第120話 雷を食べる鳥・サンダラバード
キャンプへ戻ってみると、みんな既にカイベルの作ったケーキを食べていた。
まだ私たちが出て行ってそれほど時間は経ってないはずだけど、流石の手際の良さだ。ケーキなんて焼くのに結構時間がかかるはずなのに。
「……このケーキ美味しい……!!」
「本当だ! 美味しいですね!」
「エレアースモ首都でも上位……いえ、トップクラスの味ですよ!」
え……? 何このべた褒め? カイベル何作ったの?
「カイベル、私『適当で』って言ったよね?」
「はい、ですから適当に作りました。召し上がるのは『雷の国の女王様』ですから、その方のご身分に『適』したケーキに相『当』するものをと」
………………あ!
ああ……そうか、私は今まで『適当』という漢字を脳内で『テキトー』に変換して「いい加減で良いんじゃない?」って意味で使ってたけど、『適当』の本来の意味は「その場に『適した』」って意味だった。
相手が『女王様』だから、それに適したお菓子ということで、『最高級の品質』をってことだったのね。むしろ怪しまれないくらいのテキトーな美味しさにって意味で「適当なレベルでお願い」って言ったつもりだったんだけど……
まずい……また要らぬイベントが起こりそうな予感がする……
「……カイベル、私の国でスイーツ店やる気ない……?」
また勧誘!? ハンバームちゃんの次はカイベルか!!
「申し訳ありません、わたくしはアルトラ様に雇われた身ですので……」
「……そう、それは残念……」
ホッ……魔力によるメンテナンスもできなくなるから、私から離れられるのは困る。
「うみゃイ! うみゃいうみゃイ! カイベルのケーキ最高でゃニャ! あっ! アルトラ~、肉獲れたカ?」
行儀が悪いな……後で食べるかしゃべるかどっちかにするように躾けとかないといけない……
食べながらの感想と同時に質問されたのは初めてだよ……
「大きい馬が獲れたよ。もう血抜きもして切り分けて来た。カイベルこれも美味しく調理してもらえる?」
「品質はどうしますか?」
「う~ん……もうケーキでカイベルの料理の上手さが伝わっちゃってるしね……最高品質から少しだけ味を落とした程度にして」
「わかりました。あと野菜を出していただけますか?」
◇
少し経って……食卓に出されたのは、『馬肉を使ったロースト・ホース』、『馬肉のステーキ』、『馬肉を煮込んだもの』、『馬丼』、野菜で彩りも添えられている。
それぞれ大皿で用意され、各々皿に取るビュッフェスタイル。
お米もストックがあるから、ご飯を炊いてもらった。
素材が馬だからどれもこれも見たことも聞いたこともない。特に『馬丼』には語感も含めて違和感満載だけど……何か強そう『ばどん!』って感じで。
「凄く美味しそうですね」
「まさかキャンプ中に、こんなにちゃんとした料理を食べられるとは思っていませんでしたよ」
夕食は概ね好評。
私が作ったわけでもないのに、なぜかちょっと誇らしい。
アスモも美味しそうに食べていた。
◇
「ちょっと食べ過ぎたかモ……苦しイ……」
リディアが食べ過ぎたらしい……
「横になってたら?」
アクアリヴィアでの初遭遇時は、魚をあんなにモシャモシャ食べてたのに、随分食欲減ったな。
「そうすル……巨大化が起こらないように一応パジャマ着とク」
持ってきたパジャマに袖を通す。もう寝る準備万端ね。
かと思ったら横になりながら話しかけてきた。
「なぁ、アルトラ~、水族館は水の国にあるから水族館だロ? じゃあ雷の国は雷族館ってのがあるのカ?」
「いや、流石に無いでしょ。電気自体すぐ放電するし、そもそも雷を好物にする生物なんて……」
「……いるよ……」
「え゛!?」
「……雷族館は無いけど、私の国には雷……と言うか電気を食べて栄養とする生物がいる……『サンダラバード』っていう鳥なんだけど、雷雲の中に巣を作って、電気を食べて成長する……」
サンダラバード…………名前の響きから、とある濃い顔の人形劇が思い浮かぶ。私は見たことがないから詳しくは知らないけど……
でも、何で雷を意味する『サンダー』じゃなくて、『サンダラ』なのかしら? サンダーの上位を示してる?
「サンダーバードじゃなくて?」
「……最初は雷を食べるからサンダーバードって呼ばれてたけど、鳴き声が『サンダラダラダラ……』って声だったから、後々サンダラバードに改名された……」
変な鳴き声……
「……サンダラバードは電気を食べて、体内に蓄えつつ成長するの……だから雷に耐性が無い普通のヒトが無闇に近寄ると感電死する可能性があるくらい危険……」
流石魔界の生物……雷食べる生物までいるとは……イメージ的には霞を食べるのと似たようなものかな? 雷は食べるのは痛そうだけど……
イクシオンに、デンキヒツジに、サンダラバード、この国、危ない生物ばかり闊歩してるな……触れただけで即死するとか、毒持ってる生物より、よっぽど危ないんじゃないかしら?
「雷雲の中に巣を作るって……雷雲って巣を作れるように出来てるの? 雲なんて乗ったらそのまま地面に落下するってのが私の故郷の常識だけど……」
とある作品では『筋等雲』とかいう雲に乗る漫画やアニメはあるけど……
あとはとあるアニメでは雲の上に空中都市の残骸があるものもあった。
これらアニメのお蔭で、子供の頃は雲に乗れると信じて疑わなかったっけな……
「……普通は乗れない……でもサンダラバードは乗ることができる物質を作れる……」
重さとか浮力とか考えると、どう考えても鳥が雲に巣を作れるとは思えないけど……何らかの魔法の一種かな?
魔法のある世界なら出来ない話ではないと思うけど……
「そのサンダラバードってどこにいるの?」
「……この国には何か所か雷雲が停滞する場所がある……その場所に産卵時期に巣を作りに来る……このキャンプからも一ヶ所見える……」
コテージを出て指さした。
「……ほら、あそこ……あそこは雷雲溜まりの一つになってる……雷雲溜まりの後は、外側から徐々に霧散するように消えることがほとんどだから、他の場所にはあまり雨が降らない……」
雷雲を見ると、光っている飛翔体が沢山飛び交ってるのが見える。
雷雲溜まりがあるから、ここも雨があまり降らないのかな? 引き換えにあの雷雲溜まりの下は豪雨とか霰とか雹が降ってるかもしれないけど……
「あれがサンダラバード……あれが人を襲うことは?」
「……基本的にはない……産卵期には近付けば攻撃してくるかも……」
「雷雲のある場所ってことは……首都の上空とかにも巣を作るの?」
「……毎年作ってるよ……今年も首都上空にいる……」
そっか……サンダラバードはこの空間転移歪曲とは関係無さそうかな……
「……明日も歩かないといけないし、そろそろ寝ようか……」
「そうだね、じゃあおやすみ」




