第233話 気温の変動に各国驚愕!
「では、提議へと話を戻したいと思います。各国中立地帯へ駐在員を置くという考えで異論はないでしょうか? 異論がある方は挙手をお願いします」
……
…………
………………
カイムが質問するも、誰も異論を唱えず。
「特に異論も無いようなので、これにて決定とさせていただきます。では、退出された火の国、氷の国を除き、他の五大国は中立地帯に駐在員を置くことと致します。その際、建設費用、建設作業員などは大使館を置く国から支出・派遣ということになっております。ただし、火の国、氷の国が後々加わる意思を示した場合はこれを含めることとします。よろしいですかアルトラ様?」
「……はい、特に異論はありません」
「アルトラ様からは、五大国へ駐在員を派遣していただき、各五大国にも大使館を建てていただきますが、それもよろしいですか?」
え!? あ、そうか、こういうのって相互なんだ!
でも、頭が良くなってきたとは言え、私の町で大使が務まるくらいのトロルが育っているのかしら?
建設費用も……? そんなの町としてようやく機能し始めてきたアルトレリアにあるわけがない。
しかし、この場で拒否するわけにも……
「……は、はい、異論はありません。ただ……中立地帯は最近ようやく少しだけ豊かになってきたところで、外国へ大使館を建てる金銭的余裕はありません」
「そうでしたか。では皆様、一時的に各国でその費用を拠出するということにしてはいかがでしょうか?」
「異論なし」
「異論ありません」
「問題はありません」
「……問題ない……」
「問題無いで~す」
「では、五大国も承認していただけたということで、アルトレリア大使館建設費用に関しては、一時的に各国の負担といたします。財政が潤い次第、返却としてください」
「わ、わかりました」
何コレ何コレ? すっごい大ごとになってるんじゃないの!?
私は『中立地帯を自由に開放するようにしてください』って言いに来ただけなのに、何でこんなことに……?
生前一般の会社員の私が、なぜか国相手に行われるような話されてるんだけど!?
それに、何でみんなこんなにスムースに事を運んでくれるの!? 中立地帯ってどこから見ても利用したいところなのかしら?
と、とりあえずまだ終わってないから、頭を落ち着かせよう。冷静に……冷静に……とりあえず一呼吸。
「すぅ……はぁ……」
「アルトラ殿、大丈夫ですか?」
「はい、ちょっと突然のことが多過ぎて混乱しまして……もう大丈夫です。駐在員の話ですが、もう一つ不都合があります。大使館建設などの問題は今言った通りではありますが、現在の中立地帯は少々寒冷化してきているため、温かくなるまで猶予いただけると幸いに思います」
その一言を言った途端、再び場が騒然とし出す。
「かんれいか?」
「『かんれいか』とは何のことでしょうな?」
「確か……この冥球でも大昔に太陽が見えなくなった時に起こった現象だった気がします。あの頃多くの生物が死に絶えたとか」
「アルトラ殿、『かんれいか』って何ですか~?」
それを聞いていたトライアが直接疑問を口にする。
あれ? 何か口調変わった?
「『寒冷化』というのは徐々に寒くなることで、今アルトレリアは寒くなってきているのですが……」
「寒く? “なってきている”とは、気温が変わってきているということですか~?」
「? そうですが、それがどうかしましたか?」
疑問を口にしたトライアだけでなく、他の魔王・魔王代理全員が呆気に取られている。
私、何かおかしいこと言ったかしら?
「この冥球で気温が変わるところなどあるのですか!?」
アスタロトが他の魔王・魔王代理に先んじて疑問を口にする。
「気温が変わることがおかしいんですか?」
「こ、この冥球で気温が劇的に変わる地域はありません。日々の変動幅はせいぜい三度から七度ほどです。数十度の変動幅のある地域など存在しません。熱い場所は年中通して熱いまま、寒い場所はずっと寒い状態が続きます。そのためその地域に合わせた進化をした生物が多いのです」
え? 冥球って気温の変動が起こらないの!?
私が無理矢理気温を下げたからイレギュラーな地域が出来ちゃったってことなのかしら……?
