第140話 幽霊騒動
再び問題の家にやって来た。
「ボロボロではないか……」
「な、何か出そうですねぇ……」
「大分年数が経ってるらしいからね……」
あばら家……というよりは土と石で作られているから遺跡みたいな感じ。
床や壁がところどころ傷んでいる。風化して穴が開いているところも……
元々水分が少ない土地だったけど、ここ最近の環境の変化で水分を持ってしまって脆くなっているところがところどころにある。腐敗している場所はまだ無さそうだ。
玄関扉は私が来てからこの村で知られるようになった物だから、玄関扉は元々無いようだ。必然的に家の中の風化も激しくなっている。
「暗いわね……」
一歩中に入ってみると……
「うわっ」
風化した土埃が一瞬で舞う。これは、この一件が解決したら取り壊してしまった方が良いかもしれない……建ってるだけで危険だ。
この村の家の構造としては珍しく部屋が三つある。私が来る前の家は大抵の家が部屋一つで構成されている。
「じゃあ、私とアリサはこっちの部屋を見るから、フレハルとレイアはあっちをお願い」
「「 えっ!!? 」」
フレアハルトとレイアが二人同時に驚きの声を上げた。
「何か問題でも?」
「いや……全員で見回れば良いのではないか?」
「そ、そうですよ! 三つしか部屋が無いんですから!」
それもそうか。
「じゃあこっちの部屋から調査しようか」
光魔法で家の中を照らす。
ワサッ……
大量の虫が一斉に移動した。
「「 ギャアアァァァ!!! 」」
ビクッ!
声の主はフレアハルトとレイア。
「なに!? どうしたの!?」
「黒い影が!!」
「沢山いるよっ!?」
「ただの虫よ!」
アリサと目を合わせると、『うちのご主人様がすみません』と言いたげな苦笑いが帰ってきた。
彼女だけは肝が据わってるらしい。
「特に何も無いわね……」
照らした直後に、虫が一斉に移動したのを見ただけだ……大地が冷えたり雨が降るようになって水分が増えた所為か、ゴ……と思われる虫まで住み着くようになってしまった……この家、土製で上部は乾燥していて埃が舞うものの、床付近は暗くて床付近が少しジメジメしてるから最適な環境なんだろう。
次の部屋へ行こう。
フレアハルトは私を、レイアはアリサを盾にして移動する。
「ちょ、ちょっと、何で私を盾にするの!」
「すまん! 嘘吐いた! 怖い!」
「その図体で私に隠れるなぁ!」
「私も怖いですぅ!」
「私だって怖いんだから!」
「我を見捨てないでくれアルトラ様~!」
「あんたいつも『様』付けないだろ!」
みんな軽くパニック状態。
この二人に比べたら、私の怖がり方はそれほど大したことはないらしいが、怖いものは怖い。
と言うか、RPGではゴーストより圧倒的に強いレッドドラゴンが、何でこんなに怖がってるんだ!
「あ、ちょっと! 早いよぉ~」
アリサが足早に次の部屋へ行こうとするところ、レイアが後ろにくっ付いているものだから、引きずられるように付いて行く形になった。
それにしてもアリサの肝の据わり具合が凄い。
「………………何もいないようですね?」
ホッ……何も……いない……
……わけがないんだけどなぁ……
この家の外へ漏れ出る黒い怨念のようなオーラ。何もいないんならアレは何だって話になる。
生前はあんな黒いモヤが見えたことないから、この身体ではくっきり見えてる分、怖さが増している。
『……オ……ド……ザ…………オガ……ザ……』
「誰か何か言った?」
三人全員が首を横に振る。
フレアハルトとレイアは顔が更に青くなる。
「フレハル、魔力感知で何とかならないの?」
既に無言で指さしている。微かに震えている?
「……も、もう……いる……な、何か……いる……」
指さした方向を見ると……部屋の角に黒いモヤを纏った人のような塊が!
「「 出たーーーー!!! 」」
フレアハルトとレイアが一目散に逃げた!
私とアリサはその場で迎撃態勢を取る!
『……ウゥ……ドウ……ヂャ…………ガア……ヂャ…………』
……
…………
………………
襲っては来ないな。
よく耳を澄ますと、「とうちゃ」とか「とうちゃ」とか聞こえるような気がするけど……何のことだろう? 『父ちゃん』、『母ちゃん』のことかしら?
子供のゴーストなのは間違いないようだけど……
ここで両親がいなくなって死んだ子供の霊ってところか。
「お父さんとお母さんを探してるの?」
うめき声を上げながら微かに頷いたように感じた。会話は全くできそうもないが、意思疎通くらいはできる……か?
黒いモヤが纏わりつき過ぎて、元々どんな姿だったのか判別しづらいけど、攻撃してくる様子は無さそうだから悪霊ではなさそうだ。
この黒モヤは怨念じゃなくて未練の方かも。死んでも両親が見つからないからそれが未練になってるってところかな?
両親が見つかれば成仏してくれるかもしれない。
後ろを振り向くと逃げて行った二人が、家の外側からこちらを窺っている。
続けて唯一逃げなかったアリサの方を見ると……
苦笑い。今度は『しょうがないですねぇ』という顔をしている。
「フレハル!」
「ハイッ!!」
恐怖の所為か、返事がおかしい。
「ちょっと手伝ってほしいから中入って来てくれる?」
「それはできん! こ、怖い!」
くっ、この男は……
「じゃあ、そこからでも良いから手伝って。この子の魔力って感じられる?」
「う、薄っすらとしか感じられないが、そこに居ることくらいは分かる!」
「じゃあこの子の魔力から、これと似たような波長を持つ魔力を見つけられない?」
「そ、そこに居るのは何なのだ!?」
「子供のようなナニカがここに居るんだけど……あなたには見えないの?」
「す、透けたナニカが居るように見える! そ、それがゴーストというヤツか!?」
私と見え方が違うのかしら?
魔力感知能力はフレアハルトの方が強いはずなのに、私のように黒いモヤが見えて無いのか?
魔力と霊感は必ずしもイコールではないということかしら?
「両親が見つかったらもしかしたら昇天してくれるかもしれないから、何とかこの子と似た波長の魔力を探せない?」
「お、お主は難しいことをさせるな……やったことはないが……やってみよう」
……
…………
………………
「…………微かに……それに似たものは見つけた、村の外だ。結構遠いぞ」




