第15話 トロルズコミュニケーション
さて、大地も冷えたし、植物が必要とする光と熱も出来た。
今日は先日視察に行ったトロルの集落へ行ってみよう。
その前に、食に困ってそうに見えたから手土産を用意するか。周辺にいるガルムを十匹ほど狩って血抜きをする。
「手土産にって思ってガルムを十匹狩ったけど、これどうやって運ぶかな……」
………………
もしかして空間魔法って、収納も出来るのかな?
ものは試しで、無限に物が入る袋をイメージしながら空間に穴を開け、一匹放り込んでみる。
穴を消す。
もう一回空間に穴を開ける。
これで中を確認してガルムが入っていれば収納出来ていることになる。
もし入っていなければ、そのガルムは次元の狭間に消えてしまうことになるが……
「さて……ガルムはありますかね? おっ、あったあった、良かった!」
これで収納はOK。四次元ポシェットを手に入れた。
残りの九匹も放り込んで収納しておく。
「さて、手土産も出来たしトロルの集落へ行くか」
◇
トロルの集落上空へ来た。
先日の雨で、土で出来た家は結構な割合で潰れてしまったようだ。代わりに藁のような植物で出来た家が増えている。この近くに植物は見当たらないからどこかへ拾いに行ったのかもしれない。
申し訳ない……
さて……
ストッ
という小さい音を立ててトロルの集落へ降り立った。
その場にいた全員がこちらを見る。
「う、うわーーー!! トロルキラーだーーー!!」
キラーって……最初に遭遇したヤツ以外殺してないが……しかも殺したところを見られたわけじゃないし。 (第2話参照)
蜘蛛の子を散らすように逃げられ、防御力の低そうな家を盾に隠れられた。
まあ、この間この集落を通過した時に大分コテンパンに放り投げたからこういう反応もされるか。 (第5話参照)
「な、な、何しに来ただ!」
「あ、恐がらないで! 今日はあなたたちとコミュニケーションを取りに来ました」
ざわざわする。
二人のトロルが前に出て話し出した。
「なぁ、『コミュニケーション』って何だ?」
「さあ? 知らね」
「え~と……話し合いに来ました」
何か英語を知らない頃の大昔の日本みたいな反応だ……
私の日本語が通じていることも疑問だが、それはまあ『言語翻訳』の効果ってことで無理矢理納得しておく。 (第7話参照)
「何だ? 食べて良いだか!?」
何を!?
まだガルムは出してないが、何を食べるつもりなんだろう……?
「な、何をですか?」
「お前を食べて良いだか?」
「お前美味そうだからな~」
目の前にいる人物に向かって「お前が食べたい」って……それも食欲的な意味で言われるとは……
良いって言うと思ってるのかこのトロルどもは?
性的な意味で「お前を食べたい」もどうかと思うが、物理的に食べたい相手に直接「お前を食べて良いか?」ってどうかしてないか?
私が想定していた以上に話が通じないかもしれない……これはコミュニケーションは難しいかな……
近場に居た知的生命体ってことで、ここへコミュニケーションのつもりで来たけど、別の知的生命体を探した方が良いかも……
「先日あれだけ叩きのめされておいて、それでもなお私を食べられるとでも……思っているのですか?」
軽く殺気を込めて魔力を放出する。
「ひぃぃぃぃ!!!」
二人同時に後ずさった。
このままじゃ埒が明かない。
「とりあえずこの集落で一番頭の良い人を出してください」
「一ばん頭いいのダレだ?」
「さぁ? アイツじゃねぇか? リーヴァント」
「ああ、そだそだ! でもアイツ大ケガしてっぞ?」
「もうなおっただろ」
「アイツ住んでるとこどこだ?」
「知らね」
ぐだぐだぐだぐだ。
中々話が進まない……
◇
しばらくすると、他のトロルと比べると少しだけスマートなのがやってきた。
他のトロルたちも集まってくる。
「ひぃ! お前わ!!」
やって来て私を見るなり急に怯えだした。
「え? 誰だっけ?」
怯え方がさっきの二人の比じゃない。私コイツのこと知らないけど……
トロル族は、まだみんな同じような顔にしか見えないから、これが誰だか分からない。
「この村をほろぼしに来ただか! それだけはかんべんしてくれろ!!」
いきなりジャンピング土下座された。
顔の右顎と右上半身が新しい皮膚になっている。
この傷の付き方、何かデジャヴを感じる。
………………………………あ、多分最初に【つるかめ波】で吹き飛ばしたアイツだ! (第2話参照)
あの傷で生きてたんだ!!
右肩から千切れかけて、右肺の辺りまで無くなってたから、人間なら間違いなく即死レベルの傷だったけど……再生力凄い!
そういえばあの時、死体 (だと思ってた)に向かってお試しの【エナジードレイン】使ったっけ。
ダメ押しで殺してなくて良かった……
殺害カウント一人 → ゼロ人。ちょっとだけ罪悪感が減った。
初遭遇の当時は『魔物』としか見てなかったから、【つるかめ波】で吹き飛ばしても何とも思わなかったけど、こうして会話出来てることを考えると、この世界での“人間に当たる”と思われる生物を一人殺しかけてたってことよね……ホント死んでなくて良かった……
「あ、あの顔を上げてください。今日は話を聞いてもらいにきました」
「な、なんの用だか!?」
酷く怯えが見えるな……ブルブル震えている、冷や汗も凄い。
私の所為で死にかけてるんだし当前か。
「まずは、あの時のことを謝ります。あの時はまだ力の加減がわからずあんなことになってしまいました、ごめんなさい。あなたが生きていて良かったです」
面食らっている。ここは魔界だし、謝られるという経験が無いのかもしれない。
「は、話ってなんだ!」
「あ、その前に少し待ってください」
『名付け』を試してみよう。魔物に名前を付けただけで進化するアレだ。
上手く行けば進化して、知性も上がって話も通じるようになるかもしれない。
淡い期待を込めつつ目の前のトロルに名付ける。
「あなたの名前は今日から『トロル蔵』です」
「なに言ってるだ?」
……
…………
………………
何の変化も無し。名前付けただけで進化してくれたら簡単だと思ったんだけど……そう上手くはいかないものだ。
「どうしただか?」
何も無かったことよりも、自分のネーミングセンスにちょっと恥ずかしくなってきた……顔が熱くなってくるのが分かるくらいに……今私は大分赤い顔をしているかもしれない。
何だよ「トロル蔵」って! まだ「トロ蔵」の方が言いやすい……
「も、もう少し待ってください」
それならと、別の方法で知性の進化を促す。
「【永久的知性上昇 (大)】」
知性を高める魔法っぽいものを唱えてみた。しかも永続!
「おお! なんだべこれはぁ!? 頭がこれまでにないくらいスッキリしている!!」
何だか喋り方も田舎臭くなくなった。




