第123話 空間転移歪曲の件で重要会議に呼ばれた!
外に出ると馬車が用意されている。流石に雷の国産の馬とは言え、イクシオンは馬車には使用されないらしい。危ないものね。
馬車に乗り込む。
「おぉぉぉーー!!」
「綺麗!!」
最初に通過したのは広場。
噴水があり、イルミネーションで彩られ、綺麗に飾り立てられている。
広場内には、路上販売の店や露店などが出ている。そして、この暗い空の中なのにこの電気の明るさ。
広場からは外周へ向かう二本の道と、四方向の道があり、それぞれ住宅が立ち並んでいる。そのうちの右から二番目の道を進み、王城へと向かう。
電気エネルギーを利用している国というだけあり、全ての家に電気が灯っている。一見すれば太陽など必要無いかのような明るさだが、一たび影に入れば、そこは自然光の時とは比べ物にならない暗さとなる。
これだけ電気関係が発達しているにも関わらず、まだ自動車は発明されていないみたいだ。
先日、『コンクリートミキサー車』を作ろうかと頭をよぎったけど、あれはやっぱり作らなくて正解だった。あの時作ってたらヤバイ勢いで各国に知れ渡ったかもしれない。
あの時は、私の用意した設計図の下、太陽光を利用した自家発電機を作ってもらったけど、ドワーフが作ったってことで、私の提案ということはドワーフの影に隠れてくれることでしょう。
◇
馬車に乗っている間、高い壁を三つほど見た。多分街を拡張していった時の名残りなんじゃないかと思う。
元々は一番内側の街だけがここにあったが、人が増える度に拡張していって、現在のこの街になったのだろう。
一時間半ほど馬車に揺られ、首都の中心部、王城に着いた。
「……あう……気持ち悪イ……」
陸上の乗り物だからなのか、初めて乗ったからなのか、リディアが馬車酔いしてしまった……
「大丈夫ですか?」
「……だいじょばなイ……」
「う~ん……王城に着いたけど、リディアがこの様子じゃ……どうしようか……」
リディアを任せて行くか、どうかを思案していたところエミリーさんから面会を促される。
「わたくしたちが看病していますので、ベルゼビュート様はアスモデウス様とのご面会を優先してください」
そうするか、アスモなら許してくれそうではあるけど、女王様を放置ってのはかなり失礼な行為だ。
「じゃあ、私はアスモと面会してきますので、リディアのことをよろしくお願いします。カイベルもリディアをお願い」
「了解しました」
リディアのことはエミリーさんとカイベルにお願いして王城へ。
王城入り口で、話を伝え、アスモのいるところへ案内してもらう。
応接間に連れて行かれるのかと思いきや、応接間を素通り。
えっ? これって謁見の間パターン? あの広いところで話をするの? 何か嫌だなぁ……
そう思っていると、着いたのは『会議室』。
会議室? 何でこんなところに部外者の私が?
トントントン
「どうぞ」
「失礼致します」
会議室に入ると、国の重役っぽいヒトがテーブルに着いている。視線が鋭い……
謁見の間でなくても、重苦しいわ……
中心には女王であるアスモ。
うん、一回離れたけどやっぱり可愛い……いやいや、そうじゃなくて! この大罪スキルの効果凄いな……
「お初にお目にかかります、ベルゼビュートと申します。今はアルトラを名乗っていますので、そちらで呼んでいただけると幸いです」
挨拶すると、アスモが駆け寄って来た。
「……ベルゼ、ごめん、疑似太陽作ってもらうだけの予定で招待したけど、そんな場合じゃなくなった……」
「やっぱり空間転移の異常の問題?」
「……そう……事態はかなり深刻みたい……原因の調査のために今、この国の空間魔術師に外へ転移してもらって、そこから中に転移で帰って来れるか調べてる……」
「この国の空間魔術師って何人いるの?」
「……現在は十人、見習いが二人……」
「アクアリヴィアと比べると多いのね」
「……この国は他の国と比べて、空間魔術師が生まれやすいらしい……」
「それで、今何人が外へ行ったの?」
「……三人、そのうち空間転移で帰って来られた者はまだいない……私たちと同じおよそ五十キロ地点で弾かれてると考えるなら、帰ってくるのに最速でも一日から一日半くらいはかかりそう……」
「それって危なくない? 危険生物沢山いたけど……」
「……それぞれ護衛付きで転移してるし、この国の危険生物の生態もほぼ把握してるから問題無い……ただ……通信機器も持って行ってもらったんだけど、誰一人として通信してくる者がいない……通信機器による通信も出来ないと考えた方がいい……」
