第141話 子ゴースト、無事成仏
久しぶりに村の門から外へ出る。
「おや、珍しいですね、アルトラ様がここから外へ出られるなんて」
「フレハルさんたちを引き連れて、どこへ行かれるんですか?」
門衛のマークとトーマスに声をかけられた。
リッチ騒動が収まって、最近は穏やかなものだ。 (第106話から第108話参照)
「役所に来た依頼で、外に用があるみたいなの」
「『みたい』?」
「行ってみないと分からないことなもんで」
マークに首を傾げられた。
私にとっても死体探しなんて初めてだから分からないのよ……
外に出て、二キロほど歩いたところ、フレアハルトが何かを感知した。
「あれだな……微弱だが、あそこからさっきのゴーストに似た魔力の波長を感じる」
そこに着いてみると、白い何かの残骸。多分骨……かな?
しかし、何も居るようには見えない。
子ゴーストほどの未練があるわけではない?
霊視する魔法なんてあるのかな? 多分光か闇魔法だろう。
試しに目に光の魔力を集めて見てみた。
「【霊視】」
すると、さっきは“見えなかったモノ”が視えるようになった
あ、やっぱり何かいる。骨らしきものの近くに二つの黒い影が佇んでいる。
初めて見たけど、これが霊ってヤツか。
ここで二人一緒に亡くなったのかな? 片方が片方を守ったとかそういう感じか。
「フレハル、ここに二人分の魔力がある?」
「よくわかったな、微かだが二人分だ」
まあ、私にはバッチリ見えてるからね……
「だが消えそうだな。もうほとんど残っておらん」
「そっか。それじゃあ見つける最後のチャンスだったのかもしてないね」
フッとそれ以外のところを見回すと、骨の持ち主らしきヒトたち以外にもいる。二人どころの話じゃない! 霊が周囲に大量にいる! しかも何だか化け物みたいな形に変異してるのもいるし!
ダメだこの魔法、霊が見えすぎて怖い。普段見えてないだけで、浮遊霊がこんなにいるのか。
そんなことを考えていたところ、隣に立たれた。
何か目的の霊とは別の浮遊霊に見られてる……
横に立たれた……ガン見されてる……
目が合わないようにスルーしよう……
と思ったものの、化け物みたいに変異してるヤツは放置しておくと今後悪いことが起こるかもしれない。
浄化しておこう。あれ多分悪霊化一歩手前か、悪霊化してるヤツだわ。放置しておくと悪いことが起こるかもしれない。
光魔法なら浄化も可能なはず。
「【広範囲悪霊浄化】!」
周囲に光魔法をばら撒いて、悪霊の浄化を促す。
「と、突然何をしたのだ!?」
「う、うん……ちょ、ちょっと悪いものが見えたから周囲を光魔法で浄化した」
「ゴ、ゴーストですか!? 他にも居るんですか!?」
「も、もう大丈夫」
この依頼が終わったら、今後【霊視】は金輪際使わないようにしよう。怖い……
「さ、さて気を取り直して……あなたたちの子供が泣いてます。一緒に来てもらえますか?」
子供ゴーストの両親らしき霊に話しかけるが、全く反応が無い。
「そ、そこに居るのか?」
「う~ん……居るには居るんだけど、全く反応が無いね。もう消えかけてるからかも」
引っ張って連れて行こうとしたところで、実態が無いから通り抜けてしまうし……
とは言え、恐らくあの子供ゴーストの両親である彼らを連れて行かないと解決しない気がする。
あそこの骨ごと持って行けば付いて来てくれるかしら?
