第138話 イチトスの行方……
次はイチトスを探さないと。
と、言っても彼は役所務めじゃないからどこにいるか分からない。
「まあ七人も兄弟いるし、村中探してれば誰かしらには遭遇するでしょ」
あのマッスルな肉体を活かすには……私のイメージでは畑作業してるんじゃないかと思うのよね。
◇
と言うわけで畑へ来てみた。
早速兄弟の一人を発見。
「あら、ニートス、ここで働いてたのね」
「アルトラ様、こんにちは。ええ、川の掘削もする必要が無くなりましたので、私の土魔法を生かすならやはりここかなと」
「その筋肉生かすのもここなら最適ね。それで、今あなたのお兄さん探してるんだけど、どこにいるか分かる?」
「えーと、どこだったかな……食堂はどうでしょう?」
「食堂ね、ありがとう!」
食堂で……食べてるのかな? 働いてるイメージは湧かないんだけど……
◇
役所の食堂へ来た。
「こんにちは、オライムス」
「アルトラ様、いらっしゃい!」
今まで紹介の機会が無かったけど、副店長を任されているオライムス。店長のハンバームちゃんが休暇中だから現在の実質的な責任者。
『オムライス』に似た名前に違わず、卵料理が得意で卵が好き。でもこの村ではまだ卵を産んでくれる生物がいないため、彼が料理に使う卵は専らアクアリヴィアからの輸入品。
「イチトスいる?」
「いえ……ゴトスさんならいますが」
「アルトラ様、兄に何かご用でしょうか?」
ゴトスが厨房から顔を覗かせた。
「あなた料理得意だったのね。イチトス探してるんだけど……」
「兄は……え~と、どこだったかな……え~……工房とかどうでしょう?」
工房? この村に工房なんかあったっけ?
私はタッチしてないな……
「工房って何? いつ出来たの?」
「つい最近ですよ。ミリアンがドワーフさんたちに話を聞いてやってみたいと思ったらしく、川作りの合間にドワーフさんたちにアドバイスをもらって作ってたみたいです」
いつの間にそんなのが出来てたんだ……ホント、この村はいつの間にか何か出来てるわね。
ってことは鍛冶場ももう出来てる可能性が……? 今回はお土産持って行くにも、鍛冶場へは行かずに直接本人に渡したからな……
もうそろそろ私が把握しなくても良い段階に来てるのかな。そうでなくても勝手に何か作ってるし、水浴び場とか。
「土で食器とか作ってました。そこで私の兄弟の誰かが働いてるって」
誰かって……その感じだとイチトスじゃない可能性大かな……
と言うか、七人も兄弟がいると、誰がどこで働いてるか把握してないのか?
「ありがとう、とりあえず行ってみるわ」
よく考えてみれば、食堂って役所内にあるから、イチトスが食堂で働いてるなら、受付のマリリアが知らないわけなかったわ。
◇
今聞いた工房へ来てみた。
「こんにちは」
「いらっしゃいませー、あ、アルトラ様」
「いつの間にこんな工房を建てたの」
「ドワーフさんたちに頼んだら、手が空いた時に作ってもらえるって言われたので、お願いしました」
川作ってるのに、いつ手が空いてたんだ……まさか川作業終わった後にこっちを作ってたのか?
それはそれで過重労働にならないだろうか?
「ここって何作ってるの?」
「村で使うための食器とかですかね。もう昔のように手づかみで生活するような時代じゃなくなってきましたから」
たった数ヵ月で随分変わってきたもんだ。
「アルトラ様がお使いになってた二本の棒も作ってみましたよ。どうですか?」
二本の棒?
ああ、箸のことね。
「これ、まだ使い方が難しいですけど、使い慣れればかなり便利ですよね。あとスプーンとかフォークとか」
これらはちょっと前からあったな。あの時より洗練されてきてるけど。
「それはそうと、イチトス探してるんだけど、ここにいる?」
「ここにはいません。ここにいるのはヨントスさんですね。ヨントスさ~ん、アルトラ様が用があるそうですよー!」
「はい……アルトラ様、どうしましたか?」
「イチトス知らない?」
「イチ兄ちゃん……ですか? 確か……畑の方じゃないでしょうか?」
「それはニートスだった」
「じゃあ、食堂……」
「それはゴトス」
やっぱりこの兄弟、誰がどこで働いてるか把握してないのか……
「じゃあ建築部の方じゃないでしょうか?」
「建築部ね! ありがと! 行ってみるわ!」
建築部なら体力使うから、居る可能性高い。
これ、ゲームとかでよくある『たらい回しイベント』みたいだわ……
しかも、今私がやってることはゲームじゃないから、イベント達成しても何かアイテムが貰えるわけではないって言うね……
ただ副リーダーに勧誘するだけのことなのに、村中たらい回しにされるとは……
◇
建築部が今建設している家に来た。
「トーリョ、精が出るわね!」
「おう! アルトラ様! 珍しいなこんなところへ来るなんて!」
「ここにイチトスいる?」
「いねぇな!」
くっ! ここもハズレか!
「いるのはサントスだな。おい! サントス!」
「はい! 親方!」
「アルトラ様がおめぇに用だってよ!」
「はい、どうしましたか?」
「イチトスはどこにいる?」
「アルトラ様……何か恐いですよ……どうしましたか?」
知らず知らず険しい顔になっていたらしい。
「たらい回しイベントをこなしている最中でね……ちょっとイライラしてる……」
「ははは……私の兄弟の所為ですか……?」
「それでイチトスはどこに?」
「えーと、村近辺の生態調査に行くとか言ってたような……」
「どっちの方向へ!?」
「わかりませんけど……村の防壁周辺にいませんかね?」
広い! 範囲広過ぎ!! この村の外周何キロあると思ってるの!?
