第129話 vs巨大サンダラバード
二十分後、首都の真上、雷雲の中心部分に着いた。
飛んで来る最中に、上空から十数発雷を喰らったが、全部マントが無効化してくれた。このマントすげぇぇ!
「……今から進入する、準備良い……?」
「ちょっと待って」
自分とアスモに、雷無効と雷吸収の防御魔法をかける。アスモは雷がほぼ効かないって言ってたけど、一応念のため。
「準備OK!」
「……多分、これからベルゼに大迷惑かけちゃうと思うけど……大丈夫……?」
「? 何のことか分からないけど……大丈夫よ!」
大迷惑? 一体何のことかしら? この状況でアスモが私に迷惑かけるって……
まあ、この身体なら滅多なことでは命の危機なんて無いでしょう。
「……じゃあ、突入する……!」
雷雲へと進入。
雷雲に入った途端、あっという間にサンダラバードに集られた。
「うわぁぁ!! 多過ぎっ!!」
物っ凄い纏わりつかれている。外側から見たら、もしかしたら光る球体になっているかもしれない。
やられてるのは突っつき攻撃だけだけど、サンダラバードが帯電してるから雷効果もあるのかもしれない。突っつかれる度に私の身体が一瞬光る。絶縁しているとは言っても光らないわけではないらしい。
まあ、突っつき攻撃も雷攻撃も全く効かないから被害は皆無と言える。
ただ……突っつかれ過ぎて鎧とか兜とか小手具足とか徐々に壊れていってるけど……これ弁償しなくて良いよね? この程度の耐久力なら鎧脱いだ方が防御力高いわ。
と言うか鳥、結構でかい! 鳥の一メートルって結構でかい!
それより、アスモがどの程度の防御力か知らないけど、アスモは大丈夫なのか!?
下半身に鎧着こんでないはずだけど、この集団突っつき攻撃に耐えられてるのか?
群がるサンダラバートたちの隙間から、かろうじて前を飛んで行くアスモが見える。
あれ? アスモにはサンダラバードが全く寄って行ってないな……
アスモが前を飛んでるはずなのに、アスモには一匹も群がらず、なぜか全部こっちに来てる。
痛くはないけど、突かれた時に衝撃が来ないわけではない。全身突つかれて飛行がブレまくるし、私が羽ばたく時に羽がサンダラバードに当たったりするから飛びにくい。
そして何だか私だけ攻撃されて不満だ……
もたもたしている間に随分先に飛んで行ってしまったみたいだ。
とりあえず、纏わりついているサンダラバードを風魔法で吹き飛ばす。
「よし! 視界も開けた! いざ進もう!」
その後も、何度も集団で纏わりつかれては、風魔法で吹き飛ばすことを繰り返す。
「ああ~~!! 鬱陶しいなぁ!!」
思わず大声で愚痴を零すも、雷の轟音でかき消された。
その後もサンダラバードに突っつかれながら、大分進んだところでアスモを発見。
その近くにいる鳥を見て――
「でかっ!!」
――思わず口に出してしまった。あれが巨大サンダラバード?
あれは『サンダラ』なんてもんじゃないわ。『サンダガ』……いや『サンダジャ』クラスかもしれない。
私の心の中では『サンダジャバード』って呼ぼう。
アスモがサンダジャバードに触れようと、突進する。
軽度に魅了するならこれでもう終わるかな。
と、思った矢先――
ピシャッ!! ゴゴォォォォォン!!!
――サンダジャバードが放った雷に打たれた!
「アスモッ!!!」
轟音の中私の叫び声が聞こえたのか、顔をフルフルと横に振った。
多分、『……大丈夫……』と意思表示をしたのだろう。
雷に打たれてそのまま落下するかと思いきや、すぐに体勢を立て直して復帰した。
でも、何で魅了が効いていないの?
あくまで『軽度に』だから状況によっては効かないってことなのか。例えば身に危険が迫ってる時なんかは効かないとか?
よく見たら、後ろに卵が二つある。ダチョウの卵くらいの大きさかしら?
あれを守ってるから“軽度の魅了”程度では効かないのか。
その後、アスモが何度も突進するものの、全て雷で撃ち落とされる。
「……ダメ……全然近付けない……」
私には相変わらず他のサンダラバードが纏わりつく。
こういう緊急時だから、石化効果の【カトブレパスの瞳】で石化させてしまえば早いのだが……遠すぎて多分効果が無い。あと纏わりつくサンダラバードが多過ぎて、視界が遮られるから多分そっちが石化する。
あと、もう一つの懸念はアレがボス扱いかどうかというところ。ゲームではボスは石化が効かないことが多い。まあこれはゲームじゃないからボス耐性なんてのは多分あり得ないだろうけど……
アスモは何度も突進を続けているが、近付いても撃ち落とされる、近付いても撃ち落とされる……小柄なアスモでは、あのままだといずれ体力切れで負けてしまうかもしれない。
…………そうだ! 良い作戦閃いた! あの方法なら!
作戦を伝えたいところだけど、雷による轟音が大きすぎて、とても会話が成立するような環境じゃない。さて……どうするべきか……?
と、突然私とアスモの周りに空間の裂け目が出現、中へ引き寄せられ吸い込まれてしまった!
◇
な、何が起こったの!?
空間の裂け目に吸い込まれて投げ出された場所は地上。
辺りを見回すと、どうやら首都トールズの正門付近みたいだ。
「追い出されてしまったか……」
もう一度あの雷雲へ行かないといけないのか……
でも、幸いにもアスモも同じ場所に投げ出されたみたいだ。
「アスモデウス様! アルトラ様! ご無事ですか!?」
近くに居た重役とアスモの護衛の一人が駆け寄ってくる。
「巨大サンダラバードはいかがしましたか!?」
「……うん、倒せなくて追い出された……」
「今からもう一度雷雲に突入しようと思います。あと……この空間の裂け目による攻撃は巨大サンダラバードの仕業で間違いないと思います。恐らく空間転移歪曲の件も同じ」
「そうですか! やはり! 街を襲っていた空間の裂け目による攻撃も、あなたがた二人が雷雲に突入した直後から停止しました」
それって……私たちに係ってたから、街の方に魔法を割く余裕が無かったってことなのかな?
それにしても、あんなに無数の空間の裂け目を出現させるなんて……
ヒトの空間術師は十回程度が限界だったのに。どれほど無尽蔵な魔力を持ってるのかしら?
いや、もしかしたら雷雲から魔力を補給しつつ使ってるとか? どちらにしても無尽蔵に発動できることには変わりないか。
「多分、またすぐに開始されると思います。私たちもすぐにもう一度雷雲へ赴きます!」
「申し訳ないですが、お願いします……」
「そこでちょっと作戦を思い付いたんだ」
「……なに……?」
「今サンダラバードにされたことを逆に利用してやろうと思う」
「……っていうとどういうこと……?」
「アスモがサンダラバードに触れた時点で勝利なのよね?」
「……そう……それは絶対……」
「体力的にはまだ突進したりできる?」
「……まだまだ全然大丈夫……」
「じゃあ、まずアスモが何度も突進する。そうね……三回突進してもらう」
「……うん……それで……?」
「突進してそのまま相手に触れられるようならそれはそれで良し、三回撃ち落とされた場合はそれを合図に――」




