第101話 溶岩をくぐってレッドドラゴンの町に到着
赤龍峰の一番高い山の火口に着いた。
「ここのどこに宮殿が?」
「中へどうぞ」
「え!? 火口の中!?」
こんな中に入ったら燃えちゃわない? 流石に私も溶岩の中に入る勇気は無いんだけど……
「中って、ど、どうするの?」
いくら何でも飛び込むってことは無いよね?
螺旋階段とかあって、途中に入り口があるとか?
「飛び込んでください」
やっぱり溶岩の中にあるのか……?
「私にはマグマが燃え盛ってるように見えるけど……? こんな中入ったら流石に死んじゃうでしょ」
「通常の生物なら燃えてしまいますが、わたくしたちレッドドラゴン族は溶岩領域を越えて町へ着けます。わたくしたちのブレスを素手でかき消せるアルトラ様なら大丈夫ですよ」
「ほ、本当でしょうね? 燃えて死ぬなんて壮絶な死に方はごめんよ? でも、溶岩って岩の溶けたものでしょ? 通過出来ても岩が張り付いたりとかは?」
「ここの溶岩は特別なのでご心配には及びません。さあ、思い切って飛び込んでください」
って言っても覚悟しにくいな……人間的思考回路で考えればどう見たって自殺以外の何者でもないし。
覚悟が定まらず、二の足を踏んでいると――
「では、わたくしが先に参りますので付いて来てください」
そう言うと、アリサはさっさと溶岩に飛び込んでしまった……
見た目は完全に身を投げて溶岩に溶けただけに見える……
行かなきゃしょうがないか……
「あ、その前に」
このまま飛び込んだら、私が唯一身に着けている下着は、いくら闇のドレスで覆ってるとは言え、溶岩で燃えてしまうかもしれない。
アリサもいなくなったし、その場で脱いで【亜空間収納ポケット】に放り込む。
準備が出来、思い切って溶岩へ……と思ったが一瞬躊躇。
ゴクリ
生唾を飲み込み意を決して身を投げた。
ドプンッ
火耐性Lv10の所為か、熱くはない。火耐性が利いて熱感知が働いてるから、体感的には毎度のような三十六度。
私からすると、溶岩に入る前に火口に立ってた時と溶岩にダイブした後では体感温度は全く変わらない。
少しして溶岩領域を通過。土がある地面に落ちた。溶岩の中に地面?
上を見ると溶岩が赤々と燃えている。
例えるなら真っ赤な空という感じかな。
ただ、その溶岩の赤い光の下に赤い光を遮断するバリアがあるようで、周囲の見た目が真っ赤というわけではない。
これアレだ、とあるアニメに出てきた海底神殿の溶岩バージョンだ!
そのアニメでは、海底にある神殿なのに、そこは空気で満たされていて、上空を見上げると水があるっていう不思議な場所だった。それに光景が似てる。
ただ……あちらは真っ青で綺麗で、なんならちょっと癒されるような光景だったけど、こちらは真っ赤っか。
恐怖度が段違いだ……溶岩が上にあるって……
「無事通過されたようですね」
「通過出来なかったらどうなってたの?」
「それはもちろん溶けて無くなってたと思いますけど」
燃えながら死ぬ結末じゃなくてホッとしたわ。下手したら海の藻屑ならぬ溶岩の藻屑……溶岩に藻は無いから、さしずめ溶岩の岩石屑になってたわけね……
ここはレッドドラゴン以外では来れないわ。
以前、レイアがハンバームちゃんを勧誘してたけど、そもそも彼女じゃここをくぐれないんじゃないかしら?
「ここってレッドドラゴン以外来れないのよね?」
「いえ、実は裏技がありまして、許可証を持っている者に限り、火無効の魔法で溶岩を通過して中で活動できます」
「だったら、なぜ私にもそうしないの!?」
「わたくしどもの炎をかき消せるほどなので、大丈夫であると判断いたしました」
もしダメだったら溶岩の岩石屑だったんだけど……
「他にも理由がありまして……わたくしの一存で許可証を発行することが出来ませんので……」
「許可証って何日くらい有効なの?」
「許可証は一日許可証、三日許可証、十日、一ヶ月、三ヶ月、半年、一年、五年、十年、五十年、百年、死を迎えるまでとありますね。いずれも期限+三日です。レッドドラゴン族にとっての秘術ですので無害と判断した者のみ許可されます。三ヶ月以上のものは有益と判断されなければ許可が下りません」
亜人を毛嫌いしてるのに有益と判断されたヒトがいるのかしら?
「過去に有益と判断されたヒトがいたってことよね?」
「いらっしゃいましたよ。もう数百年前になりますけど、この町を作ってくださったドワーフの方々らしいです」
「数百年……」
だとしたら、この許可証制度って既に形骸化しているのでは?
今でもちゃんと発行してもらえるのかしら?
