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建国のアルトラ ~魔界の天使 (?)の国造り奮闘譚~  作者: ヒロノF
第5章 雷の国エレアースモの異常事態編
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第127話 雷雲調査部隊

「なにっ? 空間転移の揺らぎ? 空間魔術師が戻って来たか!」

「いえ、それが……」


 王城に来てみたところ、空間転移魔法を使って近くまでやって来たため、少し騒ぎになっていた。


「あ、すみません、移動してきたのは私です」


 突然空間の裂け目が発生したため、昨日外へ出て行った雷の国の空間魔術師の三人の中のいずれかが戻って来たのかと思ったらしい。


「あなたは……え、と、アルトラ殿……でしたか? それとエミリーか。いかが致しましたか?」

「あの上空の雷雲のことで、女王様にお目通り願いたいと思います」

「わかりました、こちらへ」


 昨日約束していたため、すんなりと通してもらえた。


 連れて行かれたのは会議室。

 今日も朝から原因究明に勤しんでいるのだろうか? それとも夜通し?


 コンコンコン

「アルトラ様をお連れしました」


 ガチャ


「……こんなに朝早くどうしたの……?」

「あの雷雲がおかしいと思ってそれを伝えに来たんだけど……」

「……おかしい? 何が?……」

「昨日雷雲集積装置を切ったって言ってたよね?」

「……そういう命令を出したから、切ったはずだけど……」

「昨日より明らかに大きくなってるの!」

「……ホント……? ……誰かすぐに雷雲集積装置の状態を見てきて……!」

「はい!!」


 騎士がすぐに状態を見に走る。

 その間にアスモは会議室の窓から乗り出して空を見た。


「……ホントだ……こんなに大きくなってたなんて……」


 数十分後、さっきの騎士が戻って来た。


「雷雲集積装置のスイッチは入っておりません!」

「……スイッチが入ってない……? ……どういうこと……?」


 雲の動きを見る限り、いまだに集まってきているように見える。

 昨日と比べると一.五倍から二倍ほどの大きさにまで膨れ上がっている。


「あの大きさでも安全なの?」

「……分からない……通常はあんな大きさになる前に雷雲を集めるのを止めるから……」


 原因が全く特定できていないから困る。

 そういえば、昨日聞き込みに行くって言ってた、巨大鳥の目撃者のことはどうなったのかしら?


「昨日私が見たって言った、巨大な鳥の影のことは聞き込みできた?」

「……まだ……今聞き込みさせてる最中。もう少しで帰ってくるんじゃないかと思う……」


 そこへ騎士の一人が走り込んでくる。


「はぁはぁ……聞き込み……してきました!」

「……一晩中ご苦労様……それで何かわかった……?」

「はい! スゥー……ふぅ……結論から言いますと、少ない人数ではありますが、目撃者が複数存在しました。みな一瞬しか見ていないので、気のせいかと思って報告にも上がらなかったようです。ただ……どの目撃者も少しの距離を飛んで雷雲に隠れるところしか見ておらず、危険とは思わなかったようです! 当時はこれほど雷雲が発達してはいませんでしたので、雷雲から雷雲の間を飛んでいるところを目撃されたのだと思われます。そして、目撃は全員ここ二、三日の間とのことです!」

「……わかった、ありがとう、下がって良いよ……」

「はい! 失礼致します!」

「……今のを聞いてみんなはどう思う……?」


 アスモが会議の席に着いている重役たちに問う。


「そうですなぁ……その鳥が関係している可能性はゼロではないですな」

「と言うか、騎士たちの誰一人まだ見ていませんので、信じるに値しない情報ではないでしょうか?」

「雷雲を集めるサンダラバードですか? 昔からのこの国の国鳥なのに、そんな現象が起こった事実は記されてませんが?」


 この時点になってもまだ楽観視している……


「でも、そのような巨大な鳥の目撃証言など、前代未聞ですので何かしらの関わりがあると思うのが普通かもしれません。空間転移が上手く行かなくなった時期とも一致しますし」

「しかし、雷雲を集めるのと、空間転移の出現ポイントが捻じ曲げられることにどう関わりがあるのだろうか?」


 みんな若く見えるけど、言動が年取ってるな……いくつなのかしら?

 そもそも、私が前々世が二十七年前だから、アスモからしてもう少なくとも三十歳以上だしな……三十年前にもう女王だったことを考えると……最も若く予想しても五十とか六十とか七十とか、下手したらもっと上かもしれない。

 ヘルヘヴンって天使の末裔の可能性があるって聞いたし、かなり寿命長そうよね。


「……そのことならベルゼにちょっと前に聞いた……」


 私!?

