロテスク。

 人型を模していても脚は六本ある。昆虫とは違い腹から全部の脚が出ているわけではなく、人間の身体の脇腹辺りに二本追加したような見た目をしている。多分上の四つの脚は腕として使われると思われる。

 地球にも虫の顔を模したヒーローがいるが、似ても似つかない。


 ここの解説によると、力は多少強いものの騎士団で訓練を受けている亜人ならほとんど危険は無い。しかし駆除対象になっている理由はその性質にある。

 コイツは大量のイナゴやバッタと共に発生し、コイツが発生した時は畑などの作物はおろか、実が成ってない植物まで根こそぎ消えるらしい。所謂(いわゆる)蝗害(こうがい)』を助長するイナゴたちの王のようなものだとか。一所(ひとところ)に停滞されると作物が食べられ、植物も根こそぎ食べられ、更に別の場所に移動してそれを繰り返す。

 アバドンが移動すると、それに追随して他の虫たちも移動するため早めに移動してくれれば被害は少なく済そうだが、虫の気まぐれなのでいつ移動するかは分からない。いずれにしても発生したらすぐに駆除しない限り被害はどんどん広がる。

 炎に極端に弱いものの、跳躍力が凄まじく、見つけても追いかけられる者が居ないと倒すのは中々難しいそうだ。

 周囲のイナゴやバッタの大群はほとんどがアバドンの影響で増えたものらしく、親玉のアバドンを倒すことで異常繁殖することがなくなり、集団は散開、蝗害(こうがい)は半月ほどで一応終息する。

 ただし、このアバドンがどこから発生しているかは未だ分かっていないとのこと。

 確か地球での話では、『アバドン』は蝗害(こうがい)を神格化したものだって話だったな。魔界(ここ)には実在のアバドンが存在するのか。


「アバドンについては、火の国(ルシファーランド)で発生して騒ぎになってますね。今頃は属国や近くの国も退治のために奔走しているんじゃないでしょうか」

「ああ、そういえば七大国会談で、蝗害(こうがい)が発生して税収を下げてくれって提議が行われたっけ。あれはコイツの仕業だったのか」 (第228話参照)

「放置すれば国も属国も飢饉に見舞われるので、迅速な対処が必要ですね。ただこのアバドン、凄く見つけ辛いって聞いたことがあります」

「大量のイナゴやバッタが周辺を飛び回ってるから見にくいとか?」

「詳しいことは分かりませんがそういうことなのかもしれません。この国は火の国(ルシファーランド)とは離れているので今のところは安全ですが、隣国に発生したら対岸の火事として見てはいられないでしょうね」

「説明に炎に極端に弱いって書いてあるけど、火の国(ルシファーランド)でも発生するのね」

「まあ、火の国と言っても、暑くない土地もありますので」


 あ~……そういえば提議してたのは属国だったか。そこはそれほど暑くない国ってことなのかな?


この国(エレアースモ)でこの三種の虫が発生した記録ってあるのかな?」

「さあ? 私は詳しくはないので……アリが発生したことはあると聞いたことがありますけど……」

「カイベル、わかる?」

「はい、この国ではアリ(ジャイアントアント)イナゴ(アバドン)のみ発生したことがあります。アリは建国以降なら十三度あるようですが、イナゴは三度、しかもいずれも自然の雷によってすぐに沈静化しています。これはこの国の特殊な気象条件により住み難い、あるいは発生しにくいのだと考えられます。ハチ(デスキラービー)が発生したことがない理由は、数十メートルの巣を作るので落雷し易く、ハチたちもそれを予め分かっているのかこの国で巣を作ろうとはしません。アリは地中に巣を作り、更には雷に少しの耐性を持つため、場所によっては定着してしまう危険性があります」

