第21話 突然の領主就任
「みんなにご相談です!!」
リーヴァントが突然大声で話し出した。
「アルトラ様にこの村の長になっていただくというのはどうでしょうか?」
なぬ!?
私!?
「ちょ、待っ……私は村長なんて――」
「おお~それは良い考えだ!」
「アルトラ様に村長になってもらえば何も心配無い! 何せ我々が頭良くなったのはアルトラ様のお蔭だ!」
「アルトラ様ステキです!」
「いや、私は村長なんてやらな――」
「「「ア~ルトラ! ア~ルトラ! ア~ルトラ! ア~ルトラ!」」」
突然村長に祀り上げられてしまった!
私の否定しようとする声は村一丸となった声にかき消される!
「みんな待って!!」
そして私はその騒ぎを大声を上げてかき消した。
「本来の村長がいるでしょう? 突然現れた異種族が代表だと、そのヒトは納得しないんじゃないですか?」
「その点は大丈夫です!」
リーヴァントが再び口を開ける。
「一応私が村長のようなものですから」
「え? あなた村長?」
ず、随分若い村長だわ……どう見積もっても三十代そこそこ。まあ世の中には十八歳の市長とかも存在するし、三十代で村長もおかしいことではないか。
幻想世界の住人だから見た目より年行ってるのかもしれないし。
「ですので村長をアルトラ様が担って下さるなら文句の付けようがありません! 長老もそれで構いませんね?」
あ、長老ってのは別に居るのね。それでもリーヴァントが村長を担ってるのか。
「お前がそう言うなら構わんよ」
という、年長者のお許しが出てしまった……
「そういうわけですので、村長をお願いできないでしょうか?」
今まで係長くらいしかやったことないのに、突然の村長!? そんな重い仕事やれる自信などまるで無い。
それに、そんな村の代表なんていう重要なこと軽々に決めて良いんだろうか? 私は部外者も部外者、しかもついこの間まであなたたちの捕食の対象だった生物よ?
この村があまりに極貧に見えたからちょっと手助けしてやって、『あとは村人たちで自主的にリーダーを決めて、勝手に進歩していってくれ』、『私はその進歩していく様を外から傍観させてもらうよ』とでも思っていたくらいで……
まさか村の多くの者が、よそ者の私が村長になるのを賛成する構図になるとは……
「いかがでしょうか?」
念を押すように問いかけられた。
「………………」
でもまあ、ここで快適に暮らすと決めた以上、他の部分も快適でなければならないわけで、考えを通しやすくなるなら、それもありなのかもしれない。
「………………わかりました、やります。ただ、村長はリーヴァントが担ってください。私は元々村民でもなんでもありませんし、生活の改善案は出させていただきますが、村全体の決定は基本的にリーヴァントにお任せします。私もサポートはしますので何か困った時にだけ私を頼ってください」
「わかりました。村長より上の階級を知りませんので、何とお呼びすれば良いでしょうか?」
どうしても私を上の階級に据えたいらしいな……
基本的な決定はリーヴァントがやってくれるって言うし、それくらいなら乗ってやるか。
それにしても、この辺りって灼熱の土地だったからなのかトロル族以外は住んでいないようだし、『領地』みたいな概念が無いってことなのかな……?
ってことは私がこの辺りを治める初めての人物ってことになるのか?
じゃあ――
「領主と呼んでください」
「「「おおぉ~~~」」」
「「「領主様! 領主様! 領主様! 領主様!」」」
この集落の人たち、盛り上がるの好きだな。
知性を上げる前はあまり覇気のある生活ではなかったように思うけど……元々覇気が無かったからその反動とかかしら?
「さて、私は目的を果たしたので、今日はこれで帰ります」
「もうお帰りになるのですか? よろしければ食事でもいかがですか?」
リーヴァントに呼び止められる。
う~ん……まだまだ未発展だしなぁ……偏見かもしれないけど、食事はきっと……美味しくない。
それでも好意を向けてくれてるし……領主になったばかりだし、無下に断るのも悪いか。
「じゃあ、お言葉に甘えていただきます。それよりも……リーヴァント、あなたそんな見た目だったっけ?」
「知性が上がったことによって、恥をという感情が芽生えたので身だしなみを整えることを覚えました。何と言っても正式にリーダーに任命されましたので!」
ドヤ顔で話す。
最初に遭った時は恐いとしか感じなかったけど、スマートになってイケメン……とまではいかないけどそれでもハンサムガイになった。
まだ建築中の公会堂のような広間に通された。
振舞われた食事は、予想した通りガルムの肉でした。
まあ、そうでしょうね、私まだ食に関して何にもしてないしね。今日はただ水持って来ただけだし。
あ、でもちゃんと塩味効いてて美味しい。こっちはさっき干してあった干し肉かな? この土地かなり乾燥してるし、干し肉を作るには最適な環境ね。
何か食べたことない肉もある。
「この肉は? この辺りでは食べたことない肉みたいだけど……」
と言うか、私は魔界に来て、肉はガルムの肉しか食べたことがない。
ガルムの肉は頭の先からつま先まで食べ尽くしているから、これがガルムの肉でないことくらいはすぐ分かる。 (頭は後々食べられるようになった)
「それはこの壁の外にいる、狼より強い魔物の肉です。狼の倍ほどの大きさで、『豚』と言う特徴的な鼻をしている生物です。元々ここから大分離れたところに生息しておりましたが、最近熱さが和らいだので、この辺りにも流入してくるようになりました」
もし地球の豚に似てるなら養豚出来るかも?
