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第161話 通貨の作成案(村に壁を作った亜人)

 お札は日本円と同じく一万円、五千円、二千円、千円の四種類にする予定だから、最低四人は必要と考えている。

 今挙がってる候補は、私、リーヴァント、壁作ったヒトか。壁作ったヒトは後でオルシンジテンで検索してもらえば顔も見せてもらえるだろう。


 私は……私はまだ生きてるからお札に描かれるのはどうだろう? 同じ理由でリーヴァントも。

 それに自分で発行するものに、自分の顔が描かれてるってのもどうなんだろう? 恥ずかしくない?

 ってことは、今は実質壁作ったヒトの一人しか候補に挙がってないことになる。


 その後村中で聞いてみたところ、出てくるのは私とリーヴァントくらい。

 あと、たまにヘパイトスさんの名前。彼はこの村のヒトじゃないし除外かな……

 イケメンのトーマスさんを推す声もあるけど……


 あと、この通貨は“当面”なのか“永久に”なのかはわからないけど、この村だけで使うことになると思う。

 出来たばかりの通貨が、他の国で通用するはずがないからだ。

 出来たところで、その価値は他の国ではただの紙と変わらない。この価値を上げるには、この村や住んでる私たちの価値を上げ、他国にも認めてもらう必要がある。


 通貨制度導入で、最も楽なのは、他国のお金、例えば水の国通貨の『ウォル』をこの村でも通貨として使わせてもらう方法。レヴィアタンに交渉すれば、多分二つ返事でOKを貰うことができると思う。

 しかし――

 残念ながらこの方法は絶対に採ることができない。


 その理由がこの場所の特殊性。

 この場所は七大国にとって『中立地帯』という特殊な地域のため、ウォルをこの場所で適用すると、他の六大国に“アクアリヴィアに対してひいきしている”、もしくは、他の国に無断で“アクアリヴィアの一部となった”と取られかねないということ。

 数千年か、数万年かわからないが、ずっと中立地帯という状態を維持してきた場所のため、下手をしたらアクアリヴィアを巻き込んだ戦争の火種になりかねない。

 特にきな臭いって言われてる、火の国(ルシファーランド)氷の国(アイスサタニア)には気を付けておかないと。

 だから、トロル村(ここ)でウォルを公式通貨として利用することはできない。


 更に、どこまで許されるかも完全に不透明でわからない。

 今私の手元には、褒章として貰ったり、通貨交換したりして水の国(ウォル)通貨と雷の国(エレノル)通貨がある。

 この状態は中立地帯で使ったわけではないので、恐らく大丈夫だと思う。


 私の独自判断・独自解釈では以下のようになっているんじゃないかと思う。


 ・特定の国の通貨を他国の通貨へ換金 ⇒ OK?

 ・特定の国で買った物資を村人に配る ⇒ OK?

 ・特定の国の通貨を村人に配る ⇒

     条件付きでOK?(トロル村でこのお金と物を交換しないこと)

 ・村人が特定の国へ行ってその国と同じ通貨を使う

                  (旅行なども含む) ⇒ OK?

 ・特定の国の通貨をトロル村の通貨として使う ⇒ 絶対にNG


 これなら少なくともトロル村で使われてはいないから、『中立地帯が特定の国をひいきしているわけではない』として許容されるんじゃないかと考えている。

 今後も各国との軋轢(あつれき)が生まれないように、慎重に使わないといけないのは間違いない。

 だからなるべくなら、私だけの使用に留めておかなければならない。

 ただし、これは完全に私の独自解釈でしかないから、もしかしたら慎重に事を運んでいるとはとても言えない状態なのかもしれない。


 本来ならクリスティンや他のヒトの旅費の余りも回収しておかないといけないのかもしれないけど、まあこの村にはまだ通貨制度も無いし、余ったのも少額だし、とりあえず黙認で良いだろう。

 少額なら使い道も無いから、この村での価値は皆無だし。


 そういうわけで、通貨について他国には頼れないから、必然的に他国から仕入れたものは、この国のお金では結構な額出してもらわないといけないってことになってしまうけど……

 例えば今までは紙を手に入れたら、各部署に無料で配っていたけど、これからは紙一枚が高級品に化けてしまうと思う。

 お米だったらまだこの村で生産されていないから、これもかなり高騰する。現在のところは私がお金を手に入れられたから度々買い出しに出掛けて補充しているだけで、お金が底を尽けばもう手に入れることはできない。

 まだしばらくは余裕があるものの、増やす方法を考えなければいつかは底を突く。

 だから、底を突いても生活水準を落とさなくて良いように、何とかしてこの村での生産性を上げ、自給自足で回るようにする必要がある。


 でもまあ今はそんな未来のことは良いから、ここで使えるお金を作るために、とりあえずカイベルに壁のヒトについて聞いておこうか。


   ◇


 我が家に帰ってカイベルに相談してみたところ、お金に描かれる肖像画について私の知らない意外な話が出て来た。


「地球にある国家で、日本のように各紙幣の肖像画が全部違うという国はむしろ珍しいくらいですよ? 多くの国はその国を建国した人物だったり、民衆を導いた英雄だったり、その国の国王だったりしており、全ての紙幣が同じ人物の肖像画というのも珍しいことではないようです」