骨らしきものがある部分を土ごと削り取って拾い上げた。
「それどうするんですかぁ?」
「多分これが、さっきの家にいた子の親の骨だと思う」
「え!? これが!? ほとんど残ってないじゃないですか!?」
「年月が経過してるなら、残ってる方が奇跡だと思うよ」
土を持って行くと、予想した通り二つの霊も付いて来た。
「フレハル、私の後ろに何か見える?」
「見える? 何がだ?」
存在感が薄いから魔法で霊視力を強化している私以外には見えないのかな。
と言うことは、この三人にも見えてるさっきのゴーストの子はかなり未練があるってことなのね。
「見えないなら良い」
「何言ってるのだ!? 怖いぞ!!」
「じゃあ【ゲート】開きたいから、これちょっとだけ持っててもらえる?」
骨入り土をフレアハルトに渡し、少しの間持つのを代わってもらう。二人の霊はフレアハルトの後ろに憑いた。フレアハルトには見えてないみたいだけど、さっきの空き家の様子を見るに、見えてたらパニック起こしてるかもしれないな……
「ッ……!?」
フレアハルトが一瞬震えたように見えた。
「どうかした?」
「いや、なぜか背中側に微弱な魔力の流れ? いや、何か悪寒を感じた……」
まあ、二人の霊が後ろに回ったからね。それを感じたんでしょう。
「それで、この土はどうするのだ?」
「私が【ゲート】で移動する間だけ持ってて」
【ゲート】を開いて村はずれの空き家付近と繋げる。
◇
村はずれの空き家に帰って来た。
フレアハルトから土を受け取り、家の中の子供ゴーストのところへ。
「うおっ!!?」
「うわぁっ!!?」
骨入り土を持って空き家に入り、子ゴーストと接触した瞬間に、突然二人分の霊が見えるようになったらしく、フレアハルトとレイアが驚いた。
多分子ゴーストに再会したことで、一時的に未練が大きくなったとかそんな感じなんだろう。
『オォォォォオォォォ!!』
『アアァァアァァアァ!!』
『オドヂャ……オガヂャ……ヤッドアエタ……』
両親の泣き声が慟哭に聞こえなくもないけど……どうやら感動しているらしい。
何年経ってたかわからないけど、ようやく再会できたみたいだ。
『アリガドウ……』
そして昇天していく……
……
…………
………………
あれ? 昇天して……いかないな……?
『あ~、あの世ってどうやって行くだ? 場所わがんねがら送っでもらえねか? あんだ、オラだぢをむがえに来だ天使ダベ?』
父親らしき方が普通に話しかけてきた……
お、おお……【知性上昇 (大)】をかける前のトロルだから霊もこんな感じか。久しぶりだから忘れてた。
子と会えて未練みたいなものが消えたから、自我が戻って来たのかもしれない。
私が彼らを視認しているから、迎えに来た天使と勘違いしているようだ。
……いや、視線が私の頭上だから、彼らには天使の輪が見えてるのか。
「ちゃんと狙ったところへ送れるか分からないけど、それでも良いなら……」
『よろしくたのんまず』
「【昇天魔法】!」
『ありがとう……』
光と共に空へ消えた。
今思ったけど、空を覆うあの闇はちゃんと通り抜けられるのかしら?
まあ、成仏したんなら良いか。
「終わったのか?」
「終わりましたか?」
ちょっと遠くの岩の後ろまで逃げてたらしいフレアハルトとレイアが声をかけてくる。
アリサは私の前に立っているからこちらからは表情が見えないが、二人を見て苦笑いしている様が目に浮かぶ。
「終わったみたいだよ。付き添いありがとう。じゃあ私は依頼者へ報告に行くから、帰っても良いよ」
「ちょっと待て!」
「なに?」
「今後、今回のようなことに我を駆り出さないでくれ!」
「わ、私も私も!」
この二人、アンデッドに対して大きいトラウマでもあるんだろうか……?
超強いドラゴンなのに……
「わ、分かったよ。今後はこの手のことであなたたちを呼ばないようにする」
「どっと疲れた……精密な魔力感知もしたしな……」
「あ、それはありがとう。本当に助かったわ。でも普段から見えてたりしないの?」
子供のゴースト見た時から、『透けたナニカ』って言ってたし、見えててもおかしくない気がするが……
「ふ、普段は意識せんから全く見えん! だ、だが、『居る』と気付かされると怖さと共に薄っすら見えるようになってしまう! だから普段から我にその手の話をするな! 見えんくなるように波長をズラすのも大変なのだ!」
「あ、そ、そうなの……?」
そしてもう一つ疑問がある。
ここまでの一連のことを考えて、アリサが落ち着き過ぎな気がする。突然見えるようになった霊にフレアハルトとレイアはビックリしてたのに、アリサだけ無反応だった。
「アリサ、もしかして普段から見えてる?」
「……さて、一体何のことでしょうか?」
ニッコリ笑って否定された。
……まあ、見えてるのか見えてないのか分からないけど、別にそれ以上追求しなくても良いか。




