第17話 嫉妬の王襲来
我が家に帰ってくると、家の前に誰か立ってる。
「誰だろ? っていうか、魔界でトロル以外の人型の生物見るの初めてなんだけど」
地面に降り立ち、声をかける。
「あの……我が家に何か御用ですか?」
声をかけると、際どい格好のお姉さんがこちらを振り向いた。
「最近地獄の門付近に勝手に家を建ててるヤツがいるって聞いたから見に来たのよ」
こんな何も無いところでも噂話って広がるんだな……
それにしてもここって、やっぱり勝手に家とか建てたらまずいところなのかな?
「あなたがこの家建てた人? 家主?」
「はぁ……まあどちらも私ですけど……ここって家建てたらまずかったですか?」
「それは知らないわ。こんなところに家建てたやつ、私が生きてきた限りでは聞いたことないし」
まあ、そうですよね……普通は地獄の門の真ん前に家は建てないですよね……
「……まあ嫌な顔する国もあるでしょうね」
国? 何で国が関係あるんだろう?
「あなた人間? ……ではなさそうね」
私の背中と頭上に視線を送る。天使の輪と羽を見ながら、人間ではないと判断したようだ。
「輪っかと白い羽があるから……まさか天使? 輪っかのある生物なんて初めて見たわ。でも、その四枚の黒い羽は?』
あ、この人は隠してても見える類の人か……
「物凄い珍しいタイプの生物みたいね。人間の気配までするし、ここまで混ざってるのは見たことないわ」
私も私自身が何者か知りたいです。
「まさかと思うけど流石に死んでるなんてことはないよね?」
まさかのご名答……
「あら? でもあなたの魔力の波長、別の物が混ざってるけど私のよく知ってる人に似てるわ……三十年くらい前に不意にいなくなった魔王がいたのよね……それと似た気配がする……ってことは」
よく知ってる人に似てる? 私って魔界は初めてじゃないのか?
「……戻って来たのね、ベルゼビュート。お久しぶり、随分と可愛い見た目に転生したのね」
このナイスバデーなお姉ちゃんは何言ってるんだろう?
私がベルゼビュート?
誰それ?
「すみませんが、あなたはどなた様でしょうか?」
その瞬間に眉間にシワが寄った。
「私がわからないの?」
口調に少しの怒気が籠った……
何故か怒ってらっしゃる!
『私はあなたが誰だかわかったのに、あなたはわからないの?』って感じで不満げ。
少しの怒りの魔力が見えただけなのに、プレッシャーが凄い。
この人、多分凄く強い……こ、殺される?
「わ、私、人間界から来たんで魔界のことはわからないんですけど……」
「………………ふ~ん……魔界に居た時の記憶が無いのね。人間界ってことは少なくとも二回は転生してるってわけね。その間に記憶が消えちゃったか。確かに私の知ってる顔とは全然違うし、色々混ざった気配がするしですぐに誰かわからなかったわ。一旦人間として転生させられて、その天使みたいなナリは、ここに来る前に何らかの手心が加えられたって感じかしら。よく見たら尻尾は無くなってるわね」
少しの沈黙……
どう動くのか予測付かなくて怖い……
この無敵の身体を持ってしても、逆らったら消されてしまうのではないかと思うくらいに……
「まあ、良いわ、興が削がれちゃったからまた出直す。今日は元々気まぐれで、地獄の門付近に建ったっていう家を見にきてみただけだしね。来てみたら、まさか二棟も建ってるなんてね」
片方は犬小屋です。
「それ以上にあなたと再会できるとは思わなかったわ。また来るわね」
「待って、あなたは誰なの?」
「七つの大罪『嫉妬』を司る魔王・レヴィアタンよ」
そう言い残して、飛び去って行った。
何事も無くて良かった……下手に戦いになんてなってたらただでは済まなかったかも……
私も無敵だと思ってたけど、彼女と戦いになってたら無事ではいられないと直感するほどだった。
でも……
怒りの魔力を感じたと同時に何だか悲しげな魔力も混ざっていた。
それより……
レヴィアタンって超大物の魔王じゃないの!?
いや、それより私がベルゼビュートってどういうことだろう?
ベルゼビュートが誰なのかわからない。悪魔の一種?
「オルシンジテン、ベルゼビュートって誰?」
「ベルゼブブのフランス語読みされたものがベルゼビュートです。七つの大罪の『暴食』を司り、嵐と慈愛の神バアル・ゼブルを前身とする魔界七強の一角です。その実力は魔界最強とされるサタンをも上回るともされているようです。また、蝿の虫害から作物を守る人間たちの守り神の一面も持っています。かつては天界で熾天使の任に就いており、天界戦争においてルシファーの側近として戦ったとされています」
何か物凄い悪魔じゃん。
私がベルゼブブ? 蝿の王? それホントに私か?
いやいやいや、そんな凄い魔王なわけないじゃん。
七つの大罪『暴食』? 確かに生前は食欲が結構あったな。痩せの大食いだったし。
「伝えられている姿は、炎の帯を額に巻き、頭には大きな角が二本、足はアヒルで、尻尾は獅子、全身が真っ黒であり、顔は眉毛が吊り上がり、目をぎらつかせていたと描写されています。また、豹に変身する能力があったそうです」
何だその無茶苦茶な姿……足がアヒルって……かわいいっ!
あ、でも考えてみれば足だけか……それはどちらかと言ったらキモい……?
「対応される動物は蝿――」
うんうん、それは知ってる、超有名だもんね。
「虎、鰐――」
へぇ~、強そうね。さすが七大魔王。
「豚――」
ん? 強さとはかけ離れたな。
「リス」
何か最後の方可愛いの出てきたな。
この中なら蝿の王名乗らず、虎の王名乗った方がカッコイイのに。まあ蝿の王なんて不名誉な名前付けたのは人間だったっけ。
じゃあ、私ならリスの王を名乗ってやろうか。かわいいから。
「対応する幻獣はケルベロスとなっています」
「………………だから偶然にも私はあんなにケルベロスの世話焼いてんのか……これって運命?」
「――と言うのは人間界で伝えられている伝説です」
魔界では違うのか?
「魔界でのあなたの実際の姿は…………現時点では知ったところで何の意味も無いので、情報は小出しにしていきましょう」
何だコレ? また情報のロック?




