第118話 空間転移魔法では首都に着けず、歩くハメに……
「ねえ、これって歩いて首都へ向かうことって出来るのかな?」
「……通常は歩いて行くのはお勧めしない……今は首都に雷雲が集まるようにしているから……」
「どういうこと?」
「……首都に雷を集めて、生活のエネルギーにしてる……だから、首都に近付けば近付くほど雷に打たれる可能性は高くなる……歩いて近寄って大丈夫なのは、雷に耐性のある私とか、耐性があるヒトくらい。あとは魔法で雷を無効化できるヒトとか……」
「じゃあ、さっき雷無効の魔法をかけたから歩いて行けると思う。首都の外側には国民は住んでないの?」
「……村や少し大きな町が何個かある。もちろん全部の村・町で雷対策済み……」
「どうやって首都以外へ出かけるの?」
「……雷を利用した鉄道が走ってる……」
周囲を見回してみる。
あ、アレかしら? 枕木みたいなのが見える。
「じゃあ、鉄道に乗って移動すれば良いんじゃない?」
「……途中から乗ることはできないと思う……」
ああ、町から首都の間に駅が無いから停車しないのか。
じゃあ歩くより他無いか。
「それよりも締め出されたりしてるとかはないかな? 例えば首都が見えない壁みたいなので囲まれてるとか」
壁とかバリアみたいなものは見る限りは見えないけど……ここは魔法の世界である。見えないバリアが張られてて、近付くことすらできないって可能性も無くは無い。
「……!?……ちょっと壁があるかどうか見てくる……」
「私も行くよ、みんなはちょっと待ってて!」
飛んで空間の歪みがあると思われる部分を通過してみる。
ちょっと空間の揺らぎを感じたが、問題無い範囲。多分ここが空間転移歪曲地の境い目だ。
◇
「……特に何も問題無い……」
「歩いて行けば首都に辿り着けるってことかな」
ゲートは念のため使わずにみんなのところへ戻る。
「アスモデウス様、アルトラ様どうでしたか?」
「歩いて行けば問題なさそう。とりあえず首都まで徒歩で移動しようか。これの対策は街に着いてからってことで」
空間移動ができない以上、歩いて街へ向かうことにする。
「ここから首都まで何kmくらいあるの?」
「そうですね……五十キロ弱といったところでしょうか」
「五十キロか……歩くにはちょっと遠いわね……」
トロル村から我が家くらいの距離だから、半日くらいってところか。今日は野宿かな。
「じゃあ、鉄道が停まる町までは?」
「四十キロほどでしょうか」
四十キロか……半分以上を歩かないといけないわけか。
結局のところ歩くしかないのね……
◇
「アルトラ~、リディア疲れタ……」
十キロほど歩いたところでリディアが疲れを訴える。
水族館では長い時間歩いてたのに……多分、何も無い荒野のようなところを歩いてるから『飽きた』って感情が、更に疲れを増加させてるんだろう。
「私がおぶって移動しましょう」
「ありがとうカイベル、お願いね」
おんぶされたらすぐに寝てしまった。
まだ子供だしね。
◇
体感で更に十キロほど歩いたと思う。時間的には五時間ほどかな?
ここは太陽が無いからわからないけど、時間的に考えると多分日が落ちてくる頃かな?
列車が二度、私たちの横を通り過ぎた。やっぱり辺境へ繋がる線路ということで、発射台数は少ないらしい。
これは停車する町に着いたとしても、大分長いこと待たないと乗車できそうもないな。
途中魔物も出たが、アスモの護衛が軽く撃退、追い払った。
「ところで、カイベルさんはずっとリディアさんを背負っておられますが、大丈夫ですか? 交代しましょうか?」
ラッセルさんという、アルフさんとは別の護衛が話しかけてきた。
「問題ありません、私は疲れませんので」
「疲れない?」
「あああぁぁ!! この子体力凄いんですよ! へばってるところを見たことなくて!」
「しかし、それでも女性がずっと背負うのは……」
「問題ありません。お気遣いありがとうございます」
「本当に大丈夫ですか?」
「問題ありません。大丈――」
「じゃあ、カイベル、お言葉に甘えてリディアをお任せしようよ!」
ラッセルさんにリディアをお任せする。
ずっと疲れないのも怪しまれる可能性があるな……あとで『お言葉に甘える』ということを組み込んでおくか。
「……ベルゼ、今日どうしようか? この辺りで休む……?」
「まだちょっと距離あるね……」
あと三十キロか、まだ八、九時間くらいはかかる……
「じゃあ、この辺りで休もうか」
いつも通り土魔法と樹魔法で家を建てたところ――
「……せっかく作ってもらって申し訳ないけど……その家だと一発の落雷で焼失する危険性がある……それに下手したら中が火事になる……」
「あ、それもそうか」
今落雷区域にいることを考えてなかった。
確かにこの家だと、一発アウトだ。
「……家の建設をお願い……」
「「「「はっ!」」」」
護衛四人が協力して、土魔法と物質魔法で簡素なコテージを作る。
女王側近というだけあって、強度的には十分な建物が出来た。
「……即席だから強度はあまり無いかもしれないけど……一日寝るくらいなら問題無い……周囲に金属を巡らせてあるから、雷に打たれても大丈夫……」
女王様なのにキャンプの経験あるのかな……?
