第112話 トロル村に電気が来た!
二日かけて、とりあえず役所、食堂、縫製所の自家発電機を作ってもらった。我が家にも欲しいところだけど、明かりは自前で何とかなってるから、我が家は後回しだ。
早速役所に自家発電機を取り付けて……
……あっ……そういえば、まだ電気系統の整備も出来てないじゃないか!
蛍光灯やLEDすら無いのに、発電機だけあっても仕方ないな……
「…………蛍光灯も無いのに、発電設備だけ作ったのか?」
「アハハ……気が急いてしまいました……」
「電気系統も整備してやろうか?」
「何から何まですみません」
「こいつもツケにしておくよ。蛍光灯は……ワシが作っても良いが、急ごしらえよりは、アクアリヴィアで普通に売ってるものの方が信用出来ると思うから買いに行くか」
「助かります」
「まあ、ワシたちにとっては、この自家発電機を参考にさせてもらえるってだけで、大きな収穫だしな」
というわけで、役所+食堂、縫製所に電気系統が整備された。その際、避難所勤務のトロルの何人かを付けて、工事方法を学んでもらった。
蛍光灯については、アクアリヴィアで購入。資金は自家発電機の参考にさせてくれるお礼だということで、とりあえずヘパイトスさんに建て替えてもらった。ありがたい。
そして、まだ少ないながら、村に電気が使えるところが出来ることになる。
◇
その夜――
村に初めて電気が通るということで、その瞬間を見に村中の人々が役所に集まる。
スイッチを入れる係は、この村のリーダーであるリーヴァントだ。
私にはなんのこともない日常だった風景だが、この村の人たちにとっては、村が飛躍的に発展する歴史的な瞬間だ。
「では、スイッチを入れますよ!」
パチッ
役所内に徐々に明かりが灯っていく。
「「「おおーーー!!!」」」
「これが電気か!」
「凄く明るい!」
「昼間みたいだな!」
村人の間で口々に歓声が上がる。
パチパチパチパチ!!
今までは昼間でも建物内は暗かったが、今後は明るい場所で作業ができるようになるだろう。
この村に紙が来たことを考えると、これからは事務作業の比率も徐々に増えていくだろうから、電気を付けたのは間違いではないと思う。
「最近目が悪くなってきてしまいましてね、電気が付いてくれてありがたいですよ」
と言うのはリーヴァント。
トロルって自己再生能力が高いから、目も悪くならないのかと思ったけど……目が悪くなるのは傷とかとは別物なのかな?
ちょっと文化的な生活になってきたから、目が悪くなる人も現れてくるか……眼鏡も必要になってくるかも。
物質属性の鉄魔法が使える人はもう見つけているけど、次はガラス魔法を使える人を見つけないとな。その前に鍛冶場か。
◇
役所に続き、食堂に明かりが灯る。
「これで夜でも営業できるようになりますよ!」
と言うのはハンバームちゃん。
「いや、夜は終業して良いよ。そんな一日中働いてたら潰れちゃうよ」
「みなさん美味しいって言ってくれるので、作り甲斐があるんですよ!」
これはちょっと危険な兆候なのでは?
「ハンバームちゃん、休みの日ってあるの?」
「いーえ? 毎日朝八時から日が落ちる夜七時までいつでも営業してますよ!」
毎日休み無しで十一時間も……?
「これからは電気が付いたのでもっともっと営業できますね!」
これ、そのままにしておいたらアカンやつや……
よく見たら、顔が少しやつれて疲れが出てきている。
ハンバームちゃん疲れ感じてないのか? 何だろう、何とかハイってやつかな? このケースだと『ワーキングハイ』ってやつが該当しそうだけど……
「ハンバームちゃん!」
「は、はい!」
「働き過ぎです! 一週間に最低一日休みの日を設けてください。あと、一日に働く時間は八時間。これは命令です! この間配ったカレンダーで定休日を決めて休んでください」
「わ、わかりました」
「もしかして従業員も似たような労働環境なの?」
「それほど違いは無いと思います。適宜休んでもらってますけど」
いくら働いても通貨が無いこの場所ではまだ給料に結びつかないのに……何でここまで頑張れるの?
なるべく早く通貨制度を作って、きちんとした給料を得られるようにしないと!
「全員にさっき言った通りの休みを取るように伝えて。出来ることなら交代制で週に二日休めるように」
「はい……」
何か労働基準監督署みたいなことやってるな……労基署と関わったことないから、実際はどんな感じかは知らんけど……
電気が付いて、『働きすぎ』という別の問題が明るみに出てしまった……
きっとみんなが期待しているから、それに応えようとしたのが今の結果なのね。まだ若いから体力あるし。
◇
最後は縫製所の明かりが灯る。
「凄い! こんなに明るいなんて! これで遂にミシンが使えるようになるんですね!」
エルフィーレもミシンが使えるようになるということで、嬉しそうだ。
「これから頑張ってもらわないといけないからね! ……冬が来る前に……」
「え? 何ですか?」
「今後もしかしたら寒くなることもあるかもしれないから、厚手の服が必要になることがあるかもしれない。生産数上げるために人員も募集しておいた方が良いかも」
「寒く……なるんですか? まさかぁ? この土地が今まで寒かったことなんて……初めて雨が降った時くらいしかないですよ? あの時は凄く寒かったですけど……」
ああ……私の所為で大洪水起こしてしまった時の雨か…… (第13話から第14話参照)
「備えておくに越したことはないってことかな」
今は猛暑だけど、最近は気候の変動が読めない。寒くなることは十分に考えられる。
「少し前はここまで暑くなかったでしょ? これだけ気候が変動してるってことは、この先二ヶ月後、三ヶ月後に寒くならないとは限らないから」
日本だと大体二、三ヶ月後には冬に差し掛かるしね……
「はぁ……じゃあガルムの毛皮と綿花を大量に用意してもらわないといけないですね」
あと、暖房についても考えておかないとな。
理想はエアコンやヒーターだけど、そんなのまだ無いから暖炉か囲炉裏か。ドワーフの職人たちに師事している人たちや、村の大工組に寒くなる前に各家に作ってもらうように頼んでおくか。
なぜ寒くなったこともない村なのに、そんな心配をするのか? 第六感というやつだろうか、そんな予感がするからだ。
木はメイフィーら耕作組が村の周囲に植えてくれて、樹魔法で成長促進までしてくれてるから、燃料となる薪は大丈夫だとは思うけど……
もし緊急の時は私が成長促進させて量産するようにしよう。
まあ、冬が来ないなら来ないに越したことはないが、一応用心だけはしておこう。