 余計なこと考えてたら、いきなり名指しされてビビった……


「きょ、強力な電磁波で、空間が捻じ曲げられる現象を何度か見たことがあります」


 漫画や映画の中でだけど……


「本当にそんな現象が……?」

「私自身は経験しているわけではないので何とも言えません」


 本当に何とも言えない、でも嘘も吐いてない。

 この状況で嘘を吐いているとしたら、漫画や映画の方だ。


「だとしたら、サンダラバードは電気を好み、雷属性を得意としている。あの巨大な鳥がサンダラバードの亜種だったとしたら、この二つの現象も結びつくのではないだろうか?」

「それでどうする? あの雷雲の中に調査に行かせるか?」

「幸いにも我らは雷に強い種族だからな。雷雲に入ってその巨大鳥を倒してしまえば解決するかもしれない」

「そうと決まれば、早速調査部隊、および、サポート部隊を編成しましょう!」


   ◇


 半日ほどの時間が経った。

 まずは調査部隊とサポート部隊が編成された。あの雷雲の中を調査するのだと言う。

 あの大きさの雷雲が危険ということで、もう少し小さくなるのを待った方が良いのではないかと三時間ほど議論が重ねられたが、そうしてる間にも徐々に大きくなっているのが見て取れたので、仕方なく調査を実行する運びとなった。


 時間的には二十時頃か、地球なら暗くなり過ぎてとても調査に行くような時間ではないが、ここには太陽が無いから時刻はあまり関係が無いらしい。

 この部隊編成もかなり迅速に行われ、二十人の精鋭での調査をするようだ。


「準備は完了したか!」

「イエッサー!!」

「我々は雷に耐性がある種族とは言え、あの中には何があるかわからん。絶縁体製の装備はしっかりと付けておくんだ!」

「イエッサー!!」

「危険だと思ったら、すぐに離脱しろ! 命優先の行動を心掛けよ!」

「イエッサー!!」


 部隊長はラッセルさん。彼以外の騎士の羽は黒いようだ。


「では女王様、行ってまいります!」

「……待って、中心部分に強い魔力を感じる……その辺りを重点的に調査をお願い……気を付けて……」


 武器の類は、金属製の槍を樹脂で固めて電気を通しにくくしてある。切れ味は鈍るものの、突いたり投げたりすれば十分相手に刺さる。

 防具は兜や鎧の表面を樹脂で固めてある。

 即席で作られた武具にも関わらず、絶縁性は高い。しかし、あの雷雲の中に入って大丈夫かどうかと言うと……どうなるかわからない。

 防具の一つであるマントには雷の国(ここ)で発見された、『アンエレアス』という絶縁鉱石が使われている。これは地球には存在しない鉱石で、この地域の雷を浴びることで突然変異的に出来た魔石らしい。本来なら磁力を帯びるべき現象だが、どういう訳か真逆の特性を持つ鉱石になったとか。

 その効果は電気エネルギーを吸着して放散、無効化するというもの。


 『アンチ(エレアースモ)』ということで、『アンエレアス』という名が付いたそうだ。

 まだ希少な金属らしく、現時点では騎士団の装備にしか使われていないが、これをマントに加工することで、雷を引き寄せて避雷針の役割をしてくれ、普通の雷程度なら完全にシャットアウトしてくれるとか。レッドスプライトみたいな、よほど巨大で強力な雷でなければ大丈夫らしい。


「征くぞ!!」


 首都の正門から上空の雷雲へと飛び立って行った。


「私たちも行くぞ!」


 後続として飛ぼうとしているのは、調査部隊のサポート部隊。

 万が一雷雲から落下してきた時のために、首都上空の屋根の上で待機。怪我人の収容を行う部隊。

 彼らは全員が雷に耐性はあるものの、耐性の強さに強弱があるため、サポート部隊は比較的雷耐性が低い者たち。

 とは言え、通常の雷に打たれても死ぬ可能性のある者たち。ただし、絶縁性の装備とマントの効力によりかなり軽減するらしく、通常の雷程度を浴びた場合、かなり痛いが多少痺れる程度で命の危機までは心配無いらしい。


   ◇


 四十分後、アスモの命令通り雷雲の中央付近に到着したとの連絡が入った。今から突入すると言う。

 調査部隊が入ったからなのか、その直後から、雷雲が激しく明滅し始めた。

 街の中が太陽があるかのように明るく照らされる。


   ◇


 彼らが雷雲に入って五分ほどが経った時、遠目には小さくてよく見えなかったが雷雲から何か黒い物が次々に落下してきた。

 それが何だったかは、この後すぐ知ることになる。


 十分ほどで、この作戦の中止が告げられた。

 三十分後に正門に帰って来たのは――

 黒焦げになった調査部隊だった。着ていた鎧や兜もボロボロに砕かれている。


「なにこれ!? どうなったの!?」


 全員まだ息はある。サポート部隊の回収が迅速だったらしく回復魔法で助かるらしいが、この火傷と裂傷……

 調査部隊長のラッセルさんはまだ意識があった。


「……何があったの……?」

「多数のサンダラバードに襲われ……更には巨大なサンダラバードが……雷雲の中に……」


 そのまま意識を失った。

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