第13話 七つの活火山冷却計画
今日は朝から雨だ。雨の日はちょっと気持ちが沈む。まあ昨日の最後にありたっけの魔力で雨雲を作って私が降らせたんだけどね。
昨日疑似太陽も一緒に作ったから、豪雨なのに太陽の光が差しているという奇妙な光景になってしまった。
それと言うのも、あの太陽が雲より下を動くように間違って設定してしまったためだ。
雲が発生する高さのことまでは気が回らなかった……
「まあ、別に困ることは無いし、そのままでも良いか」
豪雨だけど、果たしてこの程度で火山が冷えてくれるかどうか。ダメなようなら巨大な氷を作って、火口にぶち込んで無理矢理冷やそう。
最近我ながら豪胆な発想をするようになってきたと思う……
玄関先に出てみて、外の様子を窺う。
うん、順調に雨が降ってくれてるようだ。ちょっと強い気もするけど……
一抹の不安が漂う……
何気なくケルベロスの方を見る。
「プッ……何だアレ」
ケルベロスが見る影も無いほど細い。
雨に濡れたから毛が下がって、驚くほどスリムになっている。
ん? よく見るとブルブル震えてるような……? 笑いごとではないかも……
「何か調子悪そうね……」
ケルベロスの寿命がどの程度かわからないけど、生まれてからずっと灼熱の大地に居座り続けたから、水とか寒さには極端に弱いのかもしれない。
近寄ってみると――
「く……くぅ~ん……」
鳴き声が弱々しい。一つの首しか鳴かず、他二つの首は何だかぐったりしている。このまま雨ざらしにしておくと死んでしまいそうだ。
これは早急に犬小屋建ててやる必要がある。すぐに土魔法で犬小屋を建てる。
「身体が大きいから、犬小屋と言うよりは――」
チラっと通称:我が家の方を見る。
「――大きさ考えると、むしろこっちが本屋に見えなくもない。この犬小屋、私の家よりでかいじゃん……」
まあ、生き死にに係わりそうだし、中は床暖房にしてやろう。
これで雨風凌げるでしょ。
ケルベロスを犬小屋へ避難させる。
と、その前に――
「【三つ首の業火】!」
小屋に入れる前に炎を浴びせかけて、毛を乾かしてやる。
火耐性もあるみたいだし、しばらく火炎放射を続ける。不格好だから二度と使うまいと思ってたけど、まさかまた首を三つに増やすことになるとは……
何か私……ホントにコイツの飼い主みたいになってるな……
もっとも……餌は一度もやったことない。
なぜなら、地獄の門から亡者が割と頻繁に脱走しようとする。思考能力を回復した亡者には地獄はキツ過ぎるらしい。
あと、たまに地獄の門広場に近付いてきたガルムを持ち場を離れて捕食してるのを見たことがある。
餌なんかやらなくても、勝手に食事しているのだ。
今日は雨なので、外に出たくはない。
こんな日は地面がぬかるんでるから、外で何か作業しようものなら、地面に降った灰と煤と泥水で汚れまくる可能性、百パーセントだ。
我が家でゴロゴロしていよう。
まあ、私が降らせたんだけどね。
◇
翌日――
豪雨は三日三晩続いている。
もうそろそろ洪水にならないかと心配になってくる。
「MP:十五万の魔力を全部使ったからな……何日降るか見当もつかない」
豪雨を十秒降らせるのにMP:五を消費すると仮定した場合、降りやむのは……多分三日と半日くらい……かな? この仮定通りなら今日の夜辺りには降り止む計算になる。
ここまでの豪雨なら、火山もある程度冷えてくれれば良いんだけども……三日じゃ厳しいかな?
ケルベロスは今日は犬小屋に入ったままで門番の仕事をサボっている。門番に忠実かと思ってたけど、小屋を与えられたら惰眠を貪るのね……
いや、そういえば惰眠は前々から貪ってたな、頻繁に涎垂らして寝てるのを目撃している。全然門番に忠実じゃなかったわ。
亡者の方々、今なら逃げ放題だな……
二日か三日に一回くらい亡者が地獄に入獄しにやってくる。
我が家の窓から立て肘つきながらぼんやり外を眺めていたら、今日も一人歩いてきた。
こんな豪雨の中地獄に送り込まれたなんて気の毒な人。
なんて思ったが、よくよく考えたら普通の人にとっては雨より四百五十度の方がキツイものだった。私の感覚がおかしくなってるようだ。
そう考えると、ある意味運が良い人と言えるのかも。
地獄に行く必要がない私、高みの見物。
◇
その翌日――
豪雨が四日目に入った。
外が洪水が起きそうでヤバイ!
昨日のMP計算全然当てはまってなかった! 何て燃費の良い雨魔法なんだろう!
この地獄の門前広場が山の上にあるにも関わらず、周囲に岩壁と門があるためか水が溜まってしまい、我が家の床が浸水寸前にまで陥る。
急遽、我が家を平屋から高床式にビルドアップする。ついでに補強のために樹魔法で木材も使っておこう。この際だからどさくさに紛れて部屋には畳とフローリングを設置。外気熱もある程度下がったはずだし、木を使ったとしても多分もう自然発火することもないだろう。
犬小屋は一旦沈みかけ、ケルベロスが溺れ死にしかけた。ちょっと遠いが我が家から魔法を放って犬小屋も高床式にビルドアップした。こっちも樹魔法で補強。
何から何までコイツの世話焼いてる気がする。迷惑かけてるのも私なんだけど……
「と言うか……ここって高低差はそれほどないけど確か緩やかな山の上だったはず……ここがこんなに水浸しってことは、山の麓なんてもはや水の底では?」
ゾッとする想像をしてしまった。私の所為で水没なんてことになったら申し訳ないで済まない。
人が住んでるトロル集落までは五十キロくらい離れてるから、もしかしたら大丈夫かもしれない。
が、これ以上このエリアに降られたら、流石に広範囲の地域が水没しそうでまずいので、確認と防水のため豪雨の中外へ出る。
背中の羽を使って空中に静止し、ケルベロスエリアとトロル集落があるエリアの周囲に水がこれ以上入ってこないように、防御魔法:水吸収 (永続)を使って半球状に結界を施した。
結界分のMPが回復してて良かった。
これで、これ以上のエリア内での増水は無さそうだ。我が家と犬小屋も水没寸前だったけど徐々に水を吸収して減らしてくれるだろう。
一応目標である火山地帯以外に水が流出しないように、そちらにも結界を張る。
もし、結界を張ったエリアの他にも生活エリアが存在するなら、そこは洪水になってしまっていると思うけど……
とりあえずは、私が見える範囲だけは守ることが出来てる……と思う。この火山地帯内に生活圏があるモンスターの方々、もし存在するならごめんなさい!