 へぇ~、そうなのか。じゃあ今名前が挙がった中では、壁作ったヒト一択かな。

 見も知らぬ彼だが、彼のお蔭でこの村の住民が先祖代々生存してこれたのは間違いではないし。

 村民の中には私を推してくれる声もあるけど、私が“私の肖像画が描かれた紙幣を発行する”って、何だか独裁しているようじゃあないか。

 早速名前を聞いておくか。


「オルシンジテン起動、昔この村に壁を作った人の顔って表示できる?」

「古い情報ですので、少々お待ちください」


 …………connecting…………


「見つけました、どうぞ」


 表示されたのは三人。


「あれ? 一人じゃないの?」

「主に先導した方々の名前はヒーナ・マウアー、ローゼン・マウアー、マリア・マウアー。水の国(アクアリヴィア)より懇願されて移民している途中のドワーフのようですね。水の国へ定住する前は、主に壁を作っていた職人たちで、マウアーは工房名でしょう」

 工房名? そんなのあるのか、ヘパイトスさんからは聞いたことないな。


「『マウアー』の意味ってなに?」

「『壁』という意味です」

「ああ、壁を主に作ってるから工房名にもなってるのね」

「他に彼らと共に移住した者は十九名ほどおりますが、この方々も表示しますか?」

「いや、主なヒトだけで良いかな」


 それほど興味は無いし……


「彼らはヘパイトス様の祖先に当たる方々ですね。土の国(ヒュプノベルフェ)から水の国(アクアリヴィア)に向かう道中に立ち寄ったこの村の惨状を見て、壁を作るのを思い立ったようです。当時はこの村の周囲に壁が無く、ガルムに食べられるトロルも多かったようです」

「へぇ~、私が偶然ヘパイトスさんと知り合ったのかと思ったけど、そんなに昔からこの村と縁があったのね」

「しかし、当時は灼熱の土地だったため、途中までしか壁を作ることができなかったようです。熱さの問題で赤龍峰へは近寄れなかったのではないかと。ただ、灯りという灯りも無いにもかかわらず、当時作られた壁は精密に作られていたようです」

「あ、あの山道途中にある門の残骸か! あそこまで作ったのね!」


 今は残念ながら見る影もないが…… (第5話参照)


「当時トロル村は平均気温が四十三度、年間を通してほぼ気温の変動はありませんが、ごくごく稀に五十度に達したこともあるようです。門の残骸辺りはこの村より火山に近いためもう少し高めですね」


 あ、トロル村(ここ)も地獄の門並みに熱いのかと思ってたけど、五十キロも離れてればそこまでではないのね。でも稀にとは言え五十度か……人間ならあっという間にバッタバタ倒れる気温ね……


「ん? そういえばレッドドラゴンの町はドワーフが作ったって言ってたけど、それも彼らが作ったの?」

「そのようですね。作られた壁に目を付け、これよりずっと後にレッドドラゴンの耐火魔法技術と、ドワーフの建築技術を結集して作られたもののようです」

「だったらその耐火魔法の力を借りて、トロル村の壁も完全なものにしてあげれば良かったのに……」

「当時のレッドドラゴンにそんな気の利くことができたでしょうか?」

「…………できないでしょうね……」

「フレアハルト八世様以前は、亜人を毛嫌いしてましたし。その当時に亜人であるドワーフに依頼したという、いち事実だけでも目を見張るものがあります。それに、トロル村の壁もあそこまで作れば十分な広さでしたでしょう。現在と照らし合わせた結果論になりますが、壁内の土地をフル活用することは無かったようですし」


 もう一つ疑問が出て来た。


「ここって誰も入れない『中立地帯』なんだよね? 何でドワーフが壁作りに関わってるの?」

「入れないわけではありません。『他の国とのいざこざに発展する可能性があるから極力入るな』という地帯ですね。そう言われていても中には別の国に向かうためにここを通る者もいますし、調査のために訪れる者もいました」


 ああ、別に国境付近に誰か立ってて、入ったら射殺されるとかそういうのがあるわけではないみたいだしな。


「更には、魔界での闘争の時代が終わってからはほぼ形骸化したような約束ですので、近年では『入ってはいけない』というところだけが独り歩きして『禁忌の土地』として語り継がれ、『近寄るのも畏れ多いという土地』という解釈に成り代わったのです。ですので中立地帯とは呼ばれていても、歴史的に見れば足を踏み入れてる者はそれなりにいます」

