第131話 空間魔法災害から一夜明けて……
空間魔法災害から一夜――
疑似太陽が無くて空は暗いから時間感覚が分かりにくいけど、朝八時の時間帯。
私は今日も王城へやってきた。
空間魔法歪曲を発生させてた大元を捕まえたため今回は【ゲート】で直接王城へ移動が可能になった。楽だわ～。
そして案内されたのは再びの会議室。
「おおぉぉ～、アルトラ殿～、無事に腕が再生されましたぞ！ ありがとうございました！」
「それは良かった、ちゃんと再生して安心しました！」
昨日腕を切断された重役のエドワードさん。無事腕が再生できたみたいだ。
後で聞いた話によるとこのヒト、騎士団長を引退した後、この国で初の防衛大臣になったヒトらしい。言うなれば騎士団のトップ？
長命なヘルヘヴン族らしく、見た目は若くみえるけどかなりの年齢なんだとか。
「……ベルゼ、昨日はお疲れ様……」
「今日はもう何ともない？」
「……うん、雷雲集積装置は正常……空間転移も問題無い……外へ調査に行った空間魔術師とも連絡が取れて帰って来た……」
「巨大サンダラバードはどうなった？」
「……魔力を無効化する檻の中に入って大人しくしてる……多分、今日明日くらいで処遇も決まると思う……」
「怪我人の詳細は？」
「……死者は三十四人、負傷者は千八百六人、負傷者の大半は放っておいたら命に関わる大怪我……今各地の病院に搬送、入院している……」
死傷者の詳細も明らかになった。
聞いたところによると、この都市の人口は三百万人以上。三百万都市としては、かなり少な目に済んではいるが……死者が出てしまっているところが遣り切れない……
死因や怪我の原因はどれも空間の裂け目が閉じた時に生ずる切断によるものだった。
軽い者でも指を切断された者、重いと腕や脚。ホテルへの道すがら私が治療した人たちも多くは片腕や片脚を奪われていた。切断された部位は街中の別の場所へ転送されていたので、街中に手足が散乱する大惨事に……
中には首や胴体を切られた者も……
足元に空間の裂け目が出現したヒトは、そのまま落下して別の場所へ転移されたから無事な者が多かったが、首や腰辺りに出現してしまったヒトは、そのまま切断されることに……
腰から切断されたヒトの内の一人は運良く命を繋いだヒトがいるらしいが……この先のことを考えると気の毒だ。この場合は“運悪く”が適切かもしれないな……
首を切断されたヒトの中にはデュラハン族がいて、首だけ吸い込まれて別のところに転送されてしまったってケースもあったとか。そのヒトは元々首が外れる構造だったから幸いなことにちゃんと生きてる。頭が戻って来るまで少しの間難儀したそうだが。
首だけ路上に落ちていたらしく、突然話しかけられたらしい。話しかけられたヒトはさぞかし驚いたことだろう。
運良く空間の裂け目が足元に出現したヒト達は、他国とかではなくこの空間転移歪曲地内のどこかに転送されていたらしい。中には街の外側に転送されたヒトもいて、魔物に襲われているところを発見されたってケースもあった。
切り離された腕や脚はこの空間魔法災害直後、各地で速やかに回収されて集められたものの、どれが誰のものか分からないため、元の身体の持ち主へ返されることはなくそのまま火葬 （？）された。いや、必ずしも死者とは言い切れないから焼却と言った方が適切なのかもしれない。
この世界にもＤＮＡ鑑定があるらしく特定は可能だそうだが、この世界は回復魔法という再生させるための術があるから、そこは迷いが無く即座に焼却が決定したというところ。
ただ、首に関してだけは特定が容易だったのもあり元の身体へと返された上で、荼毘に付された。
また、胴体から切断されてしまったヒトの下半身は、見つかるには見つかったものの、時間が経ちすぎていてくっ付けることは最早不可能らしい。現在治療している最中だそうだが深刻な状況。恐らく助からないだろうとのこと。
現在の街並みは、まだ血痕はあるものの腕や脚が散乱しているということはなくなり、騒動も大分沈静化してきている。