カイベルが小声で補足説明してくれる。
「闇の帳によって閉ざされたこの常闇の冥球では、本物の太陽の光や熱がほとんど届かず、太陽による熱の影響が薄いため気温の変動がほとんど無いのです。アルトレリア近辺は、アルトラ様が無理矢理降らせた雨と、疑似太陽に付与した長時間放射される熱によって、気候が変化する現象が起こったのではないかと考えられます」
「だとしても何でアルトレリアだけなの?」
「“現状は”アルトレリア周辺だけに留まっているのではないかと。今後何年何十年もかけて徐々に別の場所も気候変動が起こってくるのではないかと推測されます」
「それに、太陽が無かったら氷河期みたいに星全体が寒冷化するんじゃないの?」
「それももう数千年前の話ですので、この星の皆様の努力があったのでしょう。太陽の熱が届かないと言っても、ここには『魔法』という便利な能力もありますから熱を生み出すのに、地球ほど苦労することもないでしょう」
意図的に気温を下げるように動いていたけど、まさか気候まで変動させてたとは思わなかった……
「と、とにかく寒くなってきているのは事実なので、温かくなるまで猶予していただけるとありがたく思います」
「我々にとっては信じられない話でしたが……皆様、いかがでしょうか?」
「これは俄然興味が湧きましたね~。気温にそんなに幅があるなんて経験してみたいです~!」
と言うのはトライア。
「しかし、そうすると、暑い時があるということなのですか?」
とアスタロトに質問され、私がそれに答える。
「はい、今より三、四ヶ月ほど前は、暑い気候でした」
「「「「「おお~~……」」」」」
それを聞いた魔王・魔王代理全員がざわめく。
「中立地帯は、以前は灼熱の土地だったと記憶していますが……時期によって温度が変化するなど……不思議な気候の土地になりましたね」
元・地球人の私からすれば全く不思議ではないんだけど……
「最近ちょっと雨が増えた時があったんだけど、もしかしてそれも関係ある?」
「……私のところも少し雨が増えた時があった……」
さっき会談パートの時に雨が増えたって話し合ってたな。水の国、雷の国、風の国は雨が増えたって言ってたっけ。
やっぱり他の地域にも影響出てる……?
こ、ここは謝った方が良いのかな……? でも私が原因って言ったら「何やったの!?」と当然のことながら突っ込まれるだろうし……現状は黙秘が最善かな?
「不思議ですね~、ある地域では雨が増えて、ある地域では寒冷化?とかいう状態になっていて」
「しかも、寒暖の差が激しいのは中立地帯だけだと言う……太陽が出現したのも中立地帯……ガラリと様相が変わった中立地帯周辺の環境……」
「そして、突然出現したアルトラ殿」
うっ……トライア、アスタロト、ヴェルフェゴールからの疑問だらけの言葉。直接質問されていないにも関わらず、尋問されている気になってくる。
思わず下を向いてしまった……魔王・魔王代理の視線が突き刺さるのがよく分かる。上を向くのが怖い……
背中がうすら寒くなる。冷や汗も出て来てしまった……
「アルトラ殿、もしかして一連のことについて全部繋がっているのではありませんか?」
遂にアスタロトに直接質問されてしまった……
「さささ、さあ? わわ、わた、わたくしには分かりかねます……」
これじゃバレバレの態度じゃないか!!
でも、誰が信用できて、誰が信用できないか、現時点ではわからないから知られるのは危険な気がする。怪しい態度であったとしても、知らぬ存ぜぬを貫き通さなきゃ!
とりあえず一番危険そうな、ルシファーとサタンはさっき出て行ってくれたから良かったけど……
「ふむ、まだ話したくないようなので、この場だけでも“関りがない”ということにしておきましょうか」
助かった! ヴェルフェゴールの一言で、この場はとりあえず有耶無耶ということになった。
恐らく、今後個々に突っ込まれることがあると思うけど……
それにしても何だかこのご老体には見透かされているような気がする……
以前は中立地帯の灼熱の気候で、水蒸気が出ないように蒸発していたけど、それが無くなったから雨雲が流れて行くようになったのかもしれない。これ以上の影響が出なければ良いが……
最近水律の木を作ったし、多分それほどの影響は今後出て来ないとは思うけど……
正直言って、こんな展開になるとは思いませんでした……orz
ドウシテコウナッタ……?
大使館なんてどう書けば良いの?(笑)
でも国と考えるなら大使館って必要なものなんですよね?
いつも通り、あまりにもおかしいところがあったら指摘お願いします。
次回は7月9日の20時から21時頃の投稿を予定しています。
第234話【次回の会談予定】
次話は明日投稿予定です。




