第193話 種族大移動
アルトレリアを襲撃に来たレッドトロルの中から、十人適当に選んで連れて来た。
ついでに交渉人として緑人って言われてたリーヴァントも。
「おお! お前たち! 無事だったのか!」
「他の者は無事なのか!?」
「みなアルトレリアという村にいますよ」
一応“村”から“町”に変わったんだけど、そこはツッコまず静観するか。
「一緒に来た緑人は誰だ?」
「アルトレリアで村長をやっている、リーヴァント殿です」
「リーヴァントと申します」
村長ではないが……でも、今や役所長ってより、町長の方が相応しい気がするから、もう町長に据えようかな。
「アルトレリアには飢えないくらいの食べ物もありました! みんなで引っ越しましょう!」
「きちんと働いていただければ、こちらで生活と身の安全を保障致しますので――」
ジュゼルマリオとリーヴァントが村人たちに説明している。
………………
今、村人たちの後ろから、ゲートで村に戻って来た彼らを見てて思ったことがある。
さっき誰かが「操られてるんじゃないか?」みたいなこと言ってたけど、確かにこのシチュエーション、村側から見てると洗脳されて帰って来た人々を見てるみたいだわ……
漫画やアニメでよくある、悪者が村に帰って来た住人に言わせる「あの町は理想郷ですよ!」みたいな感じに見える。
私、別に間違ったことしてないよね? 引っ越させるのは間違ってるかしら?
気候は冬に向かっていると予想してるから、何としてもアルトレリアに連れて行きたいんだけど……
「アルトラ様」
「ん? なに?」
思案に没頭してたらリーヴァントから声がかかった。
「話が付きました、全員アルトレリアへ引っ越すそうです」
「もう!? 早いね! 誰もこの村に残ることはない?」
「はい、年齢が上の者ほど移動に難色を示しましたが、この地に残った時のリスクを話して何とか理解してもらいました」
「それじゃあ、アルトレリアへ帰りましょうか。全員そこの広場に集まってください」
ゾロゾロと広場へ移動。
「何でこんな広場に集めたんだ?」
「まさか、広場に集めて一網打尽?」
「え!? 嘘でしょ? 私たち今から殺されるの?」
「でも、それなら私たちなんで頭良くされたの?」
物凄い不安感感じてるのが見て取れるな……
「ゲートで帰るのではないのですか?」
「この人数だと通り抜けるのに大分時間かかるからね。別の方法で町からちょっと離れた場所へ転移させる。それにゲートだと多分最初は怖がって入ってくれない可能性が高いから、その分ゲートを開いておく時間が余計にかかりそうだし」
「確かに……空中に穴が開いてるところを、通ろうとするのはかなりの勇気が要りますよね……ましてや初めてとなると……」
広場へ移動したレッドトロルの集団に対し、超巨大スライム戦 (第74話参照)で使った、対象を強制的に転移させる空間魔法を使う。
「強制転移!」
レッドトロル四百人ほどを、黒色の壁が取り囲み、六面体が形成される。
以前の超巨大スライムの時は球体状だった所為かに床をかなり削ってしまったため、今回は六面体をイメージした。この形でも少しだけ地面を削るが、球体状にするよりはかなりマシだろう。四百人を球体状で転移させると、クレーター規模の大穴が開きそうだ。
「うわっ! 何だこの黒い壁!?」
「何するんだ!」
「いやーー!」
「キャーーッ!!」
六面体は一瞬で目の前から消失。
「おぉ……四百人も一瞬で……こんなことも出来たんですね」
「まあ、強制的かつ広範囲な分、ゲートよりちょっとばかし疲れるからあまりやりたくないんだけどね」
「最後叫び声とか聞こえましたが、大丈夫なんですよね?」
「もちろん大丈夫よ。さて、リーヴァント、私たちもゲートで追いましょうか」
◇
ゲートで、レッドトロルたちを転移させた場所へ移動してきた。
先に着いたレッドトロルたちは、突然変わった景色に狼狽え中。
「どこだここは?」
「あれ? 村はどこ? 村はどうなったの?」
「黒い壁が無くなったら突然別の場所に!?」
「あ、あの壁はなに!? あの中がアルトレリア?」
「みなさ~ん、こっち注目してくださ~い!」
「あ、さっきの人間みたいな人 (※)」
(※人間みたいな人:アルトラのこと。彼らには人間のように見えています)
「一瞬でこんなところに移動したのか?」
「こ、こんな立派な村に住めるのか!?」
「でも、一から住む家を作らないといけないんだろ?」
数人はこっちに注目してくれたけど、多くは全然こっちを見てくれないな……
「ジュゼルマリオ、まとめてもらえる?」
「はい。みんなこっちを見てくれ! アルトラ様がお話があるそうだ!」
同族の声だからなのか、すぐに場が静かになり、こちらに注目する。
「コホン、みなさん、ここが私の町アルトレリアです! みなさんには今後ここで生活してもらおうと思います!」
「それは良いけど、どこに住むんだ? こんなところへ突然連れて来られても、俺たちに家は無いんだが?」
「その点は心配ありません。私が何とかします」
「は? この人数を? 四百人もいるのに、全員に家を与えられるわけがないだろ! だいたいジュゼルマリオは何だ! いつからそっち側になったんだ!!」
ごもっとも……昨日今日知り合っただけのほぼ他人だしな……
「確かにそうですね……アルトラ様、私あっちへ行って良いですか?」
それ私に訊くか!?