それとも、この静かな性格ゆえの落ち着きかな?
いや、もしかしたら、こういう外で生活しなきゃならない事態を想定して訓練しているのかもしれない。
と言うわけで、今日はここでキャンプということになった。
今日はこの中で雑魚寝って感じかな。
私、リディア、カイベル、アスモ、護衛五人の、合計九人で雑魚寝か。
◇
「アルトラ~、一回家に帰らないカ? ここ何も無くて楽しくなイ……床が硬くて落ち着かないシ……寝るならお布団で寝たイ……」
海に住んでたのに、贅沢な子に育っちゃったな……
イカだから身体柔らかいはずだし、問題は無いように思えるが……
しかし、こんな事態は想定してなかった……こんな事態になるとわかってたなら連れて来なかったのに。
「う~ん……無理かなぁ……ここは多分もう空間転移歪曲地内だと思うから、【ゲート】で一度ここを出ちゃったら、また同じところに戻ってくるのにまた何時間も歩いて来ないといけないと思う」
「エエ~~、じゃあ原因が分かるまで帰れないのカ!?」
「そうなるかも」
「ウゥ~、じゃあアニメ見たイ!」
「ちょ、それはここでは言っちゃダメ!」
見回す。よし、誰にも聞かれてないな!
「街に着けば見られる機会があるかもしれないから、それまで少し我慢して」
「ウゥ~~、わかっタ……」
実は私は最近も深夜に【千里眼】でちょこちょこ地球のアニメを見ていたのだが、見ているところをリディアに見つかってしまったため、ちょくちょく見せるハメになっていた。
あまりにも頻繁に見たがるので、いっそのこと創成魔法を使って、地球のアニメが見られるテレビのような魔道具を作ろうかとも考えたが、他の村人に見つかった時に厄介なのと、アニメ漬けになってリディアがダメ人間ならぬ、ダメクラーケンになりそうなので止めたという経緯がある。
今は夜の時間帯で十九時から二十一時の間だけと決めて見せている。
「近くに川がありますので、食材を調達して参ります」
「……うん、お願い……」
「あ、待って、私も行ってみたいです」
ラッセルさんが食材調達に行くそうなので付いて行ってみる。
うちの村に取り入れられそうなら、持って帰りたい!
出来ることなら、村で育てられる肉が欲しいんだけどな。
牛、豚、鶏。これらの肉成分がうちの村には圧倒的に足りていない。あるのはガルムの狼肉のみだし。
「多少危ないですよ?」
「大丈夫ですよ。リディアはどうする?」
「雷恐いから待ってる。それより何か甘い物が食べたイ!」
甘い物食べさせると大人しくしてるからリクエストにお応えするか。
しかし、甘い物かぁ……この間買って来たお土産は我が家の冷蔵庫 (氷を入れたただの箱)の中だからな……
食材くらいなら【亜空間収納ポケット】に入ってるけど……この空間転移歪曲地内で中身を取り出せるかしら?
【亜空間収納ポケット】を出してみる。
出すこと自体は問題無くできた。さて、中身を取り出せるかどうかな?
小麦粉、砂糖、卵、牛乳などの材料、それと調理道具を取り出す。取り出すこと自体も可能なようだ。
ここから空間魔法を使って別の場所に行くのがダメなのね。
「カイベル、これでケーキでも作ってもらえる? ここにいる全員に振舞えるように数も揃えて」
「品質はどうしますか?」
「う~ん……適当なレベルでお願い」
「了解しました」




