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第211話 通貨制度開始に際しての売買訓練 その1

 そして始まった、売買の訓練。


「さあ、いらっしゃい!」


「こんにちは、アルトラ様。これが『店』というものですか?」

「そうそう、置いてある品物の中から、欲しい物を選んで私のところへ持って来て。私のところで会計してもらうから」

「『会計』って何ですか?」

「お金を払うことかな」


 それを聞いた後、トロル複数人が簡易商店の中に入り、品物を見て回る。


「作物ばかりですね」

「まあ、メイフィーからお礼で貰ったものが多いからね。野菜以外なら……じゃあ、そこの肉とかどう? カトブレパスのお肉よ?」

「え!? いつかのあの美味しい肉ですか!? 百グラム八百六十四イェン……私たちにはこれが高いのか安いのかわからないんですけど……?」

「大分お高めかな」


 一般庶民からすれば、日本で百グラム八百円なんて手が出ない。確実に素通りする金額だ。


「そうなんですか? じゃあもうちょっと安くならないですか? 現状二十万イェンしかないですし」


 初の買い物客がいきなり値切りにキタ!


「でも、この生き物(カトブレパス)は、捕えにくくて、珍しいからね。これでもまだ安いくらいよ? じゃあ他の(イクシオン)肉とか(デンキヒツジ)肉とかどう?」


 カトブレパスはここでは滅多にお目にかかれない上に、一般人には倒しにくく、更に亜空間収納ポケットにはもう既にこれの二分の一体分くらいしか残っていない。それに付け加えてこれがどこで捕獲できるのかすらわからないから、本当なら百グラムでも三千イェンや五千イェン付けたいところである!

 まあ……捕獲場所については、カイベルに聞けば即座にわかるとは思うけど、そこまでして捕獲に行ったりはしない。衣食足りてる今、こちらから無闇に狩りに行くこともない。羊? 狩りではなく刈りに行ったのでセーフ……!


「馬肉に羊肉ですか……う~ん……」


 どちらも百グラム五百から六百イェンほど。

 これでも高いのかな? この子は溜め込みそうな感じね。


「じゃあ、俺が買いたい! 二十万イェンもあるしな!」


 こっちはちょっと危機感が足りない!

 でも、あなたは超お得にこのお肉を買おうとしている!


「ああ、買いたいならどうぞお譲りします」

「良いのか?」

「高級って言ってましたし、私はもう少し慎重にお金を使おうと思いますから」

「じゃあ、アルトラ様、千イェンで良いですか?」

「はい、じゃあ百三十六イェンのおつりね」


 生産されたばかりの金ピカの硬貨を渡す。

 紙に書いての計算は面倒なので、レジはドワーフさんのところから借りた。


「おお、これがアルトレリアで作られた硬貨ってやつですね! 初めて見ました!」


 「硬貨を初めて見た」これには理由があって、配った給付金は――


  ・一万イェン ――  五枚

  ・五千イェン ――  十枚

  ・二千イェン ――  十枚

  ・ 千イェン ―― 八十枚


 ――の紙幣四種類で合計二十万イェンのため、硬貨は配っていない。

 そのため、住人が硬貨(これ)を見るのは初めてってことになる。


「…………これってどう見たって、紙幣より硬貨(こっち)の方が高価そうに見えますけど……ホントに紙幣の方が価値があるんですか?」

「まあ、お金ってそういうものだから。その硬貨をジャラジャラ沢山持ってたら重くてしょうがないでしょ?」

「な~るほど~! 確かに持ち歩くなら軽い方が良いですね!」

「あと、注意しなくちゃならないのはこれらのお金は“この町(アルトレリア)でのみ”価値があるってだけだからね。他の町や国に行ってそれ使おうとしても、ただの紙切れとただの金属だから」

「え!? これって他の町では使えないんですか!?」

この町(アルトレリア)独自のお金だから他に行って使おうとしても、おもちゃだと思って嘲笑されて、バカにされるだけよ。ちなみにこの町の外でなら硬貨の方が価値がある。硬貨の方なら安い額で売れるかもしれないね」

「そうなんですね……わかりました」


「こっちのお肉は何ですか?」

「あなたたちがいつも食べてるもの」

「ガルムですか? あ、よく見たら下に値段が書いてあった」

「そう、その隣がピビッグ」

「百グラム五十四イェン……アルトラ様……ガルムでお金取るんですか?」

「……売買ってそういうもんだけど?」

「だって、こんなのちょっと町の外へ出れば、お金出さなくてもガルムそのものが手に入るじゃないですか!」


 元々が狩り・物々交換の文化だから、ガルムを、しかもそのたった一部分を買うためだけに手持ちが減るのがイマイチ納得できないらしい。


「まあ、それを個人でやれるならそれをやれば良いと思うよ。自分で狩る分にはお金もかからないしね。『五十四イェン』ってのは獲って来てもらった手間賃みたいなものかな。売ってる物を買えば、狩りに行く時間を節約できる、その手間賃」

「手間賃ですか……」

「その手間賃さえ払えば、狩りに行く時間は自分が好きなことをする時間に早変わり~」

「なるほど! そう考えるとガルムにお金払うのも惜しくない気がします!」


「それで、何でカトブレパス(あっち)の肉とガルム(こっち)の肉でこんなに金額が違うんですか?」

「一般的にみんなが欲しい物、珍しい物ほど高めの金額になるのよ。カトブレパス(あっち)の肉はガルム(こっち)の肉より美味しいでしょ?」

「味は比較にならないですね。カトブレパス(あっち)の肉食べると、ガルムが硬く感じます」

「それでいてカトブレパスは手に入りにくい。となると、必然的にカトブレパス(あっち)の肉の方が高くなるわけよ。あと『倒しにくさ』とかも高価になる要素かもね」


 地球では、『倒しにくさ』なんて要素は……多分無かったと思うけど……


「あ、気に入ったからって、勝手に持ってくのは当然ダメだからね」

「そりゃもちろんですよ~、みんな分かってますって~」

「それなら良かった。もしそんなことがあったら処罰しなきゃいけなくなっちゃうからね」


 実際、この町での盗難や窃盗の被害は驚くほど少ない。流石に全く無いとは言い切れないところではあるけど……

 元々文化的な生活をしていないのに善悪の分別が付いてるのが不思議なところだが、それが元々の彼らの性質なのか、それとも『永久的知性(エターナル・ハイ)上昇 (大)(・インテリジェンス)』の副次効果によるものなのかはわからない。

 実際、自分一人で入手できるものを売ってたりすると、それに対してお金出すのを渋ることはあるかもしれませんね。現実ではそんな場面に遭遇するのは稀だとは思いますが。

 まあ、私は54円でやってくれるなら絶対やってもらいますけど(笑)


 次回は6月3日の20時から21時頃の投稿を予定しています。

  第212話【通貨制度開始に際しての売買訓練 その2】

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― 新着の感想 ―
[良い点] いい感じで「取引」してますね。 肉は肉でもおいしいものは高いと認識できたようですし、 「時間に対する手間賃」というのはすごくいい例えだと 思いました。 自分で取ればお金はかからないけど、時…
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