「建国以降アリの発生は十三回? 建国してもう九千年から一万年くらい歴史があるんでしょ? 十三回って少なくない?」

「それくらいこの土地が住み難い土地なのだと考えられます。他の国になると数年数十年ごととは言え五十回、百回を超えるところもあります」


 なるほど、この国は雷によって外来の敵の侵入を阻んでいるところもあるってわけか。

 技術的に高かった雷の国首都(トールズ)他、雷対策が出来ている町だけが自然の理に反して安全な場所になったってわけね。


 カイベルの三大凶虫発生の話を聞いてエミリーさんがポカンとしている。

 そりゃこの国の者でもないものが、こんなに詳しく知ってたらおかしいよね……


「す……凄いですね! そんなに詳しくご存じだなんて……この国の歴史を勉強されたのですか?」

「はい、主人が行くところの情報はなるべく知っておくべきですから」


 という(てい)なんだろう。さすカイ(さすがカイベル)

 兎にも角にも、この三種は発生したらヤバいと覚えておこう。灼熱の土地じゃなくなったアルトレリア(うち)にも発生しないとは限らない。


「ところで……アバドンが発生する原因ってもしかしてカイベルなら分かってる?」


 カイベルに小声で訊ねる。


「はい。アルトラ様はこの世界の万物には微弱ながら魔力が流れているのはご存じですね?」

「知ってる」

「アバドンは一匹の小さなイナゴがとある事情で変貌して形作られます」

「あの小さいイナゴがアバドンに変貌するの? それも魔力が関係するってこと?」

「はい。ある程度の集団と化したイナゴやバッタはまるでその集団に一つの意思があるかのように動くようになります。この集団に集まった膨大な魔力の受け皿になった一匹のイナゴが巨大化してアバドンへと変貌するのです。この魔界(せかい)における自然現象の一種ですので確実な対処方法はありません。アバドンになるには事前にある程度の集団になる必要があるので、頻繁な駆除が行われればあるいは防げるかもしれませんが、現実的には不可能と言わざるを得ないでしょう」

「そうなのか……」

「なお、アバドンの話だけしましたが、三大凶虫全てが魔力集溜による突然変異によって生まれます。世界中に分布していると説明されていますが、突然変異するため分布しているように見えるということですね」


 じゃあこれを誰か偉い亜人(ひと)に報告したところで防げるもんでもないのか……


「ちなみに、アバドンは樹の国(ユグドマンモン)首都周辺にあるユグドの大森林にはもう千年以上発生したことがありません。これはその森全体にアバドンになるための魔力を分解する酵素が満ちているからです」

「ってことは、その酵素を出してる木を他の国に移植すれば少なくとも三大凶虫の一つは防げるんじゃない?」

「それも現実的に難しいと思います。あの森は様々な木々や植物が混ざり合ってそのような性質が出来たようですので。つまり木々たちがアバドンに食べられぬよう自己防衛でそのような性質を作り出したのではないかと思われます」

「それは残念……」


 つまり各国で蝗害(こうがい)を発生させないためには、樹の国にあるものと全く同じ大森林を作り出さなければならないってわけか。

 さっき見たアバドンの解説には「どこから発生しているかは未だ分かっていない」って書いてあったけど、そりゃ一匹のイナゴが変貌するんじゃ、どこから発生してるか分からないよね……ある時突然出現するわけだし。

 これは誰に言ったところで何かが変わるわけでもないし、言ったら言ったで混乱を引き起こしそうだから私の心の中だけに留めておこう……

 実際、人より何倍も大きい虫が居たら、人間が何人いたところで太刀打ちできないでしょうね。

 マシンガンなら太刀打ちできるでしょうか? 装甲が硬そうだから一体倒すだけでもロケットランチャーくらい用意しないといけないかも?


 次回は9月19日の20時から21時頃の投稿を予定しています。

  第272話【エレアースモ国立博物館探訪 その5】

 次話は来週の月曜日投稿予定です。

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― 新着の感想 ―
[良い点] アバドンの話は神話とは違って面白かったです。 神話ではなんでも飲み込むものですからね。 特に某女神転生では飲み込まれて、ダンジョン化してますから。 一説では魔界もアバドンによって飲み込まれ…
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