第100話 フレアハルトが幽閉された!?
コンクリ組のところへ顔を出す。
今回はみんなへのお披露目のため、カイベルも連れてきた。
こういうのは後回しにして説明が面倒になる前に早めに紹介した方が良い。
「おうアルトラ、おはようさん!」
「おはようございます」
「ん? そのヒトは誰だ?」
「アクアリヴィアで雇ったメイドさんです」
新しい女性の登場に、現場の作業員がザワザワしだす。
「昨日ワシらと一緒に連れて来てなかったじゃないか?」
ヘパイトスさんからの的確なツッコミ……
やっぱりそこツッコまれるよね……
どう考えたって一緒に来なかったのは不自然だし、違和感あるし。
「ちょっとこちらへ来る準備が遅れてたので、あの後に迎えに行きました」
「カイベルと申します。みなさま、今後ともよろしくお願い致します」
「カイベルさん、黒髪美人ッスね! どうスか、この後お茶でも」
「申し訳ありません、業務中ですのでお断りさせていただきます」
「アルトラ様なんて放っといても大丈夫ですって」
ナナトスは最近、私のことを領主として見てないのかしら……?
この男の不思議なところは、誰に対してもこの姿勢を崩さないところなのよね。フレアハルトのことなんて正体をレッドドラゴンと知っているはずなのに、なぜかこの強気の態度で話すことができている。
そして、それを許せてしまう私がいる。きっとこれが持って生まれた愛嬌というやつなんだろう。
ホント不思議な男だわ。
「お前さん、人雇う金があったんだな」
ギクッ!
元からずっとうちに居たから、雇い賃のことなんて考えてすらいなかった……
「あの、その、えっと……ああ! 実はこの子、異世界転移に巻き込まれてしまったみたいで、行き場が無いというので同郷だった私のところへ誘いました」
「そうなのか、たまにはそういうこともあるらしいからな」
ヘパイトスさんは、奥さんが異世界転移者だから納得するのが早い。
周りはちょっと疑問顔だが、親方が納得しているため、それ以上何も言えないようだ。
かなり綱渡りに近い都合の良過ぎる言い訳だったと思うけど、親方の奥さんの存在によりその信憑性が増す。
良かった……親方様様だ。
新たにツッコミが入る前にさっさと退散しよう!
今日分の資材を【亜空間収納ポケット】から取り出して、この場をあとにした。
村の方でもお披露目といきたいところだけど、次の集会の時で良いか。
工事現場でお披露目しておけば、そこから噂話のように広まるだろう。買い出しとかも行ってもらおうと思ってるから、何もしなくても徐々に知られていくと思う。
みんなにツッコミされても良いように、カイベルと半生の設定をちゃんと練っておかないとな。
さて、一旦帰ってお昼まで寝るか。
ずっと忙しく飛び回ってたから、あまりこんなにちゃんと休める機会も無かったし。
◇
「日中からゴロゴロしていて良いのですか?」
掃除中のカイベルが聞いてきた。
「良い……今日は約束してるお昼まで久しぶりにゴロゴロする。十二時付近になったら起こして」
◇
お昼時――
約束通り、火山の麓までフレアハルトを迎えに来た。
いつものフレアハルトならもう来て待っていて、「遅いぞ!」って罵られてるはずだけど……
見回したところ近くにいる様子はない。
魔力感知にも引っ掛からない。
珍しく遅刻している。
◇
その後五時間待ったが来る様子は無かった。
「遅いっ!」
もう日も落ちてきた……
日がな待ち続ける私……スローライフだな。
「今日ご飯食べに行くって言っておいて、放置か! 五時間も待ったし、流石にもう帰るか……」
でも、私より先に来てるのが常だったフレアハルトが約束をすっぽかすなんて珍しいな……
流石に五時間待って文句の一つも言ってやりたいところだが、連絡先も無いからどう連絡付けたら良いか分からない。
まあ、明日になれば連絡もあるだろう。
この時は、ただそう思っていただけだったが……
◇
その後、五日間お昼時に麓まで見に行って一時間ほど待ってみたが、フレアハルトが来る様子は無かった……
以前、雨の日にやられたような超音波による催促も無い。
「五日も顔を見せないなんて、どうしちゃったのかな……?」
居れば居たで文句多いなと思っていたが、居なかったら居なかったでそこはかとなく寂しい。
まさか何か事件に巻き込まれた?