「許可証は魔法によって身体に直接付与され、期限が切れると熱が一気に襲うのですぐにここを出てもらわなければなりません。そのための三日の猶予です。我々以外の種族だと許可証の効果が切れた瞬間に多くの者は即死しますので」
レッドドラゴンにはレッドドラゴンの技術があるわけか。この許可証を使えばハンバームちゃんを住まわせることもできるってわけね。
でも、この灼熱空間に肝心な食材があるようには思えないが……
「そういえばあなたたちって日数をどうやって確認してるの? ここには太陽も無かったのに」
「そんなことわたくしたちには自然に分かるものなのですが……亜人には分からないのですか?」
「そんなの分からないよ」
そういえばリディアも海の生物にも関わらず、自分の年齢把握してたな。
「じゃあ今日は何日?」
「『なんにち』とは何ですか?」
「日にちの概念は無いの?」
「え、と……新しい年になって、八つ月を数えたことくらいならわかりますが……あと八の月も三分の二くらいすると九の月になりますね。わたくしたちが把握できてるのは大体の日数程度で、正確な日数までは分かりません」
今、八月十日頃ってことなのか。
正確に分かるってわけではないのか。正確に分かるのならカレンダーが作れると思ったんだけど……
「年月日という概念はありますが、生活していて自然にわかるものなので一日一日を数える習慣はありません。日にちを数えるのは約束事がある時くらいですね」
月の変わりは分かるから日にちを数える必要性は無いってことか。
「ところで、ここはもう宮殿のうち?」
「いえ、ここはまだ町の入り口です、宮殿までは少々歩きます。さぁ、族長がお待ちです、こちらへ」
奥へ促される。
歩いてる最中、恐らくレッドドラゴンであろう人型の生物と、ドラゴン形態のレッドドラゴンを複数見た。
みんな何か警戒心のようなものを持ってこちらを見る。
私が亜人だ (と思われてる)から、あまり良い目で見られてはいないであろうことがヒシヒシと伝わってくる。
あれ? おかしいな、裸で生活してるって聞いたはずだけど……?
イケメンが裸で生活しているのかとちょっと期待して……いやいや警戒して来たけど、別に普通に服着てるじゃない。
「アリサ、初めてあなたたちに会った時、フレアハルトが『裸で生活してる』的なこと言ってなかった?」
「そんなこと仰ってましたか? 確かアルトラ様が変身直後の裸だったわたくしたち三人を見て『族長の前でもその格好なのか?』というようなことをお聞きして、それに対してフレアハルト様が『父上の前ではちゃんと礼装している』というようなことを言っただけだと思いますが……その後に『格下のものに会うのになぜ我々が気を使わないといけないのか』というようなことを仰ってましたね」
確かにレッドドラゴンの町で『裸で生活している』とは一言も言ってないな……
この発言って、もしかして私たちが猫に裸を見られても大丈夫な感覚と同じようなものだったのかしら?
だから同族の前ではきちんとした格好をしているけど、自分が下に見ている者たちの前では裸でも良いと思っていた、とか?
確かに私たちも人間以外の生物に裸見られても全く気にならない……同じ霊長類である猿に裸を見られても、『近くにいるとちょっと恐い』という感覚は受けるが、『猿に見られてる! 恥ずかしい!』という感情は多分全く出てこないだろう。
それは、地球には人間以外に知恵を持った生物がいなかったからなのかな?
「でもあの時、変化させた服が邪魔とか言ってなかった?」
「あれは……鱗を、普段しないような変化のさせ方をしたので……慣れるまで邪魔に感じましたね。アルトラ様が『トロル村の人たちにわたくしたちの真の姿がバレないようにしてほしい』とのご要望でしたので、アルトラ様の服装に少し寄せて普段の格好よりも、むしろ礼装に近い格好に変化させたため邪魔に思ったのでしょう」
周りを見回すと、人型になってる人は確かにヒラヒラしたものを着ていない。ちゃんとした服みたいなヒトもいるけど、鱗のような見た目の服 (?)が多いかな。
「ねぇ、ここってドワーフが作ったのよね? どうやって溶岩の中に町を作ったの?」
「わたくしたちの生まれるずっと前のことですので、当時のドワーフに聞いてみないことにはわからないですね」
明らかに建築の領域を逸脱している気がする。もし地球にこの技術があったら、火事で燃える家って無くなるんじゃないかしら。
それに溶岩が侵入してこないような技術があるなら、水害とかでも全く大丈夫になりそう。
溶岩地帯を抜けても私の体感温度は変わらず三十六度を維持している。
私は三十六度以上がわからないから、多分数百度なんだろう。
以前フレアハルトを五百度の炎で燃やした時に「暖かい」って言ってたから、それくらいかな?
木のような燃えそうなものが一切無いことが、超高熱であろうことを物語っている。
ここで生活するための許可証貰えても、水が全くないから他の生物は暮らしていけそうにないな……