第122話 雷の国への入国手続き
五時間ほど歩き、首都までの途中にあるの町・ニアトールズで鉄道に乗って首都へ。
首都の門が見えて来た。
危険な生物が多いためか、首都は高い壁に囲まれて、さながら要塞のようだ。門の厚さもかなり厚い。あれは人力で開閉するのはちょっと無理そうだ。多分電気による駆動式。
首都上空を見ると巨大な雷雲が鎮座している。
「ああ、あれが道中言ってた雷雲か」
首都に近付くほど危ないというのは納得の大きさのある積乱雲だ。
どうやら雷を集める装置のようなものがあるらしい。それを使って雷を集めてエネルギーに換えているのか。
首都は、魔法効果によって作られた半物質で屋根が作られており、首都全体に屋根がかかっている。
この『半物質』とは、魔力を流している間だけ物質化しているという特殊な物質魔法らしい。この首都の場合は魔力を流している間だけ屋根が出来るという具合。
この魔法が開発されたことで、きちんとした屋根を作らなくても雨を防げるようになったため、首都の拡張も容易になったのだとか。
どんなに豪雨でも首都内へは雨が降り込まないようになっている。しかし生活水にする目的で、屋根の一部分だけ水が中に流入する穴があり、そこから首都内の各水路へと水が供給される。
首都の規模を考えると、かなりの大がかりな装置。壊れても替えが利くように三組の機械で制御されおり、雷雲の無い時・少ない時を狙って適宜切り替えるらしい。
技術力で考えると、アクアリヴィアですら比ではないかもしれない。魔法の無い人間界では絶対に作れないであろう機械だ。
首都の周りは幅が広い堀……どちらかと言ったら川と呼んだ方が良いくらい大きい。
雷雲を集中させている分、雨も降るため、堀から水を流すのだろう。昨日見た大河は海へと続く途中と言ったところかな。
川は内側から流れてきているのを見ると、浸水とか洪水とかの心配は全くと言って良いくらい無さそうだ。
電気で発展しているという特徴から、夜の町のような側面があり、女王アスモデウスの格好も手伝ってか、他の町以上に大規模な歓楽街がある。
サキュバスが多く、エルフ、ドワーフ、リザードマン、サハギン、人魚、獣人、鳥人、馬人、竜人、巨人、実体を持った精霊、天使に似た種族などなど、多種多様な異種族が噂を聞きつけて周辺諸国から鉄道に乗って集まってくるらしい。
そのため歓楽街も多種多様な種族に対応できるようにってコンセプトらしい……説明しておいてなんだけど、こっち方面は行かなくても良いかな。私は別に行く必要は無いし。
◇
「アスモデウス様! お帰りなさいませ! すぐに帰ってくるとのことでしたので、心配しておりました!」
「……うん、ごめんね、なぜか空間魔法で戻って来れなくなっちゃって……」
「そちらの方がベルゼビュート様ですか? エレアースモ首都・トールズへようこそおいで下さいました」
一番背が高いカイベルが話しかけられた。
「……そっちじゃなくて小さい方……」
「失礼しました! 首都・トールズへようこそおいで下さいました、ベルゼビュート様!」
「私はリディアだゾ?」
今度はリディアに話しかける。確かに『小さい方』だけど……
「……ごめん、言い方悪かった……三人の中の中くらいのヒト……」
「さ、再三失礼しました!! ようこそベルゼビュート様!! 首都・トールズへ!!」
「い、いえ、別に怒りはしませんので……」
とは言え、ちょっと苦笑い。
どうやら威厳はや気品などは感じてもらえなかったらしい。
「……じゃあ、私は一旦お城に帰って、帰還報告をしてくる……後で呼びに来るから少し門の詰め所で待ってて……それじゃまた後で……」
「あ、うん、わかった」
護衛の方々五人も一緒に付いて行った。
「空間魔術師の方々とこちらへ来られたということは、入国手続きがまだ終わってませんよね?」
「入国手続き? そんなのがあるんですか?」
水の国に行った時は無かったけど……もしかして、手続きする前に捕まっちゃったから、後々誰かやっておいてくれたのかな?