テーブルに着いている重役の一人が話しかけてきた。
「アルトラ殿、初めての対面でこんなことになってしまい申し訳ないが、貴殿は空間魔法の使い手だとアスモデウス様の護衛から聞いております。貴殿の忌憚無き意見をお聞きしたい」
う~ん……意見と言われてもなぁ……私も【ゲート】の出現ポイントが捻じ曲げられることなんて初めてだし……
カイベルが言ってた、『原因が鳥』であることをそれとなく伝えてみるか。
「そうですね……気になったのは上空の鳥でしょうか」
「……鳥……? ……サンダラバードのこと……?」
「私には全く見慣れない生態の鳥なので、あの鳥に原因があるのではないかと考えました」
「……でも、この国では別に珍しい鳥じゃないし……今までサンダラバードが原因だったことは無い……」
「そっか。私の勘ではあれが何か絡んでると考えてるんだけど……」
「他に気になったことはありますか?」
他か……雷雲の大きさは気になるな……あの大きさになると地球では恐怖を感じるくらい巨大な積乱雲になってると思う。
「この首都上空にある雷雲の大きさでしょうか、あれは流れて行ったりはしないんですか?」
「……するよ……でも今は雷雲を集める装置が働いてるから、それほど流れることはない……」
「あんな大きさの雷雲が上空にあって危険じゃないの?」
「……いつもよりは少し大きい気がするけど……多分まだ問題無い範囲……ベルゼは今もあの雷雲に原因があると思っているの……?」
道中雷雲のこと話したけど、もう原因が鳥にあるってカイベルから聞いちゃってるからな……一応濁して答えておこうか。
「可能性の一つと考えている。私の故郷だとあの大きさの雷雲は危険過ぎる大きさだし」
「……でも……確かにあれ以上集まるのは危険な気もする……」
それを聞いたアスモデウスは近くにいた騎士に命じる。
「……雷雲集積装置を切っておいて、私も少し嫌な予感がする……」
「承知しました」
騎士はアスモデウスの意向を伝えに集積装置を管理している場所へ走った。
「……他に何か気付いたことはない……?」
「う~ん……鳥と言えばもう一つ気になったことがあるよ。雷雲の中に巣を作る鳥って、サンダラバードの他にもいるの?」
「……さあ……? ……かなり特殊な生態だし、いない可能性の方が高い……世界中探してみればいるのかもしれないけど、ここでは聞いたことない……みんなは知ってる……?」
会議に出席している重鎮っぽいヒトたちに訊ねるも……
「存じ上げませんな」
「……他は……?」
全員首を横に振る。
「じゃあサンダラバードの大きさってどれくらい?」
「……大きいのは体長一メートルくらいかな……大体八十センチから九十センチくらいだと思う……羽を広げた横幅は二メートルくらいはあるかもしれないけど……それの何が気になったの……?」
「う~ん……気のせいじゃなければ、さっき入国手続きする時に上見てたら、物凄く大きい鳥が飛んでたんだけど……多分二メートルなんてもんじゃないよ? あの小さい飛翔体がサンダラバードだとしたら、それと比較すると五から十メートルくらいはあったかもしれない」
「十メートルのサンダラバード!?」
「何かの間違いでは!?」
「いえ、まだサンダラバードと決まったわけではありませんが……それに地上からの目測なので……」
「……そんなの報告には上がってない……最近来た雷を食べる鳥の別種ってことなのかな……?」
その辺の事情は、この国に住んでない私にはわからないな……
「街で聞き込みしてみれば、見たことある者もいるかもしれませんね」
「……そうかも、じゃあ街の人々への聞き込みをお願い……」
「承知しました」
「……そういうわけで……今日のところは宿取ってあるから、そこで休んで……呼び立てておいて、ごめんね……」
「仕方ないよ、私もまさか空間魔法が使えなくなるなんて想像もしてなかったし」
そう、空間魔法が使えないということは、我が家に帰ることができないのだ。いや、正確には帰ること“だけ”はできるが、一度この国をゲートで出てしまうと再びここへ来るには、またおよそ五十キロを歩いて来ないといけない可能性が高い。
「……悪いけど、明日の朝も来てもらえる? 状況が変わるかもしれないし……あと、何か気付いたことがあればいつでも報告してもらえると助かる……」
「うん、わかった。じゃあ、今日のところはありがたく宿に泊まらせてもらうね」
明日来る約束をし、会議室を後にした。
さて、今日はリディアがグロッキー状態だから、食べるものも食べられないかな。
そのまま宿へ直行するか。