「そ、そうなんだね」


 形骸化か……『だったら中立地帯自体やめれば良いのに』とは思うが、ここに地獄門が存在しているからにはそういうわけにはいかないか。


「マウアー様たちは、水の国へ向かう過程で立ち寄ったトロル村の惨状を見て壁と簡易的な住居だけ作って立ち去ったというのが真相ですね」


 壁作ったヒトの情報だけ知るつもりが、いろんな情報が入って来たな。

 ただ、その話を聞いた限り、壁を作った彼らがいなければこの村は今は存在すらしてなかったかもしれないってことを考えると、お札に描かれるのに十分な功績と言える。村外のヒトだけど、肖像画はこの三人で決まりかな。


 さて、お札は四枚。残り一枚は誰にするか……

 三人しかいないとなると、リーヴァントが私を推してきそうだから……もう一人誰か偉大な功績を残した亜人(ヒト)を用意しないと。

 あっ!


「当時のトロルの中にリーダーとして壁の建築に従事したヒトはいないの?」

「少々お待ちください」


 …………connecting…………


「見つけました、ウォルニールという方ですね。この方が当時のトロル村の実質的なリーダーのようです」


 よし! このヒトをお札の四人目にしよう!


「…………ところで、ドワーフってトロルの食の対象にはならなかったの?」

「ならなかったようですね。と言うより、小さいながらもドワーフの方が屈強なので当時の痩せ細ったトロルでは太刀打ちできません」

「その痩せ細ったヤツに負ける人間って非力なのね……」

「もし仮に地球上の全ての生物が同じ大きさなら、人間は最弱とも言われてますからね」


   ◇


 というわけで、お札に描く肖像画を壁を作った四人にしようとリーヴァントに話してみたところ――


「お札の肖像画はアルトラ様ではないのですか?」

「いや、この四人にしようかと思ってるんだけど……」

「ここの領主なのに肖像画になられないのですか? 先日行かせていただいた旅行で見たお札には水の国の女王陛下のお顔が描かれておりましたが……」

「大国の魔王と一緒にされてもねぇ……あの方々たちは国の象徴だし」

「アルトラ様もこの村の象徴ですよ! 負けてませんよ!」

「いやいや、大負けでしょ、国と村じゃ規模が全然違うし。“村の象徴”程度じゃ、動機付けとしては弱いかな……私が国を樹立して王様になったとか言うなら、話は変わってくるかもしれないけど」

「そうですか……」


 何かガッカリされたけど、お金使う度に自分の顔見るのはちょっとね……

 可愛くは転生させてもらってるけど、自分の顔でお金を作られるなんて、恥ずかしさで身もだえしそうだ……

 それにあまり頻繁に顔を晒して、有名になるのも避けたい。

 最初、私がトロル村(ここ)へ来た時の当初の目的は『少しだけ村を賑やかにして、村で生産された食料を食べて穏やかに暮らしたい』だったし。あまりにも有名になるのは望むところではない。いらぬトラブルを招きそうだしね……


   ◇


 そして、肖像画と並列して考えなければならないことがある。

 それは――

 『通貨が出来たらどんな単位が良いか?』と言うこと。


 魔界(ここ)に来る前に見たアニメに凄く可愛い通貨単位があったのよね。

 とあるアニメに登場した魔界通貨『コイーヌ』。

 子犬みたいな名前で、可愛い名前の通貨だなと思った。

 それにあやかって『コネーコ』にでもしようかしら?


 ………………いや、やっぱり普通に『円』で良いか。日本人の私には馴染みがあるし。もしくはアメリカ発音の『イェン』か。トロル村の名前と関連付けて『トロン』とか『トロリン』でも良いけど。


 いずれにせよ、この村で使うための通貨に何か単位を考えておかないといけない。


   ◇


 余談だけど後日、ヘパイトスさんに工房名がマウアーかどうか聞いてみたところ――


「工房に案内したこともないのによくわかったな! 今は水の国に合わせて『ウォール』を名乗ってるがな」


 とのことだった。カイベルに見せてもらった彼らは本当にヘパイトスさんの祖先らしいことが分かった。

【2022/01/26追記】

 通貨の導入について、なぜ中立地帯で作られなければならないか、少し描写不足に感じたため、大幅に加筆しました。



【2022/01/18】

 何とか自分が肖像画になるのを阻止したいアルトラ(笑)


 余談ですが、昔壁作りを先導したドワーフ三人の名前は、とある漫画作品を元ネタにさせていただきました。

 今アニメも放送されています。


 次回は1月22日の17時から18時頃の投稿を予定しています。

  第162話【気温が下がって来てるっぽい?】

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― 新着の感想 ―
[良い点] アルトラ様の通貨の概念がよくわかりました。 これから信用を積み上げて行って、 村の通貨の価値を創り上げていけばいいと思います!! そして確かに通貨の肖像画が、自分だと、ちょっと照れくさいと…
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