第142話 実は子ゴーストが居た家は……
依頼者に達成報告。
「ゴーストの対処終わりました。どうやら子供のゴーストだったみたいです」
「そうですか、ありがとうございました!」
「子供のゴースト?」
その話を聞いて、なぜか怪訝な顔をする住民の一人。
「俺は生まれた時からこの近くに住んでるが、あの家で子供が死んだことはないぞ?」
「…………えっ……?」
どゆこと……?
そういえば、あそこで死んだにしては、家の中に子供の骨が無かった。
「と言うか、あの家リーヴァントさんの旧家だぞ、アルトラ様にリーダーに任命された時に、村のはずれでは仕事するのに不便だからと奥さんと一緒に中央に移り住んだだけで。子供も居るが死んでないし」
リーヴァントって奥さん居たのか。子供まで。全然知らんかった……
「長いこと空き家だったんじゃないの?」
「誰がそんなこと言ったんだ?」
依頼者を指さす。
「え、あ、すみません、ボロボロだし生活してた様子も無かったので、ずっと空き家だったのかと……」
「まあ、知性を引き上げてもらう前は自分の住居がボロボロとか気にしなかったし、何より直し方も分からなかったしな。それにあのヒト、外に狩りに行ってることが多かったからなぁ、率先して遠くまで狩りに出かけてたし……奥さんは引っ込み思案で滅多に外に出てこなかったし。今はおしとやかって言葉が似合うマダムになったが」
だから初めて遭遇した時、リーヴァント以外誰も周りにいなかったのか。 (第2話参照)
あれはわざわざ遠くまで狩りに来てたんだな……目的はガルムだろうけど、たまに地獄から逃げる人間の亡者とかも狩りの対象だったんだろう。
私が『人間 (の亡者を)食べるの禁止令』を出す前だから、多分棚ぼた待ってたのは間違い無い……
「子供は?」
「普通に村中飛び回ってたが……まあ知性引き上げてもらう前は時間とか気にせず遊んでたし、あまり家に帰らなかったかもな。何せあの頃は太陽が無く一日を通して真っ暗だったから寝る時間も特に決まってなかったし……」
夫は外で狩りに、妻は引きこもり、子供は時間忘れて飛び回ってると。
それが空き家と誤解された原因か……
「リーヴァントさん、知性上げてもらう前から当時の俺たちから見てそれなりに頭が良くて思いやりがあったから、獲物狩って来て自分の分を取ったら、残りは村の中央に置いてそのまま家に帰るんだけど、みんなは置かれた獲物の方に注意が行ってるから、リーヴァントさんがいつ家に帰ったか誰も気付かないんだよな。だからずっと空き家だったと思ってたんじゃないか? 俺は家を知っていたからどこに住んでるのか分かってたが」
手品みたいな行動だな……視線誘導ってやつ。
それにしても元々の性格が、今のマメな性格に結びついてるのね。
「いつの時だったかアルトラ様が村に来る少し前、あのヒト右肩から千切れるくらいの大怪我負って帰って来たから、看病してた付近のヒトたちの何人かはリーヴァントさんの家を知ってたんだけど――」
ああ……それは私が原因の大怪我だな……未だにすまないと思ってる……
しかし……あの怪我で自分で歩いて帰ったんだな……リーヴァントすげぇ……
最近は傷もほぼ癒えて、顔の傷も無くなりつつあるから安堵している。
「――アルトラ様が二回目に村に訪れた時に『この村で一番頭の良い人物を出せ』って言われた時、『恐怖の大王が来た』みたいな雰囲気になって、ほとんどの村人はリーヴァントさんがどこに住んでるか知らないから、みんな軽くパニックになってたよ」
恐怖の大王って……それは酷い言い様……自分で言うのもなんだが、こんなにプリティーな見た目に転生してもらえたのに。
まあ、地獄の門周辺を探索して、この村を発見して初めて訪れた時に、襲ってくるヤツ全員軽くあしらって村の真ん中突っ切って歩いたからな……そう思われても仕方ない……
しかし、随分詳しいわね。
「あなた、幼馴染か何か?」
「少し後に生まれているから弟分ってところかな」
このヒトってもしかして……
「あなたもしかして、キャンフィールドさん?」
「お、アルトラ様に名を知られてるなんて光栄だな」
「あなたがキャンフィールドなのね! 探してたわ!」
オルシンジテンがピックアップした四人の中にいた最後の一人だ。なるほど、幼馴染なら補佐役にピッタリだ!