これは上空から探した方が早そうだ。
「わ……わかったわ……ありがとう……探してみる」
羽を使って、外周を飛んでみる。
高いところから見下ろしたことはあまり無かったが、この村も大分活気が出て来たように思う。
建築技術が上がったことにより、木の掘っ立て小屋や土壁、乱雑に積まれた石材、藁のような素材だった家が、きちんとした木造や石造りに変わってきた。
道路が整備されつつあり、石畳が敷かれてきている。街路樹も植えられ整えられ、徐々に徐々に村から町へと姿を変えている。
「あ、リディア発見」
何だかみんなで一定間隔で棒みたいなの振っている。
よく見たら近くにトーマスがいるから、剣術指南かなんかだろうか?
普段こんなこともやってたのね。
◇
十分くらいした後に兄弟らしき者を見つけた、でもあれは……
「ロクトス!」
「……アルトラ様、こんにちは……」
「あなたはここで何してるの?」
「……仲間と周辺の生態調査。俺の他に近くに三人いる……その内の一人、メイフィーさんから引き継いだハントラさんってヒトに付いて活動している……」
生態調査……この子は大人しい子だと思ってたけど、こういう外で活動するのが好きだったのね。
「……主に村で食料に出来そうな生物がいるかどうか調査している。最近この辺、見たことない生物が増えた……」
きっと火山冷却の影響だな。
「……理想は飼って、繁殖させて、養畜出来る生物……手軽なのだとその辺にいる二角ウサギ。あれは美味い……増やして食べられるようにしたい……」
あと、卵が村で食べられるようになると良いなぁ……鶏に当たる生物は歩いて来たり、飛来して来ないのかしら?
「……あと畑組に頼まれて、村で育てられそうな実や種を採取している……」
おぉ~!! 村の作物の増加は彼らの働きによるものか!
「それは素晴らしいことをやってるわ! ありがとう! 今後の働きに期待してるわ! それで……私がここに来た本題なんだけどイチトスの居場所わかる?」
「……さあ? 村の外に出る前に兄弟の誰かわからないけど村の掃除してるのを見た……」
「どの辺り?」
「……かき氷屋の露店辺り……」
「わかった! ありがとう!」
あとはイチトスとナナトスか……二分の一ね。
◇
ああ、誰かいる。
サボって氷食ってるナナトスがいる……
「お前かぁーー!!」
「うわ! いきなりなんスか!?」
「なに優雅に氷食ってんだ! イチトスを出せ!」
「イチ兄? イチ兄ならそこにいるじゃないッスか」
「えっ!? どこ!?」
指さした方向を見ると――
街路樹の剪定の手伝いをしているイチトス。
あれ? ここって……ルークがさっき剪定してたところじゃ……?
「アルトラ様、どうかなさいましたか?」
「あなたを探してたのよ! こんなところで何やってるの?」
「ルークくんに剪定の手伝いを頼まれまして。川掘削終了後、何でも屋のようなことを始めましたので」
「ずっとここにいたの!?」
「? はぁ……そうですが……それがどうかしましたか?」
「ルーク、何でイチトスがいるって言ってくれなかったの!?」
「え!? 僕ですか!? い、いえ何も言われませんでしたし……アルトラ様がイチトスさんを探してるなんて話も今知りましたし……」
「うっ……」
一番最初にルークに話しておけば、すぐそこに居たのか……
散々探し回って、まさか最初のところに居るとは……
と言うか……七分の一を最後に引き当てるって……私って運悪いのかしら?
「イチトス、あなたを探してました。あなたに副役所長をやってもらいたいと思います」
「ルークくんが副役所長なのではないんですか? さきほどルークくんに打診してたように思うのですが」
聞こえる距離に居たんかい!!
まさか私とルークが話してるこの木の裏側に居たとか?
「副役所長を四人ほど置きたいと思っているから、そのうちの一翼を担ってもらえると助かる」
「わかりました、私で良ければ尽力致します。あとの二人は誰なのですか?」
「それはおいおい知らせます。一人はここに居らず、一人は現在探し中なので」
「もうアルトラ様の中では決まっている方がいるのですね」
「まあ、そういうことになるかな。じゃあ、二人とも副リーダーの件よろしくね! 時には上の命令を待たず、自分で結論を出さないといけないこともあると思うけど、あなたたちなら出来ると信じているから」
「はい」
「了解しました」
「じゃあ、リーヴァントが帰ってき次第、全員集めて正式に任命するからよろしくね。ところで一つ聞きたいんだけど、あなたは兄弟がどこで働いてるか知ってる?」
「兄弟ですか? ニートスは最近畑で働いてると聞いてますね。
サントスは家建てたいとか言ってたので我が家がバージョンアップするのを期待しています。
ヨントスは最近出来た食器とか作ってる工房、
ゴトスは料理が得意なので食堂にいるんじゃないですかね。我々の夕飯も作ってくれますが、美味しいですよ。
ロクトスはこの村発展に重要な生態調査する仕事に就いたとか。口数が少ないやつだったので安心してます。
ナナトスは……多分フラフラしてるんじゃないですか? ちょっといい加減に映るかもしれませんが、根は凄く良いやつなので許してあげてください。そのうちやりたいことも見つけるでしょう。それがどうかいたしましたか?」
「イチ兄……すぐそこに居るんで『いい加減』って聞こえてるッスよ……」
「私はナナトスを信じていますから!!」
素晴らしいわ! オルシンジテンのピックアップに狂いは無かった!
ここまで把握してるとは、長男凄い!
ふぅ……こんなに村中飛び回ったの初めてじゃないかしら?
まあ、何とか見つけて、打診も終わって、副リーダーも担ってもらえた。
あとは……四人目の謎の人物の捜索か。それはまあおいおい探すとするか。