その強靭な生態からフレアハルトを心配するなんてあり得ないと思っていたが、流石に五日音沙汰無しでは、命のことまで心配してしまう。
それでも、こちらから接触する手段が無いため、あちらからのアプローチがあるのを待つしかないのだが……
「何も無ければ良いけど……」
◇
その二日後――
突如としてフレアハルトと連絡が取れる事態に。
珍しく我が家のドアをノックする者が現れた。
コンコンコン
「はい? どちらさま?」
ガチャ
「アリサ!? 一週間もどうしてたの!? 心配したよ! フレアハルトは無事なの!? 怪我とかはしてない?」
身体中を見回すものの、見た限りは傷を負ってここに助けを求めに来たとかそういうことは無さそうだ。
無事であることが確認されただけでもホッとした。
「一週間前のお食事の約束を守れず申し訳ありません……」
「そんなのは別に良いよ、それより何かあったの?」
「実は……フレアハルト様が幽閉されてしまいました」
「えっ!? 幽閉された!? なんで!?」
「アルトラ様は、元々わたくしたちが亜人に対してどういう態度を取っていたか覚えておいでですか?」
「うん、まあアリサやレイアはともかく、フレアハルトは最初の頃はかなり感じ悪かったよね……私たちを物凄く下に見てたっていうか……」
「亜人と少しずつ関わってきた今のわたくしたちとは違い、レッドドラゴン族全体は、まだ亜人を見下しているものが大勢います」
「つまり……フレアハルトが亜人と関わるのを快く思わなかったってこと?」
「その通りでございます。特にフレアハルト様は現在王位継承権第一位ですので、ことさら快くは思われていなかったようです」
フレアハルトは、私に負けたとは言え、今まで見下してた亜人に対してかなり柔軟な方針転換見せていた。
これらの経緯を知らないレッドドラゴンたちにとっては、自分たちの王子が見下していた亜人と関わるのは面白くなかったのかもしれない。
しかも、私はその王子を労働力として使ってたわけだしなぁ……
「わたくしたちはアルトラ様のところに来る時に、秘密裏に抜け出してくるような方法を採っていました」
「そうなの? 頻繁に来るから、王子の割には自由奔放な方針なんだなぁとは思ってたけど……」
「それが……以前からわたくしたちの行動を怪しく思っていたらしく、監視が付いていたと幽閉された時に知りました」
「監視って……フレアハルトなら魔力感知で気付かなかったの?」
「他人の考えや思惑までわかるわけではありませんので……それが一週間前にレッドドラゴン族全体に周知されることになってしまい、そこからフレアハルト様とわたくしたち側近の外出が禁じられてしまいました」
「そんなの……フレアハルトが守るとは思えないけど……アイツなら無視してこっちに来るんじゃない? 特に王位継承に興味が無いフレアハルトなら……」
「トロル村全体を人質に取られてしまいまして……」
「つまり……フレアハルトが『今後亜人と関わるようなことがあれば、村を滅ぼす』みたいなことを言われたってこと?」
「その通りでございます」
村を人質にって……集団で押し寄せて、【フレアブレス】で「ゴゴォォォ!」とやるつもりか?
集団で来られたらヤバイな……一体ですらトロル何人がかりで倒せるかわからないのに……集団で来られたらあっという間に村中火の海だ。
「側近も外出禁止にされてるなら、アリサはどうやってここへ来たの?」
「フレアハルト様が条件を提示しました。自分を負かしたものを見極めてほしいと。それで認められぬようであれば今後亜人との交流を一切絶ち、王位も継承すると。そのお迎え役としてわたくしが選ばれました」
「ちょっと待って、優秀な弟がいるんじゃなかったの? どちらかって言ったらそっちが継承するのを望まれてるんじゃないの?」
「いえ……他の方々はどうかわかりませんが、族長様はずっとフレアハルト様が継承するのを望まれていました」
つまりフレアハルトのやってた『アホの子作戦』は見透かされてたってわけかな? もしくは頭が良いとか、統制力があるとかとは別に判断基準があるとか?
「見極めるって言ったって、私は何をすれば良いの?」
「族長様は『とりあえず連れて来い! 話はそれからだ!』と……」
う~ん……超面倒展開ね……
でも、断るわけにはいかないか。私にとってももう他人事ではないし。何より村が火の海になるのは絶対に避けないといけない!
「わかった、じゃあ宮殿へ連れてってもらえる?」
「すぐに行けるのですか?」
「のんびりはしてられないでしょ?」
「カイベル! リディアのことお願いね! 帰って来たら『私はちょっと用事があってもしかしたら少しの間帰れないかもしれない』って伝えておいて」
「わかりました」
リディアは今日も朝早くから遊びに行っている。この村にいればそうそう危ないこともないから、カイベルに任せておけば大丈夫でしょう。
「あの……アルトラ様、あの方はどなたですか? 以前来た時にはいなかったように思うのですが……」
「ア、アクアリヴィアに行った時に雇ってきたメイドさんよ。さあ行こうか」
本当はずっと家に居たんだけどね……あの雨の日、屋根の上まで様子を見に行かれた時にはかなり焦ったけど…… (第53話参照)
ゲートで火山の麓へ移動。
ここからはアリサに案内してもらう。
「幽閉されている場所は赤龍峰の中で一番高い山ですので、あそこまで行きましょう」