「以前は単身で挑んでいたので簡単には勝てなかったのですが、アルトラ様に覚醒させてもらってからは共同で狩りを行うという戦法を編み出したので、難なく狩ることができるようになりました」
連携するようになったってことか。
ここに来て知性引き上げたのがすぐに役立ったのかも。
我ながら凄い力だな、知性上昇の強化魔法。
「肉ばかりだから野菜と主食が欲しいわね」
「それは……この辺りにはありませんので、どうかご勘弁を……」
「あ、責めてるわけじゃないの、ごめんね」
「でも、この塩味美味しい。よく塩なんて手に入ったね」
その話を聞いていたのか、三人の男たちが突然やってきた。
「ハイ!! それは我々が頑張って作りました!!」
「サントスです!」
「ニートスです!!」
「そして私がイチトスです!!!」
満を持したように登場のトロル三兄弟。
多分『イチトス』が長男なんだろうな。
何と言うか……『サントス』ありきの名前な気がする……『イチトス』とか『ニートス』とか人間界で聞いたことないし。
他の人たちと比べると筋肉質だ。四日前はまだあんなに栄養失調気味だったのに、トロルの生態って凄いな。
「作ったってどうやって……?」
ハッ!
何か嫌な予感……
「ハイ!! 一生懸命汗を流しました!」
「掘っては汗を流し! 砕いては汗を流し、そして塩が完成しました!」
「ってことは……この塩味……トロルの汗……か?……」
うわぁっ……聞かない方が良かった……
私の顔がよほどしかめっ面に見えたのか、すかさずリーヴァントがフォローを入れてくれる。
「何か勘違いされているようですが、塩で出来た岩を砕いたものですよ?」
「塩で出来た岩? この近くに岩塩があるの?」
ホッ……完全にトロルの汗と勘違いした……
ていうか、三兄弟、言葉が全然足りてないよ!
イチトスが塩について説明してくれた。
「少し遠出になりますが、塩の採れる場所があるのです。知性が低い頃には、ただ白い岩が多い場所としか思っておりませんでしたが、知性を得てからは食事に使えるかなと。知性を引き上げてもらった恩がありますので、次にアルトラ様がいらっしゃる時までに採りに行ってこようと思った次第です!」
「あ、ありがと……」
塩の製造が出来るなんて朗報ね!
今まではほとんど味のしない肉を食べてたから。
「さて、外も暗くなってきたしこの辺りでお暇させてもらうね」
「もうお帰りですか?」
「うん、ご飯ごちそうさま、美味しかったよ」
「それはそれは良うございました」
「私はケルベロスがいる地獄の門前広場に家を建てて住んでいますので、何かあれば呼びに来てください」
こう言っておけば、何か不都合があった時に連絡してくれるだろう。
まあ、ここからだと我が家まで歩いて何時間もかかかる道のりだけど……
「あ、最後に言っておかないといけないことがあります」
「何でしょうか?」
「今後は人間 (の亡者)を食べることを禁じます。地獄に送られるような人間なので、恐らく重罪人なのでしょうが、迷っているのを見つけたら食べずに、私の家がある地獄の門へ送ってきてください。ここに来てすぐの人間はみんな表情が虚ろなので、多分抵抗されることも無いと思います。また、今後人間を食べた者には罰を与えます。集落のみんなに伝達しておいてください」
「わかりました」
これで私の溜飲が下がる。元々私が人間だった所為か、弱肉強食とは言え、彼らが人間を食べるという部分にはモヤモヤしていた。これでこの人たちに人間 (の亡者)が食べられることはなくなると思う。
さて、この村に必要だった水も確保出来たことだし、今後は彼らの生命が脅かされる可能性はぐっと減ると思う。
ここで生活する以上、彼らの生命を守ることに尽力しよう。
しかし、私はこの時にまだ気付いていなかった……
この後あんなことが起こることになるとは……




