第160話 通貨の作成案(肖像画は誰にする?)
最近この村で使う通貨について、真剣に考えなければならないと思ってきた。
文明レベルが上がって来たことを考えると、いつまでも物々交換というのは無理がある。
もう導入は前提条件と考えているとして……通貨を作った時にアレをどうするかということ。
そのアレと言うのは……ズバリ肖像画!
お札に描かれる肖像画について、どうするべきかここしばらく悩んでいる。
村中を聞いて回ってみるか。
早速、目の前のかき氷屋にたむろしている若者たちに聞いてみようか。
かき氷屋に居たのは、ナナトス、カンナー、ルーク、クリスティン、メイフィー、エリスリーン、イザベリーズ。
役所に近いからか、役所関係者多いな……
「あなたたち、こんなところで油売ってて良いの?」
「今休憩中で~す」
「受付関係はマリリアが居残りしてるので、後で交代します」
「ところで、今みんなに聞いて回ろうと思ってるんだけど、この村で偉大な人物って誰かしら?」
「偉大な人物ですか? そんなの……ねぇ?」
私以外のみんなで目配せする。
「じゃあ、指さそうか! せーのっ!」
一斉に指をさされた。
「私?」
「なんスか? みんなを巻き込んだ自己満足ッスか?」
すかさずナナトスがニヤニヤしながら茶々を入れてくる。
「いや、そんなつもりなかったんだけど……最近考えてることがあって、どう考えても物々交換で等価値のものと交換ができてるとは思えないなと思って、今度この村で使えるお金を作ろうと思ってね」
再びみんなが顔を見合わせる。
「「「お金って何です (ッス)か?」」」
そこから!?
みんなお金知らんのか……
そうか、この村お金無いものね……見たことないもの知ってるわけもないか。
「私はアクアリヴィアに休暇で行かせてもらったので知ってますけど」
と言うのはクリスティン。
財布から取り出してみんなに説明してくれた。
「このような紙で出来てて、数字と絵が描いてあります。紙幣って呼ばれてるそうですよ」
まだお金持ってたのね。旅費の余りかな?
「へぇ~、これがお金ッスか!」
「他にもこういう硬貨っていう金属もあって……」
「こっちの紙より重厚ですね!」
そうか? 小銭よりむしろ紙幣が沢山あった方が重厚感はあると思うけど。小銭はいくらあっても所詮小銭よ。
「硬貨の方が価値があるんですか?」
「ううん、紙の方が価値があるみたい」
「ただの紙なのに!?」
そうなのよね、“ただの紙”なのに……私も二十七年日本人やってたけど、これは未だに納得行ってない。
多分紙の方が価値があるように作られている理由は、硬貨には偽造対策がしにくいとか、紙より硬貨の方が使用頻度が高く、何度も使われた時に紙幣ならすぐに破れてしまうけど硬貨なら劣化しないとか、そんな理由なんだろうけど。
まあ私もどっちかくれるって言うなら、核の炎に包まれた世紀末の世でもなければ金属で出来た硬貨より、ただの紙で作られた紙幣を貰うけど。
「今までは物と物を交換してたんだけど、このお金が出来れば、お金と物を交換できるようになるの」
「それが『買い物』ってやつッスか? 物同士の交換と同じじゃないッスか」
「そう、交換する部分については同じね。違うところは、交換する物の量とお金の量が自由に調整できるようになるってところね」
「わかんないッスよ……」
「例えば、お米一袋はお金百で交換することが適した量だとする。じゃあこのお米の袋が十袋に増えたら、お金はいくつ必要?」
「千ッスね」
「百袋に増えたら?」
「一万」
「今まではこれを物々交換や肉体労働でやってたから、どうしても“本当に適した量”というのがわからなかったのよ」
「なるほど~、これは分かり易いッスね」
まあ……現代日本は“本当に適した量”以上でで働けてる恵まれた人がどれくらいいるかわからないけどね……
「例えばお米十袋貰うのに、どれくらい働くのが適当なのか、それすらわからないよね? このお金って制度を使えば、どれくらい働いたからこのくらいのお金を払うっていう基準を確定的なものにすることができるの。例えば一時間働いたからお金百個、二時間働いたからお金二百個みたいな感じにね」
「その基準は誰が考えるんですか? まさか全部アルトラ様が?」
「いや、それは各々の雇い主に考えてもらうよ。全部私がやってたら時間がいくらあっても足りない」
「それだと、凄く少ないお金の量で働かせることだってできるんじゃないですか? その逆に凄く多いことだって……」
「そういうのは私や役所の方で取り締まって、ある程度平均的になるように指導するよ」
「…………今の話聞いてると、もしかして店主が提示する量に足りなかったら、物を貰えないってことッスか?」
