第201話 アルトラ宅のクリスマスとサンタ
「今日はご馳走だっテ?」
「うん、そうだね、ローストチキンとビーフシチューよ!」
厳密に言えば料理はロースト“チキン”ではない。
まだ食用の鳥がいないこの町でこの料理が食卓に上がったのには経緯がある。
クリスマスイブだからと、アクアリヴィアへ買い出しに行ったところ、珍しくコカトリス (※)の一部分が市場に並んでいたため買おうかと思ったが、ヤバい生物で捕獲が困難とのことで、少々お高めのお値段だったため諦めた。
(※コカトリス:ニワトリに蛇の尻尾とドラゴンの羽が付いたような姿をしており、毒ガスを吐く)
何でも、鳥のところと蛇のところとドラゴンのところが一緒に獲れるお得な食材とか。
私としては蛇とかドラゴンの場所は別に食べなくて良いからもっと安いのが無いか聞いたところ、コカトリスの亜種のニワトリスとか言うのがいるらしい。これはコカトリスの毒性の弱いもの同士を交配させてできた、毒を全く持たないコカトリスなんだとか。
養殖用に作り出された品種で、交配が進むごとにドラゴンのような羽、蛇の尻尾、そして毒性が退化していったそうだ。ニワトリが魔界にいるかどうかは分からないが、名前の中に『ニワトリ』なんて単語が含まれてるくらいだから、きっと魔界にもいるんだろう。見た目はニワトリと大して変わらない。違うのは体格が少し大きい程度。
本来のコカトリスの原型種は体高二メートル以上あるらしいけど、長い年月をかけて小さいもの同士、毒性の弱いもの同士を交配させて、養殖に適した品種を作り出したとか。
が、これについても、今日がクリスマスイブということで、既に出荷が終わっていて手に入らなかった……
そこで、今度はサンダラバードに目を付けた。あの鳥なら一メートルくらいの大きさだから申し分無い。
雷の国に行き、雷の国首都上空にわんさか居たサンダラバードを捕獲して良いかアスモに訊ねたところ、「……少数なら良い……でも、あれ獲るくらいなら、市場に似たようなのが売ってる……」とのことだったので、市場を見に行ったところサンダラバードの肉が普通に並んでいた。
ただ、これもニワトリス同様養殖用に作り出された品種らしく、長い時間をかけて雷を蓄えるのが少ない者同士を交配させて、ほとんど雷を蓄えない種類のサンダラバードを生み出したとか。
区別するために『サンダラバード・ゼロ』の名前で呼ばれていた。業者の間では略されて『サゼロ』と呼ばれているらしい。略し過ぎな気はするけど……
やっぱりどこの国も、何とか食べ易いように工夫して、養殖に適した品種を作り出してるみたいだ。
ビーフシチューについては、まだまだ亜空間収納ポケット内に残っているカトブレパスの肉を使ってもらった。
そういうわけで、今年我が家で出されたこの鳥はローストチキンならぬ、『ローストサゼロ』、牛はビーフシチューならぬ、『カトブレパスシチュー』ってことになる。
デザートのクリスマスケーキについても、カイベルに生クリームをふんだんに使ったケーキを作ってもらった。
もちろん卵も牛乳も買い出しに行って買って来たもの。
イチゴでサンタの飾りが作られている。
町のみんなには少し悪い気がするけど、今日我が家は豪勢に頂く!
◇
クリスマスということで、全員サンタの帽子を被る。
「これって何の意味があるんダ?」
「う~ん……雰囲気? クリスマスはこういう格好する、みたいな。私の故郷では毎年この時期にこんな格好の人で溢れるよ」
「ふ~ん、そういえば今日町で何人か見たナ! 子供用は無いのカ?」
「着てみたいの?」
リクエストにお答えして、子供用のサンタ衣装を創り出す。
「どうダ?」
「良いね! 可愛い可愛い!」
「じゃあ、明日見せびらかしに行ってくル!」
「じゃあコレも付けて」
「何だコレ?」
「付け髭」
「何デ!?」
「サンタさんって白い髭が生えてるもんだから」
素直に付ける。
「どうダ?」
「良いね! 可愛いよ!」
「ホントカ?」
鏡を見に洗面所へ向かった。
実際のところは髭無い方が良いな……
「アルトラ様、こういった日でもお酒は飲まれないのですね」
「基本的に好き嫌いは無いんだけど、お酒飲み始めて初期段階のあの胸が熱くなる感覚があまり好きじゃないのよね……そこを突破してしまえば気にならなくなるんだけどね。それにどれだけ飲んでも全くと言っていいくらい酔うことは無いし、それならジュースで良いかなって」
そういうわけで、ついでにジュースを買ってきてある。
これならリディアも問題無く飲めるし。
「じゃあ、いただきましょうか」
「「「メリークリスマ~ス♪」」」
「おぉ! このジュース、シュワシュワしてて美味いナ!」
炭酸技術の無いこの町では、果汁のジュースはあっても、まだ炭酸飲料が無い。
味わったことが無いのどごしを楽しむ。
「リディア、食べる前に髭外して。汚れるよ」
もう既にジュースでちょっと濡れちゃってるけど……
「カイベル、チキンもシチューも美味いゾ!」
パンが置いてあるものの、ご飯も炊いてもらったので、私はローストチキン、ビーフシチューをおかずにご飯を食べる。
「何だか……ミスマッチな食べ方ですね……」
カイベルに苦言 (?)を呈されるが――
「良いの! 私は日本人なんだから!」
ご飯を主食に、チキンとシチューをおかずで食べるのが美味しいのよ!
