第119話 雷の国産の生物を狩りに行こう!
と言う訳で、護衛のラッセルさんと共に食材を捕りに首都から流れる川へと来てみた。
来てみたところ、かなり川幅が広い川だ。
『川』というよりは『河』の文字を宛てた方が良いかも。
深さは、中心部分はわからないがすぐそこは浅い。雷が光った時に川底の石も見える。でも少し遠くを見ると途端に見えなくなる。中心部分は大分深そうだ。
「雷の国ですので、雷に耐性があるように特殊進化した魚が多いですよ。例えばアレが雷魚」
人間界の雷魚って、別に雷に強いってわけではないと思うけど……
「アレが魚雷」
それはもう魚じゃないわね……でも指さした方向を見ると――
黒い魚雷みたいなフォルムの魚が!
ホントに魚雷に見える! あれは確かに『魚雷』と言っても良い。
「あとはここにはいませんが機雷とか」
もう魚じゃなくなっちゃったよ……それは海の地雷でしょ。
「それは冗談ですよね?」
「あ、わかりますか? ハハハ、機雷なんて魚は流石にいません。ただ、雷に耐性を持ったり、電気を発したりする魚が多くいるのは事実です。この辺りにいるのはデンキウナギ、デンキナマズ、シビレエイ、地上だとライラットという電気を発するネズミ、電気で加速するエレキボア、蓄電するデンキヒツジ、電気を纏う馬のイクシオン、タテガミに帯電するライガー、トラに似た模様を持つ雷獣、人の顔面を持つぬえなどがいます。虫にもいますが微弱なので割愛で」
何か聞いたことある名前がちらほら、ライガーとか雷獣とかは日本でも聞いたことがある。
ただ……地球のライガーは確か雷とは全然関係が無く、ライオンと虎の混血種のことだったはず。あまり身体が丈夫ではなかったため短い期間で死んでしまったとか。異種混合種が生き長らえるのは中々難しいらしい。
蓄電したり、電気で加速したり、ここの生物は地球のと比べると大分危なそうな気がする。
「全部食べられるんですか?」
「食べられますよ。ただ、捕まえるのは結構大変ですけど。ネズミやイノシシは殺してしまえば電気を発しなくなりますが、羊や馬は帯電しているので、殺した後に放電させないといけません。我々は雷に耐性が高いので大丈夫ですが、雷に強くない亜人は場合によっては感電死する可能性があります」
あっぶない生物だなぁ……
小動物から大きめの動物まで、電気電気電気……
「それとごくまれに地面に落下した雷から『雷球』が出現することがあります。これは雷に耐性のないヒトが触れると即死するくらい強力な電気を発するので注意が必要です。攻撃すれば掻き消せますが、攻撃した者に通電するため雷に耐性が高くなければ攻撃は推奨されません。弓矢などの飛び道具なら安全に消せます。雷球は少しウロついた後消えますが、見かけたらすぐさまその場所を離れるのをオススメします。あと実体が無いのでもちろん食べられません」
人間界で言うところのプラズマ現象みたいなもんかな?
「前方をご覧ください」
指さされた方向を見ると、遠いところに光がまとまっているところがチラホラ。
「あれらはデンキヒツジとイクシオンの集団です。デンキヒツジは大量にいるので光が巨大ですが、イクシオンは少量でも帯電する電気の量が多いため、デンキヒツジには劣るもののかなりの輝きを放っています」
あんなに光って見えるの!?
帯電しすぎじゃない?