「いや、あなたはこっちに居てくれないと収拾つかないから」
「わかりました」
主体性が無いのか、仲間想いなのか……まあそれは後々判断するとして――
「あの川の向こう側に、新たに村を作りますので、そこで生活してもらいます。その待遇に不満がある場合は元の村に戻ってもらっても構いません。その際はお送りします。とにかく数日間だけ様子を見てもらえないでしょうか?」
「不満があれば元の村に戻してくれるのか?」
「それなら数日くらいならここにいるか」
「でも、帰っても食べ物が無い暮らしに逆戻りするだけだよね?」
「それもそうだな……ここにいる緑人は俺たちよりよっぽど良い身体してるし、良い物食べてるんだろうなぁ……」
『数日様子見てくれ』、『不満なら元の村へ戻す』と言ったことによって、何とか突然連れて来られた現状の不満は静まったようだ。
しかし……私にとって大変だったのは、むしろここからだった。村探しで飛び回ったのなんて前座に過ぎなかったのだ。
◇
まずは巨大な一つの家を作って、とりあえずそこに入ってもらい、各家が出来るまでの仮の仮住まいをしてもらうことになった。震災の時の避難所のような感じと考えてもらえるとわかりやすいかもしれない。
私が家を作る数日間は、町の営みを見てもらうことにした。それに付け加えて各々の職業を体験するのも良いと、リーヴァント以下役所の方々、町の方々に案内や規則・ルールの説明、食事などの世話をお願いした。
そして、私はと言うと、レッドトロルたち四百人の家族形成を聞き取り、各家族で住める家を土魔法と樹魔法で徐々に拵えていく。
ただし、個々の家の強度はあまり高くないし、ただ四角い箱を置いたようなワンルームのみ。とりあえず雨風凌げ、多少の断熱効果がある程度という感じなので、今回作ったこれは仮住まいとして、早めにきちんとした家に作り変えてもらうようにしないといけない。
早く住居を用意してあげないといけないと思い、禄に休みも取らずに、家を作り続け、三日かけて現在アルトレリアの町のある川を挟んだ向かい側に百世帯ほどの一つの村が出来上がった。
そして、最後に簡易壁で、村全体を覆った。
カイベルが私の生命の危機を感じ取って様子を見に来た。
「スタミナがもう残り少なくなっているようです。これ以上魔力を使えばアルトラ様が死んでしまいます。今回はここまでにしておきましょう」
と言われた。自分ではどの程度スタミナが残っているのかわからないが、彼女が見る限り魔力は既にゼロ、スタミナもほぼすっからかんになっているのだろう。
実際、最後の方は、疲れと眠さでもうフラフラだった。
◇
こうして三日かけて出来上がった村を見たレッドトロルたちの反応は――
「「「………………!!!?………………」」」
全員がたった三日で現れた家に絶句。
「お、おいおい……たった三日しか経ってないのにホントに村が出来たぞ?」
「それも私たちが住んでたところより、よっぽど良い家だよ!」
「ど、どうする、このままここに住むか?」
「私ここの住んでも良いわ! 働けばちゃんとご飯食べられるって言うし!」
口々に驚きの声が上がるが、今の私は疲れからそれを聞く余裕も無い。
「あぁ……疲れた……」
「お……お疲れ様です」
「リーヴァント、後のことお願い……私は二日くらいガッツリ寝る……」
「わかりました」
「あと、ジュゼルマリオ……アルトレリアに襲撃に来た時にあなたがリーダーやってたみたいだから、あなたをアルトレリアの……え~と……」
眠さで頭が回らないな……
「あ~……とりあえず仮に第二地区としておこう。ジュゼルマリオをアルトレリアの第二地区の区長に任命します」
「私ですか!? 村には私より年長である長老方もおりますが?」
「……若い方が活動的で良いと思います。ただし、現在のところは仮決定なのであなたの働き次第では交代もあり得ます。がんばってください」
「わ、わかりました」
「……あと、村が一つ増えたから、元からあった町を第一地区に変更、リーヴァントも今後役所長兼区長に任命します」
「え!? 兼任ですか!?」
「……難しい場合はリーヴァントから誰かを指名してもらえるかしら? あなたの指名なら私も文句は言いません。ごめん、今は眠すぎて頭が回らない……」
「わかりました」
「……これについては、後々正式に決めることとしましょう。ふわぁぁ……では、私は帰って寝るので、あとの対応をよろしくお願いします……」
「はい」
この後、私は本当に二日間ほぼ起きずに寝続けたらしい。寝ている間、私宛てに来た雑事は全部カイベルが解決してくれたとか。
第二地区については、後々私が目覚めた後に報告を受けた。
リーヴァントの命でその補佐にと派遣されたルークと、ジュゼルマリオとで、第二地区をまとめ上げてくれて、規則やルールなども特にトラブル無く定着していきそうである。
最初こそ突然連れて来られて不満を訴えていたレッドトロルたちではあったが、考える余裕が出て来たようで、元々の村と比較して、きちんと食事も摂れて、住居も与えられ、古着やお下がりではあるものの着る服もあるということで、その後は特別不満も出ないそうだ。
グリーントロルとレッドトロル間で、まだまだ少し隔たりはあるものの、ギスギスしているというわけではないから今後仲良くなってくれると思う。
数日もするともう子供達は地区の隔たり無く遊ぶようになったらしい。
そういうわけで、アルトレリアの住民が一気に四百人程度増加した。
アルトレリアに第二地区ができました!
次回は4月22日の20時から21時頃の投稿を予定しています。
第194話【通貨制度の開始に向けた銀行員育成】