「俺を? 何でまた?」
口調からしてぶっきら棒な感じに見える。副リーダーをやってもらいたいって言ったら拒否されそうね。
だとしたら……ちょっと言い方を変えるか。
「あなたにリーヴァントの補佐をやってもらいたいの!」
「補佐? 俺で良いのか? 何か特別な技術があるわけじゃないし、あまりやれることも無いぞ?」
「よく見知った仲の人物が居るってだけで頼もしいものよ。リーヴァントは今回大分疲れてしまっているから、愚痴を言い合ったり、忌憚なく意見を言えるヒトが必要だと思うの」
「………………」
表情見る限り大分渋ってるように見えるな……
まあ、責任ある立場なんて面倒だしね……
「補佐役は俺だけなのか?」
「他に二人打診しているところで、あと一人と合わせて計四人に声をかける予定だけど……」
「…………ああ、分かったよ、引き受けよう」
「そう? 良かった! じゃあよろしくお願いね! じゃあ、リーヴァントが帰ってき次第、全員集めて正式に任命するからよろしくね!」
何とか四人目も無事見つかり、了承してもらうことができた。
◇
後日、旅行から帰って来た後にリーヴァントに聞いたことによると、まぎれもなく自分の元々の家だと言う。
曰く、幽霊依頼は初めてで、
『アルトラ様で良かったですよ、ゴーストは我々では対処できないので、多分私のところに依頼が来てもアルトラ様に協力を仰いでいたと思います』
とのこと。
結局私のところに回ってくることになってた案件か……
と言うか、引っ越したんならあんなボロボロの家壊してけよ!
もう使わないなら処分しておいてほしいとお願いして、更地にしてもらった。あのままにしておくと、またゴーストが住み着くかもしれないし、倒壊する可能性もあるし……
あと、今後こういう依頼が来ることも考えて、光属性を扱える魔術師を育てておかないといけない。この村に光魔術師って何人いるかしら? 魔界ではレアだって言うから十人未満かな、多分。
三百万都市の雷の国首都のトールズですら数十人だったから、下手したらクリスティン一人だけって可能性も……
あ、でも私の領主就任パーティーの時にスポットライト当ててくれたトロルがいるから二人いる? (第40話参照)
いや、もしかしたらあれもクリスティンかもしれないからやっぱり一人だけなのかしら? いずれにせよクリスティンの光魔法は伸ばしておかないといけないかも。
それにエレアースモの時は“回復”魔術師に限定したから、『光魔法を使えるヒト』に限定する範囲を広げたら人数がもう少し多くなるかもしれない。
今回の子ゴーストは、どこかで死んだものが多分この数ヶ月の間に流れてきてリーヴァント旧家に定着したってところか。
村の外から拾ってきた両親と思われる骨については村内にある共同墓地に埋葬した。子供の方の骨はどこにあるか分からないが……両親と一緒に成仏したのを確認したから一応は解決と見て良いだろう。もし今後見つけることがあったら、親と同じ場所に埋葬してあげよう。
それにしても、あの子供のゴーストとその親は一体……だれ?