と言うか手続きしなかったからスパイ容疑で捕まったとも言えるかもしれないけど……
「雷の国に入る前に関所がありますので、本来はそこで手続きしていただきます」
関所を通さず、直接空間魔法で飛んできたから、首都で手続きするってわけなのね。
「では、こちらへどうぞ」
首都の門の詰め所へ行くがてら、何気なく上空を見てたら――
何だアレ?
凄くでかい鳥のような発光体がいる……昨日キャンプで見た発光体より大分デブいような気がする。
あのでかい発光体もサンダラバード? じゃあその周りに飛んでる小さい発光体は何? 小さい発光体の方が昨日見たものに近い気がするけど……
「ねえ、門衛さん、あの――」
上空を指さし、『あの大きい発光体もサンダラバードなんですか?』と聞こうとした途端にいなくなってしまった……
「どうかしましたか?」
「いえ……」
気になる……
気になるけど、今は入国手続きが先か。
後でアスモにそれとなく聞いてみよう。
◇
入国手続きは三十分から一時間弱くらいで終わった。
軽い身体検査と……持ち物検査もされたけど、そもそも亜空間に収納してあるから手持ちも無かったし。
空間魔法自体が珍しいからなのか、別空間に収納するという能力を知らないからなのか、そもそも私が空間魔術師だということを知らないのか、そのことについては一切触れられることはなかった。
もし収納空間のことに触れられたら、以前から残っているガルム数頭、カトブレパス肉、今回追加したイクシオン肉とデンキヒツジ肉、野菜、お米、小麦粉、調味料、その他料理素材、料理用品、カイベルが口に入れた料理そっくりそのまま、私が便利だと思って携帯している雑貨、さっきカイベルが刈って来た羊毛十頭分、etcetc……と、ごった返してるから面倒なことになっていたかもしれない。
と言うか、招待されたはずだけど、一応検査はされるのね……
入国手続きが終わって、良い感じのソファーとテーブルが置いてある応接室のようなところに通された。
「アスモデウス様の使いが来るまで、ここでお待ちください」
「はい」
ソファーに座る。
凄いな、ちゃんと電気が煌々と灯っている。日本では当然の光景だったけど、うちの村にはまだ電気がほぼ無いから昼間でも常に薄暗い感じだった。
魔界に来てからだから、もう半年以上は経つか。それだけの時間電気とはほぼ無縁の生活をしていたのね……
もっとも……私は自宅で光魔法やら雷魔法やらを使って、部屋内を明るくしてるから、無縁だったという感覚は薄いが……
「なぁ~、アルトラ~、お腹空いタ~」
キャンプを発ってから五時間以上だからね……時間的には十三時から十四時くらいってところかな。お昼抜きか、確かにちょっとお腹減ったな。
「アスモのお使いが来るまで少し待とうか」
「エーー」
この会話を聞いていたのか、気を利かせてくれてクッキーと紅茶が出てきた。
「よろしければどうぞ」
「ありがとうございます」
「食べて良いカ?」
「じゃあ、私も一枚だけ頂こうかな、あとは全部食べて良いよ」
クッキーと紅茶を頂き、時間を潰す。
軽食でも食べたら満足したのか、リディアは寝てしまった。
私も迎えが来るまで寝ておくか。新しい場所でちょっと気疲れしたし。
「カイベル、迎えが来たら起こしてもらえる?」
「分かりました」
私が眠っている間は機能停止させておく設定にしてあったが、午前四時以降はそれを解除してある。私が寝る度にカイベルに機能停止されていたら、メイド機能を付与した意味が無い。
◇
「アルトラ様、お使いの方が来られましたよ」
三時間くらいした後に起こされた。
結構待たされたな。
「お初にお目にかかります、わたくしベルゼビュート様の身の回りのお世話をさせていただきます、エミリーと申します」
何かちょっとエッチな格好の女性騎士が来た。お腹の開いた服でセクシー。
腰からヒラヒラの布?が伸びて、地面を這いずっている。あれは何か意味があるのかしら?
「よろしくお願いします」
「では、王城でアスモデウス様がお待ちです、参りましょうか」




