第261話 雷の国からの再びの疑似太陽創成依頼
コンコンコン
我が家のドアに久しぶりのノック音。
誰かしら?
ガチャ
「はい、どなた?」
「……ベルゼ、七大国会談振り……」
「アスモ!? よく来たね!」
と、半分無意識に抱き着いていた。
軽度魅了は健在のようだ。
「お付きの人たちは?」
外に出てキョロキョロと見回すとアスモ以外誰もいない。
あれ? アスモって空間魔法使えたっけ?
「どうやって来たの?」
「……この子に連れて来てもらった……」
そこに居たのは、雷の国で空間魔法災害を起こした巨大サンダラバード、私の中での呼称『サンダジャバード』に似た姿を持った鳥。
……サンジャバードよりは小さい。アレのせいぜい四分の一くらいの大きさってところ。
いや、そもそも私は通常のサンダラバードを止まってる状態でちゃんと見たことがないから、目の前のコレが大きいのか小さいのか分からない。もしかしたらこれがサンダラバードの大きさなのかもしれないが……確かサンダラバードの大きさは九十センチから一メートルくらいって聞いた気がするから、それより大分大きい。
「何このサンダラバード?」
「……ベルゼと私で倒した、巨大サンダラバードが産んだ二つの卵の片方の子……」
「え!? まだ半年くらいなのにもうこんなに大きいの!?」
「……この子は生まれた時から大分大きかった……もう少ししたら乗れそう……」
「『この子に連れて来てもらった』って……まさか空間魔法を受け継いでたの!? 危なくない!?」
「……そう……でも、最初から亜人を敵視しないように育てたから、この子に亜人に対しての敵意は無い……私が近くに居て軽度魅了もかかってるから心配は無い……今日はこの子の試運転も兼ねてここへ来た……」
試運転って……
「空間転移魔法は一度行ったところじゃないと行けないはずだけど?」
「……知ってる……だから一度、アルフに転移魔法で送ってもらって、この子に場所を覚えさせて、一度帰ってまた来た……」
名前は久しぶりの登場だけど、アルフさんはアスモの側近、雷の国の空間魔術師。
何だその二度手間……
「……ちなみに、サンダラバードは元から雷魔力変換能力を持ってるから、私の雷魔法で空間魔法に使う魔力を補充できて、雷の魔王である私と相性が凄く良い……」
今後城を抜け出して勝手にどこかへ行ったりする様が目に浮かぶ……
アルフさん、今後はあまり使われなくなるのかな……ちょっと可哀想……
「……これからはもうパッと来てパッと帰れる……」
「へぇ~、それは良い子見つけたね。もう片方の子は?」
「……そっちは普通のサンダラバードだった……空間魔法も持ってなかった。王城で放し飼いになってる……」
あの時回収した卵は二つとも大きいサイズだったけど、両方がサンダジャバードになるってわけでもないのか。 (第130話参照)
「それで、女王様自ら来るってことは、本題があるんでしょ?」
「……うん……国も落ち着いて来たから、改めて疑似太陽の創成をお願いしたい……」
「約束してたものね」
「……でも……自分で頼んでおいてなんだけど……国民に知らせておかないと、突然太陽が出現してパニックになるかもしれないから、三日後に王城へ来てもらえる……? ……それまでに国民に知らせておく……」
「三日後ね、わかったわ」
そして三日後――
私は今、リディアとカイベルを連れて、雷の国の王城に来ている。
今回、一応フォーマルな場ということで、エルフィーレ製の服を着て来た。
リーヴァントには外交であることを報告済み。その際に――
『一部とは言え、アルトレリアが国に当たる権限を得たのですから、外国の要人が来た時には役所を通すように、アスモデウス様やレヴィアタン様に言っておいてください』
――と、お小言を言われてしまった……ごもっとも……
これからは大使館が出来る関係上、直接私にってわけにはいかないと思う。
「ベルゼビュート様とそのお付きの方々ですね? どうぞこちらへ」
重厚な扉の一室へと案内された。
高そうなソファにテーブル、でっかい花瓶に生けられた色とりどりの花。
絵画まで飾ってあり、敷かれた絨毯はふかふかで温かそうである。
「アルトラアルトラ! この絨毯ふかふかで手触り良いゾ! 寝て良いカ?」
私も寝てみたいが……この間のリナさんの家とは違って公の場だから寝て良いとは言えない。
「う~ん、ダメかな。我慢して」
「えーー!」
「えーでもダメ! ほら、テーブルの上にお菓子とお茶用意してくれてあるから、それ食べてたら?」
「そうすル……」
