第115話 第二の魔王・アスモデウス襲来
「やっ! お久しぶり!」
「え……?」
突然のレヴィアタン再訪問に数秒固まる。以前予告してた襲撃か?
「お久しぶりって、まだ前に会って一ヶ月と半分くらいじゃない。あ、それはそうとこの間はドワーフとの間を取りなしてくれてありがとう。お蔭で川の整備がどんどん進んでるよ! それで、また抜け出してきたの?」
「どういたしまして。今日はちゃんと公務で来たのよ」
相変わらず公務の格好じゃないが……
「今日はこの方を連れてきました~! ジャーン! アスモデウスで~す!」
ジャーンって言われても、私には誰なのかわからないが……あ、でもこの子可愛い、好きかも……
いやいや、会ったばかりなのに何を考えてんだ私!
そこへ現れたのは、レヴィアタンを更に際どくしたような格好の女性……というか見た目は少女くらい?
上は大分着込んでいるが、下の防御力が恐ろしく低い。ローレグってやつかな? 一時期イラスト系のSNSで絵が大量投下されてた時期があったけど……多分アレだ。初めて実物を見た……
いや、それよりも――
「アスモデウスってことは……ま、魔王の……?」
「……ベルゼ、お久しぶり……」
『アスモデウス』と言ったら七つの大罪の一角、『色欲』の魔王の名前だ!
何で初めて会ったばかりの女の子にときめいたかは分からないが、魔王の名前を知らされて警戒感を持った。
「あ、この子の自動発動の能力の中に『周囲を軽度に魅了する』って能力があるから気を付けてね。同じ七つの大罪の私には効果が無いんだけど」
ああ、それでちょっとクラッときたわけか。
「ま、まあ立ち話もなんですので、家の中へどうぞ」
二人を家の中へ招き入れる。
「……これ、つまらないものですが……」
何か手土産くれた。
どうやら害意は全く無さそうだ。
「これはどうも、ありがとうございます」
手土産をいただく。
「その言い回しは?」
「あなたの故郷ではそう言うんでしょ?」
と、レヴィアタン。
昔はそう言ってたらしいけど……その情報はちょっと古いな……
最近は「ささやかなものですが……」とか「お口に合うと良いのですが……」の方が適切って言われている。
「それよりもその……格好が気になっているのですが……」
何か用があるらしいけど、アスモデウスさんの服装が気になって話が入ってこない。
「……これしか良いのが無かったから……」
「この子口数が少ないから私から説明するね。この子の持ってる服って全部際どくてね、これが一番マシだったのよ。七つの大罪の影響らしいんだけど、露出度が高い服を好むから……」
「他のって一体どんなのが……?」
「それ聞く? えーと、上は着込んでるのに下は前貼りみたいなデザインの下着だったり、一本の細い紐で繋がってるやつだったり、一見するとちゃんとした服なんだけど、ノーパンで下乳辺りまでスリット入ってたり――」
「わかった、もう良いわ」
確かに、今着てるのが一番マシに思える……
アスモデウスって言うと……『色欲』か……なるほど。
難儀な大罪だ。元々私が持ってたのがあっちじゃなくて良かった……あの影響が残ってたら私も似たような格好で過ごしていたのか……
「いや、普通のを買ってきて着たら良いんじゃない?」
「いや~、それもう過去に実行してるし……アスモ……こほん、アスモデウスが女王になった直後の女王会談でうちの国に来た時、流石にこんな格好で外出るのもどうかと思って、昔あなたと私でちゃんとした服を着せようとしたら、服を雷で消し飛ばした挙句、全裸で無意識に部屋中を逃げ回ったものだから……一応着てるだけこの方が良いかなと」
無意識に逃げ回った!?
露出度低めの服を着せようとすると暴走するってことか!?
私の大罪があっちじゃなくてホントに安心した!
「その時はどうやって外出したの?」
「え~と……確か、ノースリーブのセーターを着せたら落ち着いたんだったかな?」
「え? 下は?」
「そう! その時は三人で (護衛付きで)楽しくショッピングとかして過ごしたんだけど、その後、帰って改めて考えてみたら『この格好の方がヤバイじゃん!』と思って、どこまで着たら我慢できなくなるのか、ギリギリのポイントを検証していった結果、現在の状態に落ち着いたのよ!」
でもまあ、とあるアニメでは、いつもはいてるのか、はいてないのかギリギリ見えない駄女神がいたっけな……ということは一応セーフ……なのか?