この世界のアンデッドについて――
後でカイベルに聞いたところ、この世界のゴーストは魔界で死んで未練がある者が、まだあの世に行かずに彷徨っている状態らしい。
閻魔様の審判を受けている者が『亡者』、それ以外は、身体がある者は『屍人・ゾンビ』、骨だけの者が『骸骨・スケルトン』、骨すら無く魂だけになった者が『幽霊・ゴースト』という扱いだとか。
『亡者』は覇気が無く顔色が悪いこと以外は生前とそう変わらない外見なのに対し、『屍人・ゾンビ』は徐々に身体が腐っていくのだという。
その後、肉が全て腐り落ちると『骸骨・スケルトン』になり、更に骨の状態で動けなくなるほど損傷すると『幽霊・ゴースト』に落ち着くらしい。
だたし、未練があれば必ずしも死体が動くわけではなく、どの時点でアンデッド化するかは分からないとのこと。死んで間もなくゾンビになる者もいれば、肉体がまだ存在している間は全く動かず、それが朽ちた後にゴーストになる者もいるらしい。
なお、このアルトレリアでもゴーストはたまに目撃情報があるようだが、ゾンビやスケルトンは滅多に発生しないらしい。アンデッド化にはその地域の魔力の濃度や未練、恨みなどが関係してるそうだ。
私は閻魔様の審判を (多分)受領済みだから『亡者』に当たる。あと、スキル『疑似生者』の効果で顔色も生者と変わらない。
私以外の亡者は、すこ~しだけ顔色が悪いとか。
ちなみに、ミイラは身体があるからゾンビに当たるが、干からびてるかどうかで区別はされるらしい。
◇
幽霊騒動後、帰路に着いたレッドドラゴン三人は――
「あの……フレハル様……」
と尋ねたのはアリサ。
「何だ?」
「あの空き家、特に何も居なかったように思ったのですが、何か居たのですか? フレハル様とレイアは泣き叫んでましたけど……あとアルトラ様も様子がおかしかったですけど……わたくしが目で捉えられないほど早い動きをするものが?」
「「 !? 」」
それを聞いて驚愕するフレアハルトとレイア。
「空き家で、アルトラ様は何に話しかけていたのですか? 子供に話しかけてるような口調でしたが、どこにいるのか分かりませんでしたし。まさかあそこに子ガルムでもいたのですか? それすらもわたくしには見えませんでしたが……」
「「 !!? 」」
「それに……村の外で、なぜアルトラ様はわざわざ土を掘って持って来たのですか? 骨がどうとか聞こえた気がしましたが……ただの土みたいに見えましたけど骨とは?」
「お前……あれが見えなかったのか……?」
「薄っすら透けてるトロルの子供が居たんだけど……!?」
「はい? 薄っすら……? 子供が透けて見えるのですか……? それは一体……」
「「 ………………!? 」」
アルトラは、アリサは普段から霊が見えているから肝が据わっていると勘違いしていたが、普段見えているどころか全く見えてない側のヒトであった。
【裏話】
この魔界の幽霊が見える見えない問題は大分複雑です。
我々地球人に、冥球の生物は、霊感がある人やある種のチャンネルが嚙み合った人にしか見えません。要は地球に限れば冥球の生物も幽霊も同じものということになります。
そのため冥球住みにも関わらず霊が全く見えないアリサにも霊感がありますが、それは冥球内で『肉体のある物体(地球で言うところの『幻想生物』)』しか見られません。つまり冥球内に限って言えばアリサは零感です。
冥球の死者であるゴーストを見るにはもう一段上の霊感が必要となります。
アルトラや地獄へ送られる亡者は死者ではあるものの冥球に来た時点で、肉の身体が与えられている(転生のようなものの)ためアリサでも見ることができます。
って、自分で設定考えていても、かなり頭が混乱しますが、まあ結局のところ『霊感が強いか弱いかで見える範囲に違いがある』と単純に考えてもらえれば良いと思います。
仮に霊感が0から3まで段階があるとして、
3は存在が希薄な霊も見える(霊視魔法を使ったアルトラ)
2は強い思念を持った霊や高位精霊が見える(アルトラ、フレハル、レイアがここ)
1は幻想生物や低位精霊が見える(アリサがここ)
0は全く見えない
といった感じに考えていただけるとわかりやすいかもしれません。
4まで考えていますが、今のところ登場は未定なので、描くことがあるかもわかりません。