「そういうこと。店主が百と言ってるのに、九十八しか持ってないようなら、買うことはできないね」
「これは厳しいッスね」
「そこは交渉次第で、金額下げてもらったり、おまけしてもらったりってことも考えられるけど。でも、厳しく考えられる一方で、物々交換よりは遥かに適した量で買えるってことにもなる。ナナトスが最近物々交換したものって何?」
「え~と……運んできた木に対して、お茶碗五杯分のお米と大根と人参とジャガイモとタマネギ各一個ずつッスかね。まあ建築資材なんで物々交換と言うよりは、労働対価みたいなもんスけど」
その日分の食糧って感じね。
「それはナナトスとして、労働量と対価が釣り合ってる?」
「う~ん、労力には見合ってない気がするッスね。木は重かったッスし……運んでくる距離も長かったッスし……」
「それをお金にすれば、それ相当の額で取引できるってことになるのよ」
「なるほど~」
「それに、お金なら食べ物みたいに腐る心配も無いしね」
「確かにそうッスね。ってことは俺っちが貰った労働対価って、お米以外価値が無いんスね……」
「いやまあ、腐る前に食べれば良いでしょ」
「う~ん……考え方は面白いんですけど……」
「そんなの上手く行くッスかね?」
まあ、心配ではあるのよね……突然通貨制度が始まって、混乱しないかどうかって言うと、始めてみないとわからないし。
それを考慮して、リーヴァントたちの休暇にかこつけて、買い物の仕方を学んできてと言ったんだけど。
村の中でだ~れも知らないよりも、少数であってもトップの人たちが知っていれば、通貨制度を導入したとしても混乱度合いに大分違いが出ると思う。
売り手の方は更に問題で、この村では誰かを参考にするってことができないってところがある。
それに……ここで敢えて話題にはしなかったけど、個々の能力によってはどうしても収入の所得格差が出るだろうから、そこをケアする方法も考えないといけないのよね……
とは言え、文明的な暮らしに近付いてるのに、いつまでも物々交換ってのは困る。
あと、自分で稼げない社会的弱者に対しても配慮しないといけない。例えば病気で働けない人とかはどうしても自分でお金を稼ぐことができない。この村の原住民であるトロルは幸いにも高い再生能力があるから、自分で動けないって亜人はほとんどいないけど。
「まあ、とりあえずそんなようなことを考えてる」
と言うか、私の中ではほぼ確定している。この先物々交換ではどう考えても厳しい。核の炎に包まれた世紀末の世じゃないんだから。
「それで、偉大な人を聞いた理由は何ですか?」
「そのお金に歴史上で偉大な人物が描かれるのが、私の故郷では通例になってるから、この村で偉大な人って誰かなと思って聞いて回ってるところ」
「それでも偉大な人物の中の一人を挙げるなら、アルトラ様は確定だと思いますよ。村が出来て何百年も経ってると思いますけど、ここまで村を発展させた亜人ってこの村の歴史上いませんでしたし」
「あとは、村中駆けずり回ってるリーヴァントさんッスかね」
そんなに移動してたのか……この間役所長の代理するまでは、いつ行っても役所に居るから暇なのかと……
まあ……この間役所長代理をやってみて、結構ハードなことやってるんだなとは思ったけど……
だとしたら実は私より遥かに有能なんじゃ……?
もしかして双子で、常にどちらかが役所に居るってわけじゃないよね?
「環境美化していってるのは、ほとんどあの人のお蔭ッスよ。道の整備とか、最近は元々松明だったところに街灯も整備されたし、そこの街路樹とか植える指示出してたのリーヴァントさんッスから」
「へぇ~、そうだったのか」
その上で私のリクエストにも対応してくれてるのか。
「あと……大昔にこの村周囲の壁を作った亜人ですかね。これがあることでガルムにも殺されず、先祖代々生存できてこれましたし。どんなお顔なのかは存じ上げませんけど……」
「なるほど、参考になったよ、みんなありがとう」
その後、別れて別の亜人に話を聞きに行った。
物々交換の文化圏に、売買の文化が出来る時の会話ってこんな感じなんでしょうかね?
本作品の厄介なところは、アルトラが住んでいる場所を中立地帯にしてしまったところです。
他の国にとって中立地帯であるため、他の国に依存できない(通貨を借りることができない)から、独自の通貨制度を整える必要があるというところですね。
中立地帯なんて設定にしてしまったから、ややこしいことに……(笑)
一から通貨制度を整えるのは、私の頭では難しい……
綻びや矛盾があったら教えていただけるとありがたいです(^^)
次回は1月18日の17時から18時頃の投稿を予定しています。
第161話【通貨の作成案(村に壁を作った亜人)】