「そ、その……失礼ながら、は、恥ずかしくはないのですか?」
これを言ったら失礼と取られるかもしれないが、どうしても気になる!
「……別に恥ずかしくない……きっと大罪を継承するまではそういう感情を持ってたと思うけど……」
大罪継承後からはそういう感情が消えたってことなのか?
「七つの大罪は性格に影響を与えるらしいから、継承した時に露出度が高い格好を恥ずかしいと思わないようになったのかもね」
「な、なるほど……」
にわかには信じられないような現象だが、以前『大罪を継承すると性格に影響が出る可能性がある』って話を聞いているし、納得せざるを得ないか。 (第54話参照)
「雷の国内でもその格好で?」
「……そう……歴代女王もそんな感じだから、もう国民はみんな気にしてない……」
そうか、歴史の積み重ねがあるのか……
「危なくないんですか?」
「……危ない? 何が危ないの……?」
「その……男のヒトに襲われたりとか……」
「……危なくはない……女王に手出ししようとする輩はいないし、手を出されたら返り討ちにするから問題無い……」
魔王だから、手を出そうとしたところでどうにもできないか。
「……ベルゼ、随分小さくなった……今は私の方が大きい……」
身長はそんなに変わらないが?
ずっと見ていたら、ちょっと胸を張った。そしてあまり表情が無いにも関わらず、ちょっとドヤ顔したように見えた。
……ああ、そっちか。確かに今は私の方が無い。「今は」な!
でも、失礼ながら私とそう大して変わらない。
しかしこのヒト、ホント声に抑揚が無いな。
格好さえ見なければ、とても『色欲』の大罪には見えない。
『色欲』って言ったら、性格はもっと『ヒャッハー!』的なイメージだったんだけど。
「レヴィアタンさん、アスモデウスさんって雷の国・エレアースモの女王よね? こんなところに女王が二人も雁首揃えて、どんな用事?」
「これが今日の公務よ。単刀直入に言うけど、この子の国にも太陽って作ってもらうことできる?」
「できるけど……雷の国ってどんなところなの?」
「首都は雷を利用して発展したエネルギー都市でね、年中煌々と光で照らされている綺麗な街よ。年中雷雲が広がっているから雷が落ちっぱなしだけど、その分電気エネルギーには事欠かないわね」
「そんなに明るいのに太陽って必要なの?」
「……上から光が当たるのと、下から光が出てるのは全然違うように見えるから……」
確かにそうね。下からの光は何だか暗く感じる。
「……それにここの空は何だか青くて明るい……」
暗い空に光があっても、『昼』のイメージは湧かないしね。昼間はやっぱり青空でなくちゃ。
しかし、雷雲が年中あるってことは……レヴィアタンに奪われた……もとい譲った雲の下を動く疑似太陽バージョン1の方を採用しないといけないってことかな。
「分かりました、作りましょう」
「……ありがと……じゃあ、五千万エレノルくらいで良い?……」
「エレノルって何ですか?」
「雷の国の通貨単位よ。今はうちとそれほど変わらない、うちなら五千百万ウォルってところね」
え……ちょっと待ってよ……?
確かリンゴを百ウォルくらいで買ったから、日本とそれほど価値が変わらないなと考えてたと思うから……
「五千万円!? そんなにいただけるんですか!?」
「……レヴィの話を聞くと、それでも少ないくらいだと思うけど……」
それだけあれば、この村の通貨作る下地を作れるかも! あと働き詰めの村民へ慰安とか!
この場所は『中立地帯』って特徴から、他の国の通貨を借りるわけにはいかないから、どうしてもここで生産される通貨が必要になる。
他の国の通貨を借りるわけにはいかないのは事実だけど、労働や物品の対価として得たお金なら、多分問題ないだろう。 (私的解釈)
ヘパイトスさんへの借金も一気に完済できる!
「ありがとうございます! 十分です!」