雷球が危険って言ったけど、あれらも十分危険だわ。
リディア連れて来る時に「危険は無いだろうから良いよ」なんて言ったけど……雷の国……トンデモねぇところだ……十分危険地帯だったわ……
アスモが頷いたのは、きっと空間魔法で直接首都まで行ける予定でいたからなんだろう……
人間時代だったら絶対近寄りたくない地域だわ……
「電気を発する生物は危険ですので、今から捕まえるのは電気が無いものですね。耐性はあるものの、電気を発さない生物も多くいますので」
「あのイクシオンとかデンキヒツジは美味しいんですか?」
「美味しいですよ。帯電する雷で肉が刺激されて、部位によっては柔らかいお肉になってます。ただ捕まえるのが大変なので、市場にはあまり出回りませんが……」
「ちょっと行ってきますね!」
「あ、ちょ、待ってください!」
「何ですか?」
「危険ですよ? 下手したら死んでしまうかも」
「大丈夫ですよ、ラッセルさんは戻ってくる目印になるようにちょっとここで待っててもらえますか?」
「いえ、あなたは我々の国の大事なお客様ですので、何かあってはいけません! 付いて行きます! すまないがアレックス、目印になるようにここに立っていてくれ」
一緒に付いて来たもう一人の護衛、アレックスさんに声をかけ目印をお願いした。
「わかった、気を付けて行けよ!」
私はどちらかと言えば、魚より肉派だから、肉があるならそっちを食べたい。
◇
イクシオンがいるであろう場所の岩山へ来た。
下を見ると雷を纏った馬がいる。
「で、来たは良いけど、どうやって捕まえるんですか? 流石に馬に追いつける脚はありませんけど?」
「いえ、捕まえません、この場からの攻撃で仕留めてしまいましょう。我々は物質魔法が使えるので、これを使います」
鉄魔法で弾丸のような鉄の球を生成した。
「じゅ、銃弾ですか?」
「ええ、まあ似たようなものです。こういうこともあろうかとこれも持って来ました」
ボウガンを取り出し、鉄魔法で矢を生成した。
「私は銃弾を使いますのでどうぞ」
ボウガンなんて使ったことないけど……私には『弓Lv10』や『自動弓Lv10』がある。多分当てられるだろう。 (第7話参照)
「あの帯電している部分は、馬で言うところのタテガミに当たるので、その中心辺りを狙えばちょうど首に当たります。ボウガンをどうぞ」
「いえ、私は弓を使おうと思います」
「弓……ですか? ボウガンの方が狙いも付けやすく楽かと思いますが……」
「弓に雷魔法を付与して、射出速度を上げます」
しゃべりながら弓矢を樹魔法で、鉄の矢を物資魔法で創り出す。
きっと速度が速い方が一撃で仕留められるだろう。首に矢が刺さったまま生きてたら可哀想だしね……
「その狩り方法はとても興味があります! ではお任せします」
弦を引きながら、焦点を合わせる。
この時雷魔法を予め使ってしまうと、その輝きでこちらの位置がバレてしまうから、放つ一瞬に雷魔法を付与して速度を上げる。
要は超電磁砲方式。
「【超電磁矢】!」
うわっ! 眩しっ!!
射出した瞬間に『ゴゴオオォォンッ!!』という激しい落雷音が鳴り、一瞬光輝いた後、矢は残光を残しながら超速度で飛んでいった。
左手に構えていた木製の弓は雷エネルギーで焼失してしまった。
目が慣れてきて、イクシオンの居た方を見ると――
「首が……無い?」
刺さるどころの話ではなく、イクシオンの首から上を吹き飛ばしてしまったらしい……
まだ血を吹き出しながら立っている。
それに驚いたのか、近くに居た他のイクシオンは散開して逃げて行った。
残光を残して飛んだ矢は地面に刺さったようだけど、暗くて見えないな……あの勢いだと地面に埋まってるかもしれない。
「凄い威力ですね……矢で首を飛ばしてしまうとは……しかし、馬肉を手に入れることができましたね! これだけあれば私の出番は無さそうです。羊の方は狩らなくても良さそうですね」
「でも、どんな様子なのか見るだけ見てみたいです。電気を貯め込む羊なんて興味あるので!」
「ではこの馬はこのまま放置して、後で取りに来ますか?」
「いえ、持っていきましょう」
「担ぐんですか?」
「いえ、【亜空間収納ポケット】に入れておきます」
「【亜空間収納ポケット】とは?」
「物を収納できる空間魔法です」
「そんな便利な魔法があるんですか!? ではよろしくお願いいたします」
「アルフさんは使ったことないんですか?」
「私の知る限りは、そんなものを使っていた記憶はありません。アルフは専ら空間転移専門の護衛ですので」
空間魔術師なら常識的な能力かと思ってたんだけど……披露したのはまずかったかな?
まあアスモの護衛だし、きっと問題無いだろう。
◇
デンキヒツジが群れを成している場所の近くの岩山に来た。
下を見ると大量の羊。
「物凄い光ってるわ……」
イクシオンと違って、一部分が帯電するんじゃなくて、あの羊毛全体が帯電する役割を持ってるんだ。
羊の身体を中心に、丸く電気の層が出来ている。
恐ろしい生物……あんなのが大量にいるなんて……
「羊も獲っていきますか?」
「いえ、とりあえず馬肉だけで事足りそうです。羊はまたの機会にします」
「では、キャンプへ戻りましょうか」
電気を発するネズミとイノシシも見てみたいけど、見つけるのが大変そうだから今回はよしとするか。