亡くなられた方々は随分と凄惨な死に方をしてしまったみたいだ……せめてご冥福をお祈りいたします……
「負傷者の方々は？」
「……昨日から回復魔術師が徹夜で治療に当たっている……」
「この国に腕や脚を再生させられる魔術師ってどれくらいいるの？」
「……そこまで強力な回復魔法になると……十人未満だと思う……治療も傷を塞ぐ程度の応急処置くらいしかできてないのが実情……」
「だったら、国内放送で身体の一部が切断されてしまったヒトを一ヶ所に集めてくれる？ 可能なら空間魔術師に頼んで各病院から負傷者を転送してもらうようにして。負傷者は体調が悪くても無理してでも来てもらうようにお願いして、私が回復するから」
「……そんなこと……可能なの……？ 何人かは再生治療まで出来たけど……あと何百人いるかわからないよ……？」
「大丈夫、【癒しの水球】は消費魔力が少なく済むから」
「………………わかった……じゃあお願い」
そしてすぐにお付きの護衛に指示を出す。
「……すぐに首都内放送で、怪我人はサントラル公園広場に集まるように伝えて……」
「ハッ！ 了解致しました！」
サントラル公園広場――
サンダー（雷）＋セントラル （中央）という名前を組み合わせて作られた、王城から一番近い広場。
誰が付けたかは知らないけど、名前の付け方が安易……
さて、私もサントラル公園広場へ行く準備をするか。
あ、顔は隠した方が良いな。素顔で行ったら後々面倒になりそうだ。
服装も闇のドレスだと、後々私が治療に参加していたと丸わかりになってしまうから、服を借りるか。
「アスモ、目立ちたくないんだけど、服貸してもらえないかな？ なるべく目立たない服を」
「……わかった……」
で、用意されたのが、この国の回復魔術師用の制服。
その服はナースキャップのようなものを付けて、上はまだマシだが……下は大分際どい格好……
この国の正装が （私から見たら）特殊なこと忘れてた……
「ほ、他に服は無いの？」
普段ワンピースタイプに作ったドレスを着て、脚の大部分は隠れてるから、太ももが出てるのはちょっと恥ずかしい。
「？ ……正式な回復魔術師の格好だけど……それじゃダメなの……？」
もう歴史的にこの服装だから違和感が無いのか……
この国で目立たないためだ、仕方ない！
木を隠すなら森の中だ！
「あと、眼帯貸してもらえる？」
ホントは仮面とか覆面みたいな広範囲に顔を隠せるものにしたかったところだけど、そんなのしてたらあまりにも違和感ありすぎるから、眼帯で片目を隠す程度の変装にしておく。
片目だけでも隠せば、万が一私のことが知られてしまったとしても顔バレを防げる……と思う。
あ、そうだ、この方法を他の回復魔術師にも覚えてもらえば、私一人でやる必要は無いんだ！
「回復魔術師ってほとんどが光魔術師よね？」
「……そう……」
「全員が白天使？」
「……違う……他の亜人種族の中にも光を使える者は少数ながら生まれる……この国は多種族の亜人がいるから、その中からもスカウトしている……」
「じゃあ一旦回復魔術師の半数と、水魔法が使える魔術師、闇魔法が使える魔術師を集めてもらえる？ 最適なのは三つ全部使えるヒトだけど、どれか一つだけでも良い」
「……どうして……？」
「今、回復魔術師がやってる方法だと、消費する魔力が大きすぎて効率が悪すぎる。もっと省エネルギーで出来る方法を教えるから。あと切断された負傷者を回復魔術師と同じ数プラス一人用意して。実習に使ってしまって申し訳ないけど、そのヒトたちを使って実演する。省エネ方法を教えた後は、その半数ともう半数を交代させて、同じことを教える」
「……わかった……至急、回復魔術師の半数とそれに相当する水と闇を使える魔術師、それと負傷者を集めて……！」
「ハッ！ 了解しました！」
それと昨日、片腕を奪われ、今日には再生されていた防衛大臣のエドワードさんに同行をお願いする。
「あ、それとエドワードさん」
「何でしょう？」
「私に付いて来てもらうことはできますか？ あなたが来てくださるとこの回復術に説得力が出ます」
「アルトラ殿の頼みとあれば断るべくもありません」