そして、食後はデザートにクリスマスケーキを頂く。
「アルトラ! コレ、普段食べてるケーキと全然違うナ! この生クリームってのが美味イ!」
こういう話を聞くと、卵と牛乳って大事なんだなと実感する。
そんなこんなで夜は更けて行き……
◇
その日の深夜――
リディアはすでに就寝。
ここからやっとクリスマスの計画を実行に移す。
ハロウィンの時同様、お菓子を創成魔法で作り出す。
今回はサンタブーツにお菓子を詰め込んだものを作った。チョコレートやクッキーを主に詰め込む。もちろんキャンディケイン、ジンジャーブレッドマンも入れた。
「そろそろみんな寝静まったかな?」
私だとバレないように、サンタ服に白い付け髭を付ける。
そして、人員を増やすためスキル『分身体』を使い、分身体を出現させる。
「じゃあ、私は第一地区の東の端から中央へ向けて配るから、分身体は第二地区の西の端から徐々に中央に向かってお願い」
「了解!」
子供の住んでいる場所はあらかじめ調査済み、カイベルが。
印刷してもらったマップを頼りに、そこへ行ってプレゼントを置いてくるだけのお仕事だ。
分身体と共同で配れるように、ちょうど半分ずつになるようにマップを色分けしてもらった。
「あ、ちょっと待って一応バレないように魔力遮断をかけておく」
私と分身体に『魔力遮断』をかける。
寒いから恐らく外には出てないとは思うけど、鉢合わせた時のためにフレアハルト対策をしておく。たまに予測できない行動を採るから万が一と言うこともあり得る。
サンタクロースの姿をしていても、フレアハルトたちとリディアには魔力で即座に私だとバレてしまうけど、魔力の漏出を防ぐこの魔法をかけておけば魔力感知が得意な者にも私だとバレることはないと思う。
「あと不可視化も――」
「それ使ったら私たちサンタの格好してる意味が無くない?」
「ああ、そっか。じゃあ魔力遮断だけで良いか」
姿はサンタクロースなので、プレゼント置いてる最中に万が一目覚めて姿を見られても大丈夫。
「よし、じゃあ配りに行こうか」
と、その前にまずはリディアの枕元へプレゼントを置く。
「メリークリスマス♪」
そしてプレゼントの入った大きな袋を肩に担ぐ。
「よし、じゃあ出発しようか、西側の端からお願いね」
「オッケー!」
「「じゃあカイベル、行ってくるわ」」
「いってらっしゃいませ」
◇
町の東側の端、一軒目の家に来た。
まず、『千里眼』で子供の寝ている場所を確認。
次にゲートで寝床へ転移。
この方法なら、寝てる場所を確認しつつ、気付かれることなくプレゼントを枕元に置ける。
「メリークリスマス♪」
この町の十五歳以下の子供は三百五十四人。 (カイベル調べ)
私と分身体で、一人当たり単純計算で百七十七人を配る計算になる。
現在深夜一時頃、みんな六時頃に起き始めると仮定し、気付かれないように五時くらいまでに配り終えることを考えると、あと四時間程度。
「一件当たり八十一秒か……」
まあ、子供が二人とか三人とか居る家もあるし、もう少し余裕があるでしょう。
次へ行こう。
◇
数軒侵入して気付いた。
ゲートって、いちいち空間に穴開けないといけないから転移するのに時間がかかるなと。
「一瞬で空間移動できないかしら……」
と、ちょっと思案したところ、一つとある漫画に思い至った。
魔界に来る前に読んだ『骸骨武者様、只今異世界へお出掛けしてます』という漫画。
あの漫画に『次元歩法』という空間に穴を開けなくても壁を通過できる移動方法が出てくる。
これを参考にしよう。
とは言え、空間に穴を開けずに壁を通過できてるとは思えないので、恐らく一瞬だけ穴を開けて移動しているんだろう。
多分『強制転移』の応用でいけるはず。自身に強制転移をかけて目の前に移動すれば良いのだと思う。
物は試し、とりあえず実験してみる。名前はそのままだとマズそうだから――
「次元歩行!」
無事、家の中に侵入できた。
よし! やった! 身体が感じる疲労を考えてもMP消費もゲートより大分少ないみたいだ。これで移動が楽になる!
おっと、ここで喜んだら起きてしまうかもしれない。
「メリークリスマス♪」
枕元にプレゼントを置いてすぐに立ち去る。
安全に食べようとするなら、やっぱり無毒化や無蓄電化は必須ですよね!
そして、髭付けたリディアをテキトーに褒めるアルトラ(笑)
次回は5月11日の20時から21時頃の投稿を予定しています。
第202話【アルトラサンタは大忙し】




