第24話 50kmの距離を一歩にするドアの創成 (通過実験)
我が家に帰って来た。
フッと家の側面を見ると……あれ? 何かボロついてる?
壁を触るとボロボロ崩れた。
「堅めの素材に変換したとは言っても、土魔法で作ったものだしなぁ……」
建てた頃は、気温が推定四百五十度以上と超高温だったからダメージが酷いのかも。
樹魔法で補強してあるとは言え、鉄骨とか入ってるわけでもないし、耐久性はかなり弱いと言わざるを得ない。
「とりあえず補修しておくか」
ひび割れを土魔法で修復した。
◇
しかし、その翌日。
昨日修復した場所とは違うところが崩れている。
「あれ? また崩れてる」
何年も生活できるイメージで作ったはずだけど、私は建築関係に明るくないから明確にイメージ出来てなくて脆いのかもしれない。
トロル集落の避難所も急拵えで作ったけど、すぐダメになりそうだ。早いうちにちゃんとした新しい家を建ててもらうよう伝えておかないと。後々は鉄筋が入った家にするとして、とりあえず崩れることだけはないように、樹魔法多めで補強しておこう。
私は家が崩れた程度では傷一つ負わないから良いけど、トロルたちは下手したら圧死する可能性がある。
「これは建築技術がある人に頼まないとダメかもしれない……」
物を作ることに秀でる幻想世界の住人って言ったら、ドワーフが有名だけど……魔界にドワーフに当たる種族っているのかしら?
もし居たとして、どうやってコネを取り付ければ……
でも、いるかいないかわからない種族のことを考えるより、今日は集落との距離の問題を解決しないといけない。
私が歩いて十二時間だったから、距離で考えれば多分五十キロほどの距離。
これを何とかするには、やはり空間魔法による空間転移。
空間魔法と言うのは、その名の通り空間に干渉する魔法。
昨日トロル村へのお土産のガルムを収納したアイテム収納の魔法は、目の前の空間に穴を開け、この世界とは別の異次元空間に新たな“物置のような空間”を作り出し、そこに物を収納するイメージで作り出した魔法。
しかし今回は物置ではなく、通り抜けることを目的とした、言わばドアのような構成で空間干渉能力を使う必要がある。
要するに、地獄の門前広場から五十キロ離れたトロル集落へ一瞬で移動できるようにしたいわけだ。
「空間魔法は昨日ガルムを収納するのに使ったけど、まだ自分自身がくぐったことないから恐いのよね……」
空間に穴を開けてみたまでは良いけど、くぐってみたら全然違う場所に出たとか、異次元に閉じ込められて出られなくなるとかあるかもしれない。
特に後者だった場合、最悪誰にも見つけられることなく死に至る可能性も……
「………………実験してみよう」
というわけで庭に出る。
まずは自分の目の前の空間と、横に五メートルくらい離れたところの空間に穴を開けようと思う。
オルシンジテンによると空間魔法の理論上は、何も無い空間に通り抜けられるような穴を作ると、入口と出口の二つの穴が両方同時に現れる……らしい。
この時に目の前に穴を開けたと同時に、あっち側 (私の五メートル横)に穴が開いてくれれば、この穴が通り抜けられるであろう信頼性はかなり高い。
この理論でとりあえず自分の目の前の空間に穴を開けてみる。
横を見ると、同時に穴が開いた。
「空間に穴を開けるところまでは成功ね、我が家を背にしているはずなのに、私側の穴から我が家が見えるからくぐっても多分大丈夫だと思うけど……念には念を入れて、次の段階」
目の前にある空間に開いた穴に石を投げこんで、五メートル横にある空間に開いた穴の方から石が出てくれば成功だ。
ソフトボールくらいの大きさの石を持つ。
「よっと!」
空間に開いた穴に軽く投げ込んでみた。
どうだろう?
五メートル横の空間に開いた穴を見てみる。
「出てこないな……」
あ、そうか、穴と穴が直接繋がってるから、投げ込んですぐ横を見ない間に合わないのね。この横の空間穴付近に転がってる石のどれかは、もしかしたら今私が投げた石かもしれない。
投げる石もソフトボールみたいな特徴の無い石じゃなくて、一目でそれと分かる、もっと大きめの変わった形のやつを投げよう。目立つやつの方が良いかも。
あ、これが何かちょっとだけ星型っぽくてちょうど良い変わり者なんじゃない?
二投目。
「ほっ!」
投げた瞬間に横の空間穴を見る。
投げた石が出てきた!
ちょっとだけ星型の石は地面に落下。
「やった成功だ! 一応腕を突っ込んでみようか」
他人が通れるようにしなきゃならないわけだから、自分の身体でも実験しておかないといけない。
「これ入れたらバラバラに分解されて異空間の彼方に飲み込まれるなんてことにはならないよね?」
とある漫画でそういうシーンあったな……敵の支配する亜空間に手を入れたら手の平から先がバラバラに分解されるシーン。
それを思い浮かべて背筋が薄ら寒くなった……
「投げ込んだ石はちゃんと出てきたんだから、手も大丈夫でしょう……多分」
恐る恐る右手を目の前の空間の穴に突っ込んでみると、横の空間穴から手が出てくる。
「ホッ……成功ね」
バラバラに分解されることも無さそうだ。
「でも、この現象……こっち側から手突っ込んでるのに、五メートルも離れたあっち側に自分の腕が見えてるって、何か奇妙な光景ね。」
試しに頭の中でグーパーグーパーとイメージしてみる。
五メートル離れたあっち側で、手がその通りに動いてくれた。
頭の中でキツネを作るイメージをしてみる。
五メートル離れたあっち側で、手がキツネを作ってる。
私が頭で考えてる通りに手が動いてるから、あれは紛れも無く私の手だろう。タイムラグも無い。
じゃあ、この空間穴を集落に繋げて……
と思ったけど、これずっと空間に穴開いててくれるのかしら? もし通過している間に閉じちゃったりしたら……身体が切断されちゃうこともあるかもしれない!
下手したらギロチン状態に!!
「そう考えると、魔力が切れた時の実験もしておいた方が良いかも……」




