第147話 フレアハルトの父兄参観
フレアハルトを追跡させてた分身体が帰って来た。
「ただいま~」
「あ、お疲れ様!」
「じゃ、おやすみ」
そのまま分身体を取り込み、私の体に還元する。
分身体が見て来た今日の記憶が頭に流れ込む。
◆
認識阻害の魔法 (【不可視化】&【魔力遮断】)をかけてあるから、隠れもせず、堂々と近くで二人を観さtsu……見守る。
「中々のどかで良い村ですな」
「そうですな……」
これは役所を出たばかりのところね。
「………………」
「………………」
「………………」
「………………」
「………………」
「………………」
二人とも中々しゃべらんな!
先に仕掛けたのは族長さん。
「……なぜ、この村を住処に選んだのですかな?」
「そうですな……ここに住んでいる者たちの心が温かい、という理由でしょうな。我は今までとある山の麓に住んでおりましたが、我に接してくれる者は側近くらいしかおりませんでした。畏敬のようなものは感じるものの、自ら進んで関りを持とうとする者はおりませんでした。そこへ我をひれ伏せさせる亜人が登場したから興味が湧いてしまいましてね」
『山の麓』ってのは、この村での言い訳かな? 火山内部に住んでるなんて言えないし。
族長さんが少し考え込んだ。神妙な面持ちだ。
多分、『側近くらいしか接しなかった』ってところが引っかかったのかな?
でも、フレアハルトの口調がいつもより随分と丁寧だ。もしかしてもうバレてるんじゃないか?
いや、まだ半信半疑ってところか。父上だった時を考えて一応丁寧に話しておこうと、そんな感じに見える。
「なるほど、アルトラ殿ですかな?」
「ああ、あの者に接して、村を案内してもらい、川作りに参加するようになってから、山の麓での生活が“退屈なものであった”と知らされてしまいましてね。アルトラは麓に無いものを沢山見せてくれたので、尚更興味を持ってしまいました」
私が興味を持たせてしまったわけか。
それは……一人の人生の方向を変えてしまったわけか……良い方に変わっているのなら良いのだけど……
「ははは、退屈ですか。故郷はどのような感じですかな?」
「う~ん……『何も無い』という感じですな、もちろん故郷が嫌いというわけではないのですが、やはりこの生活を知ってしまうと、今までは何の疑問も持たなかった強くなるための日々の訓練も何か虚しいもののように感じてしまいましてね。まあここは山の麓と比べると大分寒いので我が種族には堪えますが……まあその点は魔法で何とかできるので問題無いです」
「普段どんなことをやっているのですかな?」
「我がやっていること? 村に興味がおありではないのですか?」
「少々興味がありましてな」
「普段は力仕事が多いですな。我々レッド……いやいや、我が種族はこの村の住民よりも力が強い種族ですから。今この村は家の建設が流行っておりますので、仕事には事欠きません。自分が関わったものが出来ていくのは感慨深いものがあります」
水没させた村が漸くちゃんと村として機能してきたってところだからね……
うーん……しかし両方とも口調が年寄り臭いわね……
似たような口調だから目つぶってると、どっちがしゃべってるか分からん……
と言うか、会話がぎこちなさ過ぎて、年寄り同士のお見合いの会話みたいだ……
村を歩いていると、街路樹に目が留まったらしい。
「この木というもの、何だか癒されますな……」
「これらは我がこの村を初めて訪れて案内された時にはまだ無く、徐々に村が発展していく過程で、この場所に植えられました」
「こういったものを我が町にも植えられれば良いのですが」
「では我がアルトラに頼んでこれを持って行きたい旨を伝えておきましょう」
「いや、ワシが町にこれを持って行くのは少々厳しいですな」
「何か都合が悪いのですか?」
「持って行ったとしても、土地の問題で根付かないでしょう……」
レッドドラゴンの町に木なんか持って行った日には、即座に炎上して炭と化すでしょうからね……
「普段どこで働いてるのですかな? 見てみたいのですが」
「我の働いているところを? それはまたどうして?」
「純粋な興味ですな」
「あなたは変わったお方ですな、ただの案内人の素性に興味があるなど」
「ダメですかな?」
「……わかりました」
息子の職場を見たいって、ホントに父兄参観みたいだ……
しかし、今日のフレアハルト歯切れが悪いわね。私と話してる時と全く違う。
大人しくて、まるで借りて来た猫みたいだ。
「あれ? フレハルさんじゃないッスか!」
「こんにちは、フレハルさん」
「珍しいッスね、アルトラ様以外がお客人を案内してるなんて。まあ、そもそもこんな何も無い村に客が来ること自体珍しいんスけど」
「何だ、ナナトスとカンナーか、今日は我は忙しいからな、お前たちに構ってやる暇は無いぞ」
「フレハル殿、この者たちは? 随分気安く話かけてくるようだが……」
族長さん、ちょっとムッとした顔してるな。「王子に気安く話しかけおって!」って感じか。
……いや、親バカっぷりから考えるなら、もしかしたら「父親のワシですら気安く話しかけられぬのに~」かもしれないけど。
「この者たちは、この村の子供ですよ。我に気安く話しかけてくるので、いつも軽くあしらっておるのです」
「あしらってるとはあんまりじゃないッスか! 秘密を共有する仲なのに」
「秘密とはなんですかな?」
「しょ、少々失礼致します」
急いで二人を脇に抱えて、族長さんに聞こえないように少し遠くへ移動した。
「お前……それが露呈したら我がアルトラに怒られるのはわかっておるのだろうな? それにあのことがバレてしまえば我らはこの村に居られなくなるかもしれん。この村で我らのことを知っているのはアルトラを除けば、お前たち二人とリーヴァント殿だけなのだぞ! お前たちもきっとアルトラに叱られる程度では済まんぞ? まったく……お前たち村人が恐がるからと正体を隠しておるのに……」
私に怒られるって……
ナナトスらにもそれを言うってことは、私ってそんなに村人から恐れられてるのかしら……
「す、すんませんッス」
「とにかく、今日は遊んでやる時間は無いから、あっち行け、しっし」
「じゃあ、また明日にでも!」
「バイバイッス!」
意外なことに、この三人遊び仲間なのね……ホントに意外だわ、子供のあしらい方がこんなに上手いなんて。
「さあ、お待たせ致しました。では我の主な仕事場へ行きましょう」