転生してから普段あまりお目にかかれないクッキーやらケーキ、シュークリーム、パイなどが、漫画なんかでご令嬢がお茶会の時に用意してくれる例のアレ(※)に乗っている。
(※例のアレ:ケーキスタンドのこと)
「アルトラ! コレうまいゾ!」
「アルトラ様、紅茶をどうぞ」
カイベルがカップへ注いでくれた。
「ありがとう」
◇
ほどなくして、アスモが部屋を訪れた。
「……ベルゼ、来てくれてありがとう……」
「それで、私はどうしたら良いの?」
「……今日の正午に太陽が出現すると、国民には知らせてある……太陽がどういうモノなのかもある程度は周知してあるから混乱は少ないと思う……」
正午か……まだ十時少し前だから、あと二時間ちょっとあるな。
「まだ二時間以上あるけど、その間は自由にして良いの?」
「……良いよ……でも余裕を持って三十分から一時間前くらいには戻ってきてほしい……」
「わかった、じゃあ街中をブラっとしてくるわ」
「……あ、待って……お世話係にエミリーを付ける……」
エミリーさん、以前雷の国を訪れた時に案内役として私に付いてくれた騎士。
ヘルヘヴン族という種族で、通常は黒い羽で生まれるが、稀に白い羽を持って生まれる。
エミリーさんは白い羽を持って生まれ、頭上に天使の輪は無いものの、その天使に似た風貌により国民からは『白天使』の敬称で呼ばれることがある。 (第122話から第136話参照)
◇
「アルトラ! ご飯食べよウ!」
「え!? さっきお菓子食べたのに?」
「ご飯とお菓子は別腹、あれ美味しそうダ! 食べてみたイ!」
と指さしたのはどう見てもサンドウィッチ。この名前実はイングランドのサンドウィッチって場所の伯爵が付けた名前が由来らしいから、この世界で何て名称かはわからないけど……
と思って名札を見たら『サンドウィッチ』。
「あれ? どゆこと?? カイベルあれって地名なんじゃないの?」
「亡者の方が広めたみたいですね」
地球から送られて来る者が多い所為か、どこにでも登場するな、亡者。
じゃあここでも普通に『サンドウィッチ』って呼称すれば良いのか。
これはまだうちの町では作られたことなかったわね。
まあ、これならさっと食べて終わりにできるか。
ということで、外のテラス席で、おやつ後の遅めの朝食。
横を見ると、巨大な街頭モニター。カラーではなく白黒。
銀行員のシーラさん曰く、独自の技術だからカラー化はまだ先になるんじゃないかって話だけど……
「う~ん、人間界基準で考えると歪な光景ね……」
液晶モニターのカラー化より先に、街頭モニターがあるというのが不思議な感覚だ。いや、昭和のテレビが出来始めの頃は街頭モニターだったんだっけ? 大勢が集まって大変だったらしいし。私がその時代に生きていないだけで、カラー化より先に街頭モニターだったのかな?
現在は朝のテレビ番組を放送中らしい。
テレビ番組の名前は魔界文字で『わだいのあのかた!』と書いてある。
番組名から考えると、今話題になってる人物を紹介する番組かな?
街頭モニターを注視していたらエミリーさんが今日のゲストについて説明してくれた。
「ああ、今日のゲストは空間魔法災害で九死に一生を得た亜人みたいですよ。アルトラ様、確かあの日ちょうどここを訪れていて、治療にまで参加してくださりましたよね? もしかしたら回復を担当された方の中の誰かだったりするかもしれませんね」
「へぇ~、半年も経ってるのに、未だにその話題なのね」
そろそろあの災害も徐々に記憶から薄れてくる頃かと思うくらい時が経ったと思うけど……
……いや、半年じゃまだまだ薄れないか。
「テレビでは話題として取り上げなくなってきてはいますが、大惨事でしたのでまだまだ人々の印象には強く残っていますよ。何せ町中に手足がそこかしこに落ちてましたから……しかも今日のゲストは瀕死の重傷から生還された方なので、注目度が高いのだと思います」
瀕死の重傷か……一人とんでもない重傷だった人を思い起こされるわね……上半身だけでよく生きてたなってくらいの重傷だったっけ……
「二週間で回復できます」なんて豪語してその場を後にしたけど、彼はあの後ちゃんと回復出来たかしら?
そんなことを思いつつテレビ番組を見ていると――
………………何か、微かに見覚えがある亜人がゲストとして出て来た。
ふわふわの絨毯って寝転がりたくなりますよね~(笑)
え? そんなことない?
私の庶民的感覚ですかね?
次回は8月23日の20時から21時頃の投稿を予定しています。
第262話【知らない間に気恥ずかしい尊称を付けられていた!】
次話は明日投稿予定です。




